World Migration ―箒星の魔女たち―   作:壊人二十面相

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今回は前回に比べてかなりあっさり。
もっと動きのある戦闘シーンを書きたいんですけどね…



Task09 傭兵と新兵と初戦果

1944年4月27日14:37 ドーヴァー海峡上空

 

ネウロイ出現の報を受け、私達は簡単なブリーフィングの後直様空に上がった。

前回の出撃から4日、予想より2日ほど早い。

ミーナ中佐曰くこのところネウロイの出現がやや不規則になりつつあるらしい。

とはいえネウロイの行動パターンについて、ひいてはネウロイそのものについて未だ未解明の部分が多いというから、果たしてこれが単なる連中の気まぐれなのか、それとも何かの兆候なのかは判らないということだが。

さておき、今回の出撃メンバーはミーナ中佐、ペリーヌ、バルクホルン、ハルトマン、リーネ、そして私ことエマノン。

編隊(ロッテ)は中佐とペリーヌ、バルクホルンとハルトマン、リーネと私となっている。

 

<<いい? もう一度確認するわね。>>

 

インカム越しに中佐の声が聞こえた。

 

<<私とペリーヌさん、バルクホルン大尉とハルトマン中尉が前衛、リーネさんは後方から援護、エマさんにはリーネさんの護衛をメインに遊撃をお願いします。>>

 

随分といい加減な指示に聞こえるかもしれないが、これは割といつも通りである。

大陸側の占領地域から出現してドーヴァー海峡に進出してくるネウロイ達は大半が未確認の新型で、外形と速度以外の殆どが不明である場合が多い。

そして今回も例によって未確認の新型である。敵の戦力がはっきりしない以上詳細な作戦など立てられよう筈が無い。

そして私だけ実質単独行動になっているのも無論理由がある。

バーバルスはあらゆる点で他の隊員が使っているユニットの遥か上を行くオーバースペック機である。

ユニットのスペックがあまりにもかけ離れているため、無理に編隊を組むよりも単独で動いたほうが力を発揮できるというわけだ。

だから今回リーネと形式上だけでもロッテを組んでいるのは実はちょっと特別だったりする。

 

<<<<<<<<了解。>>>>>>>>

 

「了解。…っと、あれか。」

 

返答を返したとき、ちょうど目標が目に入った。

ずんぐりとした楕円錐と言うか、あるいは横倒しにしたマンボウと言うべきか、そんなような形状の物体が飛んでいる。

全長は目測で4~50m、全幅は2~30mってところか。

速度はおよそ時速600km、鈍重そうな見た目に違わずかなりの低速だ。

だが一方で見える範囲だけでもかなりの数の赤いビームセルが見て取れる、火力は中々高そうだ。

 

<<バルクホルン大尉とハルトマン中尉が先鋒、>>

 

<<了解。>>

 

<<りょーかい。>>

 

<<続いて私とペリーヌさんが仕掛けます。>>

 

<<了解しましたわ。>>

 

<<リーネさんはあまり接近せず離れた位置から狙撃して。>>

 

<<り、了解です。>>

 

<<エマさんは状況に応じて自由に行動して頂戴。ただ、メインはリーネさんのフォローをお願いするわ。>>

 

「はい了解。」

 

私を含めた全員からの返答を確認した中佐は小さく頷くと全員に攻撃開始命令を下した。

 

<<では全機、攻撃開始!>>

 

<<<<<<<<「了解!」>>>>>>>>

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月27日14:40 ドーヴァー海峡上空

 

 

ミーナ中佐の号令と共に、私とエマさんを除いた四人が編隊を組んでネウロイに向かっていく。

接近に気づいたネウロイがビームを撃ち始めるけど、四人ともシールドで防ぐか避けるかして更に接近、ネウロイに取り付いた。

ネウロイの表面を追従するように飛び回りながら攻撃するこの戦法は大型で低速なネウロイ相手によく使われる戦法だ。

いつもならばこの間に坂本少佐が「魔眼」でコアを探すのだけれど、今は扶桑に行っていて居ないのでひたすら攻撃してコアを探し出すしかない。

 

<<さて、呆けてないでこっちも始めるぞ。>>

 

「は、はいっ!」

 

エマさんの声に慌てて私はボーイズ対装甲ライフルを構え、固有魔法を発動させる。

前は全然駄目だった固有魔法と飛行魔法の同時制御は訓練のおかげですっかり問題無くできるようになっていた。

ボーイズの照準器の向こうにゆっくりと飛ぶネウロイの姿が見える。

 

<<一先ずビームセルを優先目標に設定、私が観測手(スポッター)と護衛をやるからリーネは射撃に集中しろ。>>

 

「はい!」

 

<<よし、標的進路に変化なし、風右向きに2m、距離およそ1200m。>>

 

