World Migration ―箒星の魔女たち―   作:壊人二十面相

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今回の話は賛否両論ありそうで割とびくびくしてます。
それとは別にアンチ・ヘイトの基準がよく分からない作者です。



Task08 傭兵と新兵と才能

1944年4月18日10:10 リーネの部屋

 

リーネと話そうと思い立ち探すこと1時間と40分、なかなか見つからず結局基地中歩き回って探した相手は結局自分の部屋に居た。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとう。」

 

今日の訓練は午後からということで、リーネは部屋で紅茶を嗜んでいたようだ。

突然の来客である私にも紅茶を出してくれた。

この世界ではありふれた、しかし私の世界では今や希少品と化した地球産天然物の紅茶である。

まあ私からすればここで出る飲食物の一切が希少品または高級品な訳だが。

ちなみに私の世界における食料には天然物と合成物が存在する。

天然物とは「生育・漁獲した生の原料を用いた物」で、合成物とは「各種元素から実物の見た目、味、食感、栄養素などを再現した物」だ。

当たり前だが合成物は安い代わりに天然物と比べると不味い。

そんな高級品である天然物の品の多くで最高級とされるのが地球産だ。

理由は未だに解明されていないが、同じ種類の食品でも地球で収穫・漁獲したものとコロニーや他惑星で収穫・漁獲されたものとでは地球のほうが品質がいいのだ。

前に一度地球産の牛肉のステーキを食ったことがあったが、あれと比べたら合成物などサンダルの底にも劣る。

ともあれ折角そんな希少品を出してもらったので、香りも含めて隅々まで味わうことにする。

 

「……ん、美味い。」

 

一口含めば口に広がる芳醇な香り。発酵によってほんのりと感じられる程度になった渋みが舌に心地良い。

私には紅茶の銘柄や味の良し悪しなど碌に分からないが、それでもこの紅茶は掛け値なしに美味かった。

暫く無言で紅茶を楽しんでいると、沈黙に耐え切れなくなったのかリーネが尋ねてきた。

 

「あの、私に何か御用だったんじゃないんですか…?」

 

「ん? いや、用って程のことでもないよ。

 ただリーネと少し話をしたいと思った、それだけだ。」

 

私の言葉にリーネはきょとんとしている。そんなに意外だったか。

 

「まあなんだ、初対面以来お前は私と眼を合わせてくれないし、本心を出そうともしてくれない。

 しかし私は今お前の教官で、お前が戦力として使い物になるように手を尽くさなきゃならない。

 私が怖いのは…まあ理由もなんとなく想像ついたしこの際構いやしないが、心の不均衡は見過ごすわけにはいかん。

 …なあリーネ、お前は何をそんなに悩んでいる? 身近にエースが居るということはそんなに苦痛か?」

 

私の問いかけを聞いたリーネは俯いて微かに震えていた。

その震えは怒りか? それとも悲しみか?

 

「……エマさんには」

 

「ん?」

 

「エマさんには私の気持ちなんか分かりません。

 どんなに訓練しても実戦に出ると途端に駄目になる私の気持ちなんか、分かりません!」

 

……なんだ、こいつこんな声も出せるんじゃあないか。

 

「501の人たちはみんな世界でもトップクラスのエースばっかりで! 私なんか足元にも及ばないのにこんなところに配属されて! 少しでも追いつけるようにって訓練しても実戦じゃ全然駄目で!!」

 

悲しみの海の中に見え隠れする怒りの炎。

彼女は今の無力を嘆くと同時に、現状を打破したいと足掻いている。

やはりリーネは私が教えるに値する新兵だ。

 

「はあ…………勘違いしてんじゃあねーぞ新人(ルーキー)。」

 

だがまあ、勘違いは正さねばなるまい。

 

