プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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14話 相棒

 

「では行ってくる」

 

 そう言ってまたアホ野郎は出かけた。今度帰ってくるときこそ“準備”ができたときなのだろう。

 

「いいでしょう。後は自主練をお願いします」

 

「あざっしたぁ…」

 

 三人によるイビリも一段落ついたようで、新しいことは教えられていない。まとめと復習のみになってきた。

 

 一番おもろい剣の鍛錬も、型を覚えきった後はつまらなかった。ヴィクトリアを煽って戦ったときが一番楽しかったなあ。

 

 構える。剣術とは決まった動きがある。初代武帝が作ったものがその原型らしい。

 

 五つ存在するそれは相手や状況によって使い分ける。

 ヴィクトリアとやったときに使ったのは対人剣術「ヨフォー」。

 他は対魔獣、対魔族、防御、暗殺などだ。

 

 今の世でメジャーとなるのはこの「ヨフォー」だろうな。だけど、いちいちこんな型なんて気にしてられるのか? そう思う。

 この剣術は言ってしまえば、ルールありのお飾り用だ。打ち方と払い方が決まっている茶番だ。

 

 なにか、行き詰まっている。そうしたもやもやを俺は抱えている。

 

 

「よろしい。昼食の準備はわたくしがやっておきます。それまでお休みを」

 

「かしこまりました。失礼いたします」

 

 メイド業? 完璧よ? どういうこと?

 

 暇なので部屋で工作しながら時間を潰す。

 

 ある程度の社会常識を教えられ、家事の方はもう慣れてしまったので、これが本業になっている。表では禁止されているが、魔法を使った家事を許可されているので結構楽だ。

 魔法使いのメイドは結構稼げるのだとか。こりゃあ、ワンチャン…ねえな。

 

 

『ふむ。一興として申し分ないですな。どこかで披露されてみては?』

 

『いやだよ』

 

 ジジイといる魔法訓練用の部屋で、俺は“ライブ”をしていた。

 

 ヴィクトリアとはしゃいだ後、鬼詰めされ、一人カラオケをすることになった。それを何故かコイツは気に入って、訓練と称して公開処刑をさせられている。くそが。

 

 ……実は結構楽しかったりする。

 

『しかし、面白い。声を変えることをこういうふうに使われるとは』

 

『あん? なんか違う使い方があんの?』

 

『ありますとも。特に相手の指揮官を暗闇に招待するときに』

 

「ぴっ!?」

 

 笑顔が怖すぎる。確かに仲間の声を真似してくる敵がいたり、指揮の混乱の為にあちこちから違う命令が飛んでくるようにするって考えるとヤバイ。

 

 気をつけねえとなあ。俺も他人事じゃねえ。

 

『ゴーレム魔法の方は間に合いませんな』

 

『ですよねー。もうちょっとな気がするんだけど…』

 

 俺の後ろには不格好な人型の土人形がある。一体はなんとか形を保っているが、他はバラバラに砕けていた。

 こいつらをバックダンサーにしてえんだけどどうにも上手くいかない。

 

 音楽の調整とコイツらの操作で頭の中がごちゃごちゃになっちまう。ハイパーソロライブの完成はまだ遠い。

 

『初心者がやるにはだいぶ高度ですからな。下手をすればゴーレムナイトより難しい』

 

『くそー』

 

 ジジイの使うゴーレムは戦闘特化のキレキレ。無理矢理戦わされたときは地獄だった。前衛の土騎士にボコボコにされてんのに、後ろからジジイの魔法が飛んできやがる。

 

 ブチギレてゴーレムをぶっ壊して、なんとか接近したらジジイの剣でボコられた。なんで近接も強いのん? この人本業なんなの?

 

「こっちは余裕なんだけどな」

 

 俺が魔法を使うと、生き残った一体が動き出しお辞儀をする。

 さらに俺が反射光を操作すれば、その姿は大人のお姉さんメイドになった。

 

 美しい…。芸術点が高すぎる。

 

 メイドちゃん0号。黒髪ロングのコイツは孤児であったメイドリエーニの生き別れの姉であり、最近再会を果たした、という脳内設定も完備している。

 

『ゴーレムは使用者の慣れに影響します。リエーニ様の普段の行いがそのまま現れているだけでしょうな』

 

静粛(せいしゅく)な完璧メイドってこと??』

 

小賢(こざか)しい偽装が大得意、ということですな』

 

「……、いてっ!?」

 

 風で殴ろうとしたらカウンターされた。なんでお前が成長してんだよクソジジイ。

 

