呪術師 廻仟   作:四月三十日

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第3話「三竦み」

 ──あの式神の能力は「適応」。

 

 其真は冷静に分析した。

 攻撃を受けるたびに法陣が回り、耐性を獲得する。

 ならば、チマチマと削り取るような攻撃は、相手に適応の時間と機会を与えるだけの悪手だ。

 

 ──初見の技にて、適応前に一撃で屠るのみ

 

 其真のチャクラが沸き立つ。

 加減はここまで。遊戯とは、全力を尽くすからこそ暇が潰せるのだ。

 

 放つ術は。

 

「陰陽術・『(だん)』!」

 

 其真の指先から、不可視にして不可避の概念斬撃が、魔珴羅(まがら)の胴体を両断せんと放たれた。

 だが、その刹那。

 

 ドゴッ!!

 

 横合いから弾丸のような影が突っ込み、魔珴羅の巨体を吹き飛ばした。

 菅原憂太だ。

 彼は人造尾獣『理下』のチャクラを推進力に変え、捨て身のタックルを敢行したのだ。

 

(なに……?)

 

 脇腹への強烈な突進に体勢を崩した魔珴羅。

 その直上を「断」が通過する──いや、完全には避けきれない。

 狙いは外れたが、斬撃は魔珴羅の左肩を掠める。

 

 抵抗なく、魔珴羅の左腕が根元から切り離された。

 ゴドンッ、と巨大な腕が地面に落ちる。

 

 ギギギギ……

 

 頭上の法陣が軋むような音を立てている。

 

(加勢に来たのか? ……だが)

 

 次の瞬間には魔珴羅が、菅原に向かって、右腕の「祓除の剣」を振り下ろした。

 躊躇も容赦もない。眼前の動くもの全てを敵とみなす暴虐の動き。

 

「くっ……!」

 

 菅原は自身の刀でそれを受け止める。

 菅原の全身から『理下』のチャクラが迸る。力任せに押し返そうとするが、魔珴羅の剛腕と祓除の剣の重みに押され、足が地面にめり込む。

 

(やはりな)

 

 其真は口元を歪めた。

 当然だ。菅原もまた、魔珴羅の攻撃対象。

 

 もし、アレとの連携が可能なら、最初からやっているはずだ。

 アレは恐らく「制御不能」の式神。

 

 術者である由良恵ですら制御を放棄した、無差別の殺戮兵器。

 その代償として、理不尽なまでに強力な能力を有しているのだ。

 

「隙だらけだぞ!」

 

 其真の挑発、動く。

 魔珴羅の剣を全力で受け止めている菅原。両手は塞がり、回避も防御もできない絶好の好機。

 其真は指を振るう。

 

「『(かい)』」

 

 不可視の斬撃が、無防備な菅原の首を狙う。

 だが。

 

『ユウタァァァッ!!』

 ガキンッ!

 

 菅原の背後から「理下」が実体化し、その巨大な手で斬撃を弾いた。

 手が空いていない主の代わりに、チャクラの腕によって攻撃を防ぐ。

 

 その直後、魔珴羅が祓除の剣を振り抜き、拮抗していた菅原をボールのように弾き飛ばした。

 吹き飛ぶも、受け身をとる菅原。すぐに向き直る。

 邪魔者を排除した魔珴羅は、即座に最大の脅威である其真へと向き直り、突進する。

 

 其真は「解」を放つ。

 正面から受ける魔珴羅。

 しかし、魔珴羅に刻まれる傷は浅い。突進の勢いが落ちない。術が、適応されている。

 魔珴羅のむき出しの白い歯は、まるで余裕の感情を表現しているようだった。祓除の剣が振り下ろされる。

 其真は迫る剣を、チャクラを纏った四本の腕で巧みに受け流し、魔珴羅の腹に触れた。

 

(はち)

 

 初見の術。

 先ほどまでとは異なり、深い傷、細切れになる魔珴羅。これを一手目に使っていれば、もしや、という威力だが。

 

 ──ガコン

 

 仕留めきれない。

 「解」という術だけではない。並行して進んでいた「斬撃」そのものへの適応が、魔珴羅の命を繋ぐ。

 血の霧から、ほぼ無傷の姿までに戻る魔珴羅。

 しかし、依然としてその左腕は欠けたままだ。

 再生することはない。

 

 一瞬の静寂。

 戦場の配置が変わる。

 

 荒野に立つ三つの影。

 絶対的な力を持つ「呪いの王」、其真。

 莫大なチャクラを持つ尾獣『理下』と模倣の眼を持つ人柱力、菅原。

 そして、あらゆる事象に適応する「最強の式神」、魔珴羅。

 

 互いが互いを牽制し合う、息詰まるような緊張感。

 三竦(さんすく)みの状態。

 

 王と、模倣と、適応。

 

 三者の力が、今まさに衝突しようとしていた。

 

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