数日後。
襲撃を経て、民間人が退避し、以前ほどの活気がなくなった芥隠れの里。
忍者も殆ど出払っており、そこには上層部とその護衛、警備のみが残る。
先日の冥々による「襲撃の警告」が効いているのか、幾らかの結界が張られ、どことなく緊張感が漂っていた。
その里の中心近く、建物の上に、二つの影が降り立った。
「んー、因子持ちはここにはいないようだね。どこ行ったのかな?」
脳噛が、わざとらしく辺りを見回して肩をすくめた。
彼が感知したところ、目当ての「餓鬼道」「修羅道」「地獄道」「畜生道」のチャクラ反応は、この里のどこにもない。
あるのは、「天道」の残り香と、微弱な雑魚の気配だけだ。
「……ここに狙いがいないのなら、片づけてもいいのだろう」
隣に立つ其真が、退屈そうに鼻を鳴らした。
彼にとって、獲物のいない狩り場など無価値。
ならば、更地にして作り直すまで。
「まぁ、いいけれど」
──派手に頼むよ、と脳噛が言う。どうせなら、獲物を誘き寄せてくれると助かる。
「
其真が2本の両の手で印を結ぶ。
その瞬間、大気が軋み、世界が彼を中心に歪み始めた。
「口寄せ・
ズズズズズッ……!!
里の中心、舗装された道路を突き破り、
それは無数の干からびた
其真のチャクラが爆発的に膨れ上がる。
「領域展開」
瞬間、伏魔殿からのチャクラが里全体を覆い尽くした。
だが、通常の領域展開に見られる空間を囲う結界は出現しない。
其真の領域展開は、結界で空間を分断せず、生み出した領域で世界を塗りつぶす。
結界を閉じず空間を領域で満たすことは、キャンパスを用いず空に絵を描くに等しい正に神業──
その効果範囲は、里一つを軽々と内に収める広大さ。
結界を閉じずに空間を領域で満たすことは至難の業であるが、その見返りとして、より広い範囲を支配することができる。
そして、其真の領域の特性はそれだけではない。
──「口寄せ」を介した「領域展開」の発動には、利点がある。
だが、それを理解する暇など、里に残された物質には与えられなかった。
領域が完成した刹那。
里のあらゆる場所で、破壊の嵐が吹き荒れた。
領域内部の空間には、絶え間なく陰陽術・「
さらに、領域内に存在するすべての物質には、陰陽術・「
硬度やチャクラ量に応じて自動的に強度が調整された「裂傷」が、斬撃を受けるまでもなく直接発生する。
逃げ場はない。
防御も意味をなさない。
其真は自身の領域に、この二つの術を同時に付与していた。
轟音が響き渡り、土煙が舞い上がる。
歴史ある忍の里が、建物が、思い出が。
シュレッダーにかけられた紙屑のように、ただの
──時間にして、僅か数秒。
土煙が晴れた時、そこに「芥隠れの里」は存在しなかった。
あるのはクレーター、地平線の彼方まで続く、平らな荒野だけだった。
◆
「……ッ」
遠く離れた上空。
カラス越しにその光景を見ていた冥々ですら、その絶望的な破壊力に息を呑んだ。
「里が……崩壊したわ」
冥々は即座に、カラスのネットワークを通じて全員に通達を送った。
『総員に通達。芥隠れの里が襲撃を受けた。……里は崩壊。直ちに準備を』
その声は、夏目の隠れ家で、あるいはそれぞれの持ち場で待機していた戦士たちの瞳に、決戦の火を灯した。
◆
芥隠れの里、跡地。
見渡す限りの更地の中央に、傷一つない「伏魔殿」が鎮座している。
その屋根の上に、其真と脳噛が佇んでいた。
其真は、己が作り出した地獄絵図を見ても、感情一つ動かさず鼻を鳴らした。
「何もなくなっちゃったねぇ」
──あの店のラーメン、美味しかったんだけどな。脳噛が何もない跡地に目を向けて笑う。
その時だった。
バササッ。
上空から一羽のカラスが舞い降りてきた。
その嘴には、大きな黒い布が
カラスは上空で布を離した。
ヒラリ、と舞い落ちる黒い布。
それが地面に触れようとした瞬間、翻る。
──ザッ。
数人の影が荒野に降り立った。
憂々の転移術だ。
黒布の後ろから現れたのは、南条悟、夏目傑、菅原憂太、東導葵。
そして後方には、マイケル、七丹、由良、与、廻仟。
最強の布陣が、王の前に立ちはだかる。
「……遅かったじゃないか」
南条悟が、かつての故郷の惨状を一瞥し、
「随分と派手な模様替えだな。……死ぬ準備はできたか?」
其真が、ニタリと凶悪な笑みを浮かべ、四本の腕を広げた。
「相手をしてやる、小僧ども……」
最終決戦の火蓋が、今、切って落とされた。