World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
そしてようやっと3話も終わりです。長く苦しい戦いだった……
1944年7月5日14:00 501基地 格納庫前滑走路
501基地の格納庫前の広場には501部隊の面々が勢揃いしていた。
そんなに大人数での出迎えは必要ないとは言ったのだが、それでも中佐が「念のため」と言って聞かなかった。いったい何を警戒してるのやら。
そうこうしていると、ウィッチズカルドレンから小型輸送艇が飛び立ち、広場に降りてくる。
小型とは言っても約30mと501が移動の足に使っているJu52のおよそ1.5倍の全長に加えて機体左右にレーザーカノンを1基ずつ搭載しているそれは十分な威圧感を持っていた。好奇心の強いルッキーニとメカが好きなシャーリーは翼もなく飛んでいる輸送艇に興味津々のようだったが。
そして着陸(と言ってもほんの僅かに浮いているのだが)した輸送艇の側面ハッチから、二人の人影が降りてくる。
一人はひっつめた緑色の髪と垂れ気味で優し気なあずき色の眼が特徴の女性。何故かバーテンダーのような恰好をしている。
彼女がギークのお世話係兼助手兼ウィッチズカルドレンの火器管制官、アルファだ。
そしてもう一人はぼさぼさの長髪にいい加減に伸ばした無精髭、丸眼鏡という絵にかいたようなオタクっぽい長身の男性。こちらはいかにもマッドな雰囲気を漂わせる薄汚れた白衣が特徴的だ。
言わずもがな、彼こそが私の無二の親友にして相棒であるギークことギリアム・グラーニンであった。
ギークは降りてくるなり私に駆け寄ると手を取って上下に激しく振った。
「やあやあエマ! 久しぶりだね! 心配はしてなかったけど。
元気そうで何よりだよ。心配はしてなかったけど。」
「二度も言わんでも心配されてないことくらいわかってる。だがな……」
「ん?」
首を傾げたギークの頭を、私は空いていた左手で思いっきりはたいた。
いい音がしたが残念ながら眼鏡は飛んでいかなかった。ちっ。
「迎えに来るのが遅いわバカタレ。」
「アッハイ、ゴメンナサイ。」
「まあまあ、どうせ言ったって聞かないんだからそのくらいにしといてあげましょうよ。」
「仮にもマスターに対してその言い草はひどくないかいアルファ!?」
「はいはいそう思うんだったら直しましょうね~」
アルファと二人がかりでいじったらギークは心外だとばかりに両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。どうせウソ泣きなのはバレバレ(明らかに口でシクシク言ってるし)なので私たちからは冷ややかな視線が飛ぶだけだが。
「ほら、今世話になってる人らに紹介するから立て。」
「はーい。」
ギークはケロッとした顔でピョコンと立ち上がった。
「コホン……えー皆、このいかにも胡散臭い男が私の無二の親友にして半身たるギークことギリアム・グラーニンだ。……ほれ、アイサツしろ。」
「ドーモお嬢さん方、ギリアム・グラーニンです。親しみを込めてギークと呼んでくれたまへ~」
胡散臭さを前面に押し出したギークの自己紹介に、501の面々の反応は不安げな視線を向けていたり胡散臭そうに見ていたり興味なさげに眺めていたり11人11様だ。
そんな中ミーナ中佐が少なくとも表面上は笑顔で(心なし引きつってる気がするが)歩み出てギークに握手を求めた。
「私が第501統合戦闘航空団隊長兼当基地司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケです。
あまり会う事は無いかと思いますがよろしく、
「おや、そうかな? エマの機体の整備で頻繁に出入りすることになりそうなんだけど。」
「申し訳ありませんが部外者の不用意な立ち入りはご遠慮願いたいので。」
「これは必要なことだし、それにエマが関わったなら僕も関係者だよ?」
表面上は笑顔で握手をしている二人だが会話と眼がまったく友好的でない。そろそろ止めよう。
「ミーナ中佐、ギーク、そういう話はまた後にして、とりあえずはアルファを紹介させてくれないか。」
「そうね、分かったわエマさん。」
「はーい。」
「やれやれ……さて、こっちの緑髪のやつがギークのお世話係兼助手兼その他色々のアルファだ。
アルファ、挨拶を。」
