「まさか春虎が買い物に付きあうよう言われるとはねぇ……」
「全く…… 以前言った呪術の勉強をちゃんとしたのかな……? これが終わったら直ぐに呪術の勉強を学ばせるよ!」
「その割には服装に気合が入ってるな……」
「ギクッ……! これは…… お出かけするなら最低限の服装に着替えるよ! TPOを弁えるのも学生には必要な事だし!」
「その服、5000円位するヤツだろ 雑誌で見たぞ」
「ギクッ……! そ、それは…………」
冬児の指摘に夏目は分かりやすいような反応を見せる。どうやら彼女(表向きは男性扱いだが)もファッションには気を遣っているようだ。彼女は何とか真面目な雰囲気を取り繕うとするが、完全に隠しきれていない。素人が見てもほぼバレバレである。何せ『ギクッ』という分かりやすい反応を示しているのだから。
「そ、その…… 春虎はこういう服が好きかなって…………」
「いっその事スカートとか着てみたらどうだ? ミニスカートとかな?」
「なななっ!? それは駄目に決まってるだろう! 僕は土御門家のしきたりに従って、男性として振る舞わなきゃいけないし……!」
冬児の冗談に夏目は思いっ切り反応している。彼女は土御門家のしきたりにより、本当は女性であるのだが“男性”として振る舞っているのだ。夏目自身中世的な見た目と言う事もあり、違和感無くバレていない。それに加えて、女性が持つ陰の気と、彼女の式神である北斗の陰の気を混ぜる事で男性が持つ陽の気に偽装している。この高度な男装により、陰陽塾の生徒達は夏目が女性である事に気付いていないのだ。
「おっ、3人も来たぞ」
夏目があたふたしながら喋っていると、冬児が指差した方向から三人の生徒が近付いて来る。
「あっ! 二人共いたよ!」
「夏目君…… 似合ってるわね……!」
「ふっふ~ん♪ 来てやったわよ~!」
三人の生徒は、春虎や夏目の友人である百枝天馬・倉橋京子・大連時鈴鹿だ。三人共陰陽塾の生徒で、春虎達とよく一緒に行動している。彼らは今まで様々な出来事に遭遇しながらも、共に立ち向かっていった事もあった。そのような事もあり、彼らは非常に硬い友情で繋がれているのだ。
「春虎君はまだ来てないの?」
「うん。もう少しで来ると思うんだけど……」
「もう暫く待ちましょう。まぁ、夏目君と一緒であれば……(この状況、夏目君と一緒にいられるチャンスじゃない……!)」
「あ~…… 私が来てやってるんだから、さっさと来てくれないかな~」
夏目達はまだ春虎が来ていない事から、もう少し待ってみる事にした。特に京子は夏目に好意を寄せている事もあって、もう少しこの状況が続いて欲しいと思っているようだ(京子は夏目が女性である事を知らない。これは天馬にも言えるが)。
「あれ? 春虎君?」
「あっ! 来たんだ!」
「おぉ! 皆! 来てたか!」
天馬が見つめる方向に、こちらに向かって来る人影が見えて来る。その姿は、正しく夏目達の親友である春虎だ。笑顔で夏目達の方に手を振っている。その様子を見た夏目達も返しとして手を振った。その風景は青春の一コマとも言える。
「実はな、コンの服探しに協力して欲しいんだよ」
「コンの?」
「それってどういう事?」
「あぁ。実はな…………」
春虎は今回の経緯を夏目達にざっくりと話した。コンのファッションのため、服を選んで欲しいという事を。それを聞いた皆は成程、と言いそうな表情で頷いた。
「服屋に行こうとした理由はそれなんだね……」
「成程…… コンちゃんのファッションを…………」
「確かに、私の服選びのセンスを教えてやろうじゃないの!」
「鈴鹿さんにファッションのセンスってったっけ……?」
「あぁ!? 勿論あるわよ! 何せ天才陰陽師なんだから!」
夏目達はコンのファッションに協力する事にした。コンは狐の耳と尻尾というチャームポイントがある。服やアクセサリー次第ではより可愛いファッションが出来るだろう。動物の要素は可愛らしいと受けやすい。耳や尻尾を通す穴は…… まぁ…… どうにかしよう。
「そのコンちゃんは今来てるのよね?」
「あぁ。勿論だ。コン」
春虎は京子の疑問に答えると同時にコンを呼び出す。すると、春虎の近くの空間に小規模の爆発が起きた。爆発と言っても物を破壊するような爆発ではなく、少し煙が出るような小規模の、煙幕程度の爆発である。
その煙の中から、コンが現れた。
だが、そのコンの姿は何時もの姿では無かった。
「えぇ……!?」
「おっ、その服装は……」
「うわぁ……」
「あら……!」
「へー……」
夏目達は姿を現したコンの姿を見て、皆驚きの表情を見せた。
