ゾイドワイルドヴァーサス‐不良がゾイドで抗争する学園都市で自分達を守るためにゾイドに乗る事を選んだ陰キャ学生の話 作:アイアイホイホイおさるさん
「は………?」
タスクは言っている意味が解らなかった。聞き間違いでなければ、眼前にいる
実際聞き間違いだと思った。だが。
「もう一度言う、
念を入れるように、ファングはそう言った。聞き間違いでは無かった事にタスクは困惑し、言葉を失った。
この男、アルバ校の総長たるファング・サイドワインドは、彼から見ればカスもカスであろうタルデ校の、更にその中の一人でしかないタスクに「手を組め」と言ってきた。
その真意も裏も、意味さえも、いくら考えてもタスクには解らなかった。
「お前さんは見誤っているのさ、お前さん自身の価値を、力を」
「僕の価値だと?」
「そう、価値だ」
ソレさえも見透かしたのか、ファングは少々興奮したように口角を吊り上げ、タスクに迫る。
「お前さんは間違いなく、
キスでもするのかという距離であるが、それが愛情表現ではなく相手のパーソナルスペースを侵す「威圧」である事は、無知なタスクにも分かった。
これは、断じて対等な立場での交渉ではないという事も。ファングはタスクに、自身の軍門に下れと言っているのだ。
「勿体ないとは思わねーか?タスク・ダイワ、お前さんの持つ力を、お前さん自身の為に使いたい。そうは思わねえか?」
「僕自身の為に………?」
「そうだ。お前さんが欲しい物はなんでも手に入る。この街の
だが同時に、それは甘美な誘いでもあった。実際不良………強い男はモテる。友達もできる。この街の支配者となれば尚の事。
タスクが、というよりは、あらゆる男子が人生の内一度しかない青春において、欲しいものが全て手に入る。
大人や社会から睨まれる事にはなるが、今後の人生を青春コンプレックスを抱えて生きていく事に比べれば、それは些細な問題と言えただろう。
「悪い話ではないだろう?どうだ、
個人的な幸せだけを考えるなら、タスクは要求を飲んだだろう。上にファングがいる以上酒池肉林とはいかなくとも、少なくとも彼女はできるだろうから。
「………本当に、あんたに協力すれば彼女はできるのか?明るい学園生活を送れるのか?」
「ああ、保証する」
「勝ち組になれるのか?」
「約束するとも、
卒業してからも世間から見下され、後ろ指をさされる負け犬人生が、学生時代に不良をやるだけで無しになる。これほど安い投資もない。
実際、社会的に正しいとされている形の大人の多くは学生時代に不真面目で、大人の言うことを聞いていた優等生ほど予後は悪い。
だから、タスクは。
「だが………断る」
「何?」
「嫌だと言ったんだ」
その要求を突っぱねた。
たとえ世間から後ろ指を刺されようと、予後が悪かろうと、負け犬人生を歩もうと、社会と秩序とルールを守る道を選んだ同胞達。
彼らと彼らの学生生活を守るというゾイド部の使命と責任が、タスクの両肩にかかっているのだから。
「アンタ達不良のくだらない争いに巻き込まれて僕達は迷惑しているんだ!怪我をしてお金も取られて、学校に来れなくなった生徒もいる!それがどうして、手を組めと言われてイエスと答えると思う!?」
物申している相手が誰かはタスクは十分理解していた。自身の命がけの訴えなど聞くハズもない事も。
それでも、いやだからこそタスクはNOを突きつけようと思った。突きつけなければならなかった。
彼等の意地とプライドをかけた
「そんな奴らの言う幸せなんか僕は要らない!僕はお前達に手なんか貸さないし、味方になるつもりも、手下になるつもりもない!!」
「モテたくないのか?」
「たかがモテ程度で人を好きにできると思うな!!ゴミ溜めの大将が!!」
間違いなく、タスクは人生の内で一番勇気を出していただろう。こんな事、高校入学時に寮生活がしたいと両親と大喧嘩した時以来だろう。
「ゴミ溜めの大将かァ………はははっ!言うねェ!!」
「ぐっ!?」
そしてタスクの予想通り、勇気を振り絞っての訴えはファングの心を1ミリも動かさなかった。
ファングはタスクを、そのタスクを上回る長身から繰り出される体格差と身体能力差を持って、狼が獲物に噛み付くがごとく取り押さえてみせた。
「………僕はお前たちと一緒になってくだらない領地争いはしない」
「お前さんの良い悪いなんざ関係ないのさ、
丁度押し倒すような絵面であるが、そこには間違っても愛はなく、単に支配する、されるの構図と関係しかない。
これはマウンティングであり、もっと言うと調教なのだ。
「伊達にゴミ溜めの大将はやってないんでねェ、
「………お前の暴力で僕の心を支配できると思うな」
「結構!身体を屈服させりゃ済む話だ!」
ピン、と金属を弾く音がした。見れば、ファングの手には普段から持ち歩いているのであろう万能ナイフの姿。
その太陽光を反射してキラリと光る刃先が何をするか、解らないタスクではなかった。
「………ん?」
その時、
そして気の所為だと思い、片付けようとした次の瞬間。カーテンに閉じられていた窓が、突然爆ぜた!
