ゾイドワイルドヴァーサス‐不良がゾイドで抗争する学園都市で自分達を守るためにゾイドに乗る事を選んだ陰キャ学生の話 作:アイアイホイホイおさるさん
その生徒は、どこにでもいるタルデ島生徒である。
真面目に授業を受け、真面目に学園生活を送り、真面目に下校………とは、今回はいかなかった。
その日、彼は友人達と一緒に街の本屋に寄り道する事にした。何故なら今日は、いつも買っている月刊漫画雑誌の発売日なのだ。
いつも読んでいる漫画の最終回が掲載されているので、寄り道してでも一刻も早く、SNSでネタバレを踏むより早く手に入れたかったのだ。
「なあ、ちょっと気にならないか?」
「気になる?何が?」
「あれだよ、ゾイド部」
「ゾイド部なぁ………」
彼らの話題に挙がるのは、やはりゾイド部であった。
先日のファングタイガー襲撃事件での初勝利を狼煙代わりに新しく立ち上がったゾイド部は、当然ながら生徒達の興味を集めていた。
「ゾイドで暴れる不良に対抗するために、自分達もゾイドを使うってのは、まあ分からなくはないんだけどさ………」
「アルバ校のゾイドをやっつけてくれたのは感謝してるけどさぁ、やっぱり………」
「ゾイドはなぁ………」
「やっぱ嫌だよな、ゾイドは………」
自分達の身を守る為に立ち上がった部活、何より不良達にやられる側だった自分達を代表して初めて一撃入れてくれた。
が、それを差し置いても、不良達の象徴であるゾイドを使うという点はやはり受け入れがたい物があった。
「でも顧問はレベッカ先生だぜ、金髪巨乳の」
「確かにあのおっぱいは魅力的だよなあ」
「じゃあお前入ってみる?」
「冗談!そもそも俺ゾイド乗ったこと無いし」
「俺も」
「あーあ、せめて水泳部の顧問でもやってくれりゃいいのにさ」
「ほんとそれな、いくら美人でもゾイドと関わってる女はねーわ」
口を開けば次々と、出るわ出るわゾイド部に対する皮肉と冷笑の数々。
「そもそも奴らの真似してゾイドを扱うってのが気に入らないんだよな」
「ほんとそれな、いくら不良が気に入らないからって同じ土俵に上がった時点で負けだよな」
「そうそう、というかそもそもあいつら自体不良と同じだろ」
「今に見てろよ、どうせゾイドに乗ってるからって気が大きくなって、俺達を見下し出すんだから」
「つーか学生が戦う時点でイキりなんだよ。戦うなって、そういうのは大人に任せろって」
「それな!ほんッとそれな!!」
しかし、それも仕方のない事である。何故なら彼等にとってのゾイドというのは、自分達を見下して傷つける不良の乗り物であり、青春と称して他人に迷惑をかける馬鹿の象徴なのだ。
いくら自分達を守ってくれるとはいえ、長年自分達を脅かし続けた存在へのマイナスイメージは、そう簡単には覆らない。
「ありがとうございましたー」
そしてひとしきりゾイド部への陰口を叩き終えた彼等は、目的の漫画雑誌を買い、本屋を後にした。
後は帰るだけ、そう思ったその時である。
「んっ………?」
ふと、視界が暗くなった。何か大きな影が、自分達の上に落ちていた。
ビルか何かだと思ったその時、巨大な影はガシャンガシャンと音を立てて、こちらに近づいてきた。
「おい」
「その制服………」
「タルデ高校の生徒だな?」
つい先程まで自分達が陰口を叩いていたゾイドが、長年自分達をいじめてきたアルバ高校の不良達を乗せて、今この瞬間の自分達を取り囲んでいた。
***
発足から2日。本格的に始動したゾイド部の普段の部活動は演習。つまり、戦闘におけるゾイドの操縦に慣れる事であった。
そして放課後、タルデ校から離れた河川敷にて。
「行けぇっ!ソニックレイダー!」
ギャオオッ!!
タスクをコックピットに乗せたソニックレイダーが、大地を踏みしめて疾走する。
バネ性の優れた脚と背中のジェットブースターによる高速戦闘を得意とするギルラプターの一個体なだけはあり、そのスピードは下手なバイク以上の物である。
「よし、テスト開始!行くわよ!」
駆けるソニックレイダーを見守るレベッカが、手元に握ったスイッチを押した。
すると、ソニックレイダーの進行方向先にあった機械が起動し、地面に繋がれた丸い
学校の部活でも使える低予算な上に、破れた物は専用の機械に入れて、溶かして固めて再利用できる優れものである。
「おりゃあ!」
ギャオッ!!
タスクが操縦桿を引く。ソニックレイダーに命令が伝わり、そのバネ性に優れた脚で地面を蹴り、飛び上がる。その先にはターゲットデコイ。
「まずは一つッ!」
ギャオオオッ!!
ソニックレイダーの
「次だ!」
ギャオッ!!
着地と同時に勢いを活かしてもう一度飛び上がる。今度は脚の爪。ギルラプター時代からついている鋭く大きな親指の爪を使い、ターゲットデコイを蹴るように貫いた。
「いいぞソニックレイダー!その調子だ!」
ギャウッ!ギャオオッ!