『忘れたわけではありませんな。この間の事件を』

 

『すいやせぇん』

 

 それはメイドちゃん1号による替え玉作戦の時だ。

 メイドちゃん1号はメイドリエーニの双子だという脳内設定がある俺のそっくりさんだ。

 

 ソレに中庭の世話を任せ、サボろうとしたのだ。しかし、油断した拍子に操作を誤り、1号の首が落ちてしまった。

 そんでたまたまそこを通りがかったババアが悲鳴を上げた。

 

 その後は、まあ、察してくれ。久しぶりの地下送りはきつかったぜ。

 

『役立ちそうな技術ですから、禁止にはしませんが。よくできましたな』

 

『あん? できねえの?』

 

『ワシが作ろうとした場合、表面の材質までは誤魔化せません。衣服を用意したとしても、顔は隠せませんからなあ…。潜入捜査が楽になりましょう。どうしてあと10年早く生まれなかったのですかな?』

 

『無茶な。そして、発想が物騒ですな』

 

『おかしいのはリエーニ様だとは思うがの』

 

 そうかあ? 用途をいきなり戦闘に持ってかなくてもいいと思うけど。

 

『一応、こんな感じにやりとりはできますよ』

 

 俺自身は透明になり、0号ちゃんの表情を変え、俺の声を0号ちゃんの口から発声するように調整。

 

『でも、ここにゴーレム本体の動きを加えようとすると……』

 

 話しながら、0号ちゃんの手を動かそうとすると本体が崩れてしまった。

 腕から突然土が飛び出してきたように見える。いてて、頭痛とともに腕の偽装がぶれて、歪んでしまった。

 

『多重の魔法使用による負担が大きいのでしょうな。こればかりは知識や技術ではなく、“慣れ”です。だから間に合わないと申したのです』

 

 上手く自動化する術は無いだろうか。行く行くは疑似グループライブやってみたい。待てよ? 音すら用意してしまえば、エアギターとかゴーレムにさせて、バンドも組める??

 

『なんかさあ、人の動きを真似できる人形とか作られてないの? ゴーレムじゃなくてもさ。あとは擬似的な人格を作ってさ…、自動化できればおもろくない?』

 

『……はあ』

 

 一瞬驚かれた後、溜息をつかれた。なんじゃオラ。

 

『その発想に行くのは早すぎますぞ。教えることを国際法で禁じられたものです』

 

 あんのかよ。教えろや。

 

『ですが、辿り着くことは禁じられていません。深淵をお望みでしたら、王都の図書院を訪ねてみることですな』

 

 ほーん……。

 黙ってたら風で殴られた。なんでだよ!

 

 

 そんで、最近は暇になることが多い午後。

 うーん……。ワタシは非常に悩んでおります。何故なら、俺はいずれこの屋敷を出ていくことになるからである。

 飼い殺しにするなら、わざわざ知識なんて与えなくていいし、礼儀作法も鍛錬も無駄だ。

 

 俺に求められていることを考えれば、ゴミ野郎が行っている準備とは、ずばり後見人探し。敵しかいない俺の存在を認識しつつ、支援してくれるところなんているのか?

 他の王族からすれば、せっかく権力を握れるチャンスなのに、候補者を増やしたくはないだろう。それを踏まえ、貴族も敵を増やしたくはないはずだ。

 

 詰み詰みですやん。もぉッ! なんで死んでんだよオヤジィ!

 

 まあ時間はかかると思うが、そんなこんなで準備ができてしまえば、俺はここを出ていく。

 その前になんとしても欲しいものがある!

 

 覚えているだろうか? あの剣を…。そうあの呪いのセール品だ。毎日音を確認しているが、買われた形跡は無かった。……出掛けているときに消えていたら、あのバカ野郎を許さねえ。

 

 というわけで。

 

「剣…ですか?」

 

「そう。マイソードが欲しいっす」

 

 カーティス様におねだり。

 

 書類作業中のカーティスさんを襲撃し、賄賂(高級ティーと高級菓子)を献上する。

 

「急にどうしたのです? 珍しい」

 

「訓練場に用意してもらってるのがあるのは理解した上で、なんかしっくりこないの!」

 

 手を叩いてお願いする。おねげえしますだ。

 

「ど、どんなものをお望みで?」

 

 なんか怯えてない? なんで?

 

「実は前に脱走したときに見つけた武具屋に気に入ったやつがあってさ」

 

「ああ、ゴッブトンですね。なんだ…てっきり……」

 

「?」

 

「いえいえ」

 

 お? この流れは……?