「まず一つ目、私にせよ501の他の面子にせよ最初から強かったわけじゃない。

 少なくとも私はここにこうして居るまでに師匠からの地獄も斯くやというような訓練を耐え、100じゃきかないほどの死線を潜り抜けてきている。

 他の連中だって恐らくは厳しい実戦を幾度となく乗り越えてきているだろう。

 そんなベテランとルーキーが張り合うなんてのがそもそも間違いだ。

 そして二つ目、お前は自分に戦いの才能が無いと思い込んでるようだがそれは違うぞ。

 むしろ、他の連中に無いものを二つも持っている。」

 

私がそう告げるとリーネは驚いたような…というか事実驚いているんだろうが、そんな眼をこちらに向けてきた。

 

「そんな、だって私実戦じゃ全然駄目で…」

 

「そんなもん新兵にはよくあることだ。

 リーネ、お前が持つ才能はな、『射撃』と『危機察知』だ。」

 

「危機…察知?」

 

リーネが鸚鵡返しに訊いてくる。まあそう簡単には理解できんよな。

 

「そう、危機察知だ。お前は私の眼を見て恐怖を覚えた。それは私の眼から死の気配を感じ取ったからだ。

 昔弟子に『教官の眼からは濃密な死の気配を感じる』と言われたことがあってな。

 以来私はこれを新兵の才覚を量る判断基準のひとつにしている。」

 

「…どういうことですか?」

 

「まず生物が恐怖を覚えるものというのは、自分の存在を脅かす可能性のあるものだ。

 刃物然り、銃然り、地震然り、雷然り、火然り、理性を持つ人間でさえ表層ではともかく本能ではこれらのものに恐怖する。

 何故なら恐怖とは本能からの警告であり、それに対して身構えておけば危険を回避できる可能性が高くなるからだ。

 私は自分の目で見たものしか信用しない性質だが、勘や本能というものが馬鹿に出来ない物だということは身を以って知っている。

 故に断言する。『恐怖に敏感なことはそれだけで大きな資質だ』と。

 恐怖に鈍感な者は確実に早死にする。

 逆に恐怖に敏感な者は危険を理屈でなく察知し、結果長生きする。

 戦場において実力以外で生死を分けるファクターとして『勘』というのは最大のものだ。

 もちろん恐怖を飼いならす訓練は必要だがな。」

 

「恐怖を…飼いならす、ですか?」

 

リーネの問いに私は首肯して答える。

 

「私の世界の大昔のマンガの台詞にこんなものがある。

 『「勇気」とは「怖さ」を知ること。「恐怖」を我が物とすることだ。』

 狂犬の如く荒れ狂い体を縛る恐怖を飼いならすことが出来て初めて『人』は『戦士』となる。

 これが出来ん奴は何処まで行っても三流、同じマンガの台詞を借りるなら『ノミと同類』だ。

 …さて、お前に今敢えて問おう、リネット・ビショップ軍曹。

 『お前は何の為に、何故ウィッチになった?』」

 

「それは……」

 

リーネは顔を俯かせて言いよどんでいる。

…この様子では唯流されるままに、という訳ではなさそうだな。

 

「素質があったから仕方なくか?」

 

「違います…」

 

「親きょうだいにそうしろと言われたからか?」

 

「…違います。」

 

「では銃後で安穏としている自分に言い訳するためか?」

 

「違います!」

 

敢えてろくでもない理由ばかり挙げる私にリーネが強い視線を向けてくる。

私を正面から見据える、強い強い眼差し。

青い眼に燃え立つ気焔。

その眼には先ほどのような怒りだけではない、強い意志が宿っているのが見て取れた。

その真っ直ぐな眼差しに私も正面から、殺気さえも滲ませて見つめ返す。

 

「ならば何のためだ! 何故、どうしてお前はウィッチになろうと思った!!」

 

「私は……」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「私は……」

 

