──ガコン
法陣が回り、
菅原の誘導による誤爆で受けた「断」。
因果すら断ち切るはずのその一撃に対し、魔珴羅は「切断された因果を繋ぎ直す」という形で適応してみせたのだ。
「……いよいよ鬱陶しいか」
飽きた玩具は、片付けなければならない。
初見の技。再生が追いつかぬほどの火力で、塵一つ残さず消し飛ばす。
其真が両手で重厚な印を結ぶ。
「土遁・
大地が唸り声を上げ、魔珴羅の足元の地盤が爆発的に隆起した。
巨大な岩盤が四方からせり上がり、魔珴羅を包み込むように閉じていく。
それは瞬く間に、堅牢な岩でできた巨大なドーム──否、処刑用の「
魔珴羅が内部から破壊しようと暴れるが、高密度に圧縮された土遁の壁は容易には砕けない。
「仕上げだ」
其真は、ドームの前方にわずかに開けておいた通気口へ向けて、右手で弓を引く構えを取った。
その掌に、陰陽チャクラと火遁、そして雷遁の性質変化を極限まで圧縮したエネルギーが収束する。
それは炎というより、凝縮された熱と光の奔流。
「炎遁・
其真の手から放たれた紅蓮の矢が、空気を焼き焦がしながら「地獄竈」の穴へと吸い込まれた。
一瞬の静寂。
直後、竈の内部で地獄が顕現し、天を衝く火柱があがる。
閉鎖空間に放たれた超高熱。
逃げ場のない熱エネルギーは、竈の内部を瞬時に数千度の灼熱地獄へと変える。
さらに、上部の穴が煙突の役割を果たし、急激な上昇気流が発生する「煙突効果」が、燃焼と熱対流を爆発的に加速させた。
ドームの隙間から、太陽のような眩い光が漏れ出す。
内部の魔珴羅には、適応する時間など与えられない。
細胞の水分が一瞬で沸騰し、タンパク質が炭化し、さらにその炭すらもプラズマ化して消滅していく。
音すら置き去りにする閃光と共に、地獄竈が内側から溶融・崩壊した。
圧倒的な熱量が、周囲の大気ごと全てを焼き尽くす。
やがて、熱波が引いた後には、ガラス状に溶けた大地だけが残されていた。
再生の音は聞こえない。
法陣の回る音もしない。
最強の式神・魔珴羅は、適応の果てに、塵一つ残さず蒸発し、消滅した。
バッ。
お決まりの流れだ。
そう何度も繰り返されると興醒むというもの。これで最後にしよう。
其真が振り返ると同時、黒い布が翻っていた。
四つの影が降り立つ。
彼らは、決戦の地へと舞い戻ってきたのだ。
目の前には、圧倒的なチャクラを纏う
対峙するだけで肌が粟立つような威圧感。
だが、廻仟は一歩前に出た。拳を構えるのではなく、真っ直ぐに王の目を見据えて。
「俺は……お前を知らない」
廻仟の声は震えていなかった。
「書物は読んだ。お前と戦うことになるはずだったからな。……そこには『呪いの王』だと書かれていた。古い時代にいた強い呪術師だってことも、六道の僧侶の軍団をたった一人で退けたという伝説も」
廻仟は言葉を継ぐ。
「……生まれながらにして望まれぬ子、『忌み子』だったとも書かれていた」
其真は無言で、興味も無さそうに見下ろしている。
「でも、全てが書かれているわけじゃない。歴史書なんて結果しか残らないもんだ。……お前がどうしてこんなことをしているのか。どうして『呪いの王』なんて呼ばれるようになったのか。これからこの世界をどうしようとしているのか……俺は、知りたい」
それは、殺し合いの直前にはあまりにも不似合いな、純粋な対話への欲求だった。
敵を知り、理解したいという願い。
「よせ、廻仟」
背後で与が平坦に言う。
「相手は
「ソウダ廻仟、奴ハ会話ヲ楽シムヨウナタマジャナイ」
マイケルも警告する。
だが、其真はフッ、と笑った。
「その通りだ」
其真は、退屈そうに首を振った。
「理由? 目的? ……くだらん。嵐が吹くのに理由がいるか? 地震が起きるのに目的があるか? 俺はただ、俺の思う身の丈のままに生き、喰らい、壊すだけだ。それが『俺』という存在の在り方だからな」
徹底的な拒絶。
他者との相互理解など、端から必要としていない絶対者の孤高。
「……やはり、そうなのか」
廻仟は拳を握りしめ、視線を落とした。
分かってはいた。分かり合えるはずがないと。
それでも言葉を交わそうとした自分は、甘いのだろうか。場違いだっただろうか。
その時。
ポン、と大きな手が廻仟の肩に置かれた。
「顔を上げろ、
東導葵だった。
「確かに、
東導の言葉は力強い。
「だがな、廻仟。お前の『目の前の相手を知ろうとする』
東導の熱い視線が、廻仟を射抜く。
「
「東導……」
「迷うな。お前はお前のままでいい。その上で──」
東導は其真に向き直り、構えを取った。
「今は、その『在り方』を否定しなければならない時だ!」
廻仟の瞳に光が戻る。
迷いは消えた。
その様子を見て、其真は心底不愉快そうに鼻を鳴らした。
四つの眼が、冷酷な光を帯びる。
「お前のような、己の正義に酔いしれた傲慢で高潔な愚者には、永い時の中で散々会ってきた。……どいつもこいつも、壊れる時の音は同じだったぞ」
対話の時間は終わった。
相容れぬ二つの魂。
戦いは、避けられない。
「行クゾ」
タンッ。
乾いた足音が、焼け焦げた大地に響いた。
それは単なる移動の音ではない。明確な意思とリズムを持った、戦闘の開始を告げるビート。
マイケルがサングラスの位置を直し、軽やかにステップを踏み出した。
──
ドン、タタッ、ダン!