コンの服装は、何時も着ている和風の服ではなかった。
フリルが付いている白いブラウス。
紺色かつチェック柄の模様が描かれているミニスカート。
ミニスカート故に露出している足。
普段とは異なる服装のコンの姿を見て、夏目達は驚きのあまり目をパチクリとさせている。
今までコンが来ていた服は和風の服だったので、現代風のお洒落な服装を着装しているのだから驚くのも無理無いだろう。当のコンは恥ずかしそうな表情…… ではなく少し自信がありそうな、嬉しそうな表情をしているのだ。自身の着ている服装はお洒落な服装だと思っているのだろう。
「えぇと…… この服は……?」
「あぁ。親父とお袋が送ってきた服なんだよ」
「えぇ!?」
春虎から帰って来た返答。
それは、今コンが着ている服は春虎の実家から、正確に言えば春虎の母である土御門千鶴から譲り受けたものなのだ。
『春虎、元気にしてる? 今頃式神のコンちゃんと仲良くしている頃だと思います。 ~中略~ 押入れを整理していたら凄く懐かしいものが出てきたの! 私が小学生位の時に使っていた衣服よ! もう使わないからコンちゃんに送るね! 尻尾を通せるようにスカートに穴を開けておいたから!』
時々送られてくる手紙と同時に少し大きめの段ボールが送られてきた。その中に、今コンが着ている服が入っていたのだ。
「えっ? これって春虎の母さんが使っていたの!?」
「コンちゃんの大きさに合う服って事は…………」
「子供の頃にこれを着ていたのか…………」
「まぁ、有り得るな。というか今でもとっておいていたんだな……」
コンが今着ている服が、かつて春虎の母の古着であるという事を知って、皆は興味津々に見ている。中々お洒落な服装と言う事もあり、少し感心している。女性である京子も少し興味がありそうな視線で見ており、鈴鹿はあまり興味無さそうに見ているもののちょっとだけ感心している…… ように見える。
そして男性と偽っている女性の夏目は、目をキラキラさせてコンの服を見ている。春虎から見れば「興味津々なんだな」と思っているが、冬児から見れば「こういう服なら春虎を誘えるかもしれない、と考えているんだろうなぁ」と思っているのだろう。
そして残りの天馬はと言うと、少し頬を赤くしてコンを見ている。もしかしたら今のコンの姿に惚れているのだろうか。それって所謂ロリ…… 言わない方が良さそうだ。
「しかし随分と気に入っているようだな」
「はいっ! これ程綺麗な服があるなんて知りませんでした! 流石春虎様のお母様です! これなら春虎様の“はーと”をゲット出来ます!」
「は、はははは…………」
「むむむ…………!」
コンの恋心を読み取れそうな発言。それを聞いた春虎は少し苦笑いをしており、夏目は少し憎たらしいような目つきでコンを見ている。ライバル出現と感じ取ったのだろうか。その様子を見ている冬児は「恋のバトルかも」と思っているようだ。
「今でも綺麗だと思うけど、この服屋でもっと綺麗な服を買おうとしているんだね? コンちゃん?」
「ハイッ! 今の衣服も素晴らしいと思いますが、もっと綺麗かつ麗しい服がある筈です!」
「成程…… コンちゃんの大きさだと、子供用になるのかな……?」
「えぇ!? コンは子供ではありません~!」
天馬はコンの背丈から考えて子供用なのでは、と考えた。確かにコンの見た目からして小学生位の身長だろう。だとしたら、コンの大きさに合う衣服は小学生向けの所かもしれない。だが、コンからすればそれはあまり気に入らないようだ。人によっては子供扱いされると不機嫌になる者もいるだろうが……
「わ~! ごめんね!? でも身長からしたら……」
「それじゃあ、背伸びをしたら……!」
「それはそれで悲しいような…………」
コンは何とか子供向け扱いされたくないために背伸びをしようと思っているようだが、それで子ども扱いされる行為が止まる訳が無い。涙を流しながら足先を伸ばして少しでも身長を伸ばそうとしている様子が少し空しく、或いは可愛く見える。
「おーい、そろそろ入った方が良いぞ…… 端から見たら迷惑扱いされるかもしれないぞ?」
「それもそうね。そろそろ入りましょう?」
「は、はい!」
そうこうしている内に春虎達は服屋に入る事にした。今のコン達のやり取りを道歩く人々に見られるのは少し恥ずかしい。今の時代であれば携帯電話などで撮影されてSNSに投稿されてしまう恐れもある。そうなれば特定されたり陰陽塾にも迷惑をかけてしまいかねない。
そんな事もあって、春虎達は服屋に入る事にした。
コンの尻尾をモフりたい。
次回は2026年1月15日21時00分に投稿予定です。