聖国の南西部をうろつく俺たちは、やっと大きな街の近くまでやってきた。
その街の名前は『ナール』。ルイナ曰く交通網の発展したところらしい。
聖都までは列車的なものに乗って行けるのだが、そのナールにターミナル駅がある、とのこと。
「…………っ」
「どした?」
双眼鏡みたいなもので遠くを見ているルイナが少し驚いたような反応をしていたので、声をかける。
ルイナが見ているのは、遠くに見えるナールだ。
俺の目にはぼんやりとしか見えない街並み。それに何を見つけたのかは知らないが、きっとろくなものじゃないんだろう。
それは、コイツの息遣いでわかっちまった。
いつもの味気ない食事をしながら、俺たちは草原の岩山に座って休憩している。
「……いえ。かなり、街並みが変わっていたので……」
「十年以上経ってりゃ、そうなるんじゃねえの?」
「それは……。はい……」
ちなみにルイナはアルテにやられてから、聖国を直接訪れてないらしい。まあ、隠れなきゃいけねえなら当然か。
直接と言ったのは、多分、コイツはインターネット的なものにアクセスして、調べることはできたんじゃないかと思ってる。
各国に配置された教会、そして、『女神の口』。
女神の言葉を発したのが巫女と呼ばれる存在であり、女神の言葉はどんなに遠く離れた地にも届いた。
大戦争の際は、一言一句
本体とやらが中心となり、巫女という端末同士を繋ぐ。そういうものだったのだろう。
終戦間際、一斉に巫女が倒れたのがその証明だ。
おそらくアルテによって、ハッキングみたいなのをされたんじゃないかと思う。
『本体へのアクセス権を失った』と言っていたことからも、その推測はできる。
「塔まで折れているとは思いませんでした……」
「塔?」
俺が聞き返すとルイナは持っている双眼鏡を貸してくれた。
あとついでに使い方も教わる。
双眼鏡って言っても、一体型のゴーグルタイプでかなり未来感がある。
これも
「すげえ、めっちゃ鮮明だ! これどこまで見えんだ?」
「くひゅっ……。可視光が捉えられるのならどこまでも、ですよ。街の中心あたりを見てください。そこに少し細長い建物がありますよね?」
距離無限はやばすぎだろ。しかもめちゃくちゃズームできるし。
そして、ルイナに言われたところを見てみると、たしかに塔っぽいものが折れていた。
いや、折れたというよりは崩れたように見える。それにあちこちに穴が空いていて、ボロボロだった。
東京タワーの足だけが残ってる感じ。
もしかすると、本当に電波塔の役割をしていたものなのかもしれない。
「…………」
ナールの少し別のところを見てみると、その理由がわかった。
屋根のない家。
ひび割れた道路。
瓦礫の山。
そして、ボロボロの人々。
破壊の爪痕がしっかりと街には刻まれていた。
「……魔族に襲われたのか?」
自分でも露骨だと思うほど、俺は外した推測をした。そんなわけがあるはずないのに。
建物に見えるのは爆発の痕跡。殺意を以て空けられた数々の穴。
それを認識しておきながら、俺は答えを出すのをためらったのだ。
「いいえ。人間同士の内乱です。……重火器の制限を設けなければ、こうなるのは当たり前ですね」
ルイナは冷静に、それこそ冷たい表情を宿しながらそう回答した。
“やっぱりこうなったか”──と。
「列車は無事なのが救いです。そこを避ける理性を持っていたのか、偶然なのかは知りませんが……」
落胆したような顔をしながら、ルイナはカバンを漁り始めた。
