World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
まあ一万字くらいは長いうちに入らないよネ!
後無理やりギャグパートをねじ込んだせいでテンションがジェットコースターみたいに乱高下してて安定しません。どうしてこうなった。
私は守ることが出来なかった。
祖国も、たった一人の妹でさえも。
守るべきを守れないウィッチに価値などない。
だから私はこの命を戦いに、ウィッチーズに捧げることに決めた。
「私」はあの時に死んだのだと自分に言い聞かせて。
「私」の身も心も戦いに捧げた。
この身全てはネウロイを打ち滅ぼすためにある。
そう思っていた。
そう信じ込んでいた。
その筈なのに。
お前の存在が私を掻き乱す。
お前を見ていると捨てた筈のものが首を擡げてくる。
お前を見ていると守れなかったものを思い出してしまう。
何故だ、何故お前のような奴が此処に来てしまったのだ。
宮藤……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月15日07:30 501基地 食堂
宮藤が501に加入して一番変わった事と訊かれたら、私はずばり食事の質だと答える。
今までは全員(ハルトマン除く)で持ち回りで用意していたのだが、ウィッチーズの料理の腕前は私を含めてもそもそも料理が出来ないのが3人、一応出来るがあまり得意でないのが3人、それなりに得意なのが3人、下手ではないが任せるのが不安な味覚なのとそもそも厨房への立ち入りが禁止されてるのがそれぞれ1人と平均レベルははっきり言って低かった。
しかもそれなりに得意な3人も夜間哨戒で朝はほとんど寝てるサーニャ、食に興味がないバルクホルン、料理の腕はいいものの時たま大ハズレなブリタニア料理が出てくるリーネと実質美味い食事が期待できるのがリーネ一人という有様だった。
そこへやって来たのが宮藤である。
彼女は兵士としてのスキルは何処へ出しても恥ずかしい4級品だったが、料理のスキルは少なくとも扶桑の家庭料理に関しては1級品であった。
そして、食堂を預かるのがリーネと宮藤でほぼ固定化されたことで食事のクオリティが安定したのである。
「ふぅむ、今日の朝飯はマッシュポテトにサラダにスープに……ナットウ? 白いライスは無いのか?」
「あ、エマさんおはようございます。お米は今在庫が無いそうなんです。」
私の問いに宮藤が申し訳なさげに答える。
ナットウには白いライスが付き物だと思ってたんだが……まあ無いものはしょうがない。
私は自分の分をトレーに載せてテーブルに着き、食べ始める。
ナットウに添えられていた
ライスの代わりにマッシュポテトと一緒にナットウを食ったら美味いかもしれない。
早速試してみる。
……まあ、不味くは無いがやはりというべきかライスには劣る。
というか玉ねぎやグリーンピースが入って単体でも食べられるようになっているマッシュポテトにナットウはあまり合わないな。ナットウ単体で食べたほうが良さそうだ。
私から見れば貴重な天然素材のナットウを堪能しながら食べ進めていると、明らかに食が進んでいない様子のバルクホルンが目に入った。
……彼女は近頃様子がおかしい。具体的には宮藤が入ってきた頃から。
案の定ミーナ中佐とハルトマンに様子がおかしい事を指摘されている。もっとも私でさえ気づいた事にバルクホルンとの付き合いが長い彼女らが気付かない筈も無いのだが。
結局バルクホルンは碌に食わないままトレーを持って出て行ってしまった。
「バルクホルン大尉でなくても、こんな腐った豆なんてとても食べられたものじゃありませんわ。」
「でも納豆は体にいいし、坂本さんも好きなんですよ?」
「そうだぞペリーヌ。
というか発酵食品を『腐った』呼ばわりするのは止せ。それを言い始めたらチーズやヨーグルトは『腐った牛乳』だし、シュールストレミングは『腐ったニシン』だぞ。」
「それでも! この臭いだけは我慢できませんわ!!
