ゾイドワイルドヴァーサス‐不良がゾイドで抗争する学園都市で自分達を守るためにゾイドに乗る事を選んだ陰キャ学生の話 作:アイアイホイホイおさるさん
それから、タスクはレベッカが下準備をして串に刺したニジマスを、薪で焼いて二人で楽しく美味しく食べた。
大自然の中で、自分で捕まえた魚を調理して食べる。それは都会育ちでこういった物に触れる事の少ないタスクにとって、貴重な人生経験とも言えた。
………夏が故のレベッカの薄着から見えるたわわな胸の谷間がどうしても気になったが、それは男子としては嬉しい経験なので、タスクは密かに胸の内に刻み込む事にした。
この広い大自然に、美人女教師と二人きり。思春期男子としてはこれ以上ない程の「夏の1ページ」であるが、一方タスクの胸中にはとある不安があった。それは。
「………これ、やっぱり強化合宿でも何でもないよな?」
夜中に使うという追加の薪を回収しに再び森に入って見つけた看板を前に、タスクは呟いた。
そこには、周辺のエリアの道案内を記した看板であり、堂々と、大きく目立つ程ではないが分かりやすい場所に「国立ゾイドセンターキャンプ場」と書いてあった。
………タスクは、ミリタリーにもサバイバルにも詳しくない、どこにでもいる素人である。
しかしそれでも、サバイバル訓練というものは民間人の安全が保証されているキャンプ場で行うものではないという認識はあった。
「というか僕がしたのって………魚釣って焼いて食べただけだよな?」
百歩譲って、昔にやっていたカンフーが題材の某戦隊ヒーローや、さらに昔にやっていた世界的名作バトル漫画原作アニメのように、生活の中に修行アリという路線もあるだろう。
しかしタスクがこれまでした事を振り返ってもよくあるキャンプの延長線上であり、これをやっていて強くなれるとは、タスクにはどうしても思えなかった。
「いや、でも先生だって僕が強くなるよう考えてくれているハズ………ハズ………」
恩師に浮かべてしまった疑念を必死に否定しようとしても、その側から疑念が押し上げるように浮かんでしまう。
タスクは頭に浮かぶ疑いとクエスチョンマークをどうするか考えながら、溜まった薪を籠に詰めて森を後にする。
この後、レベッカがレンタルしたカヌーで川下りしようと言い出していた。
***
結論から言うと川下りは楽しかった。絶叫マシーンに乗っているようであり、オールを握って水を浴びている間タスクはレベッカと一緒にキャアキャア騒いでいた。
しかし、カヌーから降りると改めて、ほぼ確信に変わった疑念が浮かんできてしまうのだ。これは、強化合宿でも何でもないんじゃないか?という疑念が。
「さあ、晩御飯は豪勢に行くわよ!」
そう言ってレベッカは焚き木台の上に金網を置き、売店で買ってきた肉と野菜を乗せてゆく。誰の目にも見て分かる、バーベキューである。
「………ここまでされちゃあ、うん………」
炭となった薪の発する熱が肉を焼き、ジュウジュウという子気味のいい音と、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。
タスクも思春期男子なだけはあり、焼いた肉は大好きだ。しかし、そんな大好物を前にしても、今回ばかりは素直に喜ぶ事はできなかった。
「ん?どうしたのタスク君」
「あの、レベッカ先生………」
そして、改めてタスクの中の疑念は確証に変わった。
これは、強くなるための修行では………少なくともサバイバル訓練では断じてない。
タスクの持つ知識の中では、今やっているように買った肉に市販のタレをつけるような事をするサバイバル訓練など無い。
「あの………僕、今回の合宿の事、強くなるための強化合宿だと思ってて、これもサバイバル訓練だと思ってたんですけど………違いますよね?」
しばしの沈黙。パチパチという炭火の音がしばらく鳴った後、レベッカはきょとんとした顔でタスクの問に答えた。
「違うわよ?」
「やっぱり………」
これでもう、これが万が一にも強化合宿であるという可能性は、企画したレベッカが否定した事で微塵も無くなった。
そう、タスクは今の今までバーベキューの準備をし、レジャーとしての大自然を満喫していたに過ぎなかったのだ。