「反王軍が残ってるとかか?」
「……いえ、おそらく……まあ、行けば多少なりとも情報は掴めるでしょう」
「……ああ、そうだな」
屈むルイナの後ろ姿には、なんとも言えない感情が宿っていた。
俺は再び双眼鏡で街の様子を眺め続ける。
それこそ“女神の目”を持った俺の視線の先に広がるのは、ただ悲しく、虚しいだけの風景だ。
崩壊した王都を思い出す。
あのときは必死すぎてあまり意識していなかったけど、やっぱりこういうのはイヤだなあ。
きれいな石造りであったはずの壁には“赤いインク”が乾いたような跡すらあった。
王国もヤバいと思っていたけど、ここも相当だな。
「──ルクシア、これを」
ルイナが手に持ったものを俺に渡してきた。
「……かっけえな」
「……気に入っていただけたならなによりです。そんな顔をできるなら、制限機能は付ける必要はないですね」
それは武器。命を奪う冷たい物体。
何故か俺には安物の剣よりも重く感じた。
めちゃくちゃかっこいいリボルバー銃が俺の手にある。
異世界でも銃ってこの形になるんだな。
いや、でもルイナが自分で持った銃を見ると、ファンタジーオートマ式のものだった。
刻まれた術式を軽く見ただけだが、鬼畜母ちゃんが使っていたゴーレムアームの構造と似ている。
土魔法で弾丸をそこら辺から作り出して、装填できる仕組みなのだろう。
ハディア・ハピフクス────。
『ハピフクス』の本家はこの聖国にある。
あの人のもの作りの基礎はこの鉄筒から来ているのかもしれない。
「撃ってみてもいい?」
「? どうぞ。そこに指を……」
「ああ、なんとなくわかるからいい」
「……え」
座りながら、ひょろひょろの手で持つ。
シングルアクションのリボルバー! 中々いい趣味してるよな。ルイナのデザインなのだろうか。
ハンマーって呼ばれてる後ろの部分をカチッとおろして、引き金に指をかける。
狙いを少し先の木の枝に定めて、引き金を引いた。
大きな音がして、煙と火の匂いがする。
なんとか反動には耐えられたが、少し腕が震えてやがる。うーん、貧弱。
映画や動画でしか見たことのない代物だけど、想像してた感覚通りだった。
弾丸は木の枝をかすっただけだ。少し上にズレた。
今度は撃ち方を変える。
いま俺の指は引き金を引いたままになっている。
ここで指を戻すと、もう一度さっきの動作をしなくちゃならねえけど、このままの状態だとハンマーをもう片方の手で操作するだけで撃つことができる。
西部劇の早撃ちの要領だ。
俺は右手で持った銃で狙いをもう一度つけ、左手でハンマーを叩いた。
──木の枝が飛んでいく。自分の中でだいたいの狙いの感覚は掴んだ。
まあ、こんなもんか。実践じゃもっと早く操作しなきゃな。
「……制限つけた方がいいですかね?」
「前言撤回早すぎねぇ?」
クルクルと銃を回していると、呆れたような顔でルイナがそんなことを言ってきた。
なんでやねん。渡してきたのはお前やろがい。
「はあ……。威嚇用にと思い、渡せば一線級ですか……。貴方の得意分野はどこまで多岐にわたるのか、想像もつきません」
「使えて損はねえだろうが。それにこれって、結構いろいろできんだよねー」
「いろいろ?」
「うん。こんな感じ! ほりゃっ!」
銃を大袈裟にくるくる回す。ガンスピンってやつだ。
石の上に立って、ガンマンショーを始める俺。
最後に、一発派手に撃って、銃口に息を吹きかけながらポーズを決めた。
ガンシスター・ショータイム!!