というかエマさんはなんで平気なんですの!?」
「まあ、どう弁護しても『悪臭』としか表現しようのない合成品のナットウを食ったことがあるからな。
それと比べればこれのにおいなんて月と鼈、屁と香水だ。」
いくら成分が本物と同じで体に良いとしても、あの合成ナットウだけはもう二度と食う気にはならん。あれはマジで排泄物の如き臭いがするからな。
というかあれと比較するのもおこがましいくらいにこのナットウ美味いんだが。
「あ、それ私がこっちで作ったんです。おばあちゃんが作ったのにはまだ届かないんですけど……」
なんと、ナットウの自作までできるのか。家事スキルが高いと思ってはいたがそれほどだったとは。
「お前もうウィッチ辞めて炊事兵にならんか?」
「ええ!?」
宮藤は思いのほかショックだったようだ。結構真顔で言ったので本気に取られたらしい。
「……冗談だ。」
「ええ……」
4割くらいは。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月15日13:30 501基地 廊下
昼食代わりのお茶会が終わり、特に訓練の予定も無い私は基地内を宛てもなくぶらついていた。
元々古い城を改装したというこの基地は部隊規模に対して非常に広い。正式に契約を結ぶまでは館内の行動を自粛していたこともあって私はこの基地の内部構造を完全には把握しきれていなかった。
そういうわけで、今は多機能端末を使って館内地図の作成中である。
そうして各フロアをスキャンしながらぶらついていると、窓から下の方を見ながら物思いに耽っている様子のバルクホルンに出くわした。
一体何を見ているのかと手近な窓から視線の先を追ってみると、その先には訓練中の宮藤が居た。
繰り返すようだが宮藤が入ってきてからの彼女は何処かおかしい。宮藤を毛嫌いしている(というか少佐に目をかけられていることに嫉妬している)ペリーヌとは別な方向で宮藤が気になるようだ。
何となく過去にあった何かが原因なのだろうとは思っているが、それが何なのか踏み込んで聞くことは流石に出来なかった。
誰にだって触れられたくない過去の一つや二つはある。私にだってある。それを積極的に、少なくとも本人に訊きに行くほど私は無神経ではない。それが必要だと思えばそうすることもあるが。
とはいえエースが不調のままでは私の仕事量が増えることになりかねないのでそれは出来れば避けたい。ジョーカーにエースの仕事は出来んしな。
だが精神的な問題は解決が難しい。
特に部隊長であると同時にバルクホルンと個人的な繋がりもあるミーナ中佐が原因を把握してない筈も無く、また解決の努力をしていない筈も無いのでそれでこの有様となると本格的に私ではどうしようもない可能性が高い。
というか、隊員のメンタルケアはどう考えても
ここは中佐に相談するのがやはり無難か。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月15日13:50 501基地 ミーナの執務室
「そうね、確かに近頃のトゥルーデは様子がおかしいわ。」
「やはり中佐もそう思うか。まあ私が気付くようなことを付き合いの長い中佐が気付かない筈も無いな。
一体原因は何なんだ?」
私の問いに、中佐は「私も本当のところはわからないけれど」と前置きして言った。
「たぶん、トゥルーデは宮藤さんに妹の面影を見ているのだと思う。」
「妹? バルクホルンに妹が居たとは初耳だな。」
「居るのよ。でもカールスラントがネウロイに攻撃されたときに戦闘に巻き込まれて……怪我は大したことなかったけれど意識不明になって今も昏睡状態のままなの。
それからよ、トゥルーデが戦う事に執着するようになったのは。」
「成程、それはまた……」
故郷も妹さえも守れず、それら全てを振り払って戦いの鬼となった筈が妹に似た宮藤に巡り合って心が揺れている、そんなところか。
しかしそういう事となると本格的に私にはどうしようもなさそうだ。
「それにしても意外ね。」
「何が?」
「貴方はもっと他人に興味がない人だと思っていたわ。」
「……まあ、雇われた先の兵士と深く交流を持ち過ぎないようにはしている。
だが部隊のエースが不調ではジョーカーの私の仕事が増えて損をするからな。」
