World Migration ―箒星の魔女たち―   作:壊人二十面相

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あけましておめでとうございます。そしてお久しぶりです。
待っていてくれた方がどれくらい居るかはさっぱりですが新作投下でございます。

なんでこんなにかかったかは後書きにて。


Task02 黄昏の傭兵

1944年7月1日20:00 エマの部屋

 

「さて、要求どおり持ってきたが……本当にこれでよかったのか?」

 

緊急出撃(スクランブル)戦闘後報告(デブリーフィング)も終わり、夕食も終わった夜半、私は坂本少佐から部屋であるものを受け取った。

 

「もちろん。私の世界じゃ同重量の金より貴重なんだぞ、それ。」

 

「扶桑では高価でこそあれ普通に買えるんだがな。」

 

「私の世界じゃちゃんとした材料と製法で造られた日本酒(・・・)はおっそろしく数が少ないんだよ。

 だから報酬に要求させて貰った。」

 

「そういうものなのか……」

 

そう、私が受け取ったのはリーネの教導任務の報酬として要求していた大瓶入りの日本酒だ。

傭兵としての立場上教導という明確な依頼をタダで請けるわけにもいかず、かといってこの時代の現金で報酬を貰っても後で処分に困るので現物で要求させてもらったというわけだ。

ちなみに私の世界で本物の日本酒やウィスキーといった酒類が極めて高価だというのは本当の話で、中にはたった一瓶で戦車や戦闘機が買えるような代物まである。

 

「それはそれとして、少佐が連れてきたあのお嬢ちゃんは何者なんだい?

 少佐が直々に扶桑まで迎えに行ったくらいだし相当な重要人物だと踏んでいるんだが。」

 

私の問いに、少佐は少し難しい顔をして答えた。

 

「重要、といえば重要ではある。

 あいつは私の、そして全人類の恩人である宮藤一郎博士の娘なんだ。」

 

「宮藤博士…というと現行型のストライカーユニットを発明したというあの宮藤博士か。」

 

「そうだ。私が扶桑へ行った目的のひとつは宮藤をウィッチとしてスカウトすることだったんだ。」

 

「ほう、訓練兵でもない民間人からスカウトされるということは、それほど有望ということかな?」

 

そう問うて見ると、少佐は渋い顔をした。

 

「少なくとも魔力量という点では申し分ないどころか凄まじいと言っていい程だし、固有魔法も治癒魔法という戦場においては非常に重宝するものだ。

 性格も真面目で素直、そして心優しい。だが……」

 

「だが?」

 

「本人が『戦争は嫌だ』と。」

 

なんだその戦争屋の私に真っ向から喧嘩売るようなフレーズは。まともに付き合う前からいきなり印象値が急降下なんだが。

 

「そんな事言ってられるほど戦況は良くないはずなんだがなぁ…」

 

「それはその通りではあるんだが、かといって無理強いするわけにもいかないし、扶桑は島国でネウロイによる直接的な被害が少ないからな。ネウロイとの戦争といっても実感しにくいところはあるだろう。

 それに、宮藤は戦争が無ければ博士が死ぬ事もなかったと思っている。」

 

そこは普通ネウロイを憎むところじゃないのか?

嫌う相手を間違ってる気がするぞ。

 

「とはいえ今回の件でネウロイとの戦いを目の当たりにして何か思うところがあったようでもある。」

 

「可能性はある…か。

 だが少佐、私にはあんたこそ悩んでるように見えるぞ。」

 

「っ!」

 

少佐は私の言葉に身を強張らせた。

当然だ。恩人の忘れ形見を、銃を握った事もない民間人を戦場に放り込もうとしているんだ、少佐の性格からして葛藤がないはずがない。

 

「まあ、丸っきりのド素人を促成で訓練して激戦区に放り込もうってんだ、不安が無いほうがおかしいさ。

 だが、それでも決めるのは本人だ。決めていいのは本人だけだ。」

 

「…………」

 

この世界ではどうか知らないが少なくとも私の感覚では満年齢で15といえば既に大人の部類だ。

であるならばそいつには自分の人生を決める権利と義務が発生する。他人にはアドバイス以上の口出しは不可能だ。

例えそれが生き死にに直結するような決断であったとしても。

少佐は黙り込んでしまったが私は構わず続ける。

 