エマさんに強い口調で問い詰められ、思わず言葉に詰まる。

「何故」、その問いに答えられない自分に戸惑った。

我が家はお母さんは前のネウロイ大戦でのエースで、私以外の姉妹も皆ウィッチとして戦っている。

ある意味、ウィッチとして戦うのは当然という空気はあった。

でも、ウィッチになると決めたのは私自身で、私の意志だ。

誰かに言われたからでも、素質があって仕方なくでもない、私がそうしたいと思ったからだった。

エマさんに問われるまでそんなことさえ忘れかけていた。

エマさんがそれを思い出させてくれた。

今ではあんなに思い悩んで焦っていた自分が馬鹿みたいに思える。

今なら胸を張って言える。

私は………

 

「私は…困っている人を助けたい! ネウロイのせいで苦しんでいる人たちの力になりたい!!」

 

エマさんの目を見つめ返しながら精一杯の声で言う。

初めて見たときは逃げ出すほど怖かった、何もかもを飲み込んでしまいそうなその黒い眼が、今は不思議と怖くなかった。

正確に言えば今でも怖い。

でも、私の目標のためなら、その恐怖も乗り越えられる。そんな確信めいた気持ちが恐怖を打ち消していた。

 

「それが、お前がウィッチになった理由か。」

 

「はい。」

 

より一層重圧を増しながら見つめてくるエマさんの眼を負けじと見つめ返しながら問いに答える。

そのままどれほど見つめあっただろう。

5分? 10分? それとももっと?

私自身には1時間にも2時間にも思えるほどの睨み合いは、不意に表情を崩したエマさんによって終わりを告げた。

 

「良い眼だ。やはり私の見立ては間違っていなかった。

 リーネ、今のその気持ちを忘れるな。

 そうすればどんな逆境も危機も、お前の心が乗り越えさせてくれるだろう。

 体と技は任せておけ、必ず私がお前を時代を担う戦士にしてみせる。」

 

そう言って微笑んだエマさんは、とても優しい表情をしていた。

先程までや普段浮かべている微笑とはまるで別次元の、同性の私も思わず見惚れてしまいそうな笑みだった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

「さて今後のことだが…まず今のお前には一流の戦士としてあらゆる物が欠けているということをはっきりと言っておこう。」

 

斯くしてリーネの心の内と覚悟を見た私は、今後の訓練計画について話すことにした。

 

「はい。」

 

「特に体力が足りないのは致命的といっていい。基礎体力は兵士にとって正に基本中の基本だからな。

 とはいえこれは一朝一夕に身に付く物でもなく、無理なトレーニングは体を壊すだけだ。多少厳しくはやらせてもらうが、メインはランニングと腕立て腹筋、まあ今とさほど変わらないな。

 それと技能面だが…私はリーネとは模擬戦も実戦での協働も経験がないんだが、具体的にどう駄目なんだ?」

 

「その…飛行魔法の制御と固有魔法の制御が同時に出来ないんです。」

 

つまり並列処理(マルチタスク)が出来ないってことか。

となるとアレで訓練するのがよさそうだな。

 

「なるほど、それならちょうどいい物がある。午後の訓練はそれをやろう。」

 

「はい、宜しくお願いします。」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月18日13:30 エマの部屋

 

 

昼食後、私はリーネを自室に連れ込んだ。

 

「さて、それじゃあこれ着けてベッドに寝てくれ。」

 

「え? …あの、なんですかこれ?」

 

「VR訓練用のヘッドギア、説明めんどくさいから詳しくは聞くな。」

 

リーネに渡したのはこの間シャーリーに使わせたのと同じヘッドギアだ。

が、今回は訓練アプリを使うわけではない。

リーネをベッドに押し込んで自分もヘッドギアを着けつつリーネの隣に寝そべる。

そして外部端末を操作してリーネのヘッドギアとリンクが確立されていることを確認し、一覧の中から目的のアプリを選択、起動する。

10秒のカウントダウンの後、私とリーネの意識はVR空間へと飛んだ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月18日13:35 VR空間内ゲームアーカイブ

 

 