「わあっ!?」
「何だ!?」
ギャオオオッ!!
窓を突き破り、ファングの
それが聞き覚えのある咆哮を上げたのを聞いたタスクは、自身の状況が有利に傾いたと確信した。
「ソニックレイダー!!」
ギャウッ!!
助けに来たぜ!と言うように唸る相棒ゾイドの身体には、拘束されていたのか太いワイヤーがいくつか巻き付いていた。おそらく、これを引きちぎって助けに来てくれたのだろう。
そんな相棒に答えるかのように、タスクは迷う事なくそのコックピットへと飛び乗った。
「じゃあね不良の大将さん!僕は帰るよ!」
ギャオッ!!
ソニックレイダーは、後者にしがみついていた手を離し、地上に降りた。ファング達が見下ろす先では、敷地内を駆けてゆくソニックレイダーの姿が見えた。
「ゾイド隊を出せ!ヤツを拘束しろ!」
「………いや、待て」
しかし、ファングはこんな状況にあっても尚笑っていた。
「
「………中央広場に誘い込め、
何故ならファングにとってそれは、楽しい楽しい遊びの始まりに過ぎなかったからだ。
***
アルバ高校は、増改築を繰り返した果てに巨大な迷宮のような様相を見せる巨大校舎。
それはゾイドに乗っていても変わらないらしく、タスクとソニックレイダーは、出口を探して広大な校舎を彷徨っていた。
「居たぞ!青いゾイドだ!」
「くそっ!邪魔だぁ!!」
そんなタスクを拘束せんと、アルバ校主力たるヴェロキラプトル型ゾイド・ラプトールの軍勢が飛び掛ってくる。
しかしその程度ソニックレイダーの敵ではなく、飛びかかってすぐに尻尾で
「くそっ!?何処に行けばここから出られるんだよ!?」
出口の見えない迷路のような校舎を、追っ手のラプトールを相手しながら逃げるタスクとソニックレイダー。
倒しては、逃げ、走り、それを繰り返した果てに………
「………え?」
ギャウ?
開けた場所に出た。
一瞬出口か?と思ったが違った。校舎に囲まれたそこは言わば広場であり、破壊されたタイルやモニュメントが転がる様は、かつてそこが美しい庭園であった事を物語る。
四方を囲う校舎はさながらコロシアムの客席であり、実際そこには多くの生徒が集まり、迷い込んだソニックレイダーを好奇の目で見つめていた。
「おい、見ろよ!」
「あれがタルデの青いゾイドかよ!」
「でかいラプトリアじゃねーか!」
「ぎゃはははは!」
そこでタスクはようやく気づいた。自分が罠にハメられたと。あのラプトール軍団は追手ではなく、自分達をここに誘い込む為の物だったと。
そう、そこはコロシアム。アルバの生徒達は客。タスクとソニックレイダーは、コロシアムに入場してきた拳闘士。
そしてタスク達の相手………この処刑ショーの真の主役は、程なくして姿を現した。
ガオオオォォーーーーーッッ!!
曇天に咆哮が響いた。
タスクとソニックレイダーが見上げた先には、校舎の上に立つ一体のゾイドが居た。
「あれは………バカな!?ライオン種!?」
それは、ゾイドの中でも一際強力かつ扱い難い種として知られる、ライオン型だった。
多くの場合その気高さを表すような白い装甲に身を包まれているハズが、そこに居た個体は闇のような真っ黒の装甲に包まれていた。
目は人為的に目覚めさせられたらしく赤く染まり、背中には巨大なブースターのようなユニットを背負っている。
「ようこそタスク・ダイワ!我がアルバ高校の闘技場へ!」
「その声、ファングか!?」
そしてそのライオン型からは、つい先程まで聞いていたファング・サイドワインドの馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
タスクには信じられなかったが、そのライガーのコックピットには、ファングが座っていた。
「お前のゾイドなのか!?まさかッ!?」
「いかにも!!」
驚くタスクと、身構えるソニックレイダー。その前に立ち塞がるように、ファングを乗せた漆黒のライガーは、校舎から颯爽と地上に降り立つ。
「相手をしてもらうぞ、この
ガオオオオッ!!
アルバの王が操る漆黒のライガー………「ノワールライガー」が、威圧するように咆哮を上げた。