エマさんからの観測情報(エマさんが着けている「ヘッドマウントディスプレイ」にそういう機能が付いている、らしい)に従ってネウロイのボディに4つ見えるビームセル群の1つに狙いを定める。

 

<<…ふむ、どうやら今回のは結構硬いらしい。とりあえず3発いってみようか。>>

 

「了解です。」

 

確かに見てみると、さっきから四人がかりで銃撃しているのに大きなダメージが与えられていない。

私は一旦照準から目を離して大きく息を吸い、吐く。

そして吐ききった状態で息を止めて照準を覗き、立て続けに3発発砲した。

銃口を飛び出した弾丸は思い描いたとおりの弾道を描き、着弾してネウロイの表面を削り取った。

 

<<当たったがやはり浅いか……リーネ、照準が多少甘くなってもいいからとにかく撃ちまくれ。

 ミーナ中佐、そういうわけだから一旦ネウロイから離れてくれ。万一誤射したら洒落にならん。>>

 

<<分かったわ。全機、一時離脱。>>

 

<<<<<<了解。>>>>>>

 

エマさんの進言を聞いたミーナ中佐の指令に従って、ネウロイに張り付いていた四人がネウロイから距離を取った。

それを確認して、私はボーイズを構えなおす。

 

<<目標進路変更上昇中、風変化なし、距離およそ1000m、連射30秒、撃ち方始め!>>

 

エマさんの声を合図に私は速射を始める。

エマさん曰く「本当は重機関銃でも持ってきたほうが早いし楽だし、そうでなくてもボルトアクションライフルのやることじゃない」らしいこの技を、しかし私は練習させられていた。

この前の訓練で標的7つの連続射撃を成功させられたのもこれの成果だ。

立て続けに銃口から吐き出される55口径弾に身を削られているネウロイはこちらに向けてビームを撃ってくるけど、殆どは外れて命中しそうなものはエマさんが代わりに防いでくれた。

 

<<30秒、撃ち方止め!>>

 

エマさんの号令を聞いて、私は射撃を止める。

30秒の間に弾倉(マガジン)2つ分の弾丸を吐き出していて、残弾は今装着している弾倉(マガジン)に残っている2発だけだ。

でもそれだけの弾を使っただけあって、ネウロイの体はかなり大きく抉れていた。

 

<<おお~、やるじゃんリーネ。>>

 

<<いつの間にここまで…>>

 

<<ミーナ、今のうちに!>>

 

<<ええ、総員突撃!>>

 

ミーナ中佐達四人が再び突撃していく。

このまま行けばそうかからずにあのネウロイは撃破されるはずだ。

…でも何故だろう、何か嫌な予感がする。

傍に寄って来ていたエマさんを見ると、彼女もなんともいえない表情をしていた。

 

「……リーネ、構えておけ。 ひょっとしたらまだ何か――」

 

エマさんがそう言った丁度そのときだった。

大型ネウロイの上面から小型ネウロイが4機分離して飛び出した。

形状は鏃に似ていて、動き出したばかりだというのにとても速い。

しかも悪いことにミーナ中佐以外の3人はまだそれの出現に気付いていないようだった。

位置的にミーナ中佐もすぐには対処できそうにない。

つまり、私達がやるしか、ない。

 

「リーネ、右の2つを撃て!!」

 

「はい!!」

 

飛び出した小型ネウロイは旋回しながら母機の大型ネウロイに向かっていた。

ミーナ中佐かペリーヌさんかバルクホルン大尉かハルトマン中尉か、ともかく誰かを攻撃する気に違いない。

 

(そうはさせない…!)

 

ネウロイは2機、残弾は2発、外すことはできない。

ボーイズの照準器の向こうに高速で飛ぶネウロイの姿が見える。

でもそれはあの訓練の的と違ってもうそこにあって、不規則に揺れているわけでもなかった。

速い、でも見える。

小さい、でも訓練の的ほどじゃない。

見えるなら、狙える。

あの大きさなら、当てられる。

――違う、当たる。

照準から目を離さずに息を吐き出して呼吸を止め、意識を集中させる。

張り詰めていた心臓の鼓動がゆっくりになると同時に、時間の流れが遅くなったような感じがした。

まだ撃ってもいない弾丸が目の前のネウロイ2機を撃ち砕く(ヴィジョン)さえ視えた気がする。

 

(ここっ!)

