ズゥン!!
白亜の巨人が大地を踏み砕き、突進した。右腕に備えた、黒布を貫いたままの剣が、唸りを上げて振り下ろされる。
其真はそれを、領域展延を纏わせた腕で受け止めた。返しの拳で魔珴羅を殴り飛ばす。
其真は魔珴羅の刃を受け止めた腕を見る。傷はない。だが、領域展延は切り裂かれていた。
(あの刃。対領域に特化した「
魔珴羅の振り下ろした刃は其真の腕まで届き、しかし、仙術と陰陽のチャクラを込められた強靭な腕に阻まれていた。
(強力な陽のエネルギーを纏っている。チャクラを込めていなければ腕を切り落とされていたな)
祓除の剣
その剣はあらゆる陰遁の忍術を切り裂く。特に領域への特攻を持ち、領域展開を包む結界や領域展延による防御を易々と切り裂く。その式神に呪術師の奥義は通用しない。
白亜の巨人は、悠然と立っている。
呪術師への特攻ともいえる剣を持つ、頑強な白の巨漢。
相手にとって不足はない。
其真は口元を歪めた。
「丁度いい……。新しい力の試し撃ちといこう」
其真が印を結ぶ。脳噛から継承したチャクラ、知識と因子が、彼に新たな遊びをもたらしていた。
「氷遁・
パキパキパキッ!!
極低温の冷気が
氷遁は、水と風、それと少しの陰陽属性の混合技。五大性質とは異なる血継限界のチャクラ。
脳噛から継承した六道の力と、其真の圧倒的な技量とセンスは、未経験の技を容易く実現する。
「習うより慣れよ、だ」
すかさず追撃。印を結ぶ。
「磁遁・
高度な血継限界。優れた経験豊富な忍者から見ても、特異な術と評するだろう術。
其真は継承した知識の中から、特に難度の高い術を選び取り、そして放つ。
大地から液状の金属が滲み出し、宙に浮かぶ。
其真の合図に合わせ、鋭利な針となって降り注ぐ。
ドドドドドッ!!
液体金属の豪雨が氷像を穿ち、魔珴羅の体を粉々に砕いた。
決着か。
否。
──ガコン
戦場に、重く、低く響く音が鳴った。
まるで巨大な木造の
魔珴羅の頭上に浮かぶ法陣が回転した。
その瞬間、砕け散った氷と肉片が逆再生するように収束し、傷一つない姿で魔珴羅が再生した。
「うん?」
其真が眉を上げる。
魔珴羅が再び向かってくる。其真はもう一度、氷遁で氷漬けにする。
だが。
キィィィン!!
魔珴羅の全身から、高周波の振動が発生した。
魔珴羅を捕らえた氷塊が、共振によって破壊され、弾け飛ぶ。
魔珴羅は嘲笑うかのように白い歯をむき出しにする。
氷が効かない。
「ほう」
其真は感心し、印を変えた。
「水遁・
地が裂け、水が湧き上がる。激流が魔珴羅を飲み込み、巨大な水球を形成した。
ただの水ではない。チャクラを含み、極限まで圧縮された、相手を捕らえるための水の牢獄。
氷とは異なり、振動で砕くことはできない。凄まじい水圧が全方向から魔珴羅を押し潰し、呼吸も許さない死の牢獄。
浮かぶ球の中心で魔珴羅が脱出せんと藻掻くが──
捕らわれた白き巨体が、細切れの肉塊へと変わる。
「……ようやく戻ってきたか」
術が発動した。
透き通る水に、血の赤が滲み、染まっていく。
其真は自身の元へ、「解」と「捌」の二つの術が戻ってきたことを確認する。
──ガコン
重く、低く。再び、あの音が響いた。
水球の中で細切れになったはずの魔珴羅の肉片が、瞬時に結合する。
それだけではない。再生したその
水圧に適応し、水中活動に適した形態への進化。
魔珴羅が水を蹴り、水球を突き破って飛び出してくる。
「活きが良すぎるな!」
海牢から大地へと飛び出し、そのまま跳ねる勢いで其真に飛び掛かる魔珴羅。
推測が確信に変わっていく。
其真は指を振るう。
「刺身にしてやる」
「
不可視の斬撃が魔珴羅を捉えた。
魔珴羅は全身に裂傷を負いながら吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。
──ガコン
土煙の中から現れたのは、またしても無傷の魔珴羅。
再び突進してくる。
其真はもう一発、解を放つ。
だが今度は──魔珴羅が頭を振り、最小限の動きで回避した。不可視のはずの、斬撃を。
「見えているな! 俺の術が!」
其真は愉しげに叫んだ。
ならば、見えていても関係がないものを。
其真は仰々しく腕を振るい、回避不可能な広域斬撃の雨を降らせた。
──ッ!!
魔珴羅は腕を交差させて防御姿勢を取るが、全身を切り刻まれる。
肉が削げ、骨が露出し、膝をつく。
血みどろになった白き巨人。
──ガコン
法陣が回る。
スッ、と魔珴羅が立ち上がった。
その身体に傷は無い。
(やはりな……)
あの頭上の法陣が回転する度に、受けた傷を癒やし、それ以降、その攻撃を見切ってくる。
あるいは肉体を変質させ、対応してくる。
口寄せの言霊、「輪廻」と法陣の回転。
推し測るに、この式神の能力は──
──あらゆる事象への「
魔珴羅の拳が突き出される。
其真はそれを片手で受け止めた。
重い。適応するたびに、攻撃の威力も増している。
(手札の少なかった頃の俺なら、敗けていたかも知れんな)
だが、今は違う。
脳噛という知識の源泉を取り込み、六道の理を掌中に収めた今、無限の手札がある。
そして何より、
其真は、片腕で魔珴羅の拳を掴んだまま、余る二本の腕で印を結んだ。
向ける指先に、世界を歪めるほどのチャクラが収束する。
それは、完璧な循環、輪廻すらも断ち切る一撃。
世を呪い、理を断つ、絶対の斬撃。