World Migration ―箒星の魔女たち― 作:壊人二十面相
なおアニメ本編まではまだかかる模様。
あの戦闘のあと、戻ってきたウィッチーズに自己紹介をすることになった。
反応は十人十色で様々だったが、いきなり後ろから胸を揉もうとしてきたのと目を合わせただけで怯えられたのには流石に面食らった。
胸を揉もうとしてきたルッキーニには伸ばしてきた手を取って軽く関節技をかけてやったが、目を合わせただけで怯えたビショップ軍曹には対応の仕様がなかった。
何しろ「どうかしたのか?」と声をかけようと口を開いたその瞬間に脱兎のごとく逃げられてしまったからな。
一体彼女は私の目に何を見たんだ?
「なー、たーのーむーよー」
……ああ、もう一人面食らった相手がいた。
先程から私に張り付いている、シャーリーことシャーロット・E・イェーガー中尉だ。
挨拶して2、3言葉を交わすなり「お前のストライカーに乗せてくれ!」と言い出した。
何でも元々バイク乗りで今はストライカーでの音速突破を目指しているんだとか。
レシプロ航空機だとプロペラの抵抗がどうのこうので音速突破は不可能だとか聞いたが、ストライカーだとどうなんだろうな?
「だからさっきからヤダって言ってるだろ。
私は自分の機体には自分以外乗せない主義だし、なによりいきなり音速の世界に入門したら間違いなく吐くか最悪落っこちて死ぬぞ。」
「う゛っ…」
音速突破を目指しているとはいえ流石に命は惜しいらしい。
まあ命の危険を伴わずに音速の世界を体感させる手段は無いでもないんだけど。
「……そんなに音速の世界が体感したいか?」
「ああ、音速の先がどんな世界なのか、この目で、この体で感じてみたい。」
「そうか、じゃあ…これを着けろ。」
私はポーチから大きなゴーグルのようなものを取り出して、シャーリーに渡した。
案の定シャーリーはよくわからないという表情をしている。
「なんだこれ?」
「VR訓練用のヘッドギアだ、それ着けてベッドに寝ろ。」
「よく解らないけど分かった。」
シャーリーは渡したヘッドギアを装着して部屋のベッドに寝そべる。
言い忘れていたが、ここは私用にとミーナ中佐から割り当てられた基地内の空き部屋だ。
今のところ部屋の中にはベッドとキャビネットくらいしか置かれていない殺風景な有様となっている。
私は端末を取り出してヘッドギアに繋ぎ、VR訓練アプリケーションを起動させた。
このアプリは
また、元々入っていない武器・兵器についても戦闘記録からシミュレーションデータを構築して訓練が行えるという優れものだ。
端末にバーバルス用のデータロガーを差し込み、先ほどの戦闘記録を読み込ませる。
1分とかからずにシミュレーションデータの構築が完了した。
データが少なくて構築が早かった分
「シミュレーションデータ展開…完了、シャーリー、心の準備はいいか?」
「あ、ああ。」
……本当に大丈夫か?
「じゃ、シミュレートスタート!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
エマの声が聞こえたと思ったら、急に夜間飛行の訓練で夜通し飛んだ後のような強烈な眠気に襲われた。
そして気がつくと…私はストライカーで空を飛んでいた。
「うわあ! な、なんだぁ!?」
<<あー、あー、こちらエマ。シャーリー、聞こえてるか?>>
驚いている私の耳にエマの声が聞こえてきた。
「エマ!? 何なんだよこれ!?」
<<落ち着け、そこはバーチャルリアリティ…謂わば超リアルな夢の中だ。
さっき着けて貰ったヘッドギアがお前の脳に働きかけてそれを見せている。>>
「夢…これが……」
自己紹介の時にエマがずっと技術の進んだ異世界から来たという話は聞いたし、あの「バーバルス」とか言うストライカーユニットも間近で見せてもらっていた。
でもこんな技術まであるなんて、私の認識は甘かったと言わざるを得ないらしい。
<<細かい説明は省くが、お前は今バーバルスを履いた状態でいる。
現在高度10000を時速500kmで飛行中だが…視界にディスプレイは見えてるか?>>
「ディスプレイ……そういえばさっきから空中に文字とか数字とかが見えるけど、それのことか?」
<<そうだ、視界右側の5桁の数値が高度、視界左側の4桁の数値が速度を表している。
単位はそれぞれ高度がメートル、速度がキロメートル毎時だ。>>
言われて確認してみると、さっき聞いたとおり右側は10000、左側は500と表示されていた。
<<今回は簡易シミュレーションで表示も簡易モードになってるが、実機の場合は燃料弾薬含め機体の全情報が視界に投影されるようになってる。>>
自分の状態が一目でわかるなんて、なんて便利なんだろう。
この世界のストライカーもいずれそうなるんだろうか?
<<さて、そろそろ操作制限を解除する、好きなように飛んでみてくれ。
動かし方は同じはずだけど、レシプロとは機動特性がまるで違うから注意してな。
まあ海面にぶつかったところで死ぬわけでも怪我するわけでもないけどさ。>>
「わかった――うわっ!?」
エマの声にそう答えて、いつもの訓練のように動こうとして盛大にバランスを崩した。
なんだこの旋回性、応答もめちゃくちゃ早い。
なんとか姿勢を立て直したけど、今のは結構危なかったと思う。
<<だから気をつけろって言っただろう。
今は初心者向けに応答速度と舵の効きを3割落としてあるが、そいつは本来の性能なら超音速域でもレシプロ並みの機動ができるんだ。
さらに曲がりやすい低速域で普通のレシプロ同様の感覚で動かすとアッつー間に目を回すぞ。>>
「3割落としてこれなのか!?」
<<
言葉の意味は相変わらずよく理解できなかったけど、私の常識の遥か上を行っているということだけは理解できた。
バーバルスもそうだけどエマ自身も。
「こんなのによく乗れるな」と言ったら「慣れだ」と返された。
……普通慣れるより制御に失敗して落っこちる方が早いんじゃないか?
