World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
すごく…長いです。
「さて、一体何から話したものかな……」
先の件の後、私が連れてこられたのは小さな机と4脚の椅子があるだけの狭い部屋だった。
どこからどう見ても取調室である。別に邪魔が入らないならどこでも構わないが。
ちなみに部屋の中にいる面子は医務室から変わらず、私ことエマ、坂本少佐、ヴィルケ中佐、バルクホルン大尉の四人だ。
「まずは貴方がどこから来たかを話してもらえるかしら。」
「おお、いきなり一番胡散臭い話になりそうな所をチョイスしてきたな。
その前に…ここは何処で今は何歴の何年何月何日か教えてもらえるかね?」
「…? ここはブリタニア、今は西暦1944年4月1日よ。それがどうかした?」
「…そうか。
私はな、西暦2840年4月1日の惑星ペグマタイトからここに来た。」
「は?」
「な?」
「え?」
はい、三人とも見事に硬直しております。
「……ふざけるな! 真面目に答えろ!!」
お、大尉が一番復帰が早かったか。
「ま、そう思うわな。でも私は何一つ嘘は言ってない。
だいたい初めに言っただろ? 『胡散臭い話になる』って。」
大尉の怒鳴り声にあとの二人も正気に戻ったらしく、中佐が訝しむような目を向けながら訊いてきた。
「じゃあ貴方はその…宇宙人……なの?」
「いや、私はれっきとした
ついでに言うと、多分だけど未来人という表現も的確じゃない。
ちょっと世界地図を見せてもらえないかい?」
「わかった、持ってこよう。」
少佐が席を立ち、しばらくして丸めた大判の紙を持って戻ってきた。
机の上に広げられたそれに描かれていたのは、私の知っているそれとよく似ていながらも全く違う国名が書かれた地球の地図だった。
ちなみに先程から会話で使っている、そして私の世界での標準語と同じ「英語」で書かれている。
「ブリタニア、ガリア、カールスラント、フソウ、オラーシャ、リベリオン…やっぱりな。」
「何かわかったか?」
尋ねてきた少佐に私は頷きながら答える。
「ああ、確信が持てた。
ここは私の知っている世界ではない『異世界』だということがね。」
「異世界…」
「なぜそう言い切れる?」
相変わらず怪しむような視線を向けてくる大尉に私は答えた。
「まず一つ目、『魔法力』とやらが存在するということ。
私の知り得る限りあの世界に魔法のように発達した科学はあっても科学のように体系づけられた魔法はない、というかそもそも魔法の存在そのものが単なるオカルトとして認知されている。
そして二つ目、地形が私の知る地球とほぼ同じだということ。
こんな事は惑星のサイズ、組成、生まれた瞬間の状況から歩んできた歴史まで同じでなければありえない事で、故に同じ世界の中にここまで姿の似た惑星が生まれる確率はほぼゼロと言っていい。
だが、ややこしい話になるから細かい説明は省くが、平行世界であれば因果律の出入りによって双子のように似通った惑星が出来上がることは十分にあり得る。
最後に三つ目、地形も年号も同じなのに私の知る世界地図と書かれている国名がまるっきり違う。
私も歴史に詳しいわけではないが、それでも地球の地図とかつて存在した主要な国の名前くらいは覚えている。
にも関わらずそこには全く違う国名が書かれている。
以上三つの理由から私はここを『過去の地球』ではなく『異世界』だと判断する、以上。」
ふう、喋った喋った。
しかし話の内容は半分も理解されてないだろうな。
たっぷり数十秒の沈黙、そして最初に口を開いたのは隊長である中佐殿だった。
「……分かりました。エマノンさん、貴方の話、信じるわ。」
「お、ホントか。」
信じてもらえるとは全く思ってなかった。
異世界の存在を知らない人らにとってははっきり言って荒唐無稽にも程がある話だし。
「正気かミーナ!?」
「もちろんよ、トゥルーデ。
彼女の話は理解は出来なくとも論理に基づいているのが感じ取れたし、何より嘘をついている様子も妄想にとりつかれている様子もなかったわ。
それに貴方も見たでしょう? あのストライカーを。
あれは間違いなく私たちが使っているものよりずっと進んだ技術で作られているわ。」
「確かに、技術にさほど詳しくない私でさえアレと、アレと一緒に回収した恐らく武装であろうモノには『未来』を感じたな。」
少佐殿からの援護射撃も加わって状況は私に有利に傾き始めたようだ。
ところで『武装であろうモノ』って何のことだろうか?
