ぐるぐると回っていた思考が収まっていた。
だからなんとなくわかった。
──俺は眠っていたのだと。
硬い台の上で仰向けに寝かされた状態で、天井を見上げていた。
体は、ベルトみたいなもので固定されていた。
最低限の明かりだけが灯された暗い空間だった。
まるで隠れ家のようだ。
「…………」
「おはようございます」
そんな俺にかけられたのは、普通すぎる挨拶だ。
そういえば、眠る前に誰かの声を聞いた気がする。
「……どれくらい経った?」
その声の主に俺は質問する。
よかった。声は出すことができるようだ。
「初めに問うことがそれですか……。半年が経ちました」
くそ……。そんなに経ってんのか。
その事実を飲み込み、瞼を強く閉じる。
ヴィクトリア、サフィ、ミゼリア……。
ダルン、ファビッさん……皆は無事なのか?
「マジかぁ……」
魔王とあの姉ちゃんの戦いはどうなった?
崩壊した王都はどうなった?
反王軍はどうなった?
学園は? 王国は? 人間領域は? 世界は?
「順番にわかっていることから説明しましょう」
優しく俺を撫でる手の感覚。
閉じていた瞼を開くと、結構前に会ったチビシスターの顔があった。
「『お前』か……。なんかまた世話になったみたいだな」
崩れていた肉体の感覚が戻っていた。修復されていた。
手の指が動く。つま先までの熱を感じる。
だけど──
もう、一人カラオケはできなくなっちまったか。
まあ、しゃあねえな。
生きてるだけで儲けもんってよく言うだろ? 全然マシな状態だ。
だが、少し息苦しい。
物理的な苦しさだった。
それは、俺の口に“呼吸器のようなもの”が取り付けられているからだ。
だから俺の声もなんだかこもったものになる。
「それは大気中の魔素の吸収を抑えるための装置です。今の貴方は呼吸をすると毒を摂取する状態ですから」
それは……また難儀な体になっちまったな。
「マスク型に付け替えましょう。息を止めて下さい」
「ん……」
手際よくチビシスターは俺の口に魔法のガスマスクみてえなものを取り付けた。
「呼吸以外で吸収してしまった体内の魔素を消費させることで、このマスクは動いています。この循環が止まらない限り、貴方はこの地上で活動することができます」
サフィにつけられてたやつの軽い版ってことか。
呼吸するだけで死ぬとか、マジで異星に来た宇宙人だな。
俺は宇宙服を脱ぐと死ぬってわけだ。
「りょーかい。このマスクすげえな。
俺じゃここまでのは作れねえや」
今はいじれねえから、構造まではわからない。
でも、この機械に込められた技術は相当なものだろう。
「……んふっ」
──? いまなんか漏れなかった?
チビの顔を見ると、別になにもおかしくはなかった。
「では、説明を続けますね」
あ、はい。よろしくお願いします。
「王国は……
「────」
ああ、そうなったのか。
「窮地に陥った王国を救った英雄の名前は『アルテ・リルージュ』。圧倒的な力を持つ魔王は平和主義で人間にも優しいのだそうです」
「あの姉ちゃん……エルヴァリスはどうなったんだ?」
「不明です。アルテもあれから表には出てきていません。ですが魔王領が機能している以上、アルテを倒すことはできなかったと思っていいでしょう」
傷は負ったって感じなのだろうか。
半年もあればまた元気になってそうだけど。
「王国の中枢は学園都市に移り、元の王都は復興が難しい状態にあるようです」
「なるほど……」
「個人がそれぞれどこまで生き残ったのかは把握が難しく追えていません」
それは仕方がない。
逆に言えば、死んだって情報が無いのならそれでいい。
ちゃんと生きていてくれるのなら、俺はまだ折れずに走ることができる。
「……やはり、そんな顔をするのですか。あの子は本当に貴方を気に入っていたのですね」
「? なんの話だ?」
俺よりも小さい少女が頭を撫でてくる。
それはアイツが俺にしてくれたような撫で方によく似ていた。
「“もし平気そうにしているようだったら、けっこう落ち込んでいる。撫でればいい”──。
そう
「はは……あの野郎……」
