World Migration ―箒星の魔女たち―   作:壊人二十面相

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今回は大分難産でした。
共感できないキャラって書くの難しいですね…


ちなみにですがエマの今の年齢は30くらいです。


Task07 傭兵と新兵と××の眼

その人を初めて見たとき、綺麗な人だと思った。

白い肌は精悍な顔つきに不思議と合っていたし、白銀の髪はあんなざんばらに短くしてしまっているのが勿体無いほどの艶だった。

保有する魔力の関係からかウィッチは容姿に優れる人が多いらしいけれど、その中でもあの人はきっと良い意味で目立つことだろう。

でも、そんな感想はすぐさま吹き飛んでしまった。

 

「リネット・ビショップ軍曹か。

 私はエマノン、これからよろしく。」

 

そう言って差し出してきたエマさんの手を取って、そして自然に目を合わせた。

合わせて、しまった。

 

「よ、よろしくお願いします…」

 

その眼を覗き込んだとき、ただひたすらにこわいと思った。

エマさんの眼は、髪や肌とは対照的に真っ黒だった。

それは私が今まで見たどんな黒より昏いクロ。

月明かりのない新月の夜だってきっともっと明るいと思う。

何もかもを吸い込んでしまいそうなあの黒がどうしようもなくこわい。

そしてなにより、私を見つめるあの目がこわい。

微笑んでいるはずなのに、全く笑っていないその目が、こわい。

気づいたら私は自分の部屋に戻ってきていた。

ああ、エマさんには後で謝っておかないと……

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月17日14:56 501JFW基地 長距離射撃訓練場

 

「…ハズレ、的の左だ。

 発射後に風向きが変わったのが原因だな、慎重に狙うのもいいが照準はなるべく手早く行え。」

 

「はい。」

 

私の声にリーネは短く答え、照準を修正して次弾を発射する。

放たれた55口径弾は的に向かって飛んで行き、見事に的に穴を穿った。

 

「命中、いいぞ、真ん中だ。

 今日はここまでにしておこう、お疲れさん。」

 

「はい、ありがとうございました…」

 

伏射姿勢を解き、私に一礼して銃を抱えて去っていくリーネの後姿を見ながら、私はこうなった経緯を思い出していた。

 

……

………

1944年4月13日20:30 坂本少佐の部屋

 

「訓練? 私が? リーネに?」

 

「ああ、普段あいつの訓練は私が見ているんだが、私は所用で2ヶ月半ほど本国に戻らなくてはならなくてな。

 その間の教官役をお前に頼みたい。」

 

「報酬さえ払ってもらえるなら構わないが…ストライカーの扱いは言わずもがな、狙撃も私の本分じゃないぞ?」

 

私の言葉に坂本少佐は苦笑しながら言った。

 

「かく言う私も狙撃を専門に学んだことはないし、そもそも501に本格的な狙撃訓練をやった者は居ないから、誰がやってもさほど差がないんだ。

 お前は戦い全般が得意だと言っていたし、狙撃の心得もあるんだろう?」

 

「…まあ、狙撃が得意な友人に多少習ったから、中距離まではそこそこできるが。」

 

戦闘中どんな技能が必要になるともわからないので、基本的にどんなことも一定以上の水準で出来るようにはしている。

特に狙撃は友人がそれはそれは熱心に教えてくれたので、使い慣れたスナイパーライフルで1km以内なら9割、10km以内でも7割5分当たる程度にはなった。

まあその友人は10km先をスコープその他補助機器なしで命中率99.9999%とかいうもう人間なのか疑いたくなるような怪物くんだが。

そもそもあの距離がなんで見えるのか私にも一度大真面目に解析したギークにもさっぱり分からない。

休日は一日中ゲームのスコアアタックに勤しむ廃ゲーマーのくせに。

 

「そうか! ならば尚更頼みたい!」

 

少佐が両腕掴んで迫ってきた。

って力入れすぎいででででででででで

 

「わかったから力抜いてくれ痛い!」

 

「あ、すまん。」

 

………

……

 

とまあこのような事があって私は(基礎体力練成と射撃訓練だけだが)リーネの訓練を見ているわけだが…射撃技能はまあまあだが体力が全然だ。

16kgのボーイズ対装甲ライフルを魔法力での強化無しで構えられないのは仕方ないとしても、腕立て100回すら出来ないとは幾らなんでも腕力なさすぎである。

ウィッチの養成学校出てるはずだよな?