「どうよ?」
「……なにをしてるのです??」
口元を引くつかせて、半目になっているルイナの反応が冷たい。
俺の渾身の演舞が理解できないらしい。
ほんまコイツらはこういう情緒がねえなあ。
「かぁ~~ッ!! 拍手の一つくらいできねえのかよ!!」
「拍手? なぜ……?」
本気で困惑してやがる。まあ、そうだよな。
休憩を終え、俺とルイナはナールの街へ向かった。
到着したその街の状況は酷いものだった。
道には汚水が漏れ出し、山奥の村以下の生活インフラ。壊れた水道から吹き出した噴水に集まる人々。
治安も悪く、物乞いがあふれ、裕福な人物は家にこもっている。
怪我人が多く、悲しみに暮れて動ける人も少ない。
とにかく雰囲気が最悪だった。
俺たちはルイナが持っていた飲料水をちょびっとずつ配りながら、情報収集を行ってみた。
さっそくシスター服が役に立ったな。なんかすごく感謝された。
もぐりもいいとこなんですけどね。
「ありがとうございます……!」
「んふふふふ」
その間、ルイナはずっとニヤついてご機嫌だった。
……ある意味で、あの精神性は本当に救済者なんだよなあ。
褒められたいという欲求。他者からの評価で自分を満たす。
でも、どちらかと言うとその根本にはアルテと似たものを感じて俺は難しい顔をするしかなかった。
この惨状の発端はネトス教の原理主義者たちだったらしい。
現在、聖国には聖王と呼ばれる統率者が置かれている。
そして、それの象徴となるのは青色。
聖王を推す一派は、青と白を象徴としているネトス教の再編を図った。
つまり、あらゆる宗教施設の白色の部分を青色に塗り直そうとしたのだ。物理的に。
それにブチギレた昔ながらの色を維持したい人たちが、青色の信徒を殺してしまったらしい。
「は……。それも誰がやったのかわからないものですが……」
それを聞いたルイナの反応は淡白なものだった。
新しい神を作り上げようとする青色に怒るわけでもなく、未だに自分に執着する白色に同情することもない。
ルイナは────ただ
自分の作ったものを壊されている。それも与えられただけの人間が壊したのだ。
その心を俺が完璧に理解するのは難しい。
一抹の寂しさのようなものをルイナの背中に見ていた。
「……で? 貴方は何をしているのです?」
「ん?」
「わあ、お姉ちゃん、もっとやって!」
「さっきの!」
「ママ! 私もアレ欲しい!!」
俺の周囲にはガキンチョの群れができていた。
現在、俺たちがいるのは街で一つだけ機能していた医療施設の近くだ。
ここでは現在炊き出しを行っており、親子連れが多いのだ。
疲れた親御さんたちが食事を貰いに行っている間に暇そうにしているガキに話しかけていたら、こうなっていた。
「うっしゃ、行くでー! あちょー!!」
俺はガンスピン技術をさらにここで伸ばしていた。
撃つ方を伸ばせよ、と自分でも思うが。これが中々深い。
魅せ方を考えるといろいろあるのだ。
右手から左手に移動させ、また戻す。ヌンチャクを振り回すように速度を上げる。
さらに後ろに投げて、後ろ手でキャッチ!
これが子供たちにめっちゃウケている。
俺はもうノリノリでするしかないのである。
ガンシスター・ルクシアのワンマンショー。
スポンサーであるルイナ様は、相変わらずの呆れ顔である。
片や伝統的な巫女スタイルで恵みを与える少女。
片や拳銃を振り回して踊る狂う女装野郎。
……うん、ごめんて。でも、やめどきも見つかんねえんだよなー。
この陰惨な景色の中に、不釣り合いの笑顔が今ここだけには広がっている。
それを消したくないと思ってしまうのは、傲慢だろうか。
「うるせえぞ!!」
「!」
大声で怒鳴ってきた男がいる。明らかに酔っていた。
その瞳の奥底には悲しみがある。
“空気を読め”と当然の苦情を放ってきたのだ。
投げられた酒瓶。
このままでは俺に直撃だ。
「あぶねえ!!」
「姉ちゃん!!」
“お客さん”の目がこっちに向いている。──いい演出が来たな!
俺に放り投げられた酒瓶はそのまま俺の後ろ、壁の方へ向かっていった。
「────!?」
「えっ!?」
全てを失っても俺に残されたもの。
あの甘えん坊の亡霊との絆。
飛来するものに対応する、第三剣術の技の一つ。
「【
俺の右手に握られた剣が酒瓶を縦に切断していた。
「ほっ!」
さらに俺は剣を上へ放り投げ、後ろへくるっとターンした。
耳を失った俺は自分の目を信じるしかない。力を失ってなければもうちょっと演出できたんだけどなあ……。
パパンッ! と銃声が鳴ってから、瓶の割れた音が
そうしてまた俺はガンスピンとターンをしながら振ってきた剣をキャッチ。
そんでテキトーにポーズを決め! 散らばった酒瓶の破片が光をキラキラ反射させて、いい感じだ。
「…………」
「…………」
あれ、静かになっちまった。けっこうよかったと思うんだけどな。
聖国ってもしかして拍手とか苦手……?