元の世界では昨日の味方が明日も味方とは限らない。深い交流を持ってしまうと、敵になったときにどうしても銃を向けづらくなる。
この世界では少なくとも当面そんなことは無いと分かっているのだが、長年の癖はどうしても抜けないものである。
そして月給制では仕事が増えても報酬はなかなか反映されない。つまり仕事が増えるだけ損なのである。
だからどうにかしたかった訳だが、どうも私にはどうしようもなさそうだ。
「ふふ、そうね。」
中佐が妙に生暖かい笑みを向けてくる。……何か勘違いされているような気がするぞ。
「まあいい、邪魔をした。それじゃ。」
中佐の視線が何となくむず痒かったので、話も終わったことだし部屋を辞去する。
結局中佐の笑みは私が部屋を出るまで消えることはなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月15日20:30 501基地 エマの私室
夕食も風呂も終わり、就寝時間までを私は501基地の自室で過ごしていた。
連合軍においては毎月15日を給料日と定めており、正式に501の臨時隊員となった私も待遇に応じた給料が支払われることとなった。
もっとも、同じ中尉とはいえしっかり記録戦果のあるハルトマンやペリーヌに比べると今回の給料袋は半月分ということもあって大分薄いが、それでも一般の兵士に比べれば圧倒的な高給である。
ちなみに普通の傭兵は報酬から弾薬や装備の維持費を出さねばならないところだが、私の場合はギークに装備の保守や弾薬の生産をしてもらっているのでこの点に関しては極めて安価で済んでいる。元素変換機と自動整備工廠様様と言えよう。
そういうわけで今回の給料だと半分がギークへの支払いに充てられ、残り半分が私の自由になる金、つまり小遣いとなる。金額にして15ポンド。
実際の所、私クラスの傭兵を雇った場合衣食住が提供されていることと長期契約であることを差し引いても本来は月給60ポンド程度では済まない。具体的には桁が1つ足りてない。
連合軍総司令部の連中はきっと気付いていないだろうが、私にとってここでの戦いというのはほとんど趣味のようなものなのである。いずれ帰るからあまり高給もらっても処分に困るというのも無くは無いが。
まあとにかくこの金の使い道である。
他の皆は故郷の家族への仕送りや自分の趣味などに使っているようだが、私には仕送りすべき家族が居ないしこの時代でできる趣味も持ち合わせていない。
となると残るは諸々の嗜好品くらいだろうか。酒も煙草も天然品が圧倒的安価で手に入るわけであるし、ギークに輸送艇を借りれば各地への買い付けも容易だし。
「……うん、それがいいな。」
そうと決めたら明日早速近いうちに休暇を貰えるように中佐に頼みに行こう。
そして私はベッドに寝そべりながら最初に買うのはどんなものがいいか考えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月15日20:30 501基地 シャーリーの私室
エマが自室のベッドの上で給金の使い道に思いを馳せていたのと同じ頃、シャーリーは部屋でP-51用の予備のマーリンエンジンを弄りながら喋っていた。
しかし奇妙なことに部屋にはシャーリー独りきりで、しかもシャーリーの鼻の上にはシンプルなデザインのノンフレームの眼鏡
「ってことはレシプロストライカーでの音速突破の可能性はあるってことか?」
『まあ実験してないからあくまで理論上の話だけれど、十分な呪力の魔導エンジンとそれに耐えられる呪符発生器があれば音速くらいは出せるはずだよ。
もっとも、この時代の技術で作るとなると殆どレース用エンジンみたいな緻密で芸術品染みた奴になるだろうけどね。』
「そっか……でも不可能じゃないってことが分かっただけでもやる気が湧いてくるよ。」
シャーリーの話し相手はギークで、眼鏡に見える物体というのもギークから渡された通信機能付きの多機能端末であった。
この世界においては十分すぎるほどオーバーテクノロジーの産物であるが、ギークやエマから見れば何世代も前の玩具みたいなものなのでホイホイと渡されてしまった。端末に使われている数十年の連続稼働に耐える大容量エネルギーセルだけでも世界がひっくり返るレベルの技術なのだが、貰った本人も渡した本人も全く気にしていない。