闇の中に沈んでいた視界がはっきりしてくると、そこに広がっていたのはあえて古めかしく作られた、しかし当時は存在しなかったであろう広大なゲームセンターであった。

ここはゲーム好き達の、ゲーム好き達による、ゲーム好き達の為の理想郷。

もはや博物館にしか実物が存在しないような古いものから無駄に技術の粋を集めた最新のものまで、業務用(アーケード)家庭用(コンシューマ)もまさにありとあらゆるゲームがここにある。

 

「ふぇっ!? な、なんですかこれ!?」

 

「VR空間へようこそリーネ。

 ここはゲームアーカイブ。私の世界の人類が連綿と続けてきた壮大な技術の無駄遣い、その結晶が集められた場所だ。」

 

「技術の無駄遣い…ですか?」

 

「ああ、平穏に暮らす人々が、その時持てる技術をつぎ込んで作る娯楽の一形態。

 その為に態々専用のコンピュータまで開発して、生み出されるのはひとときの快楽。

 人はそれをテレビゲーム(Video game)と呼ぶ。」

 

私の言葉を聞いたリーネは、改めて周りを見渡した。

人類存亡をかけた戦いの渦中に居る人間にこの光景はどう映るのだろう。

ここにつれてきたのにはそんな興味も多少はあった。

 

「なんだか…すごいですね。」

 

「まあ、最初にゲームと呼べるものが私の世界で生まれてから……ざっと900年くらいだったか。それからの殆ど全てのゲームがここにあるからな。

 こっちの世界でもリーネが生きてるうちにはたぶん業務用のゲームがリリースされるはずだぞ。」

 

「そうなんですか?」

 

「私の世界でゲームが誕生したのが1950年代、有名な業務用ゲーム機が出たのが確か1980年くらいだったか。退屈しのぎにこっちの歴史をちょっと見た限りだと私の世界のそれとあんまり違わなかったから、このままの流れで行ってリーネがそれまで生き残っていればこっち産のゲームに触れられると思うぞ。」

 

「へぇ……って、あの、訓練は?」

 

「もちろんやるぞ、ついて来い。」

 

周りの風景にか、はたまた訓練と言いつつこんなところに連れ込んだ私にか未だ戸惑いを見せるリーネをつれてエリアの一角へと歩みを進める。

元々このアーカイブは作られた当時、収録されているゲームをプレイするための端末が数台あるだけの非常に狭いものだった。

だが「それでは面白みがない」と好き者なゲームマニア達が改造に改造を重ね、今のような実機を再現した筐体で遊べるような仕様になった。

しかし、そうした結果ある問題が浮上した。

各種業務用ゲームの筐体を再現し並べた結果、スペースが異常にだだっ広くなってしまったのだ。

あの当時の、地平線の彼方までゲーム筐体の群れが広がる光景は今でもはっきりと思い出せる。

あまりに広すぎて移動が不便。しかしVR空間とはいえワープポータルを使うのは無粋極まる。

そんな訳で、「ビルディング状に階層分けした各フロアに分類ごとに配置する」という手法にたどり着いたのはある意味必然であった。

しかもフロア間の移動方法はエレベータ風のポータルもしくは階段という無駄な芸の細かさ。

流石の私もそこまで拘るかと呆れたものだ。

 

「とまあそんなわけで『西暦2000年代家庭用ゲーム』のフロアでございます、ってね。」

 

開いたエレベータ風ポータルの扉からフロアに入り、更に奥へと進む。

家庭用ゲームの場合はハードの発売日順に並べられており、エレベータから見て手前が新しく、奥に行くほど古くなる。

 

「ゲームとは娯楽で、遊びだ。生きる上でなくてはならないものではない。

 が、スポーツが体を鍛えるのに役立つように、ゲームが反射神経や状況判断能力を養うのに役立つこともある。」

 

目的のものはほぼ最奥といってもいい位置に在った。

 

「西暦2002年、今尚ゲーム史に名を残す一本のゲームソフトが発売された。」

 