頭の中でさえ触れないようにしていた事実。
俺を侵食していた悪い魔族が消えたということ。
俺を生き残らせる為に、一番嫌いな方法を選んだやつがいたということ。
「そろそろ体を動かしてみましょうか。さあ、起き上がってみてください」
少し考え込む俺にそんな声がかけられる。
拘束が外され、体が自由になった。
試しに起き上がってみようと思ったら、けっこう痛い。
「……っ」
「固まっていた体を動かすのです。痛みは最初だけ。頑張りましょう」
「うおお……リハビリかよぉ……。わかってるけど痛ぇんだよなあ」
呻きながらなんとか起き上がる。
その間もチビシスターは整体師みたいに、俺の体をほぐしていた。
人間の肉体構造をよく知っていると素直に感心した。
「つ、うあぁ……」
「半年死んでいたようなものですから、そうなって当然です」
筋肉が固まっているというよりは、新品過ぎて馴染んでいない感覚だった。
「はぁ……はぁ……」
「…………」
チビシスターに支えられながら、なんとか上体を起こして座った。
「……なんじゃここ。こんな場所あったのか」
そして、改めて周りを見てみるとそこにはSFチックなラボみたいな光景が広がっていた。
タッチパネルの操作盤。
何かを培養しているような巨大な水槽。
工場にあるようなでけえ機械。
魔法がある世界とは思えないような景色だ。
「これが……女神の遺産ってやつか?」
「私は生きています。勝手に遺産にしないで下さい」
「……いや、そういう言い回しやんけ。今更そんなこと言ってんのお前だけだろ」
冗談の通じねえやつだなあ。
「言って当然です。まったく……使い方の知らない人間にいじられるのは本当に我慢なりません」
「はあ……」
「貴方も私とアレがあったから肉体を取り戻せたのです。感謝して下さい」
そう言ってチビシスターは培養水槽を指差した。
……マジっすか? 俺ってもしかしてスワンプマン的な何かになったの?
「魂を元に肉体を生成するものです。貴方は貴方のままです」
「そうなの?」
「はい。予想以上に肉片が残っていたので、貴方の生成速度は上昇しました。あの戦いでよく残せたものです」
うーん……なんだろ? さっきから言葉のチョイスがなんというか……。
「というと?」
「本来は、“どうせアルテに喧嘩を売って殺されるだろう”と予想していました。あの子のお墨付きです。紅茶片手に呆れたように言っていましたよ」
…………あんにゃろう、許せねぇ。
「そして貴方の魂を回収して、ここで生成するというのが計画でした。きっとそうなっていた場合、生成に“5年”はかかっていたでしょう」
それは……まじでよかった。
そうなっていたら本当になにもできないまま詰んでいたかもしれない。
「嬉しい誤算ってやつか?」
「はい。
────また、そういう話になんのかよ。
「寿命……?」
「はい。私の肉体は“繋ぎの急造品”です。なので、機能も簡素なものしか搭載されていません。永久稼働などできず、魔物のように食物を摂取しなければなりません。
そして、保って
「じゃあ……本来、俺はあと4年半経った後に独りで目覚めることになってたのか」
「はい。情報は残し、私もできる限りのことはするつもりでしたが、貴方への負担は計り知れないものとなっていたでしょう」
それは……マジできつい。
こうして事情を知るやつが近くにいなきゃ、今度こそ諦めちまってた。
「“それでもルクスはやる”」
「……え?」
「……私もコーロンも、初めは反対しました。人間の幼体に負担をかけすぎではないか、と。
しかし、あの子は……貴方がフィフと呼ぶ子は意見を曲げませんでした」
フィフ……。
お前は本当にどこまで持ち主に苦労させる安物剣なんだよ……。
「これを」
「────!」
チビシスターが渡してきたもの。
それは空っぽの剣だ。
たった500ロルドで買ったセール品。ガキのおもちゃだ。
でも、俺の宝物だ。
今後絶対に手放すことのない大事なものだった。
「拾ってくれたのか……。
「……んふふ」
「…………」
結構キテるシーンなんだから、そのキモイ笑いやめてくんない?
