背負ってきた
学んできた
巡り
今の
そして今
領域内には廻仟と其真だけ。
飢えた領域の中、呪いの王との最期の我慢比べが始まる。
◆◆◆
──嫌な感覚だ
其真は、眉間に皺を寄せた。 自分のものをごっそりと、ただただ無感情に強奪されていく感覚。
痛みはない。
だが、指先から、毛穴の一つ一つから、己を「其真」たらしめているチャクラが、絶え間なく外へと引きずり出されていく。
そして何より、この空間に付与された力。その力から、ひしひしと感じる強い感覚。
──
指をふるう。反射的だった。思い出した記憶を振り払うように。目の前の忍者を刈る術を放つように。
チッ──
舌打ちが響く。指を振った感触はあった。チャクラも練った。術も発動した。
だが、放ったはずの「解」は其真の手を離れた先から、霧散して消える。
それは湯気のように──
──はぁ、はぁ
頭を過った記憶は、白い吐息。雪が深く降り積もっている。あれは一際寒く、飢えた冬だった。
「──……不愉快だ!」
其真は怒りを露にする。受肉してから、ここまで感情が昂ったのは初めてのことだった。全力でチャクラを練り上げる。同時に、猛烈な虚脱感が其真を襲うが、関係ない。
廻仟へ向けて、極限まで研ぎ澄ました「断」を放つ。
しかし、其真の手元を離れた「断」は、先ほどよりはっきりとした白い煙となって消え、立ち上っていく。
──おい、あれ
──忌み子だ
──
──
──
呪いの王として君臨する遥か昔。
まだ「強さ」を手にする前のこと。「弱者」として、ただの「異形」として人々に石を投げられ、唾を吐きかけられていた頃の記憶。
寒さに震え、飢えに腹を鳴らし、誰からも与えられず、ただ奪われ、退けられ、追われるだけだった日々。
「──八つ裂きでは済まさんぞ。小僧」
其真の眼が、口が、頸が、腹が、拳が力む。
全身の毛穴からこれまでにない、圧倒的な
焼き尽くしてやる。この領域も、小僧も、この惨めな記憶ごと──。
「
人差し指に火が点る。
一度呪力に着火したこの火は、その呪力を全て燃やし尽くすまで決して消えることはない。
其真は、立ち上る自分の濃密な呪力に火を点そうとして──。
寸前で火が掻き消えた。
放出した呪力も、瞬く間に霧散してしまった。
──寒い、寒い
──火ぃ、火ぃ
──火ぃ
火が、点かない。
其真が膝をつく。
「ハァ……ッ、ハァ……」
息が切れる。
莫大な呪力を練り上げようとしたその意志が、皮肉にも「最大の流出」を招いていた。
炎になるはずだったエネルギーは、着火する寸前ですべて吸い上げられ、後には疲労感だけが残る。
其真は顔を上げて、廻仟の顔を睨んだ。
──哀れな子だ
──辛かっただろう。だが、もう案ずることはない
──生きなさい。その姿でも、命に貴賤はないのだから
「ハァッ──!!」
思わず、地面を殴る。
「──俺は! 呪いだぞ……!!」
傲慢な者による、施し。庇護すると称し、餌付けする。
弱者を惨めな家畜のように扱い、見下す者。
あぁ、そうだ。
あの時の忍者も、こういう顔をしていた。
◆◆◇
漆黒の領域内。
そこは、互いの魂を削り合う我慢比べの場だった。
廻仟の展開した「餓鬼道」の領域は、チャクラの存在しない「
全ての術は霧散し、そこにいるだけでチャクラを、生命力を領域に奪われる。
それは術者である廻仟も同じことだった。根源の力である六道の餓鬼道の力。
これを付与した領域は最早、人間に支配することはできず、自他関係なく全てのチャクラを貪る。
しかし、皮肉なことに、その
圧倒的なチャクラ総量を誇る「呪いの王」。
「
水位の高いダムが決壊した時、水が激流となって溢れ出るように、
さらに、なりふり構わない無茶な術の行使が、死を加速させた。
もはや、指一本動かす力も残っていない。
絶対的な捕食者だった男が、今はただ地面に這いつくばっていた。
──あの頃のように。
廻仟は、静かにその姿を見下ろしていた。
彼もまた限界に近いが、立っている。
「……忍者……ごときが」
其真が、掠れた声で呪詛を吐いた。
「俺は──」
廻仟は、その言葉を遮るように呟いた。
これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。
里での訓練、仲間との任務、そしてこの戦い。
自分の在り方は、果たして「
誰かの命令に従い、影に徹することができただろうか。
いや、違う。自分はいつだって、己の衝動と意志で、理不尽な「
廻仟は、強く認識した。
自分の在り方を。自分の魂の形を。
「俺は、『
呪いを背負い、呪いを以て、呪いを祓う者。
業を背負い、それでも人を救おうとする者。
「──呪術師、廻仟だ」
その宣言が、引導だった。
其真の瞳から、光が消えた。
肉体を維持する最後のチャクラすらも失われ、六道の因子も、王の覇気も、全てが霧散する。
後には、長い時を経て風化した、ただの乾いた