ゾイドワイルドヴァーサス‐不良がゾイドで抗争する学園都市で自分達を守るためにゾイドに乗る事を選んだ陰キャ学生の話   作:アイアイホイホイおさるさん

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 その時、レベッカ・スチュワートは後悔していた。

 いくらゾイド戦と言えども学生のやる事だと(たか)を括り、通信支援(オペレーション)用に市販の安い無線通信機を使っていた事に。

 

「タスク君応答して!お願い!タスク君!ソニックレイダー!応答してっ!!」

 

 それに、ソニックレイダーの現在地を知らせる発信機も市販のもの。

 まさか軍用ゾイドしか使わないような妨害電波を当てられるとは思ってもみなかったし、それを使える電子戦用ゾイドが用意してあるなんて思ってもみなかった。

 

「ああもうっ………!」

 

 アルバ校が用意していた電子戦用ゾイド・ディロフォスの妨害電波によりダメになってしまった発信機はどうにもならない。

 ので、レベッカは別の方法でアプローチをかける事にした。通信はダメでも、せめてタスクとソニックレイダーが何処にいるかは解りたかった。

 

「受信目標を発信機からゾイド固有生体パルスに変更、衛星チャンネルを切り替えてセンサー探索範囲を拡大、ゾイドコア反応検索・絞り込み開始………!」

 

 機材に繋いだキーボードをカタカタと叩く音が格納庫に響く。発信機も通信も死んだので、衛星通信を応用してソニックレイダーそのものの反応を探す事にしたのだ。

 市販のパソコン、それも学校の備品を用いてでは大変であるが、レベッカはゾイド部の先生として、一人の大人としてやり遂げねばならなかった。

 

「………出たッ!!」

 

 そして、画面に結果が出た。タスクとソニックレイダーの安否がようやく解ると安堵しかけたレベッカであったが、その表情はすぐに困惑に曇る事になった。

 

「………えっ?」

 

 画面に表示された、ソニックレイダーのゾイドコアの固有パルスが放たれている場所。そこが問題だった。

 

「………なんで………ソニックレイダーの反応がアルバ高校から出ているの………?」

 

 そこはリヒト市の東方。街を三分割支配する三高校の内の一つ。タルデ校から見れば敵である、私立アルバ高校の校舎だった。

 敵の本拠地からソニックレイダーの反応が出ている。レベッカに突きつけられたのは、考えうる限りの最悪を予見させる結果だった。

 

 

 ***

 

 

「う………ん………?」

 

 未だ身体に残る電流のヒリヒリした感覚を感じながら、タスクは目を覚ました。

 視界がクリアになると同時に目に入ったのは、タルデ校とは違う荒れた見慣れない教室に、自分を見張るように座っているガラの悪そうな三人組。

 

「ん………おお、ようやく目覚ましたか」

「お前は………!」

「へっ、覚えててくれたようで嬉しいぜ、青いゾイドの操縦者(ライダー)さんよぉ」

「………誰?」

「ずごっ!!」

 

 三人組………かつてタスクとソニックレイダーに敗れた三虎(タイガース)の一人、ミトラは盛大なハシゴ外しを食らいズッコケた。

 

「ミトラだよ!!お前と戦って負けたファングタイガーの!!」

「ああ、あの時の」

 

 言われてタスクは、ソニックレイダーの初陣で倒し、その後商店街でも戦ったファングタイガーを思い出した。

 生身でゾイドの前に立ち塞がるという、今思えばヒヤリとする自身の蛮行と一緒に。

 

「てめぇナメてんのか………!」

「よせミトラ、そもそも俺達ゾイド越しにしか会ってないだろ」

「で、でもよぉイチトラの兄貴!こいつは俺たちの………!」

「そうそう、それに手は出すなって総長(カシラ)から言われてるだろ?」

「………ウス」

 

 自身のプライドを打ち砕いた相手からの軽すぎる扱いに怒りを露わにするミトラだったが、同じくその場にいたイチトラとフタトラに諭され矛を収める。

 