「まあ、もし彼女がウィッチになるとなったら教導するのはアンタだろう。

 いくらド素人とはいえ実戦に出したときあっさり死ぬようなヌルい訓練をするつもりがあるのか?」

 

「まさか! そんな訳はない。」

 

私が問いかけると少佐は憤慨したように言った。

 

「なら何の問題もあるまいさ。アンタのそれは空が落ちてくるのを心配するようなもんだ。

 それでも死んだら…それが天命だったってことだ。」

 

「……意外だ、お前はそういうものを信じない性質(たち)だと思っていたが。」

 

私の言葉が酷く意外だったらしい少佐はハトが豆鉄砲を食らったような顔をした。

ちなみに私は唯一絶対の神の存在は全く信じてないが、寿命や霊魂の存在は大いに信じている。

というか私の存在そのものがある意味霊魂の存在の証明でもあるんだが…

 

「まあ、昔色々あってね。

 ……っと、話していたら随分時間が経っていたらしい。」

 

「む、本当だ、そろそろ失礼しよう。ではまた明日。」

 

「ああ、また明日。」

 

そう言って部屋を出ようとした少佐だったが、部屋を出る直前でふと立ち止まった。

 

「なあ、もし私が宮藤の訓練を手伝ってほしいと言ったら引き受けてくれるか?」

 

その問いに私は当然即答した。

 

「もちろん依頼とあらば。」

 

私の答えに満足したのか、少佐は振り返ることなく部屋を出て行った。

その後姿を見ながらふと思う。

宮藤博士が言っていたと少佐から聞いたあの言葉。あれを文面通りに解釈すれば、博士は宮藤にウィッチになって戦う事を望んでいたのではないだろうか、と。

そして彼女が博士の言葉を覚えていたとすれば。

そして彼女の性格が伝え聞くそのままだとすれば。

おそらく彼女は――私と肩を並べることになるのだろう。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年7月2日13:38 501JFW基地 屋外演習場

 

昼下がりのブリタニアの空を2人のウィッチが駆ける。

一方は水色の軍服にカールスラント製ストライカーユニットであるBf109を履いたエイラことエイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉。

もう一方はと言えば、その見た目は色々な意味で奇妙だった。

まず、来ている服が軍服ではなくボディスーツの類であること。

しかも扶桑海軍制式の水練着のようなものではなく、頭以外の体全体を覆い尽くすようなものである。

そして、履いているストライカーユニットが何処の国のものとも違う異形であること。

しかもそれは、この世界には実用機としてはMe262(シュヴァルペ)しか存在しない筈の噴流式(ジェット)だった。

極めつけがその飛び方である。

本来機械化航空歩兵というのは兵器としての特性は戦闘機に近い。

ホバリングや垂直離着陸が可能などヘリコプター的な部分もあるし戦闘機より小回りが利くが、その戦闘風景は戦闘機のそれとよく似ている。

しかし、そのウィッチの飛び方は異様だった。

右旋回する姿勢を取りながら左旋回して見せたり、一瞬のうちに針路変更して斜め後ろに向かって飛んでいたりと、正に1秒後の動きも予測できない有様である。

普通のウィッチを鳥に例えるなら、彼のウィッチは蜂か蜻蛉のようだった。

この模擬戦の相手であるエイラのように未来予知の能力でもなければ、きっと早々に見失ってしまうことだろう。

もっとも、軌道が出鱈目過ぎてその予知もあまり役に立っていないのだが。

そんな奇妙なウィッチは、名前をエマノンと言った。

 

「クソー……今日こそは絶対に当ててヤル!」

 

この模擬戦は以下のようなルールで行われていた。

 

・エイラはエマを追いかけ銃撃し、エマは指定の空域内を逃げ回る。

・ペイント弾が一発でもエマに当たればエイラの勝ち。一発も当たらずに5分間逃げ切ればエマの勝ち。

・ハンデとして、エマは850km/h以上出してはいけない(これを破った場合もエイラの勝ち)。

 