さっきのハンガーにはなかった気がするが…
「……わかった、ミーナと少佐がそこまで言うなら、私ももう何も言わない。」
「ということでエマノンさんへの『お話』はこれでお仕舞い。
なんだけれど…良ければ貴方が何者で何処からどうやって来たのか、詳しく教えてもらえないかしら?」
「別に構わないよ。」
という訳で、私は中佐たち三人にここに来るまでのあらましを話すことにした。
「まず私についてからいこうか。
名前はエマノン、苗字は無い。出身は地球の…何処だったかな、国は覚えてない。
職業は傭兵。
「どうして苗字が無い?」
「私も記憶がないくらいの頃の話なんだが、私は戦場に取り残されてたところを私と同じく傭兵だった育ての親に拾われたらしい。
名前はその人が付けてくれたもので、呼び合う上では名前さえあれば困らないから苗字がないのさ。」
「……すまない。」
質問した大尉が申し訳なさそうにしている。
私は全く気にしてない――そもそも顔も知らん生みの親に愛着もなにもありはしない――から別に謝ってもらう必要はないんだが。
「まー別に珍しい話でもないし、謝るこたぁないよ。」
「戦場で傭兵に拾われるのが珍しくないって…一体どんな世界だったの……?」
今度は中佐からだ。
「どんな、か。そうだな……
延々と続く大小様々な戦争紛争の果てに正規軍が縮小して傭兵がその穴埋めをするようになった世界、かな。」
「それは、その…人間同士で?」
「そうだけど?
あ、宇宙進出が本格化してからは
「宇宙進出…そういえばさっき惑星ペグなんとかから来たと言っていたな。」
「惑星ペグマタイト、な。地球と同じくらいの星に莫大というのも生ぬるいほどの量の地下資源が眠ってることが分かって、今最もアツいホットスポットの一つになってる。」
「『アツい』? どう言う意味だ?」
他二人は私の言葉に表情を少し曇らせているが、少佐殿はよく意味がわからなかったらしい。
「傭兵たちの稼ぎ場になってるってことさ。人の欲望ってのは底なしだからねぇ。
ま、そのおかげで私ら傭兵は飯を食えるわけだけど。」
「……嫌な話だな。」
少佐殿は苦い顔をしながら呟いた。
「まあ、否定はしないよ。そもそもPMCなんてものも、傭兵中心の戦争経済がなければあれほど発展することはなかっただろうし。」
「そういえばさっきも言っていた『PMC』というのはなんなんだ?
あ、いや、傭兵の集まりだというのはなんとなくわかるんだが…」
「民間軍事会社(Private Military Company)の略で傭兵専門の人材派遣業者の事だな。
依頼に基づいて所属してる傭兵を派遣するのが主な仕事だ。
また時には会社一つが一個の部隊のように連携して事に当たる場合もある。
規模はピンキリだが、デカい所になると実戦要員の傭兵だけでも数個軍集団くらいの数が居るところもある。」
「まさに企業化された軍隊だな…
だが民間企業がそれほどの戦力を持つことに問題はないのか?」
「さっきもちょっと言ったが国家が持つ正規軍の規模が軒並み縮小して、戦力の過半を傭兵が担うようになったからね。
傭兵が減って困るのは国家の方だから誰も表立って文句は言えんよ。
それに傭兵が傭兵として生きている限り無闇に国家と人民に牙を向けることはないさ。」
「……何故そこまで言い切れるの?」
「…あのな、世間じゃ『戦争屋』だのなんだのと言われてる私らだけどな、一応商人の端くれなんだ。
商売する場所を自分から荒らす商人は居ないよ。
それに弾薬燃料だってタダじゃないしね。」
契約を守り、報酬を支払い、無闇に刺激しなければ傭兵というのは基本的に大人しいものだ。
『我らは、我らの自由と利益のために。』
ワタリガラスとともにギルドの紋章に書かれたこの一文はギルドの理念であり、傭兵としての基本的な心構えでもある。
逆に言えば『自分たちの自由と利益を犯す者には容赦しない』ということでもあるが。