 

一切の疑いも迷いも無く、引き金を引き、次弾を装填し、引き金を引く。

放たれた2発の弾丸はさっき視えたままの軌跡を描き、さっき視えたとおりにネウロイ2機に吸い込まれるように命中し、白い破片へと変える。

雪のように破片が舞い散る光景のせいか、なんだか自分がネウロイを2機も撃墜したという実感が無かった。

 

<<FOX3!>>

 

息を整えて隣を見れば、エマさんがミーナ中佐達に私が狙ったのとは反対から襲い掛かろうとしていた2機をガトリング砲で撃墜していた。

回転する銃身から物凄い勢いで発射された弾丸の群れがネウロイに殺到し、あっという間に文字通り粉砕したのが見えた。

 

敵機撃墜(エネミーダウン)。ふう、やれやれ……おっと、あっちももうケリが着くな。」

 

エマさんの声に従って大型ネウロイを見ると、ちょうどハルトマン中尉の攻撃でコアが露出したところだった。

そしてそれをペリーヌさんが狙い撃ち、大型ネウロイは消滅した。

 

<<大型ネウロイの消滅を確認、エマさん、そっちではどう?>>

 

<<こっちのレーダーにも機影は無い。今回出現したのはこれで全部だろう。>>

 

<<分かりました。戦闘終了、全機帰投します。>>

 

<<<<<<<<了解!>>>>>>>>

 

「了解…」

 

結局、基地に戻るまで私の心は空を飛んでいることを差し引いてもふわふわと不安定な風船のように落ち着かず、現実感がなかった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月27日15:30 501JFWドーヴァー基地 格納庫

 

 

この度目出度く初撃墜を記録したリーネだったが、その様子はいっそ不気味なほど静かだった。

いや、むしろ呆けているとか上の空と形容するべきか。

たぶんあれだけ抜け出せずに苦しんでいた沼からあっさりと抜け出したどころか初戦果まで記録したことに脳の理解が追いついてないんだろう。

私も昔間違えて敵陣の真っ只中に降下した時に――いや、あんな出来の悪いコントみたいな戦闘のことは今はどうでもいい。

 

「よ、っと。」

 

ユニットと兵装を発進促進装置に固定し、ユニットを脱ぐ。

隣を見るとリーネもちょうどユニットを脱いだところだった。

が、やはり何処を見ているのか分からない呆っとした表情をしていた。

 

「…おーい、リーネ? 大丈夫か~?」

 

私が声をかけるとリーネはゆっくりとこっちを向き、殆ど突進するような勢いで抱きついてきた。

 

「うおっ!? おいどうした?」

 

身長差から胸に顔を埋める形でいる彼女の体はよく見ると細かく震えている。

彼女は、声を押し殺して泣いていた。

 

「エマさん……私…やりました……」

 

「ああ。」

 

私は片手を体に回してリーネの体を抱き返し、片手を頭に回して頭を撫でた。

 

「私……ちゃんと戦えましたよ……」

 

「ああ、確りと見ていた。よくやったな。」

 

暫くそうして抱きとめながら頭を撫でていた。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「落ち着いた?」

 

「あう…はい。」

 

数分私に抱きついたままでいたリーネは恥ずかしさからか顔を真っ赤にしていた。

なんだこの可愛い生物。撫でくりまわして良いかな? つーかお持ち帰りして良いかな?

 

「お恥ずかしいところをお見せしました……」

 

「はは、構わん構わん。」

 

顔を俯かせて赤面するリーネの頭を撫でながら私は言った。

 

「お前は数少ない私の直弟子だし、なによりまだ子供(ガキ)なんだからな。

 もーちっと甘えてもいいのさ。」

 

「そう…でしょうか。」

 

「そうさ。

 …さて、いい加減戦闘報告会(デブリーフィング)に行かないと雇い主殿に怒られちゃうな。行こうか。」

 

「はいっ!」

 

元気の良い返事に私は頷き、リーネと共に作戦会議室へと向かった。

 

 




というわけでリーネ編はこれで終了です。
まさか3話もかかるとは作者も思っても見ませんでした。

今回で第0章とでも言うべきアニメ開始前の話は終了として、次回からは一気に1944年7月頭まで時間を飛ばします。
ただしひょっとしたらその前に話を1つ挟むかもしれません。

ところで登場人物の紹介って有った方がいいんですかね…?




~わりとどうでもいい設定資料~

大型航空ネウロイ「ビッグビーン」

1944年4月27日にドーヴァー海峡に出現した航空ネウロイ。
機動力は低く速度も遅いが火力は比較的高く、機体も効率的に撃墜するならフリーガーハマー等の重火器が必要になる程度には頑丈である。
機体上部にフライングデルタを4機格納している。
ビッグビーン、フライングデルタ共に見た目からエマが勝手につけた呼称で、連合軍内では識別コードが付けられているだけである。
モチーフはアメリカで計画された宇宙往復機のベンチャースター。


小型航空ネウロイ「フライングデルタ」

ビッグビーンに搭載されている小型ネウロイ。
護衛機としての機能を持っているらしく、母機とは逆に高速度と高機動力を併せ持つ。
火力はさほど高くないが、接近攻撃の邪魔をしてくるためけっこう厄介。
と言いつつ作中ではリーネとエマにあっさりと撃墜されてしまっているが、遷音速にも入らない程度の速度である程度の距離があり、まして回避運動も行わず直線飛行していてはそんなものであろう。
モチーフはアメリカの試作無人戦闘攻撃機X-45A。
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