黒に緑色の丸で装飾された重厚な本体。

 

「『単純な操作で最大限爽快感を得られるように』という当時の常識に全力で反逆し、約40個のボタンと2本のスティックと1本のレバーと3つのペダルを使うという車をも超える煩雑さ。

 そして販売形態がソフトと専用コントローラのセットのみ、しかも価格は当時の貨幣価値で19800円、今のブリタニアの貨幣価値に換算すると……10シリングくらいか。

 当時でもゲームソフトの価格としては異常な高値だが、あの規模の専用コントローラの分も含めて考えると逆にあり得ないほど安い。」

 

それに繋げられた、ブラウン管風の擬似モニタの前に据え付けられたテーブルに鎮座まします横幅1m超の巨大コントローラ。

 

「とまあそんな良い感じに狂った要素が満載なゲームをマニア共が見過ごすはずもなく、大きなブームにこそならなかったがかなりの売り上げを記録している。」

 

それは、VRという概念こそあれ技術として確立していなかった当時の人々の願望の結晶。

 

「タイトルは『鉄騎(Steel Battalion)』。リーネには訓練としてこれをプレイしてもらう。」

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月25日13:35 VR空間内ゲームアーカイブ

 

 

というやり取りがあったのが一週間前。

それから日に2時間ずつやらせているわけだが……予想外に上達が早かった。

初めは棺桶(ビッツ)にすらやられる有様だったが、三日目には戦艦を撃沈し、五日目には工廠制圧作戦を成功させていた。

鉄騎どころかゲームそのものに触れたことのない全くの素人とは思えない上達速度だ。

リーネには伏せて難易度Armageddonでやらせてたんだが。

もちろんこの間私は操縦方法の説明とちょっとのアドバイスをしただけで、後はずっと後ろで見ていただけだ。

そして今は首都で鹵獲機(クェーサー)に乗って新型量産機(リーガルドレス)相手に無双しているところだ。

既にVTを手足の如く動かしているといっていい。

ちなみにだが、私の世界ではVTのような歩行戦車類はごく普遍的な兵器として普及している。

しかし、その操縦はVTより簡素化されている。

なにしろ操作のいくらかはコンピュータによって自動化され、それ以外の部分もかなりの割合で思考制御あるいは音声入力が導入されている。

FCSの予測射撃システムもVTのものより圧倒的に高精度だ。

砲弾がやたらと低速で飛ぶことを差し引いても、VTを操縦するほうが難しいくらいだったりするのだ。

それをここまで淀み無くやれるリーネは、こういう言い方はあまり好きではないが才能があるのだろう。本人は自覚していないしこの世界じゃさして役に立つまいが。

……お、未確認機(ジュガノート)撃破した。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1944年4月25日16:00 501JFWドーヴァー基地外縁部

 

 

さて、勿論だがこの一週間ずっとゲームばかりやらせていたわけではない。

実機の方でも並列処理能力を重点的に鍛える訓練を行っていた。

 

「では訓練を開始する。今日こそ全弾当てて見せろ。」

 

<<はい!>>

 

リーネからの返答を確認した私は、手に持っていたものを順次投下していく。

それは射撃訓練用の的をくくりつけたミニサイズのパラシュートだ。

これを私が高空から投下し、リーネはそれをストライカーを履いて低空に浮遊している状態から狙撃する。

言葉にすれば単純だが、実際にやってみるとこれが意外と難しい。

まず投下タイミングは完全に私次第の不定期で、何個も連続して落とす時もあれば1分以上投下しないときもある。

投下した後の軌道は始めの内は母機である私の動きに影響されるが、結局は気流次第でどう動くかはほぼランダム。

そして何よりも厳しいのが「下から上を狙い撃たなければならない」ということ。

一般に狙撃は高所からの撃ち下ろしの方が有利だとされる。

その方が重力による弾道への影響が少ないからだ。

逆に低所からの撃ち上げだと銃弾の運動エネルギーは重力にどんどん奪われ、着弾点は水平射で同じ距離を狙ったときより更に下にずれ、速度の下がった弾丸は横風の影響を受けやすくなる。