私の声に応えてアルファがみんなの前に歩み出る。こっちはさっきのギークと中佐の会話など意に介せず…というか我関せずとばかりにいつも通りの人のよさそうな笑顔のままだ。よさそうというか実際人が出来てるのだが。
「ご紹介にあずかりました、アルファです。
マスターとエマさん共々しばらくお世話になりますのでよろしくお願いしますね。」
「ちなみに実はアルファはこう見えてアンドロイド――つまり機械人形なんだ。」
「私としてはもう少し厳密に『ガイノイド』と呼んでほしいですね~」
私とアルファの言葉を聞いた501の面々は、一人残らず――ギークとにらめっこ中だったミーナ中佐も含めてアルファを見て固まった。
そしてたっぷり10秒ほど後、揃って同じ言葉を発した。
『えええええええええええええええ!!??』
「機械!? どう見ても人間だよ!?」
「すっごーい!!」
「エマの世界の技術ではこんなのまで作れるのか……」
「嘘だロ……」
「信じられん……」
アビ・インフェルノであった。
まあ、ああは言ったがアルファは元の世界でも見た目はともかくかなり特殊な特異個体ではあるのだが。というか「天災」と言われるギークが傍に置いてるアンドロイドがまともなものの筈が無いのである。どうまともでないかは暫く語られることはないだろうけれども。
「あー、アルファは人間ではないがメンタリティは人間と殆ど変わらないから、その所を踏まえて接してやってくれ。」
その後は主にシャーリーとルッキーニがアルファと親交を深めたいと言い出したのと、ミーナ中佐とギークが今後について話し合わなければならないということでひとまずその場は解散となった。
私はというと、アルファは一人にしても問題ない一方でギークを一人で中佐と話し合わせると話が纏まらない予感があったのでギークと中佐の話し合いに同席することとなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月5日15:00 501基地 ミーティングルーム
ミーナ中佐とギークの話し合いは案の定というべきか中々纏まらなかった。
まあ頑なにギークを基地に立ち入らせることを拒む(どうもギークが男であることが問題らしい)中佐と、私のユニットの維持整備とあわよくばウィッチの研究もしたいギークとではお互い譲らなければ何処まで行っても平行線であろう。正直私も中佐側の立会人であるバルクホルン大尉も辟易していた。
とはいえ、実務面での面倒を考えると私のストライカーの整備はウィッチズカルドレンよりも501基地の格納庫でやった方がいいのは明らかである。
というかそもそも501のウィッチたちのストライカーの面倒を見ているのは男性整備員たちなのだからそこにギークが入ったところでさほどの問題は無いような気がするのだが……
「だーかーら僕ぁ501のウィッチたちを異性として見るつもりはないって言ってるじゃないか。それでもダメなのかい?」
「ですから、私たちは異性との接触を可能な限り控えることを規則としているんです。これに例外を作るわけにはいきませんから。」
ダメだ、完全に話がループに入ってる。
こうなったら奥の手を使うしかないか。あまり使いたくはなかったんだが。
「中佐、こいつの立ち入りがどうあっても認められないのなら私も契約を破棄して出て行かざるを得なくなるのだが。」
「それは……!」
「この先私がここで戦い続けるにはこいつの支援が絶対に必要だ。
それが認められないとなれば戦闘行為の継続が困難と判断して撤収せざるを得ない。」
「…………」
中佐は非常に渋い顔をしている。
正直な話、ここまで信頼関係を気付いてきた中佐にこんな脅しじみたことは私だって主義に反していてやりたくないのだ。
それでもやらざるを得ない。独立した傭兵の辛いところだ。
「何、難しく考えることは無い。立ち入り許可区域を格納庫までにして整備員が一人増えたと思えばいいんだ。
そうすれば他の隊員たちとの接触も最小限になるだろうし、それでももし万一何か間違いがあったときには私が全ての責任を取る。それこそ命を以ってでもな。」
「な……それは!」
「命を以って」という私の言に反応したのは意外にもバルクホルン大尉だった。
私は死なないしギークが501の面々相手に間違いを起こすなど億に一つどころか那由他の彼方まで行ってもあり得ないことなので単に安全を保障する以上の意味はない言葉なのだが。