 

「基礎訓練の構成も見直しが必要かもしれないな、しかしそれ以上に…」

 

私はリーネに嫌われて…というより怖がられている。

相対しても絶対に目を合わせようとはせず、態度も固い。

ひどい時には微かにだが震えてることさえある。

自己紹介の時からずっとこうなのだが、この状況は訓練以前の問題だ。

単に同じ戦場に立つだけならともかく、教官役とコミュニケーションがうまく取れないのでは訓練に支障が出かねない。

慕ってくれれば最上、憎まれるのでもまあそれはそれでいい、だがただ怖がられるだけでは駄目だ。

特に周りがエースだらけの環境にストレスを感じているリーネにこれ以上無用な負荷を掛けたら壊れかねない。

現状でさえ実戦で訓練通りの力が発揮できていないのだから。

 

「ま、何とかするしかないか。

 はあ…頭痛いわぁ……」

 

しかし、曲がりなりにも「最強」などと呼ばれた私から見ても彼女の資質は中々のものだ。

特に狙撃の才能は私が今まで出会った中でも上位に入る。

絶対に、潰すわけには行かない。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月18日08:30 食堂

 

「貴方の眼?」

 

「ああ、どう思う?」

 

明けて翌日、結局いくら考えてもリーネが怖がる理由がさっぱり思い浮かばなかったので、他の連中の意見を聞いてみることにした。

 

「そうね、珍しい色だとは思うわ。

 ダークブラウンならともかく、瞳孔とほとんど見分けがつかない黒だもの。」

 

ミーナ中佐から帰ってきたのはこんな答えだった。

目を合わせて会話しているが、中佐に気負った様子は特にない。

 

「それだけか?」

 

「ええ……どうかしたのかしら?」

 

「どうかしたというかなんというか…入隊から半月経つのに未だにリーネの態度が硬いままでさ。

 挨拶で目を合わせた時に妙に怯えてたからそれが原因かと思って、ほかの連中に意見を求めてみようかと――」

 

「エーマ、おっはよー!」

 

中佐と話していたら、後ろからルッキーニが挨拶しながら飛びついてきた。

 

「おっと、おはようルッキーニ。」

 

ルッキーニは501の面々の中でシャーリーに次いで私と仲がいい相手だ。

というかこれはむしろ懐かれていると言うべきか。

あらゆる意味でリーネとは対照的だ。

こちらは挨拶の時以来私の胸を虎視眈々と狙っているようだが、未だに一度も触らせたことはない。

抱きつくくらいは許しているし、許可を求めてくれば応じる気でいるのだが、敢えて告げていない。

なんだかんだで猫にじゃれつかれているようで楽しいしな。

 

「んで、何の話してたの?」

 

「私の眼についてちょっとアンケート的なものをな。」

 

「うじゅ? 眼がどーかしたの?」

 

丁度いい、ルッキーニにも聞いてみよう。

 

「私の眼を見てどう思うかって話。

 ルッキーニはどうよ?」

 

私の問いに、ルッキーニは少し首を傾げて考えるような素振りを見せた。

 

「ん~、黒くて綺麗だよね。

 あたしの使い魔とおんなじ色であたしは好きだよ?」

 

「ふむ、そうか…」

 

ミーナ中佐と同様、ルッキーニからも特に否定的な意見は返ってこなかった。

ルッキーニも501の中では短い方とはいえ戦歴は既にルーキーとは呼べないくらいにあるし、やっぱり新人にしか感じ取れない何かがあるんだろうか?

 

「…あ、でも訓練の時とかたま~に怖いかな?」

 

「ほう、というと?」

 

「んとね、模擬戦やってる時とか、あとネウロイと戦ってる時。

 よくわかんないけど…ぞわぞわ? ピリピリ? する感じがたまにするよ。」

 

「ぞわぞわ、ピリピリする感じ……」

 

戦闘中にということは多分漏れ出た殺気のせいだろう。

長く戦場に身を置いているおかげというべきかこの手のものを押さえ込む術は心得ているが、戦闘中ノってくるとどうしても抑えが緩くなってしまう。

なんだかんだ言って私も戦いを愉しむたちなのだ。

だが、私はリーネとは模擬戦をやったことがないし、私の501での初陣は単機戦闘だったし、それ以降も一緒に出撃したことはなかったから戦うところを見られたこともない筈で、そもそもリーネは初対面から私に怯えていた。

『殺気』というのは遠くはないにせよ求める答えではなさそうだ。

その後他の隊員何人かにも訊いてみたが、参考になりそうな答えは返ってこなかった。

 

「んー、本格的にどうしようもなくなってきた感があるな…こうなったら本人に直接……?」

 

と、一人呟いたところでふと既視感を感じる。

…………んん? なんだか前にもこんなような事があったようななかったような?