『……ねぇねぇ、レシプロストライカーでの音速超え、僕にも手伝わせてもらえないかな?』
「ええ? まあ確かに正直手詰まりになってきた感はあったけど、でもなぁ……」
シャーリーは悩んだ。彼女の気持ちとしては音速突破は自力で成し遂げたいが、マーリンエンジンの調整・改造だけでは不可能なのではないかとも考え始めていた。
実際マーリンエンジンでの音速突破は
『実のところ古い技術でどこまでやれるかっていうのに興味あるんだ。
まあダメだって言うならエマにでもテストパイロット頼んで勝手にやるけど。』
つまり断った場合初の音速超えの栄冠はエマに渡ることになる可能性が大ということである。それが正式に記録に残るかはともかく、半ば脅しに近いと言えよう。
「……それってあたしに選択肢無くないか?」
『ハハハ、そうかもね。で、どう?』
「わかった。でもあくまであたしはマーリンエンジンでの音速超えを目指す。ギークは……」
『音速を超え得る魔導エンジンの開発を目指す、そういうことだね。』
「そういうこと。……あ、でも助言は欲しいかも……ダメかな?」
『ハハハハハ、いいとも。君のことは個人的に気に入ってるからね。』
「あたしの胸が、だろ?」
『ナナナナナナンノコトカナー?』
ギークも所詮男であるので、大きな母性の象徴の魔力には抗えなかったようである。
もちろん、ギークがシャーリーを気に入った理由はそれだけではないのだが。
「ギークお前さ、今日格納庫であたしと話してた時私の胸チラチラ見てただろ。」
『いや見てないよ。』
「嘘つけ絶対見てたぞ。」
『なんで見る必要なんかあるんだい!?』
その後、数十分に渡って「見てた」「見てない」という不毛な論争が続くこととなったのだった。
一応ギークの名誉のために述べておくが、ギークはあくまでエマ一筋であり、また異性同士のあるべき付き合いができる身ではないことをここで明言しておく。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月16日09:00 501基地 格納庫
いつも通りに朝食も終わり、訓練を行う宮藤とリーネと、教官役の坂本少佐とバルクホルン以外は思い思いに過ごしている。
斯く言う私は格納庫でシャーリーとギークが外装が一部取り外されてエンジンが露出した状態のP-51Dを前に設計図らしいものを広げて何やら議論しているのを眺めていた。
機械好きなシャーリーと技術キチのギークは波長が合ったらしく、ああして話し合っている姿をよく見かける。接触禁止令とは何だったのか。「控える」だから禁止はされてないのか?
ウィッチズカルドレンのラボの方でも最近は星型魔導エンジンの図面を引いたりモデルを作ってシミュレートしたりしているところをよく見る。たぶん古い技術での限界への挑戦というのがギークの琴線に触れたのだろう。
でもチタンの加工技術とか高効率ターボチャージャーとかって元の世界のこの時代にあっただろうか? 私たちの時代から見れば古い技術なのは間違いないが。
ちなみにそんな二人の様子を見たミーナ中佐は頭を抱えてため息を吐いていた。
よっぽど「そいつは名前に相応しいヘタレだから心配しなくていい」と伝えようかと思ったが、そんなことを言ってもどうせ気休めにしかならんのでやめておいた。どうせモノもついてないんだけどな。
ともかく、喧々囂々の議論を繰り広げている二人を眺めていると、不意にサイレンが鳴り響いた。
予報では出撃は明日の筈だったが……本当に出現周期が不安定だな。
ともかく、待機中だったメンバーが駆けつけてストライカーを装着し、武装を手に発進していく。
私もギークの手によってバーバルスに合った形に改造された発進促進装置を駆け上がり、ストライカーを履いて武装を装備する。バックパックの弾倉も装着とSALGATへの接続が自動化されて便利になった。
足元の魔法陣を滑走しつつパワーをマキシマムに叩き込むと同時にアフターバーナーも点火して急加速し、一気に速度を稼いで格納庫を出ると同時に離翔する。
その後は速度を落として隊列へと加わった。
「この所ネウロイの出現サイクルにブレが多いな……」
