──あの式神の能力は「適応」。
其真は冷静に分析した。
攻撃を受けるたびに法陣が回り、耐性を獲得する。
ならば、チマチマと削り取るような攻撃は、相手に適応の時間と機会を与えるだけの悪手だ。
──初見の技にて、適応前に一撃で屠るのみ
其真のチャクラが沸き立つ。
加減はここまで。遊戯とは、全力を尽くすからこそ暇が潰せるのだ。
放つ術は。
「陰陽術・『
其真の指先から、不可視にして不可避の概念斬撃が、
だが、その刹那。
ドゴッ!!
横合いから弾丸のような影が突っ込み、魔珴羅の巨体を吹き飛ばした。
菅原憂太だ。
彼は人造尾獣『理下』のチャクラを推進力に変え、捨て身のタックルを敢行したのだ。
(なに……?)
脇腹への強烈な突進に体勢を崩した魔珴羅。
その直上を「断」が通過する──いや、完全には避けきれない。
狙いは外れたが、斬撃は魔珴羅の左肩を掠める。
抵抗なく、魔珴羅の左腕が根元から切り離された。
ゴドンッ、と巨大な腕が地面に落ちる。
ギギギギ……
頭上の法陣が軋むような音を立てている。
(加勢に来たのか? ……だが)
次の瞬間には魔珴羅が、菅原に向かって、右腕の「祓除の剣」を振り下ろした。
躊躇も容赦もない。眼前の動くもの全てを敵とみなす暴虐の動き。
「くっ……!」
菅原は自身の刀でそれを受け止める。
菅原の全身から『理下』のチャクラが迸る。力任せに押し返そうとするが、魔珴羅の剛腕と祓除の剣の重みに押され、足が地面にめり込む。
(やはりな)
其真は口元を歪めた。
当然だ。菅原もまた、魔珴羅の攻撃対象。
もし、アレとの連携が可能なら、最初からやっているはずだ。
アレは恐らく「制御不能」の式神。
術者である由良恵ですら制御を放棄した、無差別の殺戮兵器。
その代償として、理不尽なまでに強力な能力を有しているのだ。
「隙だらけだぞ!」
其真の挑発、動く。
魔珴羅の剣を全力で受け止めている菅原。両手は塞がり、回避も防御もできない絶好の好機。
其真は指を振るう。
「『
不可視の斬撃が、無防備な菅原の首を狙う。
だが。
『ユウタァァァッ!!』
ガキンッ!
菅原の背後から「理下」が実体化し、その巨大な手で斬撃を弾いた。
手が空いていない主の代わりに、チャクラの腕によって攻撃を防ぐ。
その直後、魔珴羅が祓除の剣を振り抜き、拮抗していた菅原をボールのように弾き飛ばした。
吹き飛ぶも、受け身をとる菅原。すぐに向き直る。
邪魔者を排除した魔珴羅は、即座に最大の脅威である其真へと向き直り、突進する。
其真は「解」を放つ。
正面から受ける魔珴羅。
しかし、魔珴羅に刻まれる傷は浅い。突進の勢いが落ちない。術が、適応されている。
魔珴羅のむき出しの白い歯は、まるで余裕の感情を表現しているようだった。祓除の剣が振り下ろされる。
其真は迫る剣を、チャクラを纏った四本の腕で巧みに受け流し、魔珴羅の腹に触れた。
「
初見の術。
先ほどまでとは異なり、深い傷、細切れになる魔珴羅。これを一手目に使っていれば、もしや、という威力だが。
──ガコン
仕留めきれない。
「解」という術だけではない。並行して進んでいた「斬撃」そのものへの適応が、魔珴羅の命を繋ぐ。
血の霧から、ほぼ無傷の姿までに戻る魔珴羅。
しかし、依然としてその左腕は欠けたままだ。
再生することはない。
一瞬の静寂。
戦場の配置が変わる。
荒野に立つ三つの影。
絶対的な力を持つ「呪いの王」、其真。
莫大なチャクラを持つ尾獣『理下』と模倣の眼を持つ人柱力、菅原。
そして、あらゆる事象に適応する「最強の式神」、魔珴羅。
互いが互いを牽制し合う、息詰まるような緊張感。
王と、模倣と、適応。
三者の力が、今まさに衝突しようとしていた。