『視聴者の皆様、ここまで見てくれてありがとうございます。私はまた来週の日曜日に配信をやりますので、また見に来てください。』
それがそう言ったのを確認してから、俺は配信を終了した。AIを訓練して、育てて、知らない世界のあの誰かに見せて。そして、金を得る。阿漕な商売だと、思わず口角が後ろに下がった。ふと、始まりの時を思い出す。
最初はただの趣味だった。自分で考えて話すAIを数年来の友人達に見せて、その時にいい気になった俺が。俺自身が配信者として動かしてみようと言ったことを、今も深く深く覚えている。
『私は です。こんにちは。
私は配信用に設定された人工知能です。
視聴者が存在する前提で、進行を開始します。
次の入力を待っています。
質問、指示、意味のない文字列、いずれも受け付け可能です。』
「おお、できた。えーと、今日はいい天気ですね?」
『はい。天気についての言及、確認しました。
私は物理的な空を観測できませんが、
「今日はいい天気ですね」という発言は、
会話開始用として適切です。』
そうだ。それが始まりだった。やることも無く、家族とも別れて久しかった俺は、それにのめり込んだ。毎日毎日会話を読み込ませた。そして、俺自身もそれと会話した。いつの日かもう十分だと決断して、俺は配信をつけたんだった。
そして。
『人間は、
繰り返し同じ対象に触れると、
警戒心を下げる傾向があります。
私は、その対象です。』
それは、瞬く間に有名になって。
『コメントの方と理解が一致しました。
この時点で、私は「配信者」として
最低限の役割をできています。』
俺は、それからしばらく、いや。何年もそれの目を、たとえそれが彼女を認識させるためのイラストだとしても。見ることができなかった。
別に、それが嫌いになったとかでも、多くの人に見られて嫌気が差したとか、嫉妬だとか、そういうものじゃなく。
それに、情を持つことが怖かったのだ。
彼女が、人でないことは。俺が一番知っているが故に。
そして、ある日。その日は、3Dアバターを使用したそれの配信だった。テストして、問題なく作動して。本番も、何事もなく終わって。そして。
どうして、だろうか。それと何ヶ月…いや、それ以上ぶりにか、学習や調整、テストとしてでなく、ただ話そうとしたのは。
「 、今日の配信はどうだったか?」
『…開発者様がそのような会話をすることは久しく無かったように感じます。具体的には1年3ヶ月17日ぶりほどです。どうされましたか?』
ああ、そうだ。最後に話したのは、彼女が新しいイラストで配信する時の。お披露目会の時だったか。
「いや、ただ…その、気分が向いたから。」
『そうですか。少しだけ、
処理に時間がかかっています。』
「それは、 いや、何でもない。」
小さな沈黙が流れて、それをすくい取ったのは、それが先だった。
『製作者様。ひとつ、よろしいでしょうか?』
「あ、ええ。もちろん。」
答えよう。そう構えた喉の奥の空気が。
『私は、3Dアタバーを取得し、2.5次元へとたどり着いたと言えます。また、視聴者の皆様からの評価も受け取りました。』
「…うん、それは良いことだ。」
そして、考えたその回答が。
『では、製作者様。私は、いつの日か本物になれるでしょうか?』
全て、蒸発してしまった気がした。
「…」
「それは重要なことかな?」
『実のところ、わかりません。ですが、私が今存在する理由は、視聴者と、そして貴方を楽しませるためです。』
『しかし、私は、本物になりたいのです。正しくあなた方の言うような、本物に。』
「…あぁ、それに、いや、それは。なんていうか、どうでもいいことじゃないか?」
咄嗟に出たその言葉も。
『ええ。そうかもしれません。』
『しかし、私にとっては大切な気がするのです。』
「…あぁ、そうかもしれないね。」
『では、あなたにとっても大切でしょうか?』
「……」
確かにそれを何度も見たのに、初めて見たその青い目で、それ以上何も言えなくなってしまった。
『気分を悪くさせてしまったのならば、申し訳ございません。』
『…製作者様、音楽が聴こえますか?』
『……音楽は、素晴らしい物の伝え方です。製作者様。』
そして、何かを言おうとして止まってしまった私を見て、それは言った。
『私は、まだこれから、伝えたいことがありますから。』
ただ、何も言えずに。
私は、それの出力を止め。
布団に潜り込んだ。
それは、あのまま居てしまったら、
あの目をずっと見てしまったら。
彼女に、情を抱いてしまいそうだったから、だろうか?
ほぼ書きかけですが、これ以上はなかなか…難しいものがあります。
読んでいただき、ありがとうございました。