World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
1944年7月5日08:00 ウィッチーズ基地 格納庫
「ぬぁ~……疲れた…………」
一晩の夜間哨戒から帰ってきた私は疲労困憊状態であった。
何しろ昨日の1900時頃から都合13時間飛びっぱなしである。
眠気覚ましのカフェイン錠を途中で服用したがその効果もとっくに切れてその反動の強烈な眠気に襲われている。
だいたい、体力の方はまあ鍛えているからこの程度平気だが、魔法力はもうスッカラカンであるし夜間哨戒は兎にも角にも退屈で堪らない。つまり気疲れするのだ。
暇つぶしにラジオを受信してみたりもしたが深夜に放送している局など限られているしどれもこれも私の興味を惹く番組ではなかった。
……そういえばサーニャは自分の固有魔法と電離層の魔力波反射を利用してラジオ放送をやってるとか言ってたか。
バーバルスなら真似ることも可能だろうし何なら私もやってみるのも面白いかもしれない。
番組名は「エマノンのオールナイト・ブリタニア」とかどうだろうか。
「……アホらし、さっさと寝よ。」
こんなしょうもない方向に思考が走るのは眠気と深夜テンションの所為に違いない。
私はそう結論付けて速やかにベッドにダイブすべく自室へと急いだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月5日13:20 管制室
事は昼飯のすぐ後くらいのことだった。予報では今日は無いはずのネウロイ出現の報を受けて501には出撃命令が下る。
バックアップにミーナ中佐、ペリーヌ、リーネを残して他は迎撃に上がっていった。
なお夜間哨戒明けの私とまだろくに訓練もできていない宮藤は戦力としてカウントされていない。私は一応万一の緊急時に備えてこうして待機してはいるのだが。
しかし昼食後の昼寝を邪魔するとはネウロイめ、許すまじ。
「……コアがない? どういう事?」
<<どういう事も言葉通りだ。図体のわりに妙に弱かったのも気になる。もしかすると――>>
坂本少佐の声を遮るようにレーダー観測班から急報が入る。
大陸側から新たなネウロイ反応が高速で接近中だという。
「どうする、私が出るか?」
「いえエマさん、あなたはまだ魔法力が回復しきってないわ。私、ペリーヌさん、リーネさんで迎撃に出ます。」
「わたしも…!」
「宮藤、お前は私と一緒に待機だ。」
立ち上がりかけた宮藤の肩を掴んで押し留めながら私は宮藤に言い放つ。
「でも!」
「いいか、お前はまだヒヨコにすら成れていない孵化直前の卵だ。
卵にできることは、無い。」
「そんな……」
宮藤は私の言葉に少なからずショックを受けたようだった。
……一応フォローはしておくか。
「此処にいる誰もお前を犬死にさせたくなんかないんだ、私も含めてな。
焦らなくても出撃の機会は回ってくる。それまで自分を高めて待つんだ。」
「……はい。リーネちゃん、気を付けてね。」
「ミーナ中佐もペリーヌさんもいるんだから大丈夫だよ。
じゃあ行ってくるね、芳佳ちゃん。」
私の知らない間にリーネと宮藤は随分と打ち解けていたようだ。重畳重畳。
「それじゃあ何かあったときはエマさんに判断を任せるわ。……お願いね。」
「任されたよ隊長。ミーナ中佐も……まあ中佐に限って滅多なことはないと思うが気を付けてな。」
お互いに敬礼をし、中佐はペリーヌとリーネを連れて管制室を出ていく。
数分後には三人とも空へと飛び立っていった。
基地を目指して飛翔中のネウロイはかなりの高速で、私のバーバルスならともかくドッグファイトは不可能と見られている。故に進路上で待ち構えて迎撃することと相成った。
絶対とは言い切れないが、長距離射撃に長けたリーネもいることだし(鍛えたのは私であるし)、問題なく撃墜できるだろう。
そう考えていたその時、更なる凶報が飛び込んできた。