「ここ最近のタスク君嫌に張り詰めてたから、一足先に夏休みでもどうかしら?って思ったのよ、いわば慰安合宿ね」
「慰安合宿って………だったら合宿なんて名乗らなきゃいいじゃないですか!」
「だって慰安旅行って言ったらタスク君絶対来ないでしょ?」
「それは………うう………」
確かに川下りは楽しかった。ニジマス釣りも。今食べているバーベキューだって美味しい。しかし、タスクはそんな事をしている場合じゃないと思っていた。
自分は一刻も早く強くならないとと思っていた。だから、今回の合宿という名の慰安旅行に連れ出したレベッカにはちょっとだけ恨みもあった。
「………タスク君はさ、どうして強くなりたいの?」
「えっ………」
そして、その心はレベッカも見通していた。
突然飛んできたレベッカの質問に戸惑いつつ、タスクは詰まった答えを改めて口に出す。
「だって………僕達の周りは強い
やはり起点は、ノワールライガー戦での惨敗だ。タスクはその戦いで自分より上がいる事を知ったのだ。
「だから、僕は強くなりたいんです………強くなって、いつかファングにも追いついて、越えてやりたいんです」
強くなりたい。勝ちたい。それは強敵を前にした時、男子であるなら誰しもが抱く願いである。
男らしいとはとても言えず、当人もマッチョイズムを毛嫌いする人種であれど、タスクも男の子なのである。
「ふうん、タスク君はあの黒いライガーに勝ちたいんだ」
「ええ、勝ちたいです」
「勝ってどうするの?」
「えっ」
そして、レベッカは大人である。だから知っている。そんな、男の子の理屈だけで回らない世界や正義がある事を。
「アルバ校やヴィーダ校みたいに、街の
「それは………」
タスクは答えに詰まってしまう。
それは、自分が自分の毛嫌いする不良達と、ゾイドで社会に迷惑をかける人種と同じ事を言っていると突きつけられたが故の事であった。
「………別に強くなる事自体は否定しないわ。敵である以上はあのライガーとは戦わなきゃいけないけど、目的と手段を逆にしちゃダメよ」
「目的と手段?」
「思い出してタスク君、私達ゾイド部が立ち上げられた理由は何?」
ゾイド部が立ち上げられた理由。記憶を辿り、タスクが思い出したのは、力を持たなかったが故のタルデ校の立場。
三高校による抗争の巻き添えにより、カツアゲや暴行の危機に晒されていた進学校であるタルデ校は、自分の身を守る為にゾイド部を立ち上げたのだ。
「………不良から、学校を守るため………」
タスクは、燃える焚き木を前にして思い出す。
ゾイド部が立ち上げられたのは、自分がソニックレイダーに乗ったのは、強くなって勝つ為ではない。ましてや、不良達のように街の頂点に立つためでもない。
タスクが戦おうと思ったのは、ゾイドを悪用する不良が………ゾイドを、単なる暴力の為の機械としか考えない連中が許せなかった身体を
ゾイド部の力、ソニックレイダーと自分の力は、強さを示すためではない、守るための力なのだ。
タスクはそれを、自身を見つめ直し思い出した。
「………ありがとうございます先生。僕、ちょっと焦って目が曇ってたみたいです………」
自嘲と自戒を込めて笑うタスクの目は、燃える火を反射して宝石のようにキラキラと光っていた。
レベッカは、その瞳を見て思う。この子は、もう迷わないだろうと。
「………それじゃ、辛気臭い話も終わった所で」
そして意気揚々とレベッカが取り出したのは、平たく大きい袋。
商品名を示した厚紙には「花火セット」と書いてあった。
「晩ごはん終わったらこれしよっか!」
「いいですね!」
焚き木がパチパチと燃え、夜空に火の粉が舞い上がる。長く楽しい夜は、まだ始まったばかりだ………
***
あり得ない事だらけだ。シロー・キタジマは上がった息を整えながらそう思った。
少し前に自身が行ったアルバ校へのカチコミで、両校共に甚大な被害を被った。そして両校の代表………つまりはシローとファングの取り決めで、しばらくの休戦が決まったハズだ。
「どういう事なんじゃ………!?」
ならば、愛機クリムゾンホーンのコックピット越しに見る、この光景は何だ?
