呪術師 廻仟   作:四月三十日

31 / 43
第3話「呪いの王」

「あいつが……其真……」

 

 廻仟は、震える膝を必死に抑えつけていた。

 目の前に立つ男から放たれるプレッシャーは、生物としての格の違いを雄弁に物語っていた。  誰もが肌で感じていた。

 あまりにも強大で、濃密な陰陽チャクラの塊。

 それは、巨大なチャクラの権化である「尾獣」に匹敵、いや、その密度においては遥かに凌駕する存在感だった。

 瓦礫の山となった里の中央。

 禍々しい御堂の上に立つその男は、四本の腕と、四つの眼を持つ筋骨隆々の異形。

 現代に蘇った、呪術師の修羅。

 其真の四つの眼が、ギョロリと動いた。

 その視線が、一点に定められる。

 

「お前が南条か」

 

 其真は、脳噛から聞いていた情報を反芻する。

 現代最強の忍者。六道の「天道」の力と、「転生眼」を持ち、それを組み合わせて使いこなす術者。

 

「どれ、少し見てやろう」

 

 其真が「伏魔殿」の屋根から飛び降りた。

 音もなく着地し、悠然と歩み寄ってくる。ただ歩くだけで、大気が悲鳴を上げているようだ。

 対する南条悟(なんじょう さとる)は、蒼く輝く「転生眼」を通して、眼前の怪物を冷徹に解析していた。

 

(……デタラメだな。チャクラの量が莫大すぎる。特に陰陽エネルギーの純度と密度が尋常じゃない。これだけの圧を放っておいて、無駄にチャクラを垂れ流しているわけでもない。制御も完璧か)

 

 南条の視線が、其真の背後に鎮座する禍々しい御堂へと向く。

 

(あの気色悪い御堂はなんだ? ……生きている。そして、其真と殆ど同じチャクラで構成されている。あいつの身体の一部、あるいは分身か?)

 

 南条は一瞬で思考を巡らせ、分析を終える。

 考えるより先に、体が動いた。

 

「──っ!」

 

 南条が地面を蹴る。

 神速の踏み込み。瞬きする間に其真の懐へ潜り込み、拳を突き上げる。

 

 ギュィィィィ!!

 

 陰陽チャクラ(呪力)が空間に擦れる音が響く。

 振るわれた其真の拳は、南条には届かない。身体の表面に展開した「斥力」の壁が、王の剛腕を数センチ手前で阻む。

 対する南条の拳もまた、其真の二本目の腕によって掌で受け止められていた。

 

「奇妙な感覚だ」

 

 其真が口元に笑みを浮かべる。新鮮な感覚を愉しんでいるようだった。

 

 ただの打撃ではない。南条は殴打のインパクトの瞬間、拳に「引力」を付与している。

 相手を引き寄せながら殴ることで、回避を困難にし、また威力を倍増させる技術。

 さらに、南条は接触点からゼロ距離で「天道」の力を流し込もうとした。

 だが──。

 

 (ッ!領域展延!)

 

 其真の体表を薄い膜のようなチャクラが覆っている。

 南条の術は中和され、不発に終わる。

 即座に、其真の残る二本の腕によるカウンターが迫る。

 触れれば終わりの「(はち)」が付与された手刀。

 南条はバックステップで躱そうとするが、速い。

 彼は即座に自身の体にも「領域展延」を纏わせ、腕でガードした。

 

 ガガガッ!

 

 陰陽チャクラ(呪力)の火花が散る。

 

 (展延は扱えるか。そう簡単に「捌」は通らんな)

 

 互いに術を中和し合う、超高度な体術戦。

 その均衡を破るように、第三者の影が介入した。

 

「口寄せ・白虎(びゃっこ)!」

 

 吼え声と共に、巨大な白い虎が虚空から現れた。

 風を纏った鋭い金属の爪が、其真の背後から振り下ろされる。

 

「獣か……いや」

 

 其真は振り返りざま、指先を振るう。

 陰陽術・「(かい)」。

 不可視の斬撃が白虎を切り裂く。

 だが、白虎は霧のように傷を塞ぎ、即座に咬みついてくる。

 

「口寄せ・青龍(せいりゅう)!」

 

 さらに上空から、青き龍が飛来した。

 長い尾が鞭のようにしなり、其真を叩き潰そうと迫る。

 其真はそれを最小限の動きで躱すが、砕けた大地から、今度は樹木の龍が生えてきた。

 

 【木遁・木龍の術】

 

 生きた木々が其真を捕縛しようと絡みつく。

 

「鬱陶しい」

 

 其真は迫りくる木の龍を素手で押さえ込むと、接触と同時に「捌」を発動。

 一瞬で龍を三枚に卸し、木屑へと変えた。

 其真は視線を上げ、術者を見やる。

 

「お前が術者……夏目か」

 

 そこには、青龍、朱雀、白虎、玄武、そして麒麟。

 五体の神獣を従えた夏目傑が立っていた。

 その目元には、隈取のような紋様が浮かんでいる。

 

 (仙人か……)

 

 口寄せ動物による飽和攻撃。その隙に術者は自然エネルギーを取り込み、自身を強化する「仙人モード」へ移行する。それは術者本体への攻撃への対抗策を兼ねる。

 なるほど、理に適った戦術だ。

 

 ──其真は、「口寄せの術」を高く評価していた。

 自身も「伏魔殿」という御堂を口寄せして戦うスタイルを持つことが、何よりの証拠である。

 戦いの勝敗を左右する要因は多数存在するが、特に強く影響する要素の一つが「()」である。

 個でありながら、数的有利を作る、あるいは不利を覆しうる口寄せの術は、戦いにおいて戦況を一変させる強力な手札といえる。

 また、お互いの戦闘力を測る指標として、()()()()()()()()()()を見る考え方がある。

 口寄せで呼び出す生物は、いわば「外付けのチャクラタンク」であり、「追加の砲門」とも言える。

 チャクラの総量と最大出力を増設する口寄せの術は、呪いの王をして、戦いにおいて有効だと認める術だった。

 

 最強の忍による足止め。

 仙人による、五体の召喚獣を用いた数的有利と、総火力の底上げ。

 通常の忍者の戦いにおいては、この時点で勝負の趨勢(すうせい)は決したと判断されうる状況であった。

 

 だが。

 こと、「呪術師」を相手にする場合、その常識は通用しない。

 其真が、口元を三日月のように歪めた。

 二本の腕で、掌印を結ぶ。

 

「領域展開」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。