「成程…… それでこんなに届いたっちゅう訳やな?」
「はい…………」
陰陽塾の寮の前。
春虎は少し忙しそうな表情で段ボール箱を自室に運んでいる。その様子を陰陽塾の教師、大友陣は少し笑いながら見ている。何故春虎が段ボールを運んでいるのかというと……
『決めました! コンは……! コンは全部欲しいです!』
コンがどれを選ぶのか…… 皆が固唾を飲んで見守っている中、遂に答えを出した。
まさかの全部だ。
それを聞いた皆は大層驚いた。何せどれか一つに(多分主の春虎が選んだもの)だと思っていたからだ。流石に全部買うと中々高い値段になるため、どれか一つだけ選ぶよう言おうとした。
が…………
『だ、駄目でしょうか…………?』
『うっ………………』
彼女の瞳は春虎の顔に向けている。その瞳には懇願の意思が込められており、それを春虎に向けているのだ。まるで新しい玩具をねだる、可愛い子供のような視線を向けている。コンの目からキラキラした五芒星(星と言うべきか?)が放たれている…… ように見える。
『わ、分かった…………』
『ありがとうございます! 春虎様!』
『『『『ちょっと単純…………』』』』
コンのお願いを聞く事にした春虎。どうやら必死のお願いは主を動かす事に成功したようだ。子供が買いたい玩具を強請る時の様子のように。なんだか春虎が親馬鹿に見えてしまう……
「いやぁ、これが大人買いっちゅうやつか? 春虎君も大人の階段を上ったんやなぁ。先生として嬉しいでぇ!」
「いや、大友先生…… こんな階段の上り方は嫌っすよ……」
大友先生は茶化しているものの、春虎からすればあまり嬉しくない。何せ沢山の服を買ったため結構金がかかるのは当然だ。それに沢山の衣服を買ったせいで全部運びきれず、仕方無く配送することになった。衣類の購入代に加えて配送代もかかり、春虎の財布は火の車状態だ。
「おめでとさん、大人になれたな」
「皮肉かよ、冬児…………」
「今後は、お金の使い方を学ばせる必要があるね」
「へぇへぇ…………」
近くで手伝う冬児と夏目は色々言いながら春虎の手伝いをしている。この3人は付き合いが長いという事もあって親しい感じの話し方だ。
「は、春虎様! 微力ながらもコンも手伝います!」
更にコンも手伝いに加わった。服を買おうと強請ったのはコンであるため、彼女も運ぶのを手伝うのは当然だろう。ふわふわと浮きながら段ボールを運んでいる様子は見る者を癒してくれる。
「僕達も手伝うよ。服を選んだのは僕だからね」
「そうね。私も手伝うわ! 衣服はともかくアクセサリーは大分大きいから箱が何箱もあるし、運ぶのに少し時間がかかりそうだしね!」
「は~…… 仕方無いわね。この私も手伝うわ」
天馬も、京子も、鈴鹿も、皆が一堂に集まって春虎達の手伝いを行い始める。その光景は青春を送る学生達の集まりのようだ。大友先生からすれば、どこか懐かしく感じる光景でもあった。
(いやぁ、昔を思い出すなぁ~ あの二人と一緒にああいう事してたなぁ~……)
かつて大友が陰陽塾の学生だった頃に、とある友達と共にあのような集まりや雑談で楽しんだ事があるのだ。そんな出来事を思い出させる光景が今目の前に繰り広げられているのだ。
「皆で手伝えば直ぐに終わるやろうな。 わいはこれから仕事があるんで、お暇させてもらうで♪」
「あー…… 相変わらずだな。大友先生は…………」
「はぁ…… まぁ、僕達も手伝うからすぐ終わるだろう。さぁ、直ぐに春虎の部屋に運ぶよ!」
「お、おぅ…… 地味に重いから運ぶのが大変だ……」
「ならばコンも手伝います!」
「いや、お前既に段ボール持ってるだろ!?」
「尻尾で持ちます! やろうと思えば出来ます!」
「やれやれ…… 春虎、君は式神との接し方を学ばせた方が良いね……」
大友先生がこの場を立ち去り、春虎達が段ボールを運ぶ事になった。そんな状況になっても皆は笑顔で段ボール運びをしている。談笑しながら運ぶ様子は非常に微笑ましい。正に青春と言えるだろう。
陰陽を学ぶ学生達の平和なやり取り。
今は雛だが、いずれ大空へと羽ばたく烏になる者達。
未来の陰陽を担う雛達の日常。
この平和が何時までも続きますように…………
「あっ、こっそり“竜”の方の北斗に付けるアクセサリーを買ってたんだよね…………」
「金かかってるのか?」
「ん……、まぁね…………」
「コンよりもお金がかかっているのでしょうか?」
「まぁ、高いやつだし………… しかも一つ買っちゃったし……………………」
「もう一つ? それも北斗に付けるのか?」
「いや、これは………… 秘密で…………」
「ん? そうか」
「春虎様~! これは此処に置きますか~?」
「あぁ、それは…………」
「……………………(本当は、“以前”の北斗が付けていたアクセサリーを買ったんですけど………… 今は着けない方が良いかな…………?)」
(……………………)
(いずれ………… 明かさないとね………………………………)
夏目が春虎の友人であった北斗の主である事が発覚するのは、もうしばらく後の事である…………
書き忘れましたけど、後書きを投稿して終わりです。後書きは2026年2月5日21時00分に投稿予定です。