「すごい!」
「おおおおお!」
「お姉ちゃん!!」
子供たちには大盛況だったんだけど、その親とか遠巻きに眺めていた人にはウケなかった。
予想外に盛り上がらず少し凹むわ。
「えー……思ったよりダメだった?」
「…………」
隣を見ると、そこにはお怒りの女神様がいた。
「……え? なんでそんな顔してんの?」
「貴方は……。いえ、動きやすくはなったでしょうから、もうどうでもいいです!」
「なんか冷たくない……?」
長い長い溜め息をついたあとに、ルイナは俺の手をとって歩き出した。
「あっ! お姉ちゃん!」
「行っちゃうの?」
「んじゃーなあ! 元気に生きろよ、ガキども! 生きてりゃまた見せてやるからなー!」
「うん!!」
「ばいばい!! シスター様!!」
子供たちに手を振り返す。
死ぬ必要なんかねえんだ。本当に。──だから、また会おうな。
◆
「……まったく、
「んー?」
大きな駅に着いたらルイナがそんなことを言ってきた。
さっきはしゃぎすぎて、俺は杖をついていても倒れそうだった。
「また無駄に体力を使うからそうなるのです……。いえ、貴方のあの振る舞いのせいで追跡者がそれだけいるという話です」
追跡者……?
俺たちに?
「魔族ってこと……?」
「違います。“白色以外”……というところでしょうか」
原理主義者以外が俺たちを監視している。
それは俺たちがこの街で問題を起こした連中の仲間だと思われているということだろうか。
「さっき目立ったからってこと?」
「簡単に言えばそうです。データのないシスターの格好をした人間があんな技術を持っているのです。警戒して当然でしょう」
「ふーん。だとしてもわざわざ監視するほどなの?」
「私の格好もあるでしょうね。巫女と戦乙女のペアに見えますから」
戦乙女って……。わたしゃぁ……男だよ!!
「あのー……ちなみに厄介だったりします?」
「むしろ好都合です。このまま進んでいけば、いずれあちらの方から情報を持ってきます」
そっすか……。頼もしいですね。
いいドヤ顔ですこと。
「いやあしかし……ここはきれいなままなんだな」
ナール駅は特に争いの跡はなかった。
家を失ったであろう人々が寄り添って生活しているが、建物自体にダメージはない。
「……
「まあ……そうっすよね」
ここは傷つけないように争っていたということだ。
そんな理性はあんのに、街は壊していくのかよ。
「『黄色』だっけか……」
「はい。人間が私の技術を独占したところで、活かせるはずもありません」
心底吐き捨てるように、ルイナは呟いた。
街での会話や情報を得てわかったこと。
今、この国はネトス教の派閥の対立で疲弊している。
最悪すぎるだろ。
青、白、黄、赤。
四色の派閥の争いは聖都から国中に伝播してしまったのだ。
教会──いや、信徒が権力を持つこの国でそれは一番やばい。
ルイナがいた頃とはきっと勢力図も変わっているはずだ。
女神の再臨だけで、果たしていいのだろうか。
「こっちですよ」
「ういー」
改札的な場所を越えていく。ルイナが触っている場所のゲートは開きっぱなしになっていた。
チケットいつの間に買ったんだアイツ。
ちらっと受付的なものが見えたので、料金表を見てみた。
……ひえっ、運賃高すぎだろ。片道で50万円くらいの価値があるぞ。アメリカで西から東へ移動しても20万しねえよな。
ん? でも、すげえ安いプランがあるな。
ああ、信徒になると安くなるのか。
司祭とかでも2万円になるってことは、表記されてないけど、それ以上はタダなんだろうな。
後ろを見ると、信徒の集団がシンボルを提示して機械でスキャンすることで、受付を済ませていた。
なるほど。あれってそういうアイテムでもあるのか。
いろいろ考えながら進んだ俺を待っていたのは、近未来が現実になったような光景だった。
「おお!!」
大都市の駅に入った感覚だ。
俺は懐かしさと、旅行に来たようなテンションになってしまった。
外の光景とのギャップがさらにそうさせたのかもしれない。
「……さっきと同じ人間とは思えませんね」
「ん?」
「いえ。こちらに」
ルイナについていくと、列車が見えてきた。
俺たちが乗り込もうとしている車両の大きさが半端じゃない。縦にも横にも広いぞ。
「でけええええっ!! なんじゃこれ、何人が乗れるんだ?」
「うるさいですね……。隙間全てを埋めれば、軍隊は運べますよ。それに今は人間しか乗せていないようですが、戦時中は兵器も運びますから大きくなくてはいけません」
すげえなあ。
「自動ドアだ!! ふへええええ!!」
「…………」
ばたばたとしながら、中に入り席に座る。
窓の外には別の車両が見える。
その下部分を初めて見た俺はさらにテンションを上げた。
「うおおおおおおおお! すげえ!! レールやんけ! モノの方だけど。これ何で動くんだ?」
「……後で説明しますから、ホントに黙っていて貰えます? 恥ずかしくてしょうがないんです」
「んだよ、ワクワクのねえヤツだなあ。あーあー、これがフィフだったらなあ~」
「……私があの子よりもノリが悪いと? 舐めてます? 私は常識的なこと言っているのです。わかります?」
「うるせえな~、ちょっとは黙ってられねえの?」
「──ぐぎ……がぎ……ッ」
「こわ」
なんか女神様がおかしくなっちゃった。
どんだけ怒ってんだよ。別にいいやんけ。
ぱっと見たけど、迷惑になっちまうような他の客なんていねえだろ?