 

「いいですよ。むしろ今まで要求がなさすぎて…。いやあるにはありましたが、物品ではなかったので」

 

 おっしゃあああああああああああッ!!

 

「あざーっす!!」

 

「では明日の訓練のときに…」

 

「今!!」

 

「…ん?」

 

「今!! 今!! いいいいいままままままッ!!」

 

「いや、その…」

 

「お願いいいいいいいいいッ!! パパああああああっ!!」

 

「おやめくださいっ?! どうすればそんな大号泣ができるんですか? この書類だけ片付けますからお待ち下さい…、はあ…」

 

 ぐふふふ、勝ったぜ。こういうとき子供の体は便利じゃのぉ…。俺にプライドなどなぁい…。

 下手をすれば地下牢一日かもしれなかったが、切り抜けたぜ。

 

 

 ◆

 

 

『待っていたかい? ハニー?』

 

『────』

 

 なに無視してやがんだ無機物がよぉ…。

 

『おい、クソ滑ったじゃねえか。返事くらいしろよ。喋れよ。おらおらおらおらおら』

 

『貴方は何を言ってるの……?』

 

 あった……! 良かった!

 

『……?』

 

 なんだっけ、ゴッブトンだっけか。その店にて俺はちょっと気になってたコイツを無事手に入れた。

 俺のテンションについていけないコイツからは困惑だけが感じ取れる。

 

『覚えてっか? 前に会ったろ?』

 

『私の記憶能力を見くびっている。そちらこそ忘れていた』

 

『は? 覚えてたが』

 

『再会の挨拶をしてから、79日が経過した』

 

 細けえ…。

 

『俺は勝手に動けないの! 囚われの身なの!』

 

『困惑…。あんな自由な振る舞いをしておいて?』

 

『あんときは脱走してたから』

 

『もうやめてほしい…。私を許してほしい…』

 

 なんか急に泣き始めた。やべえコミュ障すぎたか?

 

『……で何?』

 

 んなことなかったわ。おっしゃ、容赦しねえ。

 …って違う違う。早くすませないと。傍から見ると剣を真顔で見つめ続けるやべえやつになっちまうんだよな。

 

『会話すらまともにできない…。やはり人間はもう…』

 

『勝手に人類の代表にしないで貰える?』

 

『きゃっ…!』

 

 鷲掴みにしたコイツを店頭で待つカーティスさんのところに持っていく。

 

『何…?』

 

「カーティス様、この剣を是非お願いします」

 

『!?』

 

「そちらですか?」

 

 まあカーティスさんは驚いている。ついでにもう一匹も。

 俺の事情説明すんの面倒くさそう…。

 

「え? そいつは安物ですぜ? お嬢さんにはこっちの方がいいんじゃないかい?」

 

 店主が持ってきたのは小型で片手でも扱いやすそうなヤツだった。装飾も綺麗で、丁寧に作られた一品であることがわかる。

 

『…………』

 

「いいえ。こちらの剣でお願い致します」

 

「そ、そうかい? じゃあ、500ロルドです」

 

 困惑する店主とカーティスさん。

 騎士見習いの子が喜びそうな剣ではなく、ボロボロな汚えセール品を要求する貴族の従者か……。

 

 まあ、いいや。ちなみに500ロルドは5万くらい。一般的な剣は多分10倍くらいはあるんじゃないか?

 

『不可解……』

 

『あん?』

 

『前も言ったけど、私は呪われた存在。わざわざ選ぶ価値がない…』

 

 声がなんか小せえな。もっとはっきり喋れや。

 

『いやいや一番重要な価値があるだろ』

 

『…何?』

 

『面白い!』

 

『……期待した私が間違っていた。人間は言葉というものをもっと大切にするべき』

 

 あ? 返品すっか。

 

「そちらで本当によかったのですか? リエーニ様。別に遠慮なさらなくても、(ふところ)に問題はありませんよ?」

 

「いいよ。ありがとうカーティスさん」

 

「まあ、はい…。世の子供への贈り物はこんなに難しいのでしょうか?」

 

 帰り道。勝手に意識をどっかやっちゃったカーティスさんは放っておこう。

 俺の身長だと腰にはつけられないので、抱えているコイツに話しかける。

 

『というわけでよろー』

 

『無礼』

 

『は? てめえの所持者は俺だからな? 俺に服従しろ?』

 

『先程の言葉使いはどこへ?』

 

『ありのままの俺を俺は好き』

 

『もしかして私はこれから毎日このノイズを味わう??』

 

 人様を騒音扱いしてきやがった。まだ服従心が足りてねえなこの鉄塊。覚悟しろ?