<<とりあえず水平直線飛行で速度だけ出してみろ。
それなら落っこちる心配はないだろ?>>
「わかった…行くぞ!」
そうして私が速度を上げようとすると一瞬のうちに速度表示が一桁上がり、急にストライカーからの音が小さくなった。
今の速度は……1500? もう音速超えたのか!?
驚きながら後ろに目をやると、通ってきたところにドーナツ状の雲が浮かんでいた。
<<現在速度は約マッハ1.2、疑似体験ではあるが音速の世界に入門した気分はどうだい?>>
「これが音速の世界……これが私が目指す場所……」
エマの声が聞こえたが、音速超えの感動に打ちひしがれていた私にはただの音にしか聞こえなかった。
もっと速く、もっと先へ行ってみたい。
私は固有魔法も発動してさらに速度を上げた。
「いっけえええええええ!!」
周りを流れる雲がどんどん速くなっていく。
聞こえてくるストライカーのエンジン音がだんだん変化していく。
ああ、音より速いってこういうことなんだ。
<<……マッハ4……!? まだ上がる!?>>
そのままずっと飛んでいたら、いきなり視界の真ん中に赤文字でデカデカと<<CAUTION>>と表示され、警報音であろう音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
<<速度を上げすぎだ! 早く下げろ、空中分解するぞ!!>>
「うえぇっ!?」
エマの声に慌てて速度を下げる。
その直前速度表示を見たら6000くらいを表示しているのが見えた。
えーっと、確かマッハ1がだいたい時速1200kmくらいだから…マッハ5?
<<調子に乗って上げすぎだ、速度計くらい見ろ。>>
「う、ごめん…」
<<全く……しかしスペック上マッハ5なんて出ないはずなんだがな…データの精度の問題か?>>
「あー、それ多分固有魔法使ったからだと思う。」
<<固有魔法? まあいい、後で聞こう。
とりあえず今回はこれまでな。>>
「えぇ~?」
<<またやりたかったらやらせてやるよ。
じゃ、終了。>>
「あ、ちょ、待――」
止める間もなく私の視界は暗転した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
VRアプリを終了させると、直様戻ってきたシャーリーに物凄ーく不満そうな目を向けられた。
「……そんな目で人を見るんじゃない、またやらせてやるってさっき言っただろ?」
「だってさぁ……」
どうやっても納得はしてくれなさそうだと思った私は、とりあえず話題を変えてみることにした。
「ところでさっき言ってた『固有魔法』ってなんだ?」
「固有魔法ってのは、各ウィッチに発現する事がある特殊能力のことだな。
私は自分が乗ってるものの速度を上げられる『超加速』を持ってる。
他にも遠くが見える『魔眼』とか、空気を操れる『気流操作』とか、力が強くなる『怪力』とか、とにかく色んな種類があるらしい。
ウィッチ一人一人に必ずあるわけじゃないみたいだけど。」
「ほぉ、そんなのがあるのか。」
「エマはないのか? 固有魔法。」
「さあな、ストライカーでの戦闘はさっきのが初陣だし…」
バーバルスの性能すらまだ正確に把握してないし、もし仮に怪力みたいな身体強化系だったら多分分からないと思う。
「初陣で!? …ってそうか、戦闘経験自体は結構豊富なんだっけ?」
「まーね、自慢だが経験の量も密度もそこいらの連中よりずっと上だよ。」
「そこは普通『自慢じゃないが』って前置きするところじゃないか?」
「傭兵業界じゃ経験の豊富さはセールスポイントの一つだよ。
傭兵として生きる上で一番難しいのは、金を稼ぐことでも敵を多く倒すことでもなく生き残ることだ。
特にランクCやDの頃は稼ぎを焦ったり引き際を弁えずに死ぬ奴が多く、この辺りのランクを大きな負傷もなく切り抜けられるような奴は「才能がある」と言われる。
金なんぞ死んだら稼ぐことも使うこともできないし、結局のところ生き残ってナンボなのだ。
「そーゆーもんか?」
「そーゆーもんだ。
さ、私はちょっとやることがあるから出てってくれ。」
「わかった、また後でな。」
私の言葉に素直に従って、シャーリーは部屋を出ていった。
…さて、シミュレータの調整をするか。
シャーリーには言ってなかったが、実はさっき割とヤバい状態だった。
VR訓練は怪我をしないのが利点だが、その一方で脳に干渉する関係上極めて低い確率ではあるが脳機能障害を引き起こす場合がある。
先程もデータにない「固有魔法」というファクターがシミュレータにバグを発生させ、プログラムが暴走しかかっていた。
実はシャーリーに見えていたCAUTION表示は速度超過に対するものではなくシミュレーションプログラムの暴走に対する警告だったのだ。
「とりあえずシャーリーの固有魔法に対応できるようにプログラムを修正しとくか。
…プログラミングは専門外なんだけどなー」
次回はリーネとの話になる予定。
今月中に上げられるといいなぁ…