「カールスラント領で動きがあったらしいけれど、詳しくは……」
「カールスラント……!」
少佐と中佐の会話を聞いたバルクホルンが反応していた。やはり自国のことは気になるのだろう。
「隊列変更だ。ペリーヌはバルクホルンの二番機に、宮藤は私の所に入れ。」
宮藤の飛び方はまだふわふわと今一安定性に欠けて危なっかしい。訓練の最中の襲撃とはいえ実戦は時期尚早に思える。
「エマはいつも通りに頼む。」
「了解。」
単機で遊撃しろということだ。私がロッテを組まないのはいつものことである。
「敵発見!」
「エマさん、周囲に他に敵影は?」
「こちらのレーダーには反応なし、今回はあれだけだろう。」
「了解、バルクホルン隊突入。」
「了解。」
「少佐、エマさん、援護を。」
「ラジャー。」
「了解、ついて来い宮藤。」
「はい!」
中佐の命令に従い先行するバルクホルンとペリーヌを追いかける形でネウロイに突撃する。
今回のネウロイはロケットに巨大なプロペラを付けたような風変わりな(といっても大抵のネウロイはこの世界の人類兵器と比べれば風変わりな形状をしているが)形状をしている。
バルクホルン隊に追随して一頻りSALGATで掃射を加えた後は、増速して一撃離脱気味に各所のビームセルを重点的に攻撃していく。
私のSALGATは口径の同じ扶桑製の99式13mm機関銃と比べて高威力ではあるが、このネウロイは中々に堅く今一つダメージが与えられていない。
「ミサイルを使用する、射線に注意してくれ。」
一応警告した上でネウロイから少し距離を取り、ビームセル群の一つにロックオンする。
そして発射コードをコールしながら左手のトリガーを引いた。
「FOX2! FOX2!」
4発の短距離空対空ミサイルが白煙の尾を引きながら飛翔し、着弾してビームセル群の一つを抉り飛ばす。やはり機銃よりミサイルを使うべきか。
私がそう考えている最中にも戦いは続いているが、今日のバルクホルンの戦い方は妙に危なっかしかった。
僚機が見えていないかのように無茶な接近攻撃ばかりを仕掛けている。
「近づきすぎだ、バルクホルン!」
少佐の言葉にも耳を貸さず攻撃を続けるバルクホルン。
そして終に事は起こった。
ネウロイから全周に向けてバラ撒かれたビーム。バルクホルンが避けたビームはその後ろに居たペリーヌを襲い、ペリーヌはそれをシールドで辛うじて受けたがビームの勢いに負けて弾き飛ばされてしまう。
弾き飛ばされた先にはバルクホルンが居た。
弾き飛ばされたペリーヌとぶつかって体勢を崩したバルクホルンを再びビームが襲う。
咄嗟にシールドを張ろうとしたバルクホルンだったが、間に合わず片手のMG42をビームが直撃し、弾薬が誘爆する。
そして、バルクホルンは、墜ちた。
「大尉!」
「バルクホルンさん!」
「チッ……私がカバーに入る。3人は攻撃を続けてくれ。」
「っ!……了解。」
ネウロイへの攻撃を中断して大急ぎで落ちていくバルクホルンを追いかける。
何とか宮藤たちと共に地面に着く前にバルクホルンを拾うことに成功した。
「わたくしの所為だ、どうしよう……」
「ミスを悔いるのは後だ。宮藤、どうだ?」
バルクホルンの軍服の前を開けて傷の状態を確認していた宮藤に訊く。
どうやら誘爆によって飛び散った銃や薬莢の破片が主に胸部に突き刺さっているようだ。まるで散弾銃で撃たれたような傷が見える。
「出血が……! 動かせない、もっと酷くなります。ここで治療するしか……」
「そういえばお前の固有魔法は治癒だったな、護衛するからお前は治療に専念しろ。」
「はい!」
「お願い、大尉を助けて……!」
固有魔法による治療を開始する宮藤を尻目にネウロイと宮藤たちの間に陣取る。
ネウロイは機首(?)を上に向けた状態で静止していた。
……なんだか嫌な予感がする。
そう思った瞬間、ネウロイから大量のビームが放たれた。
しかもそのうちの半分以上はこちらに向けて飛んでくるという嫌なおまけ付きである。
咄嗟にペリーヌも私もシールドを張って盾になるが、如何せん私のシールドは誰かを守るという用途に向いていない。
なにしろ、普通ウィッチのシールドというのは魔法陣そのままの円形をしているが、私の場合は「シールド」という物に対するイメージの問題なのか、臍辺りを基点に全周を覆う球体状になっているのである。