ここは自身の統括するヴィーダ校の縄張りだというのに、自軍のゾイドがいくつも破壊され転がる、死屍累々の惨状と化しているではないか。
そして、この惨劇を作り出した存在こそ。
「どういう事じゃファングゥッ!!互いの軍備が整うまでの休戦はどうなったんじゃワレェッ!!」
漆黒のライオン種・ノワールライガー。そのコックピットに平然と佇む、ファング・サイドワインド。
休戦条約を破り、単騎で襲撃を仕掛けてきた存在が、ゾイドの残骸の上からこちらを見据えていた。
「条約だと?それは互いの軍が回復するまでの間の話だろう」
「ああそうじゃ!忘れたとは言わさへんぞ!」
「そんな物………
「なんじゃと………!?」
キタジマにはファングの言っている意味がわからなかった。この男は、自分一人で全てを戦っているつもりなのだろうか。
だが実際、この男は単身ヴィーダ校の領域に襲撃を仕掛け、たった一体のゾイドで全てを蹂躙して見せている。言葉に説得力はある。
「舐めた口を………その驕り、ワシの前では無意味だという事を教えてやるわァ!!」
グワガァアアアアアッ!!
あるいは、それはファングの力への恐怖の裏返しか。キタジマは操縦桿を思い切り倒し、クリムゾンホーンをノワールライガー向けて突撃させた。
大地を揺らし迫る巨大な装甲の各部に備え付けられたビーム砲やミサイルが展開し、ノワールライガーへと振り注ぐ。
ヴィーダ校の校風を体現する弾幕の雨霰が襲い、爆炎と爆風がノワールライガーを襲った。
並のゾイドなら、これで木っ端微塵になっているだろう。
「ダメ押しの
グワガァ!!
しか、しファングがそんな程度で倒れる訳がない事ぐらいキタジマも知っていた。そこで、トドメとばかりにクリムゾンホーンの
爆煙の向こうのノワールライガー向けて飛び込んだクリムゾンホーンの巨体。その頭部の巨大なフリルが、打ち出されるように相手に向けて飛び出した。
………クリムゾンホーンは、スティレイザーをベースに改造したカスタムゾイド。故に、その
頭のフリル、放電機能を有したエレクトフリルを杭打機のように相手に向けて射出する「
キタジマは今まで、自身の前に立ち塞がるあらゆる敵をその一撃で粉砕してきた。故に、その技には自信があった。だから宿敵ファングとの戦いの決着のため繰り出した。
………しかしキタジマは、後に語る。今思えば、この一撃なら勝てると驕っていたと。
「………
爆煙の向こうで、荷電粒子砲の銃口がこちらを向いていた事に気付いた時にはもう遅かった。
直後、キタジマの視界は荷電粒子の眩い光に包まれ、クリムゾンホーンの自慢の
・今日のゾイド
クリムゾンホーン
分類:スティラコサウルス型
ヴィーダ校総番シロー・キタジマの専用機。
スティレイザーをベースにしたカスタム機で、赤い塗装と増設したドリルユニットにミサイルランチャーで強化が図られている。
原型機譲りのパワー・装甲・火力を誇る一方でスピードは遅め。
兵器解放する事で頭部のエレクトロフリルを杭打機のように相手に向けて射出する「