ちなみに過去に依頼に依らずある国に侵攻したスカタンなPMCは、ギルド首脳部が保有する特務部隊によって1時間もたずに殲滅されたことをお知らせしておく。
「…いいわ、貴方のことは分かりました。
次にあのストライカーユニットについて教えてもらえるかしら?」
「それなんだが……私の記憶にある限りここに来る前に乗っていたのはアレとよく似た形の戦闘機なんだよ。
だからアレそのものについては詳しく話せんのだわ。」
「どういうことだ…?」
「さあ? これまで何度も世界間転移は経験してるけど、持ち物が変異したなんてことは初めてだからねぇ。
で、戦闘機の方のスペックでよければ話せるけど、どうする?」
「わかったわ、お願い。」
「OKだ。型式番号XM-38、機体名は『バーバルス』、某国の次期主力戦闘機として開発が進められていた機体だ。」
「進められて『いた』ということは…」
少佐のつぶやきに私は頷きながら答える。
「ああ、繰り返し飛行試験が行われたが、あまりの高性能に乗りこなせるパイロットが殆ど居なくってな。
おまけに量産化するにも一機あたりの値段が高すぎるってんで途中で開発が中止になった。
で、その時に作られた試作機の一つをちょっとした伝手で買い取って私が使ってた。」
「乗りこなせるパイロットが殆ど居ない性能とは…いったいどれほどなんだ?」
「んー、理解できるかわからんから機動関連のパラメータだけ挙げると、最高速度がマッハ3、航続距離がおよそ2500km、限界高度はおよそ22000mってところだ。」
ちなみに各性能は最低数値で言っている。
まず最高速度のマッハ3は目一杯まで兵装と燃料を積んで、かつアフターバーナーを使用していない時のスピードだ。
追加兵装を一切搭載していなければアフターバーナーの使用で最大マッハ4程度まで出せる。
航続距離の2500kmは常に全速力を出し続けた時の距離で、燃料消費と飛行距離のバランスが最も良くなる巡航速度で飛び続ければこの1.5倍はかたい。
限界高度だけは限りなく真実に近いが、これも実は機体に搭載されている燃焼補助剤を使えばもう少し上まで飛べる。
「現代の戦闘機とは文字通り桁が違うわね…」
「だが数値の大きさはともかく、聞いた限りでは使いにくい理由がよくわからないのだが。」
「まあそりゃそうだ、速度性能その他はあんまり問題じゃないからね。
コイツの問題点は『舵の反応が良すぎる上に旋回性が異常に高い』ってことだ。」
「どういうことだ?」
大尉始め三人ともまだ理解できてないらしい。
まあ戦闘機乗りじゃないみたいだから仕方ないのかもしれないが。
「バーバルスの想定戦闘速度はマッハ1、そのくせして旋回半径がレシプロ機並みなんだ。
そんなスピードで最小半径の旋回なんかしてみろ、ブラックアウトどころか体が物理的に破壊される。
しかも操縦桿はありえないくらい敏感で、僅かに傾けただけでも機体は大きく動く。
行き過ぎた機動性追求のダブルコンボで実機制作前のシミュレーション…コンピュータ上に実物と同じものを再現して行う試験があるんだが、それの段階でテストパイロットが百回は死んでる。」
「…そんな欠陥機にお前は乗ってたのか。」
今度は三人から揃って呆れの視線をもらった。
「いやいや、流石に私が乗ってるのは開発中止後に開発者の手で改修が加えられた改良型だよ。
それでも乗りこなせるのは世界に1ダースもいないだろうけどさ。」
実際あれほど速くてよく動く有人戦闘機を私は他に知らない。
知り合いの空戦専門の傭兵連中からは「動きがキモい」だの「物理法則無視すんな」だの「あんなの飛行機じゃないわ!」だの散々言われた挙句に「あんなのに乗れるお前は人間じゃねえ」と人外扱いされたが。
失礼な、ちょっと体のつくりが戦いに特化してるだけでこちとら歴とした人間だっての。
「そういえばアレの搭載武装は一体どうなっているんだ?