「そんな事はどうでもいい!ソニックレイダーを何処にやった!!アレは僕のゾイドだぞ!!」

「おーおー、起きて一発目にゾイドの心配とは、優等生サマは違いますなぁ」

 

 しかしタスクの猛抗議に皮肉と煽りで返すほどの怒りは、イチトラにもあるようである。

 そんな事呼ばわりされたミトラが何か言いたそうにしているが、今は置いておく。

 

「安心しろ、お前さんのゾイドはちゃーんと無事だ」

「………不良の言う事が信じられるか」

「信じろよ、こう見えて俺は誠実なんだぜ?」

 

 タスクにとって、不良の言うことを呑むというのは美学に反する事だが、今は素直に従うしかない。

 単純に力で押さえつけられるのもあるが、ソニックレイダーが人質に取られている以上は何もできないからだ。

 

「ウチの総長(カシラ)がお前さんに会いたがっていてな、悪いが一緒に来てもらう」

 

 そしてイチトラもそんなタスクの状況を皮肉り、嘲笑っていた。

 自分達のプライドとゾイドを奪った相手から向けられる、悔しさと侮蔑に満ちた視線ほど、彼等を喜ばせるものはなかった。

 

 

 ***

 

 

 学園都市リヒトを三分割支配し勢力(シノギ)を削る三高校の内の一つである私立アルバ高校は、リヒト市の東一帯を勢力に置き、支配している。

 その意外と歴史は古く、始まりは帝国勢力の軍学校だったと云われている。それを反映してか、所属する生徒も直感的なゾイドの操縦に長けている。

 そしてその校舎は、幾多もの無計画な増改築を繰り返した果てに都市と見間違う程膨れ上がり、廃墟の中に聳える様は、さながら魔王の城である。

 

 タスクは、そんなアルバ高校に連れて来られた。もちろん招待されたワケでもオープンスクールに来た訳でもない。一種の捕虜として、だ。

 イチトラに連行され長い廊下を歩いている最中、タスクは何人ものアルバの生徒とすれ違ったが、真面目に授業を受けているような生徒は一人もいなかった。

 学級崩壊も起こしていたのか、教師の姿も見当たらなかった。まるで、不良以外居ないようだった。

 

「これからお前は俺達の総長(カシラ)に会う、くれぐれも無礼な行為は取らないように」

 

 何がカシラだ、不良(ゴミ)の親玉のくせに。と、タスクは心のなかで毒づいた。

 しかしイチトラの緊張した様子から、今自身が連れてこられた教室の扉の向こうにいるのは、只者ではないとも思った。

 

「………総長(カシラ)三虎(タイガース)のイチトラ、青いゾイドの操縦者(ライダー)をお連れしました!」

 

 イチトラが大声で言うと、教室の鍵がガチャリと開いた。入れ、と暗に言われているようだった。

 

「………行くぞ、くれぐれも無礼のないように」

 

 イチトラが乱暴にタスクを押した。

 鬼が出るか蛇が出るか。タスクは開く扉の先を睨みつけ、その向こうに待つ総長(カシラ)なる人物………

 このアルバ校の不良の中でも、高い立場にいるであろう人物に備え、身構えた。そして扉の向こうに広がっていた光景は。

 

「(これは………)」

 

 ある程度酷いという予想はしていたタスクだったが、その通りだった。引き戸を開けた瞬間、「教室」という言葉が嘘みたいに消えた。

 蛍光灯の半分は外され、残った灯りは鉄格子のような影を床に落としている。窓は黒いビニールシートと迷彩柄の古布で塞がれ、外光は細い筋だけ。

 机は壁際に寄せられ、積み上げられたものは即席のバリケードだ。

 背後の黒板には赤いマーカーで殴り書きされた作戦図。配下にしたであろう学校の位置に×印がいくつも突き刺さり、まるで血を吸った槍のようだ。

 部屋の空気はタバコと汗と、どこか甘ったるい芳香剤が混じり、息を吸うたびに肺が重くなる。

 

「早かったじゃあないか」

 