おまけにストライカーでその場に浮遊しながらやらなければならないため、射撃に意識を割きすぎるとその場に浮かんでいられなくなる。

つまりこの訓練は、飛行魔法の制御をやりつつ固有魔法の制御をやりつつ弾道計算までこなさなければならないという見た目以上に忙しい訓練なのだ。

501の隊員でもこれを命中率100%でクリアできるのは射撃に長けているルッキーニと未来予知の固有魔法を持つエイラくらいだろう。

 

「…標的の半分を消化。

 今のところ全弾命中だ、その調子で行け。」

 

<<はい!>>

 

現状の通達と同時にプレッシャーをかけてみたが…これにも動じなくなってきたな。

リーネの上達ぶりは本当ににメキメキという音が聞こえてきそうなくらいに目覚しい。

最初の制御の両立がうまくいかずあっちこっちふらふら飛び回った挙句、30個投下して命中したのが1~2個とかだった頃が嘘のようなくらいだ。

ある程度慣れてきてからは緊張させるためにミーナ中佐に見ててもらうようにしていたが、今やそれにも全く動揺していない。

その後も順調に命中させ、用意した標的は残り7つ。

……どれほど出来るか試してみるとしようか。

 

「ラストアタックだ、全弾当てて見せろ!」

 

無線越しにリーネに一言告げると、私はリーネに向かって高度を急激に下げる。

時速700kmで緩降下しつつ高度計を注視、500を切ったところで手に持った的を7つ全て上と左右に連続で放り投げる。

そして速度そのままに低空に浮いているリーネの間近をフライパスした。

ボーイズ対戦車ライフルの装弾数を超える数の的に、私がフライパスしたときの風圧による軽い目眩まし。さあ、対応できるかな?

 

「…………! やるじゃないか。」

 

風圧を受けて流石に反応が遅れたが、低空でばら撒かれた多数の標的にもリーネは動揺した様子を見せなかった。

落ち着いて高度の低いものから順次射撃し、弾倉交換(マグチェンジ)の動作にも全く淀みが無い。

そもそもボーイズはボルトアクションで連射が利かないのだが、それを的確な標的選択で補い結局リーネは7つ全てを撃ち抜いて見せた。

 

無線越しにリーネに訓練終了を告げて、私も格納庫に戻る。

先に戻ったリーネは既にストライカーを脱いで私を待っていた。

 

「30枚全弾命中達成おめでとうリーネ、よく頑張ったな。」

 

「ありがとうございます。エマさんの指導のおかげです。」

 

「それは違う。ここまできたのは偏にお前の努力の結果だ。

 …なあ中佐、今のリーネなら実戦にも耐えると思うんだが、どうだろう?」

 

私の問いかけにミーナ中佐は首肯して答えた。

 

「そうね、私も同意見だわ。

 リーネさん、次の戦闘では貴女にも出撃してもらいます。いいわね?」

 

「はいっ! 了解ですミーナ中佐!」

 

そう敬礼して答えたリーネの目には涙が浮かんでいた。

 

「こらこら、まだ泣くんじゃない。涙は初撃墜まで取っとけ。」

 

そして、予想より早くその機会は訪れた。

4月27日1427時、グリッドN-22付近にネウロイ出現。

 

 




二話で終わらせるつもりだったのにどうしてこうなった…
たぶん次の話は短めでサクッと終わると思います。
鉄騎は…どこかの軍ではArmAを訓練に使ってるらしいのでまあそんなようなもんだと思ってもらえれば。

あと今まで投稿した分の何話かの後書きに「わりとどうでもいい設定資料」を追加しています。
本編には殆ど関わらない内容なので興味のある方だけどうぞ。

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