早い話が鬼ごっこなわけだが、これまでエマに勝てたのはただ一人、ハルトマンだけだった。

 

「そんな撃ち方じゃ当たるもんも当たらんぞ~」

 

「煩イ!!」

 

必死を通り越してムキになりつつあるエイラとは対称的に、そして機動の激しさに反してエマの様子は至って冷静だ。

 

「そら、右だ、左だ、上だ。」

 

「ウガー!!」

 

それどころかエイラを煽り挑発する余裕まで見せている。

もちろん伊達や酔狂でこんなことをやっているわけではなく、あくまで「戦闘中に平常心を保つための訓練」というのが目的だ。

まあ、エマの趣味というのもないわけではないのだが。

 

「! また消えタ……」

 

後ろを追いかけていた筈のエイラの視界から突然エマの姿が消えた。

だが別に光学迷彩の類を使ったわけではない。所謂「木葉落とし」をやったのである。

木葉落としとは、風に舞う木の葉の如く一瞬上昇した後に急降下することで相手の視界から消えて後ろに回りこむ空戦機動(マニューバ)である。

しかしエマのストライカーXM-38「バーバルス」の性能と本人の力量が合わさった結果、繰り出されたそれは常識外れの速さと鋭さを持っていた。

正に瞬きの間に、エマはエイラの後ろを取っていた。

もちろん既に何度となくこれをやられているエイラは直様後ろを振り返って銃撃するが、エマはこれを前転するような動きでかわし、すれ違うように後ろに回りこむとあろうことかエイラを羽交い絞めに拘束した。

 

「ナっ! コラ、離せ!!」

 

「ハハハハハ、この距離なら撃てんだろう。」

 

拘束されたエイラはどうにか振りほどこうともがくが、エマの拘束の仕方が上手いのか、それともバーバルスの既存のそれを圧倒する呪力による身体強化の賜物か、はたまた着込んでいるオーグメントスーツのパワーアシストによるものか、エイラの体勢は磔にされた神の子(キリスト)のままだった。

実際のところ、エマに対して接近攻撃を仕掛けるのは悪手と言ってよい。

エマは本人が「戦闘において苦手は殆ど無い」と豪語するようにあらゆる状況で高いポテンシャルを発揮する万能型の傭兵だが、中でも得意なのが特に生身の歩兵を相手とした近接戦闘である。

そもそもエマの最大の強みは何かと言えば、それは「勘」だ。

では勘とは何か? それは「取得した情報を無意識下で処理し、それまでの経験も加味して判断した結果を出力する」という脳の機能である。

この「経験」という点において、エマは世界中のどんな軍人・傭兵よりも上だった。

何しろ傭兵であった育ての親に戦場で拾われ、銃声と爆発音を子守唄に育ち、5歳の頃には既に銃を握っていたような人間だ。戦場を、そして戦争を見てきた時間は誰よりも長い。

そうして積み重ねられ続けた経験は、エマの勘を未来予知にも匹敵するほどの鋭さにしていた。それこそ筋肉の僅かな動きから次の動きをほぼ完璧に予測できるほどに。

そんなエマに勝とうと思えば、方法は二つしかない。

離れた位置から回避不可能なレベルの弾幕射撃を行うか、あるいは太陽を背にするなどして目眩ましをした上で一撃離脱を行うかだ。

ハルトマンが勝ちをもぎ取ったのは後者の方法である。もっとも、バルクホルンのような重装備ができるウィッチと高呪力のストライカーの組み合わせでもなければ単機での弾幕射撃など不可能なので事実上一撃離脱以外に方法は無いのだが。

 

さて、そんな2人の模擬戦を地上から眺める人々がいた。

他でもない、501JFWのウィッチたちである。

 

「何度見ても凄い動きね…」

 

「全くだ。あのエイラをあそこまで手玉に取るとはな。」

 

「私は一回勝ってるけど、もう一回勝てるかは怪しいかな~」

 

「巴戦中心の私は尚更厳しいな。うかつに近づけば今のエイラの二の舞だ。」

 

「流石に格闘戦を仕掛けてくるネウロイが居るとは思えませんけれど…」

 