タスクとソニックレイダーは、現れるターゲットデコイを次々と、その爪と牙を使って撃破してゆく。
レベッカはその様子を観察し、分析し、手元の情報端末に打ち込んでゆく。その間もターゲットデコイは現れ続け、ソニックレイダーの爪がそれを斬り裂いた。
***
「かはあっ!はあっ、はあっ………!」
戦闘訓練が終わる頃には、タスクはもうヘトヘトになっていた。
調子に乗ったと自分でも自覚していたが、自分がそもそも鍛えておらず、まだ戦闘に慣れていないからだとも分析しながら、河川敷の芝生の上に大の字になって伏せている。
「………体力とその配分とが、
「すみません、先生………」
ギャウ………
レベッカが呆れながらも差し出したスポーツドリンクを、タスクはゴクゴクと喉に流し込む。ソニックレイダーも心配そうにしている。
「………そんなに楽しかった?」
「えっ」
「私には、ゾイドを嫌ってる人間が、こんなにも夢中になってゾイドを動かすとは思えないわね」
「それは………」
そしてやはりというか、レベッカに見抜かれていたとタスクは気付く。
タスクは、他のタルデ校生徒のように、不良が悪事に使う事からゾイドに対しては嫌悪感を持っている………ハズだった。
「………僕、小さい頃はゾイドが好きだったんです」
「やっぱりね」
「買ってもらった図鑑を何度も読んで、イベントとかで乗ったりもして………」
タスクはぽつりぽつりと話し出した。それはまるで、自分自身と向き合うようでもあった。
「でも中学を出てから、不良がゾイドで悪い事をしている事を見て、クラスメートが被害に遭って、学校を辞めちゃう人も出てきて………気がついたらゾイドが嫌いになってました。自分を理不尽に踏みつける事に使われるゾイドが、怖くて、憎くて、たまらなかった」
別にタスクだけが特別そうである訳ではない。タルデ校の生徒の中には、昔はゾイドが好きだった、何ならゾイド少年と呼ばれるような子供だった生徒も少なくない。
しかし、不良の暴力とゾイドが
例えるなら、暴走族に迷惑をかけられた人間がバイクを嫌いになるようなものだ。仕方がないと言える。
「でも、こうしてソニックレイダーに乗ってみて、気づいたんです」
「気づいた?」
「………僕はゾイドが嫌いなんじゃなくて、ゾイドを悪い事に使う人間が嫌いなだけで………やっぱり、ゾイドはずっと大好きだった」
しかし、いくら迷惑を被ろうと、小さい頃感じた感情を否定する事はできない。
図鑑を開いて知った興奮も、試乗体験でラプトールに乗った時の息遣いも、宝石のような思い出としてタスクの心の中で光っていたから。
ただ、タスク自身が目を逸らして、磨くのを怠っていただけだ。
「それに悪い事に使う不良が悪いだけで、ゾイド自身には何の罪もないですから」
ギャウッ!
「ソニックレイダーもそう思うよね、はは」
その通り!と言うように軽く唸るソニックレイダーと、そんなソニックレイダーの鼻を優しく撫でるタスク。
すっかり相棒になった様を見て、レベッカも一安心。そして、そんな様子を見てある事が過ぎる。
「………タスク君は出来るかも知れないわね「真のワイルドブラスト」が」
「真のワイルドブラスト?」
ワイルドブラストという単語は、タスクも知っている。
それはゾイドが本来持っている野生の本能を解放させ、劇的にパワーアップさせる一種のブースト状態である。
細かな分類として、発動と同時にゾイドが持つ特別な武器を展開させる「エヴォブラスト」と、人為的に取り付けた外付けの武装を展開する「マシンブラスト」という派生がある。
「何です?真のワイルドブラストって」
しかし「真のワイルドブラスト」という物はタスクも初めて聞く単語である。
「ゾイドと人間が究極の絆を結んだ時に秘められた力が覚醒する、互いの気持ちがシンクロし、闘争本能が最大限に高まった時に発動する、いわば人機一体………」
「人機一体………!」
「………とされている、いわば都市伝説ね」
都市伝説。と聞いてタスクは一気に気が抜けてガクッとズッコケてしまう。
「都市伝説って、それガセって事じゃないですか………」
「あら、実際近年のゾイド研究では、ワイルドブラストにはまだもう一段階上があるって学説が出てるのよ?」
「いやそれでも、都市伝説………不確定じゃないですかぁ………」
レベッカとしては、場を和ませる冗談のつもりだったのだろう。
だが格段にパワーアップできる感を出されて意味深に引っ張っておいて、都市伝説です。とオチをつけられてタスクとしては完全にハシゴを外されたようなものである。
「フフフ………でも、もし本当に出来るとしたら?」
「出来るとしたら、そりゃあ………」
ゾイドと真に絆を結んだ者が至るという、真のワイルドブラスト。タスクとしては、ソニックレイダーとその高みに至る事が出来たら、それは確かに嬉しいし、誇らしい。
「………出来るかな、僕に」
ギャウッ!
「………出来たらいいね、ソニックレイダー」
以前なら「そんな漫画の主人公みたいな!」と冷笑していただろうが、相棒ゾイドを得た今、タスクの心には別の感情が生まれている。
ソニックレイダーもまた、それに応えるように短く鳴いた。
「おぉーい!ゾイド部のみなさぁーーん!」
すると、そこに向かって走ってくる影が一つ。見れば、それはタルデ校の制服を着た、一人の男子生徒であった。
血相を変えて、この学校から離れた河川敷まで走ってきた、その理由は。
「昨日のファングタイガーが仲間を連れて仕返しに来た!青いゾイドを、ソニックダイバーを連れてこいって!」
「何だって!?」
ゾイド部、出動の知らせである。