チビはニヤける顔を必死に隠していた。
「こほん」
「はあ……。で? お前らの目的はなんなんだよ? 何を俺にさせる気だったんだ?」
剣を抱えて俺がそうやって問うと、チビは真剣な表情になった。
「大前提として、私があの子に注意されたことがあります」
「なんだよ」
「“ちゃんと説明して、選ばせてあげてほしい”。それがあの子と交わした約束の一つです」
お前ってやつは、本当に俺のことをわかってんだな。
「“説明しないと勝手に調べ始めて突っ走るから厄介”。“そのくせ理解力はあるから中途半端に知って痛い目に遭う”。“本当に馬鹿”」
訂正。なんもわかってねえわ。
あの駄剣は許さん。
「ふふっ、どんな表情なのですか? おかしな子ですね」
からかうようにこちらを見るチビ。
マジでウゼー。
「さて、それらを踏まえた上で真面目に話しましょうか」
宝石のように輝く緑色の瞳が俺を射抜く。
ここから先はきっと嘘も誤魔化しも通用しない。
まあ、いいだろう。最初からそんなつもりはねえしな。
「“
「するわけねえだろボケ」
「……なるほど」
俺の即答に面食らったような顔をするチビ。
もうそんな段階じゃねえんだよ。
散々迷ったあとなんだからな。
足の震えが消えたあの瞬間、俺はこの世界で歩き続けると誓ったんだ。
「その高潔な意志に深く敬服いたします。試すような真似をしてすみませんでした。……ですが、いつもその道が貴方にはあるということを忘れないで下さい」
はいはい。わかってますよ。
俺が手を振って“いいから続けろ”とジェスチャーをすると、チビは溜め息をついた。
そして、無表情で言葉を紡ぐ。その声に感情はこもっていなかった。
「私たちの最終目的は──“
それを聞いて、俺は簡単に頷くことはできなかった。
「…………できるのか?」
「はい。結論から言えば可能です。まず──」
「ちげえよ。……お前らって知り合いなんじゃねえの?」
「──! …………」
俺にそう言われたチビは、一瞬ではあるが表情を曇らせた。
お前らも、アイツも、お互いを語る時がある。
なんというか、すげえ気安いんだよな。
そう、それはまるで──
「はい、
言い切るほどの仲なのか……。
「それでも、討伐するのか?」
「貴方が気にすることではありません。魔王が消えるのですよ?」
こりゃ、俺も手伝わなきゃ駄目だな。
よし、俺のやることは決まった。今、決めた。
俺は言いたいことを全部飲み込んで、話を続ける。
まあ、あの魔王は嫌いだから、痛い目見るのには賛成だしな。
「わかったよ。それでどうするんだ?」
「ある力を集め、“人間連合を再び機能させます”」
連合の復活。それのもたらすものには注意しなければならない。
「…………」
「……貴方が警戒するのもわかります。ですが、今回の目的はアルテの討伐。前回のような大戦争は引き起こす必要はありません」
少し気まずそうにしながら、チビシスターは語った。
俺が知っている前提で話している。
ならお前らがやったことに間違いはねえってことだ。
「……人間を救った魔王は、連合の誕生を表向きは喜ぶしかない」
「はい。あの子が友好を振り撒くのなら、こちらもそれを利用するまでです」
「人間をまとめあげられたとして、魔王を具体的にどうやって倒す?」
アルテは生物としてのスペックが格段に違う。
さらにはアイツに対して魔法を使うことができない。
人間全員で立ち向かってどうにかなるとは思えない。
「そこで、先ほど言った“ある力”です。その内の一つを貴方は見たはずです。
──『
「……
4つ存在すると言う破格の武装。
四選英と呼ばれる英雄が持つもの。
エルヴァリスの持っていた『神尾ナムンカーラ』。
そして、残りの3つ。
「はい。残りがどこにあるのかは把握しています。聖国に二つ、魔王領のとある地方に一つです」
おお、わかってんのか。さすがの女神様。
詳しいことはまたあとで聞こう。
アメリカに二つあるって言われても、それどこだよって話だしな。
「じゃあ、まずはそれを集めにいかなくちゃいけねえのか。
全部揃えばアルテを倒せる。……そう考えていいのか?」
「必ずではありません。“アルテと同じ場所に立つことができる”──と考えてください」
なるほど。
でも、土俵が違いすぎることはなくなるのか。
それはとてもありがたい。絶対に集めたいな。
「聖国から行くのか?」
「そう考えています。もう一つの目的もありますから」
「もう一つ?」
「はい。……その説明の前にあなたの体について話があります」
魔素を吸収できないのと、魔法が使えなくなったこと以外にまだなにかあるのか?