 そこに「王」が居た。

 美形、と言えただろう。シルバーのウルフヘアーで、乙女ゲーか少女コミックに登場する不良、といった感じのイケメンが居た。

 なんとなく、昔に某少年漫画雑誌で連載していた某マフィア漫画の嵐の守護者に似ている気もする。あの方向性のイケメンだ。もっとも、性格はまるで違いそうだが。

 勿論不良らしく筋肉はついていたが細身であり、タスクは悔しかったが(ちまた)で女性からキャアキャア言われて推されているのもわかる。と思った。

 

 そんな「王」が、おそらく側近であろう配下の不良を二人従え、おそらく外部から持ち込んだのであろう一際高くなった椅子に座り、じっとタスクを見つめていた。

 

「お疲れ様です!総長(カシラ)!!」

 

 イチトラが半ば怯えるように頭を下げた。おそらくこの男が彼らの言う「カシラ」………アルバ校のトップに立つ文字通りの「お(カシラ)」なのだと、タスクは分析する。

 

「いい仕事をしたな、感謝するイチトラ」

「もっ、勿体ないお言葉、アザッス!」

「ああ、もう下がっていいぞ」

「お、お疲れ様っした!!」

 

 イチトラが、また逃げるように教室を後にする。一人残されたタスクは、まさにまな板の上の鯉の状態で、その「王」の前に差し出される。

 

「………で、お前さんがソニックレイダーの操縦者(ライダー)。最近(オレ)のシマ荒らしてるっていう、タルデ校の最強のゾイド乗りってわけだ」

 

 タスクが見上げた時、「王」は既にそこにいた。背の低いタスクを見下して不敵に笑う様は、タスクが心から嫌う不良のイメージにぴったり合致した。

 

「………身を守る為にやっただけだ、お前達不良の基準で評価するな!」

「テメエ!総長(カシラ)に対して………!」

 

 そしてそんなタスクの反抗心を感じ取ったのか「王」は嬉しそうに笑ってみせた。

 

「待ちな」

「しかし………!」

(オレ)が"待ちな"と言った」

「………ウス」

 

 タスクの態度に怒りを露わにした側近の不良を黙らせる。言葉だけであったが、それだけで屈強な男を怯えさせ、従わせる「圧」があった。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな………(オレ)はファング。ファング・サイドワインド。このアルバ校を纏める総長をやらせてもらっている」

「………不良に名乗る名はない」

「結構。お前さんの事は既に調べがついている」

 

 タスクが向けている攻撃も、侮蔑の感情も、その男「ファング・サイドワインド」は意に介す事は無かった。むしろ、丁度いいスパイス程度にしか思っていなかった。

 

「そう怒るなよ、お前さんの事は評価してるんだぜ?タスク・ダイワ。生身でゾイドの前に出る胆力、初陣のゾイド戦で勝利する技能、その後もウチのファングタイガー、ヴィーダのバズートルを倒し、連戦連勝………」

 

 ファングの言っている事は全て当たっていた。何故そこまで知っている?と思う事も、ファングは言ってみせた。

 三高校の内のトップとなれば様々な情報が入ってくるのはわかるが、それを差し置いてもタスクは恐ろしかった。

 

「………何が言いたい?」

「はははッ!せっかちなヤツだ!(オレ)と話すのがよっぽど嫌と見える!」

「当たり前だろう!!お前は………ッ!!」

 

 最初は怒りのみを向けていたタスクであったが、次第に怖くなった。

 何を話しても、主張しても、ファングは笑って返してくるのだ。まるで、稚児を相手に遊ぶかのように。

 

「ふむ………では、結論から言おう」

 

 ファングは、おそらく全てを見透かしていた。タスクの持つ不良全体への侮蔑も、怒りも、自分がどう見られているかも。

 そしてその上で、彼は自分の持つ要求(ねがい)をそのままぶつける事にした。

 

(オレ)と手を組め、タスク・ダイワ」

 

 それは、何もかもが自分の思い通りにしてきた男だから出せる揺るぎない自信が無ければ言えない一言である。

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