見つけた時に持っていたのは見たことのないものばかりだったが。」
「武装か、機体の方には30mm光学実体複合型ガトリング式機関砲が固定装備されてて、あとはウェポンベイに空対空ミサイルの短距離用と中距離用、それから友人にテストを頼まれた対地対空両用レールガンを搭載してたと記憶してる。」
「……ガトリング砲くらいしか聞いたことがないわ。」
「そのガトリング砲も全く聞いたことのない形式だがな。
まず『ミサイル』とはなんだ?」
「ミサイルってのは簡単に言えば誘導能力を持ったロケット弾だな。
捕捉した標的を自動追尾してくれる現代の空戦の必需品だ。」
「自動で標的に命中するロケット弾…素晴らしいな。」
敵に向かって飛翔・命中するミサイルを想像しているのか、大尉が感動したような声を上げた。
「まあ実際には誘導装置と標的のあいだでイタチごっこが続いて、今じゃ命中率は平均6割半くらいだけどね。
続いてレールガンだが…これまた説明しづらいな。」
「そんなに特殊な兵器なの?」
「いや、理屈は簡単だ…電磁力って分かる?」
「金属線に電流を流すと磁力が発生するというあれか?」
「知ってるなら話は早い。
レールガンというのはその電磁力で金属の砲弾を加速して射出する電磁投射砲の一種だ。
バーバルスが搭載しているものは、口径88mm、重量約20kgの砲弾を初速マッハ20で射出できる。
まあまだ試作段階だから100発も撃ったら加速用レールがおシャカになるけど。」
「よくもまあそんなものを戦闘機に載せようと思ったものだ。」
「私の世界で世界初の実用ジェット戦闘機と名高いMe262には50mm砲を搭載したバリエーションがあったと聞くから然程おかしい発想でもないと思うけどねぇ。」
とはいえバーバルス用のものはレールガンユニット全体で重量が6トン程ある(開発者曰くキャパシタが結構重いらしい)ため、バーバルス以外では重攻撃機くらいにしか積めないようなブツだ。
汎用レールガンの搭載は設計当初からの目玉だったらしいが、ファイター寄りのマルチロール機にこんなものを積もうと思いついた奴は紛う事無きアホである。
つまり
ちなみにレールガン自体は割と古くから兵器として運用されていた。
水上艦の搭載砲に始まり、航宙艦の搭載砲を経て小型化が進み、最近では戦車砲も殆どがレールガンになった。
あとは航空要塞への搭載例も幾つかあった(と言っても航空要塞自体開発・建造にやたらとコストがかかるためそもそも種類が少ないのだが)が、流石に全長でさえ10mあるかどうかの戦闘機に積むという発想はあっても誰も実現できなかった。
「少なくともこちらの常識では戦闘機に大口径砲は普通積まないわ…」
「こっちの常識でも普通は積まんよ。
それはそうと、こっちからも幾つかいいかい?」
私が訊ねると中佐が首肯しながら答えた。
「ええ、何かしら?」
「まず一つ目、私のベルトキットを知らんか?」
実はさっき目が覚めた時からずっと気になっていた。
基本的に服を脱ぐ時と寝る時以外は常に身につけているベルトキットが今腰にないのだ。
ホルスターに入ったハンドガンとナイフとポーチとサバイバルキット。
もはや体の一部と化しているそれが無いのでどうにも落ち着かなかった。
「ああ、それなら私が預かっている。あとで返そう。」
返答は少佐から返ってきた。
割とあっさり返すと言ってくれた辺りあれが私にとって何なのかをなんとなくでも感じ取ってくれているのかもしれない。
「ありがとう、普段から身につけている物だから無いとどうにも落ち着かなくてね。
さて二つ目なんだが、この世界の今を教えて欲しい。」
「わかったわ。」
この質問には中佐が答えてくれた。
遥か昔から人類に仇なす怪異がいたこと。
それと戦う魔法力を持った少女、「ウィッチ」が居たこと。
5年前、今までのものより遥かに強大な怪異が出現し、「ネウロイ」と名付けられたこと。
人類という種の危機に各国政府が手を組み、連合軍を結成したこと。
ネウロイに対抗するために魔法力の増幅器である「ストライカーユニット」が開発されたこと。
そして、スオムスでの戦訓から各国のエースを集めた精鋭部隊である「統合戦闘航空団」が結成されるようになったこと。
「なるほどねぇ…それで戦況はどうなんだい?」
「私たち第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を始めとした各統合戦闘航空団は勿論、各国軍所属のウィッチや兵士たちも頑張ってはいるけれど…戦況はあまり芳しくないわ。」
「初期の攻勢でヨーロッパのほとんどがネウロイの手に落ちた。
……私たちの故郷カールスラントもだ。」
そう言った大尉の体が強ばるのが見て取れた。
そして、住まう国を失った民がどうなるのかも飽きるほど見てきた。
人類同士の戦争じゃない分敗戦国民よりはよっぽどマシだろうが、それでも苦しい暮らしを強いられることは容易に想像できる。
「ところで、その『ネウロイ』とかいうのはどういう奴らなんだ?」
「古くは蛇や竜のような怪物然とした生物的なものが多かったと聞くが、『ネウロイ』と呼ばれるようになって以降のものは機械的で無機質な外見のものがほとんどだな。
形状も大きさも様々だが、空戦型にも陸戦型にも共通するのは六角模様の外装を持つことと赤いビームで攻撃すること、そして再生能力を持ち『コア』を破壊しない限り倒せないということだ。」
…………ん?
