「あいつが……其真……」
廻仟は、震える膝を必死に抑えつけていた。
目の前に立つ男から放たれるプレッシャーは、生物としての格の違いを雄弁に物語っていた。 誰もが肌で感じていた。
あまりにも強大で、濃密な陰陽チャクラの塊。
それは、巨大なチャクラの権化である「尾獣」に匹敵、いや、その密度においては遥かに凌駕する存在感だった。
瓦礫の山となった里の中央。
禍々しい御堂の上に立つその男は、四本の腕と、四つの眼を持つ筋骨隆々の異形。
現代に蘇った、呪術師の修羅。
其真の四つの眼が、ギョロリと動いた。
その視線が、一点に定められる。
「お前が南条か」
其真は、脳噛から聞いていた情報を反芻する。
現代最強の忍者。六道の「天道」の力と、「転生眼」を持ち、それを組み合わせて使いこなす術者。
「どれ、少し見てやろう」
其真が「伏魔殿」の屋根から飛び降りた。
音もなく着地し、悠然と歩み寄ってくる。ただ歩くだけで、大気が悲鳴を上げているようだ。
対する
(……デタラメだな。チャクラの量が莫大すぎる。特に陰陽エネルギーの純度と密度が尋常じゃない。これだけの圧を放っておいて、無駄にチャクラを垂れ流しているわけでもない。制御も完璧か)
南条の視線が、其真の背後に鎮座する禍々しい御堂へと向く。
(あの気色悪い御堂はなんだ? ……生きている。そして、其真と殆ど同じチャクラで構成されている。あいつの身体の一部、あるいは分身か?)
南条は一瞬で思考を巡らせ、分析を終える。
考えるより先に、体が動いた。
「──っ!」
南条が地面を蹴る。
神速の踏み込み。瞬きする間に其真の懐へ潜り込み、拳を突き上げる。
ギュィィィィ!!
振るわれた其真の拳は、南条には届かない。身体の表面に展開した「斥力」の壁が、王の剛腕を数センチ手前で阻む。
対する南条の拳もまた、其真の二本目の腕によって掌で受け止められていた。
「奇妙な感覚だ」
其真が口元に笑みを浮かべる。新鮮な感覚を愉しんでいるようだった。
ただの打撃ではない。南条は殴打のインパクトの瞬間、拳に「引力」を付与している。
相手を引き寄せながら殴ることで、回避を困難にし、また威力を倍増させる技術。
さらに、南条は接触点からゼロ距離で「天道」の力を流し込もうとした。
だが──。
(ッ!領域展延!)
其真の体表を薄い膜のようなチャクラが覆っている。
南条の術は中和され、不発に終わる。
即座に、其真の残る二本の腕によるカウンターが迫る。
触れれば終わりの「
南条はバックステップで躱そうとするが、速い。
彼は即座に自身の体にも「領域展延」を纏わせ、腕でガードした。
ガガガッ!
(展延は扱えるか。そう簡単に「捌」は通らんな)
互いに術を中和し合う、超高度な体術戦。
その均衡を破るように、第三者の影が介入した。
「口寄せ・
吼え声と共に、巨大な白い虎が虚空から現れた。
風を纏った鋭い金属の爪が、其真の背後から振り下ろされる。
「獣か……いや」
其真は振り返りざま、指先を振るう。
陰陽術・「
不可視の斬撃が白虎を切り裂く。
だが、白虎は霧のように傷を塞ぎ、即座に咬みついてくる。
「口寄せ・
さらに上空から、青き龍が飛来した。
長い尾が鞭のようにしなり、其真を叩き潰そうと迫る。
其真はそれを最小限の動きで躱すが、砕けた大地から、今度は樹木の龍が生えてきた。
【木遁・木龍の術】
生きた木々が其真を捕縛しようと絡みつく。
「鬱陶しい」
其真は迫りくる木の龍を素手で押さえ込むと、接触と同時に「捌」を発動。
一瞬で龍を三枚に卸し、木屑へと変えた。
其真は視線を上げ、術者を見やる。
「お前が術者……夏目か」
そこには、青龍、朱雀、白虎、玄武、そして麒麟。
五体の神獣を従えた夏目傑が立っていた。
その目元には、隈取のような紋様が浮かんでいる。
(仙人か……)
口寄せ動物による飽和攻撃。その隙に術者は自然エネルギーを取り込み、自身を強化する「仙人モード」へ移行する。それは術者本体への攻撃への対抗策を兼ねる。
なるほど、理に適った戦術だ。
──其真は、「口寄せの術」を高く評価していた。
自身も「伏魔殿」という御堂を口寄せして戦うスタイルを持つことが、何よりの証拠である。
戦いの勝敗を左右する要因は多数存在するが、特に強く影響する要素の一つが「
個でありながら、数的有利を作る、あるいは不利を覆しうる口寄せの術は、戦いにおいて戦況を一変させる強力な手札といえる。
また、お互いの戦闘力を測る指標として、
口寄せで呼び出す生物は、いわば「外付けのチャクラタンク」であり、「追加の砲門」とも言える。
チャクラの総量と最大出力を増設する口寄せの術は、呪いの王をして、戦いにおいて有効だと認める術だった。
最強の忍による足止め。
仙人による、五体の召喚獣を用いた数的有利と、総火力の底上げ。
通常の忍者の戦いにおいては、この時点で勝負の
だが。
こと、「呪術師」を相手にする場合、その常識は通用しない。
其真が、口元を三日月のように歪めた。
二本の腕で、掌印を結ぶ。
「領域展開」