「…………わかりました。グラーニンさん、あなたの基地への立ち入りを認めます。」
ようやく、私の覚悟が伝わったのか、ミーナ中佐は折れてくれた。
結局ギークの基地立ち入りについては以下のような取り決めとなった。
・ギークの立ち入れる範囲は格納庫まで。外周も不必要に歩き回ることは禁止。
・格納庫内においてもウィッチたちとの接触は控えること。
・エマ以外のユニットには触らない。
・工具や各種消耗品はギークが用意する。これをもって連合軍からのエマへの燃料の供給は終了。食事と住居の提供は今まで通り継続。
「不用意に歩き回ることは禁止」とか「接触は控える」とか微妙に曖昧な表現が気になるが、概ね問題はないだろう。
積極的に接触しそうな501のメンバーに二人ほど心当たりがあるが、そっちの手綱を握るのは私の仕事ではないので気にしないでおくことにする。
「じゃ、僕らはこれで失礼するよ。エマの機体を見なくちゃならないのでね。」
「というわけなので私はしばらく船の方に詰めることになる。
……っと、そういえば連絡が取れないと困るな。ええと……」
私はポーチの中に手を突っ込むと目的のものを引っ張り出した。
それはごく単純な、決まった特定の2台の間だけで通信が可能な糸電話のような無線通信機であった。
「この通信機を中佐に渡しておく。何かあったら連絡してくれ。
使い方は……」
この後、中佐に通信機の使い方を軽く説明してミーティングルームを後にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月5日20:00 ウィッチズカルドレン内 メインラボ
「それにしてもこの『ストライカーユニット』っていうのは面白いね。
魔力を機械を通して増幅するというのは初めて見たよ。この世界特有の現象なのかな?
見たところエンジンは元のゴエティアMk.VIを素材も構造もそのままに小型化しただけのようだし、これで飛ぶというのは正に魔法というほかないね。
それにこの人間戦車とでも言うべき陸戦型ストライカーユニット。こんな簡易な構造で性能は本物の戦車並みとは恐れ入る。うんうん創作意欲が湧いてきたよ~」
徹底的に分解されたバーバルスを前に、周りに大量の空間投影ディスプレイを浮かべたギークが怪しげな笑みを浮かべながらブツブツ呟いている。
新しい研究対象を見つけるとこいつはいつもこうだ。基地の資料室から収集してきた資料を全部渡したのは早計だったかもしれん。
「で、整備はどのくらいで終わりそうだ?」
「んー、見たところ部品の消耗自体は大したことないようだし、単に整備ってだけなら明日の朝までには終わると思う。
ただ細かい調整にはエマの協力と、もっと色々なデータが欲しいから……調整完了までにはざっくり三日ってところかなぁ。」
「まあ、そんなものか。」
「そんなものだね。
これでストライカーユニットの稼働データが手に入ればあんなのやこんなのが作れるように……うふふふふふふふふふふふふふふ」
「いつもながらきもちわるいぞ、お前。」
バッサリとした私のツッコミにもギークは落ち着くことなくむしろもっとヒートアップした。
「勿論だとも! 未知を知り不明を解明することに勝る喜びなんて存在しない!
ああ素晴らしきかな異世界!! 世界は未知で満ち満ちているっっっ!!」
叫んだギークは哄笑を上げた。
ギークのことは半身と呼ぶほど信頼している私だが、こいつの趣味嗜好に関して理解できないことは結構多い。
まあ理解できないなりに付き合っているわけだが。
「はいはい、未知の解明も結構だがまずは目の前の機械の整備を頼むよ。
それがないと困…らなくはないかもしれないが色々と面倒が起きるからな。」
「うんうんわかってるとも。それじゃあさっそく取り掛かろうね。」
ギークが作業台に向き直ると、作業台の上から下から大小様々な無関節式作業用アームが飛び出してきた。
ギークの精神に呼応してうねうね蠢くその様は正に触手の如し。率直に言ってキモい。
とりあえずの所私の出番は当分なさそうなので、艦内の私の私室で寝ることにする。
あー眠い。
ギークは戦闘能力こそほとんどないもののエマとは違った方向性でチート級の性能を持ってます。
ちなみに大雑把なキャラのイメージとしては「オタコンの外見+篠ノ之束の頭脳」みたいな感じです。