呪術師 廻仟   作:四月三十日

37 / 43
第2話「適応」

 ズゥン!!

 

 白亜の巨人が大地を踏み砕き、突進した。右腕に備えた、黒布を貫いたままの剣が、唸りを上げて振り下ろされる。

 其真はそれを、領域展延を纏わせた腕で受け止めた。返しの拳で魔珴羅を殴り飛ばす。

 其真は魔珴羅の刃を受け止めた腕を見る。傷はない。だが、領域展延は切り裂かれていた。

 

(あの刃。対領域に特化した「祓除(ふつじょ)の剣」か)

 

 魔珴羅の振り下ろした刃は其真の腕まで届き、しかし、仙術と陰陽のチャクラを込められた強靭な腕に阻まれていた。 

 

(強力な陽のエネルギーを纏っている。チャクラを込めていなければ腕を切り落とされていたな)

 

 祓除の剣

 その剣はあらゆる陰遁の忍術を切り裂く。特に領域への特攻を持ち、領域展開を包む結界や領域展延による防御を易々と切り裂く。その式神に呪術師の奥義は通用しない。

 白亜の巨人は、悠然と立っている。

 呪術師への特攻ともいえる剣を持つ、頑強な白の巨漢。

 相手にとって不足はない。

 其真は口元を歪めた。

 

「丁度いい……。新しい力の試し撃ちといこう」

 

 其真が印を結ぶ。脳噛から継承したチャクラ、知識と因子が、彼に新たな遊びをもたらしていた。

 

「氷遁・氷凝霜瀑(ひょうぎょうそうばく)

 パキパキパキッ!!

 

 極低温の冷気が魔珴羅(まがら)を包み込み、一瞬にして巨大な氷像へと変えた。動きが止まる。

 氷遁は、水と風、それと少しの陰陽属性の混合技。五大性質とは異なる血継限界のチャクラ。

 脳噛から継承した六道の力と、其真の圧倒的な技量とセンスは、未経験の技を容易く実現する。

 

「習うより慣れよ、だ」

 

 すかさず追撃。印を結ぶ。

 

「磁遁・液金時雨(えききんしぐれ)

 

 高度な血継限界。優れた経験豊富な忍者から見ても、特異な術と評するだろう術。

 其真は継承した知識の中から、特に難度の高い術を選び取り、そして放つ。

 大地から液状の金属が滲み出し、宙に浮かぶ。

 其真の合図に合わせ、鋭利な針となって降り注ぐ。

 

 ドドドドドッ!!

 

 液体金属の豪雨が氷像を穿ち、魔珴羅の体を粉々に砕いた。

 

 決着か。

 否。

 

 ──ガコン

 

 戦場に、重く、低く響く音が鳴った。

 まるで巨大な木造の絡繰(からくり)が、一つ歯車を進めたような音。

 

 魔珴羅の頭上に浮かぶ法陣が回転した。

 その瞬間、砕け散った氷と肉片が逆再生するように収束し、傷一つない姿で魔珴羅が再生した。

 

「うん?」

 

 其真が眉を上げる。

 魔珴羅が再び向かってくる。其真はもう一度、氷遁で氷漬けにする。

 だが。

 

 キィィィン!!

 

 魔珴羅の全身から、高周波の振動が発生した。

 魔珴羅を捕らえた氷塊が、共振によって破壊され、弾け飛ぶ。

 魔珴羅は嘲笑うかのように白い歯をむき出しにする。

 氷が効かない。

 

「ほう」

 

 其真は感心し、印を変えた。

 

「水遁・海牢(かいろう)の術」

 

 地が裂け、水が湧き上がる。激流が魔珴羅を飲み込み、巨大な水球を形成した。

 ただの水ではない。チャクラを含み、極限まで圧縮された、相手を捕らえるための水の牢獄。

 氷とは異なり、振動で砕くことはできない。凄まじい水圧が全方向から魔珴羅を押し潰し、呼吸も許さない死の牢獄。

 浮かぶ球の中心で魔珴羅が脱出せんと藻掻くが──

 捕らわれた白き巨体が、細切れの肉塊へと変わる。

 

「……ようやく戻ってきたか」

 

 術が発動した。

 透き通る水に、血の赤が滲み、染まっていく。

 其真は自身の元へ、「解」と「捌」の二つの術が戻ってきたことを確認する。

 (うお)の調理は終えた、後は煮て喰ってやってもいいが。

 

 ──ガコン

 

 重く、低く。再び、あの音が響いた。

 水球の中で細切れになったはずの魔珴羅の肉片が、瞬時に結合する。

 それだけではない。再生したその(くび)にはエラが、背中にはヒレが生えていた。

 水圧に適応し、水中活動に適した形態への進化。

 魔珴羅が水を蹴り、水球を突き破って飛び出してくる。

 

「活きが良すぎるな!」

 

 海牢から大地へと飛び出し、そのまま跳ねる勢いで其真に飛び掛かる魔珴羅。

 

 推測が確信に変わっていく。

 其真は指を振るう。

 

「刺身にしてやる」

 

 「(かい)」を放つ。

 不可視の斬撃が魔珴羅を捉えた。

 魔珴羅は全身に裂傷を負いながら吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。

 

 ──ガコン

 

 土煙の中から現れたのは、またしても無傷の魔珴羅。

 再び突進してくる。

 其真はもう一発、解を放つ。

 

 だが今度は──魔珴羅が頭を振り、最小限の動きで回避した。不可視のはずの、斬撃を。

 

「見えているな! 俺の術が!」

 

 其真は愉しげに叫んだ。

 ならば、見えていても関係がないものを。

 其真は仰々しく腕を振るい、回避不可能な広域斬撃の雨を降らせた。

 

 ──ッ!!

 

 魔珴羅は腕を交差させて防御姿勢を取るが、全身を切り刻まれる。

 肉が削げ、骨が露出し、膝をつく。

 血みどろになった白き巨人。

 

 ──ガコン

 

 法陣が回る。

 スッ、と魔珴羅が立ち上がった。

 その身体に傷は無い。

 

 (やはりな……)

 

 あの頭上の法陣が回転する度に、受けた傷を癒やし、それ以降、その攻撃を見切ってくる。

 あるいは肉体を変質させ、対応してくる。

 口寄せの言霊、「輪廻」と法陣の回転。

 推し測るに、この式神の能力は──

 

 ──あらゆる事象への「()()」。

 

 魔珴羅の拳が突き出される。

 其真はそれを片手で受け止めた。

 重い。適応するたびに、攻撃の威力も増している。

 

(手札の少なかった頃の俺なら、敗けていたかも知れんな)

 

 だが、今は違う。

 脳噛という知識の源泉を取り込み、六道の理を掌中に収めた今、無限の手札がある。

 そして何より、()()()()()()()()()()()がある。

 其真は、片腕で魔珴羅の拳を掴んだまま、余る二本の腕で印を結んだ。

 向ける指先に、世界を歪めるほどのチャクラが収束する。

 それは、完璧な循環、輪廻すらも断ち切る一撃。

 

 世を呪い、理を断つ、絶対の斬撃。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。