このためビームを防御すると当たり方によっては斜め後ろなどに向かって流れていく場合がある。
自分を守るには最適だが誰かの楯になるには向いていない、ある意味私らしいともいえるシールドだった。
「うっ……」
「今、治しますから!」
宮藤の治癒魔法を受けたバルクホルンが目を覚ましたようだ。こっちはそれどころではないが。
「私に張り付いていてはお前たちも危険だ……離れろ……その力を敵に使え……」
「嫌です。必ず助けます、仲間じゃないですか。」
「やなこった、助けられる友軍を見捨てたとあっちゃ『死神殺し』の名が廃る。」
「敵を倒せ……! 私の命など捨て駒でいいんだ……」
「貴方が生きていれば、私なんかよりもっともっと大勢の人を助けられます。」
「ふざけろ、お前ほどのウィッチを捨て駒にできる余裕が今の人類にあるとでも思ってんのか。」
あまりにも捨て鉢過ぎるバルクホルンの言葉に怒りがこみ上げてくる。
冗談ではない。戦場で兵士が生きることを放棄するほど罪深いことがあるだろうか。
ましてそれが人類の楯たるウィッチならば。
「無理だ、みんなを守るなんて……私は……たった一人でさえ……!
もう行け、私に……構うな……」
「皆を助けるなんて無理かもしれない。でも、だからって傷ついている人を見捨てるなんてできません!」
「皆を救うことは出来ないかもしれない。だが、それは目の前の一人を救わない理由にはならない!」
「一人でも多く守りたい……守りたいんです!!」
「人類の楯たるウィッチなら、目の前の一人を救わんとしてみせろ!!」
私が吼えている間にもネウロイからのビーム攻撃は無情にも続く。
ビームの量が多すぎて防ぐのに手いっぱいで反撃も儘ならない。
「くぅ……! クソ、こっちばっかり狙いやがって……!」
「早く……もうあまりもたないの……! きゃあ!」
遂にペリーヌが力尽きて弾き飛ばされた。最早バルクホルン達の楯になれるのは私しかいない。
と、不意にビームの雨が止んだ。
何事かと思ってネウロイの方に目を向けると、プロペラ先端の3基のポッドから伸びたビームが収束し、今までより強力なビームとなって飛んでくるのが見えた。
ヤバい、あれ受けたらシールドが耐え切れんかもしれん。
とはいえ避けるという選択肢はあり得ない。避ければビームは後ろのバルクホルンと宮藤を直撃し、跡形も無く消し飛ばしてしまうだろう。
仕方なくなるべく受ける圧力が小さくなるように位置を調整してシールドで受けた。
「ぐっ……くぅ……」
上手いこと跳弾するように被弾角度を調整したが、それでもビーム自体の威力が高くシールドが悲鳴を上げている。
「くっ……おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
一瞬弱気になりかけた心を奮い立たせ、咆哮と共に気合を入れ直す。
魔法力とは精神の力、気の持ちようで強くも弱くもなる。故に私は「シールドが破れることは絶対にない」と自分の心に信じ込ませた。
そして、なんとか危ういところでビームに耐えきったのだった。
気付くと、治療は終わってバルクホルンは復活していた。
それと入れ替わるように治療で魔法力をほぼ使い果たしたらしい宮藤が倒れ込んでいたが、まあ命に別状はないだろう。
「行くのか。」
「ああ、今度こそ守ってみせる。」
いい顔をしている。まるで眼に炎が宿ったようだ。
で、あれば傭兵の私がのんびりしている訳にはいかない。
少し……本気を出すとしよう。
「分かった、ならば私が道を作ろう。」
「了解した。……すまない。」
「ま、これが仕事だからな。……行くぞ!」
「ああ!」
互いに頷き、私とバルクホルンは同時にネウロイ目掛けて全速力で突撃を開始する。
無論私の方が速いので私が先行する形だ。
徐々に大きくなってくるネウロイを睨みながら、私は「魔法の呪文」を唱えた。
「2番封印解除実行。コード『CRY-MAX』。」
<<解除コード認証。モード『CRY-MAX』起動。>>
「魔法の呪文」にバーバルスが応え、外観は変わらないが兵装制御システムが専用のものに切り替わる。
バーバルスには4つの封印機能がある。今発動したのはその内の2番、対集団殲滅モード「CRY-MAX」である。