「今の貴方の肉体は必要最低限のスペックで作成されたものです。今のままだと途中で限界を迎えます」
「……マジか」
ほんと生きにくいな、この世界はよ。
「そこで選択です。この場所でメンテナンスを重ねて活動時間を増やして、私の寿命が尽きるギリギリで、行動を開始する。
または、その状態でスタートして、道中で不確定のメンテナンスをしながら行動するかです」
なるほど。
今の状態は生成速度を優先しただけであって、メンテナンスってやつを繰り返せばある程度は元気になれるのか。
ここで十分休んでから行く場合、このチビの方に余裕がなくなる。
今すぐに行動する場合は、俺の方に余裕がなくなるわけか。
「メンテナンスってのはこういう場所じゃないとできねえのか?」
「いえ、私がそばにいれば可能です。ただ、施設があれば回数は少なくて済みます。
不確定だと言ったのは、施設が残っていない可能性があるのと、聖国で落ち着く場所があるかどうかわからないからです」
コイツってなんか真面目なんだな。
フィフとの約束を律儀に守ってやがる。
俺を放って、勝手に進めてもいいのにな。
もしかして、俺をこの状態で一旦目覚めさせたのも選ばせるためか?
「…………」
その選択について考える時間はそれほどかからなかった。
俺が思考を割いたのは、目の前の小さな少女の皮を被った存在についてだ。
急かすこと無く俺の言葉を待っている。
人間の、魔物の……下等生物の意見を尊重しようとしている。
そんなヤツなのに。
そうできるヤツなのに。
────どうしてお前らは、“支配”を選んじまったんだ。
「今すぐに行こう」
「わかりました」
ほっとしたように、チビは返事をした。
俺は一旦考えを隅に置いて、次の説明を待った。
「聖国から行く理由について、さらに説明します。
まず、人間領域であること。戦争で疲弊しているため、ある程度の自由が利くこと。
そして────聖都から『天界』へのアクセスができるからです」
天界。
女神が住まう場所。
巫女たちはそこに住む女神の声を聞いて、地上に広めていた。──と言われている。
「天界って実際はどういう場所なんだ? フィフは冥界がどうたら言ってたから、天界もあるにあるんだろ?」
「空を越えたその先。天空の遥か向こうに浮く島だと言えばわかりますか?」
それって衛星的な話か?