模擬戦をしている二人を見上げながら、各々感想を言い合っている501のウィッチたち。

そんな中、一人同じように空を見上げながら言葉を失っている者が居た。

他でもない、エマが飛ぶところを初めて見た宮藤である。

 

「す…凄い……」

 

扶桑からブリタニアに向かう途中の赤城でも美緒の飛行訓練を見ている宮藤だったが、むしろ見ているからこそわかるその飛び方の異常さにただただ絶句していた。

そして思い至った。その時坂本少佐が言っていた「私よりも遥かに凄い奴」というのがあの人なのだと。

 

「坂本さん、あの人はいったい何者なんですか?」

 

「あいつの名前はエマノン。訳あって私たちストライクウィッチーズに身を寄せている。

 今はこれ以上話せん。」

 

「…どうしてですか?」

 

「あいつの立場は少し複雑でな、今のお前に詳しいことは話せないんだ。」

 

「軍機っていうやつですか。」

 

「まあそんなところだ。

 …お、降りてくるな。」

 

宮藤と美緒が会話している間に模擬戦が終わっていた。

結局エイラはエマの拘束から逃れることはできず、結果は今回もエマの勝利に終わった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年7月2日17:10 501JFW基地 滑走路

 

あの訓練の見学の後、私は海を眺めながら考えていた。

坂本さんが言うには私はウィッチとしての素質があるらしい。

でも、戦争は嫌いだ。私からお父さんを奪った戦争が大嫌いだ。

でも、私には力がある。ネウロイに脅かされる人たちを助ける力が。

私は……どうすればいいんだろう?

 

「おや、こんなところで何事かお悩みかな?」

 

突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはエマさんが居た。

実のところ私はこの人が苦手だ。

特にその目を見てしまうと、背中を冷たい物が走るような錯覚を感じる。

 

「…ま、大方ウィッチになるかならないか迷ってるってとこだろう。」

 

「え…なんでわかったんですか!?」

 

ひょっとして心が読めたりするんだろうか。そう思いつつ訊くと、エマさんは苦笑しながら答えた。

 

「少佐から大体のことは聞いてる。そこへもってきてこんなところで黄昏てれば誰だって想像つくさ。」

 

そう言いながら、エマさんは私の隣に座った。

その後しばらくは私もエマさんも無言でいたが、不意にエマさんが口を開いた。

 

「これは人生の先達としての助言だが、何かをやるか否かで迷ったときは『するべきかどうか』じゃなくて『やりたいかどうか』で選ぶといいぞ。」

 

「…え?」

 

思わずエマさんの顔を見る。

対するエマさんは前を向いたままだ。

 

「私は君よりも長く生きている。その分いろんな場面で選択を強いられ、数え切れないほど後悔もした。

 そうしてわかったことは、やりたいことをやったほうが意外と後悔は少ないってことだ。

 所詮人間に未来を知る術なんぞありはしない。どう転んでも後悔する可能性があるなら、自分で選んだほうがまだ納得できるってもんさ。

 少なくとも、誰かに選ばされた選択肢よりは、間違いなく。」

 

そう言ったエマさんの目は視線の先じゃない何処かを見ているようで、そしてとても悲しげだった。

 

「……話しすぎたな。まあとにかく『汝の為したいように為せ』ってことさ。

 じゃ、また後でな。」

 

そう言い残して去っていくエマさんの背中を、私はただ見つめることしか出来なかった。

 

 




前話投下後、今回を書き始める。
 ↓
ふと思い立って設定その他を整理し、ストーリーの流れを見直す。
 ↓
このままだと流れに無理があることが判明し、途中まで書いてあったTask02全廃棄。同時にプロットも見直し。
 ↓
プライベートで色々あり執筆滞る。
 ↓
何時まで経ってもキリがつかないので書き上がったところまでで一旦ケリをつけて投下←今ここ

ちなみに時系列的にはアニメ版3話半ばまでくらいです。本当は3話終わりまでやる心算ダッタンデスケドネー
しかもガルパン劇場版観てきた所為でエマを主人公に据えたガルパンSSの着想も沸いてきたりでもうどうしたもんだか・・・
次話投下も何時になるか分かりませんが気長に待って頂ければ幸いです。
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