 

『貴方とそこの人間の態度の変化は、貴方の()()()()と関係してるの?』

 

 ……。この国名探偵多くないですか? やめてよ。

 

『……返品していい?』

 

『貴方は私の所持者。服従させろ?』

 

『先程の言葉使いはどこへ?』

 

『ありのままの私を私は好き』

 

 こ、こいつ…。

 

『俺は何も気にしない君が好きだね』

 

『貴方とそこの人間の態度の変化は、貴方の()()()()と関係してるの?』

 

 だから、時間魔法使ったの誰だよ!

 

『だぁあああああッ! そうです!! 流石ですね!』

 

『フフ…』

 

 勝ち誇ってやがる。許すまじ。

 

『なあ…どうちてぼきゅの反射光操作はいつもバレるのん?』

 

『……バレた? その精度で?』

 

 うん…。

 

『私は光を視覚に利用していない。だから、金色だと認識しているわけじゃない』

 

 あ、そうですか。そうじゃん! 目玉無いじゃん! ずるじゃん!

 

『貴方と同じ特徴の人間を記憶しているだけ』

 

『それは…ここの王族の特徴を記憶していたってことか?』

 

『そう』

 

 これは、結構良い拾い物だったんじゃねえか? いや、まあ俺の慧眼のおかげだけどね?

 

『どんな存在と会ったの?』

 

『んえ?』

 

『すごい顔。どんな存在にバレたの? その変装』

 

 ああ、えーっと…。

 

『最近だと妖怪インチキババア』

 

『この国の言葉で喋ってほしい』

 

 いや俺この国の言葉でしか話せないんだけど。この世界では。

 

『オーローンって人。俺が見たのは美人の姉ちゃんだったんだけど、なんか実はガイコツだったらしい』

 

『ああ…、アレ。…待ってほしい。どうしてアレの姿を認識できているの?』

 

 俺が知りてえけど…。

 

『肉体の境界が失くなった者しか認識できないはず』

 

 あっ……。そういう…。

 

『……知らねえよ。初対面でビビったのは俺だし』

 

『貴方は本当に常識を学んだほうがいいと思う。人間のじゃなくてもいいから』

 

 人外以下の常識なの?

 

『まあ、アレは人間と近いだけの存在だから気にしなくていい。人間にその変装を見破るのは不可能』

 

 ええー?

 

『いやガキにもバレたんだけど?』

 

『虚言はやめたほうがいい。悲劇だけを生む』

 

 百も承知ですけど?

 

『真実じゃボケ。教会のチビシスターに即バレだよ。透明化も貫通してな』

 

『────ッ』

 

『ありゃあ流石に人間だと思ったんだけど違うの?』

 

『……直接見ていない私には判断できない。ただ、言えることは外見は信じてはいけない』

 

 なんか、アイツも言ってたなあ…。全然わからんもんだな。

 

『まあ、後で会いに行ってみるか』

 

『──んえ?』

 

 すんごい声出すじゃん。

 

『直接お前が判断すりゃあ一発じゃん』

 

『不必要だと思う。何故?』

 

『バレたのがムカつくから。どうすればバレなくなるかてめえらに聞くからよ』

 

『……貴方は身を滅ぼした方が、幸福を生むと思う』

 

 は? 許さねえぞ安物がぁ…ッ!

 

『ちなみに本当にやめてほしい。本当にやめてほしい。教会に行くと私は死ぬ』

 

 なんか本気の懇願が来た。

 

『教会に持ってくと祓われちまうのか? お前ってやっぱ悪霊なの?』

 

『ッ!! ッ!! ……そう。だから許してほしい』

 

 歯ぎしりが聞こえてきそうな間があった。こわい…。

 

『わ、わかったから、ゆるちて?』

 

『憤怒というものを私は知らなかった。感謝したい』

 

『どういたしまして!』

 

『本当に頭がどうにかなりそう』

 

 奇妙なこの物体は、なんだか逆に人間らしかった。俺の事情を話せば、コイツは協力してくれるだろうか。

 呪われた剣だと、教会に行くと死ぬと語る声はいつも寂しげで。孤児院でよく聞いたものとおんなじで。

 

 どうして、コイツに惹かれたのかはまだわからない。

 けど、間違っていなかったとなんとなくそう思った。

 

『……フフッ』

 

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