つまり、天界っていうのは宇宙でいいのか。
「まあ、なんとなく。どうやって行くんだ? エルヴァリスみたいに空を飛べばいいのか?」
「……どうして人間にこの話が伝わるのです? 聖都に“昇降機”があるのです」
「軌道エレベーター!? いきなりぶっ飛んだ文明出してくんなよ」
改めて『女神』の技術やべー。負けんなよー、地球さん。
「…………」
「どした?」
なんかチビが呆れたように固まってやがる。なんやねん。
「いえ……。あの子の言っていたことは本当だったのですね」
「あ? 今度はなに言ってやがったんだアイツ」
「そして、
「おい」
なんかめんどくさくなってんなこの野郎……。
諦めて俺はチビの言葉に耳を傾ける。
今のところコイツの説明はわかりやすく、丁寧だ。
外見のせいもあるが、とても魔族には思えない。
しかし、それはコイツが
自分が人間に敬われるにはどうすればいいのか理解しているのだ。
「────天界に眠る“私の本体”を目覚めさせます」
「…………え?」
真剣な表情だった。緑色の瞳に一切の揺れは無い。
それは宣言だった。
そうだ。コイツは言った。──“人間連合の再起”を狙うと。
「……アルテにぶっ飛ばされたって話は? 首チョンパ喰らったんじゃねえのか?」
「あれは魔族としての肉体でした。特別製でしたがアルテによって破壊され、私は本体へのアクセス権を失ったのです」
「天界に向かい、直接本体を起動し、全文明を掌握。
そして、巫女と戦乙女を再生産し、ネトス教の威信を取り戻します」
そう告げるチビは俺を見る。
アルテの討伐。
人間連合の再結成。
そのために、聖国に侵入し神芸品を集め、聖都から天界へアクセスし女神を再臨させる。
あくまで白髮の少女は俺に選ばせる気のようだった。
だって、話す必要がない。
俺がそれは嫌だと言えば、やめてくれるのかもしれない。
だが、選択肢はあっても、一択しかない。
別れ道があっても、近道をもう知っている。
「……なにが選ばせるだ。わかって言ってんだろ?」
「……
なんとか立ち上がり、俺は地上を支配した存在と向かい合う。
俺を見る瞳に揺れはない。
しかし、その心には怯えがあった。諦めがあった。
俺が気に食わないのは、コイツが選択を強制することに罪悪感を持っていることだ。
俺はたしかにお前らのやっていたことは良くないと思っている。
でも、俺は“お前ら自身”を見捨てられない人間だ。
この女神は、あの時アルテが言っていたように、俺を“
ムカつく。マジで腹が立つ。
「……一つ約束してたことがあってさ。先に謝っとくわ」
「……約束? ────ッ!?」
チビが胸を押さえてうずくまった。
……やった。やっちまった。
「けほっ……。……な、なにを……っ?」
「
ふらふらだったけど、俺は少女に拳を振るっていた。
……う、うるせえッ!! ここは地球じゃありませぇ~ん!! 苦情は受け付けませぇ~~ん!!
「やりとりがめんどくせえんだよッ!!」
「……?」
意味がわからないという顔をしてチビが俺を見上げる。
「『頼む、協力してくれ』。そう言ってくれればいいんだよ!!
なあ、最初会ったときに俺が貴方に言ったこと覚えてるか?」
「…………」
「幼い俺は貴方に命を救われてるんだよ。しかも、また救われた!
昔の貴方もそうだったのか? 人間に
「…………っ」
「“女神様”ッ!! なあ、しっかりしてくれ!」
震える少女の肩を掴む。
悪役に徹しようとしているアホに訴える。
俺にそんな態度を取るのはやめろと。
「…………うぅっ!!」
────あれ?
「うああああああああああああああああああああああっ!!」
「うぎゃっ!?」
大泣きし始めたぞ、コイツ。
──今気づいたけど、絵面やばくね?
“女殴って泣かした男”なんですけど……。
「うう……。ぐす……っ。ひっく……っ」
「あの……その……」
ちゃ、ちゃいますや~ん。コミュニケーションですや~ん。
ちょっとムカついてやっちまっただけですやん。
はい、すみません。
「うあああああああんっ!!」
「ひいっ!?」
抱きつかれて支えきれず倒れてしまった。弱すぎだろ、この体。
やばいやばいやばいやばい。
どうすればいいの? 助けて、フィフ!!
「じゅるるずずず……」
「汚えええええええッ!!」
女神汁汚すぎ。コイツわざだろ!!
「ううぅ……っ」
「…………」
あの夜の、あの教会を思い出す。
あの時もこんな感じだった。
どうして、コイツは女神などという御大層なものになろうと思ったのか。
12年近く罵倒された“最悪な女神”にどうしてまたなりたいと思うのだろう。
あーあ……。
世界さんよ。
どうしてこんなめんどくせーヤツばっかなんだよ。
綺麗な白髪を優しく撫でる。
少女の体重はとても軽い。でも、──とても重い。
それはきっとこの少女の抱える罪と責任の重さ。
しょうがねーなー。
増えたタスクに溜め息をつきながら、俺はその少女を抱きしめた。