思い出せ、新兵を前に訓練したのは何時だった?

8年前のときか? 40年前のときか? 60年前のときか? それとも?

違う、依頼でやった教導は全て最低でも小隊以上の人数への全体指導だった。

では依頼外での個人指導のときか。

マンツーマンでの教導はいったい誰が相手だった?

 

「……ああ、思い出した。あいつだ。」

 

すっかり脳の奥底に仕舞われていた記憶をようやく掘り出す。

偶然戦場で拾い、何故か懐かれて私が育ての親をやる羽目になった一人の少女。

思えばあいつは随分変わったやつだった。

酷く臆病で夜の闇でさえ怖がっていたくせに、私に憧れでもしたのか傭兵になりたいなどと言う。

諦めるのを狙って正規軍並みの訓練をやらせてみれば、泣き言一つ言わずそれに耐えて見せた。

数年の訓練の後傭兵に登録してからは華々しさこそないが着実に戦果を挙げ依頼をこなし、常人の限界といわれるAランクまで上り詰め、最後はベッドの上で家族に看取られながらこの世を去った。

そして、私はあるとき交わした彼女との会話を思い出した。

 

……

………

 

『おい、何故貴様は私の目を見て返事をせんのだ。』

 

『は、はい…あの…えーと……すみません!』

 

『謝罪はいい。私は『何故か』と訊いている。』

 

『あの、その…教官の眼からは何故か――――を感じてしまって…』

 

『……そんなもの戦場に出ればクソの山より多く見る事になる。

 そもそもお前は既に一度嫌という程見てるだろうに。』

 

『はい…でも、教官の眼のそれは、なんていうか、凄く濃いんです。』

 

『はぁ……まあいい、何れにせよそのザマでは戦場に出すことはできん。

 慣れろとは言わんが直視できるようにはなっておけ。』

 

………

……

 

「もしかしてリーネにも視えるのか?」

 

確証は無い。だが今のリーネと出会って間もない頃の「彼女」は雰囲気がよく似ている。

そしてもし「それ」が理由だとしたら他の連中が反応しないのにもある程度説明がつく。

 

「だがそうなると完全に手詰まりだな……あれは本人に乗り越えてもらう以外に解決手段が無い。」

 

「それ」は戦場に立つ者全てに立ちはだかる壁だ。

「それ」に対する恐怖を我が物とすることで初めて戦士として一人前になる。

そしてこれに関して、心についての問題に関して他人が干渉できる余地はあまりにも少ない。

大昔のゲームの台詞だが、「心技体、技と体は教えられる。だが心は教えられない。」というやつだ。

……あれ、違ったかな?

 

「まあそれでも、臨時とはいえ教官として、戦場に立つ先人として微力ながらも手助けくらいはしてやるかね。

 自分の教え子が早死にしたりしたら流石に夢見が悪いし。」

 

そうと決まれば早速ひとつ対話でもしてみるとしよう。

私はリーネを探して基地内を歩き始めた。

 

 

 




エマはどちらかというと天才型の人間なので、人に教えるというのはあまり得意ではないようです。

ちなみにモノローグの中でちょろっと出てきた傭兵のランクについてざっくり解説すると、

Eランク:一番下。まだ殻も取れてないヒヨコ。
Dランク:半人前。正規軍で言えば新米二等兵。
Cランク:一応一人前。階級的には下士官~中尉くらい。
Bランク:一流と呼ぶには一歩足りない。階級的には大尉~佐官くらい。
Aランク:一流と呼ぶに値し、同時に常人の限界。階級的には将官くらい。
Sランク:人間辞めましたシリーズ。某魔王閣下と肩並べるような連中だけがなれる。

当たり前ですがAとSの間には成層圏より高い壁が存在します。



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