ミサイルの同時発射数と同時ロックオン数の制限を撤廃するこのモードは本来多数の敵と戦う事を目的としたものだが、純粋な火力増強としても効果があった。
但しCPUをオーバークロックさせているため120秒の制限時間があるが。
私は全速力で突っ込みながら見える全てのビームセルにロックオンし、ミサイルを全力でバラ撒く。
普段より大幅に増量された数十発のミサイルは、各所のビームセルに殺到し根こそぎ抉り飛ばした。ダメージが大きいのか直ぐには再生する様子もない。
抉り飛ばした胴体部のビームセルの下に赤く光るコアが見えていたが、陽動も兼ねて攻撃は続行する。
一度ネウロイとすれ違った後AMBACで急旋回し、機体反対側とプロペラ先端のビームセルにもミサイルをお見舞いする。
こちらも白煙を引く誘導弾の群れが赤いセルを食い尽くし、後にはあちらこちらを齧られた黒い人参擬きが残った。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
そして最後に機関銃2丁を携えたバルクホルンが止めを刺し、終にネウロイは砕け散った。
戦いは終わった。
……あ、バルクホルンが中佐にビンタされた。まああれだけ無茶をして挙句に死にかけたとあっては致し方あるまい。
遠くて何を言ってるのかはよく聞こえないが、たぶん心配させやがってコノヤロウ的なことを言われているのだろう。たぶん。
だがああして心配してくれる「家族」が居るというのは、少しだけ、ほんの少しだけ羨ましい。
「戦闘終了と判断。エマノン、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
1944年7月16日15:00 501基地 医務室
あの後自力で基地まで戻ったバルクホルンだったが、宮藤の治癒魔法で治療されたとはいえ重傷を負ったということで医務室に連れて行かれて今日は一日其処で過ごすことになった。
もっとも、宮藤の治癒魔法が強力だったために傷は僅かな跡を残してほぼ完治しているのだが。
私が医務室を訪れたとき、バルクホルンはベッドの上で退屈そうにしていた。
「よう、退屈そうだな。」
「ああお前か。
全く……ミーナは大袈裟なんだ。もうすっかり傷は治っているというのに……」
「あれだけ心配かけたのだからその報いだ、バカめ。」
「分かっている、今日は一日大人しくしておくさ。
……で、何か用だったか?」
「ああ、うん、まあ、敢えてこうして言いに来るほどの事でもないと言えばないんだが、一応これは言っておかなければ気が済まなかったんでな。」
バルクホルンは不思議そうに首を傾げている。実際敢えて言うほどの事ではないのだが、これだけははっきり言っておきたかった。
私は額を突き合わすほどの距離まで顔を近づけ、バルクホルンの眼をじっと見据えながら言った。
「お前は軍人でエースだ。軍人に命を捨てる自由は無い。特にエースには、だ。
命を好きに捨てられるのは傭兵の特権なんだ。今度命を捨てるような真似をしたら私がブッ殺す。いいな?」
「あ、ああ……」
よし、言いたいことは言ってスッキリした。これで今日もよく眠れる。
……ところでなんでバルクホルンは顔を真っ赤にしとるんだ?
「それじゃお大事に~」
そう言って部屋を出ようとした時点でもバルクホルンは固まっていた。
…………どうした?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
私は本当に死にかけ、そして「私」は生き返った。
私は戦う。
感情のない戦闘機械だった私はもう居ない。
もう宮藤を見ても悪い意味で心が揺れ動くことも無くなった。
全ては元通りになった。
その筈だったのに。
お前の存在が心を掻き乱す。
お前の顔を見ると胸が高鳴る。
一体何故なのだ
エマ……!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
この後、バルクホルンの精神が
なんか説教臭くなったかなぁと反省。でもあのシーンあのセリフは絶対書きたかった。お兄さん許して(懇願)
あと私はホモではありません。バルクホルンもレズではなく単なる気の迷いです。これだけは真実を伝えたかった(真顔)