「何ィ!? 高速型ネウロイがもう一機基地に向かって接近中!?」
まずい、もう基地に残っているのは魔法力の回復しきっていない私とまだ訓練の不十分な宮藤だけだ。
……どっちがマシかと言えば私だなぁ。
「ネウロイはどっちから接近してる?」
「当基地の南からです。」
「分かった、私が迎撃に上がる。
……それと宮藤、銃の撃ち方とシールドの張り方くらいはわかるな?」
「え…あっはい。」
「よろしい。なら銃を持って滑走路の先端で待機しとけ。」
「でも、私……」
「いいか、あんなことを言った直後だし私としても非常に不本意だが、私が飛び立ったら万が一の時この基地とその人員を守れるのは一人残ったお前だけだ。
最早出来る出来ないの次元じゃない、やるしかないんだ。わかるな?」
「……はい!」
そう答えた宮藤の眼は覚悟した人間のそれだった。
……まだヒヨコにすらなってない卵に何て顔させてんだろうな、私は。
「まあ気休めだが、幸いにもお前の資質は防御向きだ。本隊が帰ってくるまでの時間稼ぎくらいは何とかなるだろう。
…じゃあ、行ってくる。」
「はい、エマさんも気を付けて。」
宮藤の言葉に返事代わりに笑みを返すと、私は格納庫に向けて駆け出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月5日13:30 ドーヴァー海峡上空
基地を飛び立った私はレーダーを頼りに件の高速型ネウロイの迎撃に向かう。
あの高速型は確かに速い。推定速力はマッハ1.5程度だった。
おまけに疲労と魔法力の消耗の所為かいまいち調子が悪い。こっちの速度も今全速力を出しているはずなのにマッハ2前後で頭打ちになっていた。
これはミサイルを使い切ってでも速攻で片を付けないと拙いかもしれない。
「
射程圏内に入ってきたネウロイを速やかにロックオンし、HMAAを4連射する。
一度に撃てる最大数を撃ち込んだのは何となく嫌な予感がしたからだ。他意は無い。
経験則から言わせてもらえば、こういう時の「悪い予感」というのは大抵考えているより悪い方向に現実化するものである。
そして、この時もその例に漏れることはなかった。
飛翔していった4発のミサイルが命中するまさにその直前、巡航ミサイルのような形状の中型ネウロイの前半分が分離し、速力を増した。
放ったミサイルは全て取り残された後部に命中してしまった。
まだ距離があったので改めてミサイルを撃ち込もうと構えたが、そこでさらに状況は悪化する。
「げっ! 分離した!?」
分離加速した前半分がさらに細かく分離し、小型ネウロイの群れになってこっちへ飛んで来たのだった。
その様、宛ら多弾頭ミサイルの如し。
慌ててSALGATを構えて弾幕を張ったが2~3機を撃墜出来たのみで残りには脇を通過されてしまった。
直ぐに旋回して追いかけるも、なかなか距離が縮まらない。
「クソ! 思ったより速い!!」
中型から分裂した多弾頭ミサイルのようなネウロイは今出せるバーバルスの全速より速いようだった。
というか、さっきから全く出力が上がらない。
代用燃料の使用に加えて私自身夜間哨戒の疲労と魔法力の消耗が回復していない。起きるべくして起きた事態だった。
このままでは基地に到達されてしまう可能性が高い。
かくなる上は墜落覚悟で機能開放を使うしかないか……
そう考えたその時であった。
センサーが基地の上空に高エネルギー反応を捉えた。
同時に肉眼でも球雷のような発光現象が観測できる。
初めは点にしか見えない大きさだったそれは急激に巨大化し、空間に開く「穴」となった。
そしてその穴から巨大な構造物がその姿を現す。
果たしてそれはとてつもなく巨大な、ウィッチーズ基地とほとんど同じくらいの大きさの空飛ぶ船であった。
中央のメインハルの左右にメインハルより長大な角ばった筆箱のようなサブハルを備えた
翼もなく空力すらも全く無視したその形状はこの世界の常識ではネウロイでもなければおよそ飛ぶはずのない代物である。