「六角模様の外装、赤いビーム、再生能力……」
「どうかしたか?」
どうにも偶然の一致とは思えないので確認のために質問してみた。
「ひょっとしてそいつらって、倒すと白い欠片になって崩壊したりしない?」
「よく分かったな、その通りだ。」
少佐が肯定する。
こりゃ間違いないな。
「やっぱりあれはそうだったのか…」
「一体何がどうしたんだ?」
大尉が訝しげな目を向けてきたので説明することにしよう。
「さっき私は惑星ペグマタイトから来たと言ったろう? 私はそこで
その最中に未確認大型航空機発見の報告が入って、それの撃墜任務を任された。
単機報告にあった空域に向かった私が見たのは翼幅100m以上ある大型航空機だった。
黒いボディの所々が赤く光り、そこからのビームで攻撃してくる見たこともない航空機。
ビームを躱しつつミサイルを叩き込んで両翼をへし折ってやれば、墜落せずに飛行を続けるどころかもげた翼が再生し始める始末。
胴体部も妙に頑丈で、戦略爆撃機をも一撃で吹っ飛ばすレールガンでさえ5発も使ってようやく撃墜できた。
まあ白い破片になって砕け散ったから撃墜という表現が正しいかどうかは知らんが。」
「おい、それは……」
「十中八九間違いなく、ネウロイとやらだろうね。」
私が肯定すると三人とも目を見開いていた。
「まさかネウロイに世界を渡る力が……?」
「私はネウロイについて何も知らないから断言はできないが、多分偶発的に発生した時空間断層――これは空間同士を繋げる穴みたいなものなんだが、それに入り込んで転移してきただけだと思う。
私らの世界でも広く一般に知られてるわけじゃないけど、こういうことは私が知り得ている範囲でもそれなりの回数起きてるからね。
現に私もそれに吸い込まれてここに来たわけだし。」
「そうなのか?」
「ああ、件のネウロイを倒したあと直近に突然開いたそれに吸い込まれた。」
「それは…災難だったわね。」
「全くだ、おかげで迎えが来るまで最短2ヶ月は待たにゃならん。」
「……ちょっと待て、戻る手立てがあるのか?」
私の言葉が意外だったらしく、少佐が訊ねてきた。
「こういうことは初めてじゃない、どころか両手足の指の数より経験しててね。
万一転移装置もなく異世界に飛ばされた時のために私の持ち物の中には一種のビーコンが仕込んであるのさ。
これから発信されたデータから友人が私の現在地の座標データを割り出し、迎えに来てくれる手筈になってる。
もっとも、未踏世界の場合解析には最短でも2ヶ月かかるらしいがね。」
「それでそんなに落ち着いていたのか。」
「まあね、いい加減慣れたし、命の危険が迫ってるわけでもないしね。」
実際言葉も通じて話もできる相手に発見され、いくらか友好的な関係も築けそうなこの状況で慌てる理由がない。
それに戦争をやってるなら、ここを追い出されても食い扶持には困ることがなさそうだ。
寝床もサバイバルキットの中に携帯寝袋が入っているのでさほど心配はない。
つまりここからどう状況が転んだとしても最悪死にはしないのだ。
……少なくともモンスターが闊歩する魔界のど真ん中に放り出された時よりは遥かにマシである。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」
「んー……どっちみちお迎えが来るまで待ちは確定だし、一応サバイバルキットを持ってるとはいえ迎えが来るまで最短2ヶ月、長けりゃ半年以上かかるわけだし、その間最低でも雨風くらいは凌げる寝床と食料は確保しなけりゃならないんだよなぁ……」