彼がステップを踏むたびに、足元から
それだけではない。彼を中心に広がる波紋──陰陽遁による干渉波が、空間の「理」を書き換えていく。
味方の神経伝達速度を加速させ、身体能力を活性化させる「バフ」。
敵のチャクラ循環を阻害し、動きを鈍らせる「デバフ」。
リズムが場を支配し、味方の術を補助して底上げ、相手の術を妨害し弱める「フィールド」。
マイケルは挑発的に手招きをした。
「俺ト踊レ、其真ヨ」
言葉と共に、マイケルの姿がブレた。
「チッ、小賢しい!」
其真が腕を振るい、躱しきれない物量の斬撃で切り刻もうとする。
だが。
パァンッ!
絶妙なタイミングで、
──
マイケルの刻むビートの裏拍を取るように、東導の術が発動する。
フッ。
其真の目の前からマイケルが消え、代わりに巨大な瓦礫が現れた。
其真の術が瓦礫を細切れにする空隙、その死角となる背後にマイケルが転移している。
「ハッ!」
マイケルの蹴りが其真の後頭部を捉える。
直撃。だが、それだけでは終わらない。
其真が反撃しようと振り返る瞬間、再び拍手が鳴る。
今度は廻仟が転移してきており、重い一撃を叩き込む。
其真の顔が歪む。チャクラを吸われる感覚。
(こいつが──餓鬼道の!)
「素晴らしいリズムだ!」
東導が吼える。
マイケルのステップが戦場のテンポを作り、東導の拍手がそのメロディを奏でる。
回避支援、攻撃の隙作り、位置取りの最適化。
二人の連携は、
「ならば、全て吹き飛べ!」
翻弄されることに苛立った其真が、全方位への広域殲滅術を放とうとチャクラを練る。
磁遁と火遁の複合嵐。回避不可能な面制圧攻撃。
だが、その予備動作は、既にリズムの中に織り込み済みだ。
「させんッ!!」
上空から
マイケルの作り出した「有利な場」により、チャクラ出力が底上げされた修羅道の全砲門が開かれる。
「修羅道・
ズドォォォォォン!!
ミサイル、レーザー、チャクラ弾。
圧倒的な火力の豪雨が、其真の放とうとした広域攻撃を正面から相殺し、押し潰す。
爆風が其真を包み込む。
二人が場を支配し、一人が最大火力を叩き込み、一人が相手の力を削いでいく。
最強の連携が、呪いの王を圧倒していた。
絶え間ない連撃。
リズムに支配された戦場では、さしもの呪いの王も防戦一方となっていた。
其真の表情が、怒りに歪む。
「……小蝿どもがッ!!」
その瞬間、世界が震えるほどのチャクラが膨れ上がる。
来る。あの悪夢が。
──呪いの王が、両の手で印を結ぶ
全員の顔色が青ざめる。
領域展開が来る。南条と夏目ですら瀕死に追い込まれた最強の奥義だ。
「簡易領域ッ!!」
東導、与、マイケルが即座に防御姿勢を取る。
だが、表情には絶望が張り付いている。
消耗しているとはいえ、六道の力を継承したあとの其真の斬撃の嵐を、簡易領域で中和しきれるのか? 数秒と持たないのではないか?
その刹那。
廻仟だけが、防御の構えを取らなかった。
彼は真っ直ぐに東導を見た。
言葉はいらない。ただ視線だけで、
──信じてくれ。
理屈ではない。ブラザーがそう言うなら、そこに勝機があるのだ。
パァンッ!!
乾いた拍手が鳴る。
廻仟の姿が消え、其真の鼻先に転移していた。
ゼロ距離。
其真が目を見開く。
「貴様──」
廻仟が拳を構える。格闘戦に入るのではない。
この構えは、覚悟の表れ。
「領域展開」
二つの声が重なった。
黒い波動と、禍々しいオーラが同時に爆発する。
其真の領域は、結界を閉じない。それは卓越した技術が成す至高の領域。
対して、廻仟が展開しようとしているのは、ようやく至ったばかりの未熟な領域。当然、結界を閉じて空間を分断しようとするもの。
結界術のセオリーで言えば、勝負は一瞬で決まる。
閉じない領域は、閉じた領域の外殻を外部から攻撃できる。
水槽の中に水を満たすのではなく、水槽ごと海に沈めるようなもの。
廻仟の結界は、完成する前に外側から粉砕され、彼は斬撃の藻屑となるはずだった。
──身の程を知れ
廻仟の領域の外殻に、無数の刃が突き刺さる──はずだった。
ズズズズズッ……!!
異変が、起きている。
廻仟の展開した漆黒の領域が、砕けるどころか、其真の領域を浸食している。
「な……ッ!?」
其真の広げる領域が、廻仟の闇に触れた瞬間、消滅していく。
いや、違う。
吸い込まれている。
廻仟の領域に付与されている術。
それは、洗練された術ではない。
根源的な力、渇望。
制御不能の六道の力──「
神業たる「閉じない領域」が、未熟で飢えた「閉じた領域」に飲み込まれていく。
廻仟の領域が、其真の世界を塗り潰した。
エネルギ─…
吸収…
アリ─ナ
チャクラゼロ、拳のみ、勝者あり