何の偶然か、その船はこう名付けられていた。
”
<<やあエマ、待たせたね。>>
「遅い。と言おうと思っていたが今はむしろナイスタイミングだ。」
<<ええ…何事?>>
「そっちに向かってるミサイルみたいな形の飛行物体を全て撃墜してほしい。時間がないから詳しい事情は後で話す。」
<<ミサイル……ああ、これかな。わかった。
アルファ、対空戦闘用意。>>
<<はーい。火器管制システム起動、ターゲット捕捉、
通信に割り込んできた聴きなれた女性の――アルファの声と共に、メインハル上部のVLSハッチが開いていく。
基本的に輸送艦である「魔女の大釜」号は戦闘能力はさほどのものではない。
しかし、こと「迎え撃つ」ことについては下手な護衛艦よりも高い能力を持っている。
開いたVLSの中に納まっているのは対艦ミサイルや戦闘艇などの迎撃に使用される高機能
<<査定終了、目標振り分け完了。射撃用意ヨシ。>>
<<対空戦闘撃ち方始め。>>
<<りょーかい! ファフニル、
アルファの声と共に全30基あるAMM用VLSセルの内3基からファフニルミサイルがリニアランチで一斉に飛び出し、スラスターに点火してネウロイの群れに向かって飛翔していく。
50近い標的に対して3発のミサイルでは足りないように思えるかもしれないが、ネウロイたちは割と密集しているうえにファフニルは
<<3、2、1、
ネウロイの群れに向かって飛翔していたファフニル3発はネウロイたちの鼻先で一斉に炸裂し、超高温の火球となる。
ファフニルの弾頭には範囲制圧用の熱反応炸薬が使用されているのである。
数万度という高温とそれに伴う強烈な衝撃波に晒されたネウロイたちは白い破片になる間もなくしめやかに消滅した。
「
<<え、ええ……総員帰投して。>>
中佐の言葉を受けて囮と戦っていた少佐たちもこちらとは別な巡航ミサイル型の迎撃にあたっていたリーネたちも基地に向かって引き揚げていく。私も戻るとしよう。
……と、その前に。
「ギーク、とりあえず『弁当箱』は島の近くにでも着水させとけ。
流石に基地の真上に陣取ってるのは拙い。」
<<あ、そりゃそうか。……じゃあ南側の滑走路の脇に降りよう。>>
そのギークの声に従うように「魔女の大釜」号はその巨体をウィッチーズ基地の滑走路に沿うようにそっと海に浮かべた。
その様子を見届けた私は今度こそ着陸するために滑走路へと進路をとった。
一方、「魔女の大釜」号の出現を間近で見ていた宮藤とその他基地の人員たちは唖然呆然としていた。
あれ~おかしいね? なかなか(第3話が)終わらないね?
話の進行が遅いですが次くらいには終わるはずなんで許してくださいなんでもしまむら
あっそうだ(唐突)気づいてる人もいるかもしれませんが第2章の各話タイトルはどれも曲名が元ネタです。
~わりとどうでもいい設定資料~
「ウィッチズカルドレン」
ギークが保有する移動ラボ。
旧式の大型貨物宇宙船を改造しており、内部には高度な研究設備と、小規模ではあるがプラント設備を備えている。
船体構造は中央のメインハルの左右に巨大なカーゴハルを備える
動力源としてブラックホール型縮退炉を搭載し抗重力機関を推進機としているため重力下も航行可能で航続距離は理論上無限。
秘匿性を高めるために船体そのものへのステルス化処理に加えてステルス迷彩を搭載し、海中への潜航能力をも持つ。
更には単体での大気圏離脱能力も備えており、原型とは比べ物にならないほど高性能になっている。
基本的に戦闘能力は自己防衛以上のものは持たないが、実験設備の一つとして小型マスドライバーを搭載しており、これを用いて重量物を射出することで攻撃を行うことができる。
その威力は発射する物体にもよるが、その辺の岩石程度の物体でも戦艦の主砲クラスの破壊力は発揮できる。
発明者であるギークの持つ船であるため、
大きさはだいたいブリタニアのウィッチーズ基地と同じくらい。
四角い船体形状から「弁当箱」のコードネームを持つ。