美緒の問いにエマは腕を組んで唸る。
「なんなら保護という名目でここに居て貰っても構わないぞ。
なあ、ミーナ?」
「そうね、部屋は空きがあるし、食事も一人分くらいなら問題ないでしょう。」
「いやしかしそれは私のプライドが……そうだ!」
顔を伏せて考え込んでいたエマが急に顔を上げた。
「なあ隊長さん、私を雇わないか?」
エマの提案を要約するとこうである。
・エマはネウロイとの戦闘時、
・その報酬としてエマはブリタニア基地の一部屋と朝昼晩の食事、戦闘時に消費した燃料を提供してもらう。
・戦闘中は隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の指揮に従う。
「どうだい、なかなかお買い得だと思うぞ?」
「確かに悪い話ではないな…」
「そうね…でも貴方は何が得意なのかしら?」
ミーナの問いにエマは自信満々に答える。
「特にどれというのはないが、強いて言うなら戦い全般だ。
ここで使えそうなので言えば
お望みとあらば24時間体制の
「ほう、夜間哨戒が可能なのか。」
「ああ、私自身夜間飛行の心得はあるし、そもそも機体自体に
「機体そのものにそんな機能があるとは…未来では特別な素質が無くとも夜間哨戒ができるのだな。」
「ま、こっちには魔法なんかないし、戦力は平均化されている方が使い勝手がいいからね。
人間必要に迫られればなんだって作るさ。」
そもそも音速域でドッグファイトを繰り広げる29世紀の空ではレーダーでもなければ敵の捕捉もおぼつかない。
また、夜間飛行へのより高レベルでの対応のためにデジタルビジョンの搭載もごく当たり前になっている。
それらの機能を駆使すれば夜間哨戒など朝飯前である。
「そう…でも私たちは貴方の実力を全く知らないわ。」
「なら、デモンストレーションといこうか。」
「そうね、お願いできるかしら?」
「待て待てエマ、お前は聞く限りストライカーユニットで飛んだ経験はないんだろう?」
制止してきた美緒の言葉にエマは口元を笑みの形に歪めながら答えた。
「問題ない。ぶっつけ本番なんかいつものことだ。」
冷静に考えたら一万文字くらいは「長い」うちに入らないのかなぁなどと。
~わりとどうでもいい設定資料~
傭兵ギルド
エマの世界において傭兵たちが所属する一種の互助組織。
単に「ギルド」と呼ばれることも多い。
例えればレイヴンズ・ネストやナーヴス・コンコード、グローバルコーテックスのような組織で、登録している傭兵に対して依頼や武器弾薬類の斡旋等を行うのが主な業務。
全傭兵の内およそ9割程度が登録しているが、未登録の傭兵だからといって非合法というわけではない。
ただしギルド公認のPMCの起業にあたっては最低一人ギルド登録傭兵が必要となり、登録傭兵に斡旋される依頼は報酬額と難度に剥離が少なく、また登録料と組合費も大した額でなく組合費は年間報酬額が一定以上であれば免除される為、傭兵であれば登録しているのが普通である。
本部は地球の旧日本国東京都に置かれており、事実上ギルドの直轄地となる旧日本領は治安がいいと言われる地球の中でも特に犯罪発生件数が少ない。(傭兵ばかりが集まる地域で馬鹿な真似をする輩が居ないだけとも言える。)
本部防衛の名目で独自の戦力も保有しており、どの国家にも属さない中立地域であるはずの地球を実効支配しているのも傭兵ギルドである。
飛行するワタリガラスをエンブレムとし、訓示である「我らは、我らの自由と利益のために。」はエンブレムにも刻まれている。