World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
目を覚ましたら、知らない天井だった。
この目覚め方も最早何度目かわからないくらいだ。
最後の記憶は確か時空間断層に機体もろとも吸い込まれたところだから、大方「また」異世界にでも飛ばされたのだろう。
しかし
と、思考の海に沈んでいたら、部屋から女性が一人出て行った。
服装からするに
とするとここは軍事施設、先ほどの女性は上官か誰かに私の目覚めを報告に行ったのだろう。
……ドアの外にも人の気配は無し、怪我人とはいえ見張りの一人もなしとは少々不用心ではなかろうか。
ともあれ、やってくるのが話の通じる相手だといいのだが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ベッドの上に座っている推定ウィッチを前に、美緒とミーナは珍しく緊張していた。
目の前にいるのは恐らく自分達と同じくらいの年頃の女性。
身長170前後、体格はやや細め、しかし鍛えられていることは見て取れる。
人種はよくわからないが少なくとも白人であることは間違いない。
顔つきは精悍で、白みがかった銀、あるいは銀色がかった白の短髪が目を惹く。
しかし同時に、夜空から月と星を取り去ったような、まさに闇そのものを固めたかのような漆黒の瞳がえも言われぬ威圧感と不気味さを醸し出してもいた。
そして一見自然体でありながら全く隙のない佇まい。
纏うその空気は、数多の死線をくぐり抜けた古参兵や武術の達人と呼ばれるような人々のそれと同じだった。
「扶桑皇国海軍、坂本美緒少佐とカールスラント空軍、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、か。
ではこちらも名乗っておくとしよう。
PMC『ミグランツ・ウッド』代表、エマノンだ。
苗字はないからエマと呼んでくれ。」
「…PMCとはなんだ?」
聞きなれない単語に思わず美緒は聞き返す。
「PMCってのは民間軍事企業の略で傭兵の寄り合い所帯みたいなもんさ。
それはそれとして私の愛機が何処にあるか知らないか?」
「……愛機って?」
「ああ、アレなら格納庫に運び込まれてるはずだ。
見たところ無事なようだったぞ。」
「そうか、そりゃ良かった。」
自分の愛機の無事が確認でき、エマは安心した様子を見せる。
が、美緒とエマの認識のあいだに大きなズレがあることに、二人ともまだ気づいていなかった。
「じゃあ早速だがその格納庫に案内してもらえないか?
相棒の無事をこの目で確認出来んことにはおちおち寝てもいられない。」
エマの言葉にミーナは少し申し訳なさそうに返す。
「申し訳ないけれど、身元不明の部外者であるあなたを出歩かせるのは…」
「いいじゃないか、ミーナ。」
「美緒!」
「私たちが連れて歩くならおかしな真似は出来まいし、何かあっても対処は可能だろう?
なんならバルクホルンも呼べばいい。」
「たしかにトゥルーデなら余程の事がない限り押さえ込めるでしょうけど…」
「あー、その辺の事情はお察しするし納得もしてるから私は一向に構わんぞ?
正直営倉や独房に入れられてない事にびっくりなくらいだし。」
結局エマは美緒、ミーナとこの後連れてこられたトゥルーデことバルクホルンの3人に囲まれて、バルクホルンにはかなり強い警戒心を向けられながら半ば連行されるような形で格納庫へと向かった。
ちなみにバルクホルンに敵意寸前の警戒心をぶつけられていたエマだったが、終始医務室での会話の時のままの悠然とした態度を崩すことはなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で、私の愛機は何処だ?」
「何処って…目の前にあるだろう?」
「ハッハッハ、ご冗談を。
私の愛機は『戦闘機』だぜ?
私の目の前には愛機とよく似た形のヘンチクリンな機械しかないじゃないか。」
そこにある機械は
パシフィックフレーム(※空戦用の強化外骨格)の脚部パーツにどこか似ている気がする。
「なんだ、お前の愛機というのは『ストライカーユニット』の事ではなかったのか?
私が見つけたときお前が履いていたからてっきりお前もウィッチだと思ったんだが。」
つーかお前『も』ってひょっとしてアンタらも「
「……色々聞きたいがとりあえず一つ、ストライカーユニットってなんだ?」
「ウィッチの魔法力を増幅し、飛行するための機械だが…本当にお前はどこから来たんだ?」
まほうりょく…またファンタジックな世界か……
女性の兵士かパイロットの俗称だと思ってたがどうやらマジモノの魔女らしい。
「少なくとも此処じゃない何処か、かな。
ともかく、私の身の上話をしといたほうがいいだろうし、色々と訊きたいことも出来た。
割と長くなるだろうし相当突飛な話になると思うが、少し話をしたい。構わないか?」
次が長くなるのでとりあえずここでカット。
~わりとどうでもいい設定資料~
ミグランツ・ウッド
エマノンが代表を務めるPMC(民間軍事会社)。
メカニックやオペレータなどの後方支援要員を含めても歩兵一個小隊に満たない小規模なPMCだが、そのどれもが大企業でその部門の長を務めてもおかしくないほどの実力を持つ、まさに一騎当千の精鋭部隊である。
ギルド登録の情報ではギルド本部管理の貸オフィスの一角が本社ということになっているが、実質的な本社はエマノンが所有する全領域対応艦「ホーヴヴァルプニル」にある。