利用する奴らだいたいが信徒で専用の車両があるようだし、わざわざ50万円──この国の通貨だと2500ラーコ払ってまで聖都に行く一般人なんて────
「……!」
──いや、いたわ。しかも通路挟んだ近くやん。
女性客が一人だけいた。すごく一般的な服装の黒髪の女性だ。
電車で爆睡してるすごく疲れたOL感がする。……なんかすごい親近感湧くぜ。
でも、あの人も50万円払ったのか。お金持ちだけど、信徒じゃないってことかな。
それにしても、ルイナは二人分で100万円払ったってことか?
「ていうか運賃めっちゃ高かったな。お前結構金持ち?」
「…………そうですね」
なんか露骨に目を逸らしやがった。
「……何その顔。え? 嘘だろ? ちゃんと買ったんだよね?」
「信徒が割引なのですから、無料に決まっています」
「……あのー?」
え? 邪神がなに言ってんだ?
俺が目の前の存在にドン引きしていると、列車は発進してしまう。
重力を感じない、すっとした感覚だった。揺れもない。
これは反重力系の技術なのか? やっぱ聖都周辺の技術はやべえな。
「ふ……第一関門突破ですね」
「コイツマジかよ……」
なんか言ってるよぉ……。またツボしばくぞ。
はあ……お前も俺のことなんも言えんだろ。
「俺の信仰心が今後増えることはねえな」
「は? 誉めてください。甘やかしてください」
「そういう流れになる要素あった?」
まーた始まったよ、褒め褒め要求。
すごいけどすごくねえんだよな、ルイナって。
勉強できるバカってヤツ?
魔族と人間の違いって言われればそうなんだけど、なんかなあ……。
その点で言うと、他二人はある程度そういうことはわかっていた気がする。
ぐちぐちとルイナと喋っていると、制服を着た人がこの車両に入ってきた。
その人はまず俺たちの席に来て、こう言った。
「えー、
うん……。終わりやね。
「……ルイナ?」
「────そんな馬鹿な……」
頼りの女神様はこの世の終わりみたいな顔をしていた。
えー、魔王を倒す旅は無賃乗車により終了です。
「あの……? どうされましたか? チケットを……」
マジでどうしよ……? 降ろされるだけならいいけど、逮捕とか洒落にならんぞ。
「…………」
っておい嘘だろ?
目の前の女神様が服の中に手を入れてやがる。それが掴んでいるのは銃だ。
こいつそれをマジでやる気なのか?
「ルイナ──!」
焦りまくった俺の声は落ち着いた声にかき消された。
「ああ……申し訳ありません。この子たちは私の連れでして、チケットは私が持っています。購入履歴でいいですよね?」
「え……?」
優しげで、温かく感じる声。
けれど、同時に諦観と疲労が隠れていた。
俺はその女性に対して、感謝よりもまず興味を持ったのだ。
貼り付けられた笑顔に宿った感情は色が濃すぎて、なににも影響されることはない。
例えるのなら、その色は『黒』。
その旅人との出会いもまた必然だったのだろう。