プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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22話 初心者狩りはやめろや

 

 街から聞こえてくる声の感じから、ある程度の復興が済んだと思える今日この頃。

 

「教えて?」

 

「嫌でございます」

 

 メイド業をしながら、ババアに詰め寄る。しかし、その一切を跳ね除けられる。

 

「いいじゃん! ちょっと見てくれればいいんだよ!」

 

「言葉使い」

 

「少しのお時間をいただければ、それで満足なのでございますが」

 

 俺の手には弓。ババアの放ったあのスーパー狙撃を真似したいのだが、全然うまくいかずこうして頼み込んでいる。遠距離攻撃ほちい。

 

「……はあ。フィフが拗ねますよ?」

 

「なんで?」

 

「弓術に浮気しているではありませんか」

 

「どゆこと? 鍛錬に違いはねえじゃん」

 

「しまった……。そういう教育はしていませんでしたね…」

 

 なんか言われてるけど、んなわけねえだろ。

 人のこと弱えだの、焦るなだの馬鹿にしてきたやつが今更そんなことで動じるわけが……。

 

「な?」

 

「…………」

 

 掃き掃除をしているフィフの方を見れば、無視された。

 ちなみにアイツの箒は同じ場所を往復しているだけなので、なんも掃けていない。むしろ汚れが広がっている。

 

「そういうノリいらねえって」

 

「…………」

 

 ええ…。めんどくさ…。

 剣ってそういうの気にするの? 無機物が一端(いっぱし)に嫉妬してんじゃねえぞ。もうペット犬じゃん。

 

「まあいいや。じゃあ、口で説明くれよ」

 

「言葉使い」

 

「私が放つとどうにも上手く標的を狙えないのでどうしたものかと」

 

 溜息一つ零した後、ババアは無言で向き合ってくれた。

 ったくよぉ。あんなすげえことが出来んなら始めっから教えてくれりゃあいいのによ。

 

「家政婦長の矢は魔力を使って回転させて放っていたと思うのですが、私が行うとその調整が難しく、軌道がずれたり、矢が自壊してしまうのです」

 

 見てただけだから正しいかわからないけど、俺がやろうとしているのはドリルみたいに矢を回転させ、その螺旋状に展開された魔力で空気抵抗や防御魔法を無理矢理突破するという方法だ。

 それを発展させればミサイルみたいな爆撃もできるはずだ。後は花火みたいにライブを盛り上げる効果としても利用できる。

 

「……そこまで理解していますか」

 

 呆れたように笑ったババアは俺の頭を撫でた。なんじゃコラ。馬鹿にしてんのか?

 

「わたくしは矢では無く、()()()()()()()()()()干渉しているのですよ」

 

 なんですと?

 

「なるほど…。つまり、弓矢本体では無く矢の通る道を計算してそこの空間を魔法でいじっていると」

 

「その通りです」

 

 それってさあ、自分の射る矢がどこを通るか全部わかってないとできないよね?

 

「キモッ!? ムリムリ!! わかんねえよそんなモン!!」

 

「言葉使い」

 

「気色悪いです、アンリーネ様。いってぇ!?」

 

 急に背中に痛みが走った。確認するが何も刺さっていない。なんだ?

 

「軌道はある程度操作できるようになります。今のように向かい合った相手の後ろを狙うことも」

 

 床を見るとお茶用のスプーンが落ちていた。

 

「ああーっ!! いけないんだぁ!! 食器で遊んでる! カーティスさんに言って……ぴっ!?」

 

 その猛者の睨みちょー怖いっす…。許してぇ…。

 

「…アンリーネがその気なら今の一撃で上半身が吹っ飛んでいた。私なら“剣”で容易く落とせた。余裕」

 

 おい、なに急に戻ってきてんだ五万円。にやにやとムカつく顔しやがって。

 

「貴方に弓術は無理。大人しく剣を極めるべき」

 

「は? 決めつけんじゃねえよ。今のでだいたいわかったから」

 

「そこまでいくと本当に尊敬する」

 

 マジでムカつくなあコイツ。本気で弓ドクトリンに転換しよっかなあ。

 

「二人とも、言葉使い」

 

「ういーっす…」

「謝罪する。本当に許してほしい」

 

 ババアに叱られいそいそと仕事に戻る。

 フィフの奴はガチでババアに頭が上がらない。クソうける。どんだけシメられたんだよ。

 

 今のところの日常。

 

 俺がこの世界にやってきて8年目の日々。変化しつつも続くなんてことのない生活。

 

「楽しそうですねリエーニ様」

 

「別に。どうしたのカーティスさん」

 

 急ぎ足でやってきたカーティスさんの表情は少し固かった。多分真面目な話だ。

 

「──()()()()()()()()()()

 

 決定的な変化。分岐点。それが訪れようとしていた。

 

 この世界ってやつは本当に──。

 

 

 

 

 ゴミカスが帰ってくるのは三日後、ということらしい。

 屋敷の雰囲気もこれまでのものではなく、プロジェクトが終了する直前のやり遂げたような、心残りがあるような、あの複雑な空気感が漂っている。

 

「うーむ…」

 

「思考するなら黙ってほしい」

 

「てめえが黙れ」

 

「だる」

 

 あ?

 

 ベットに仰向けで寝転がる。うまく思考がまとまらない。

 

 今俺の腹の上に乗っかる頭のせいじゃねえか? ぼさぼさになったコイツの髪の毛が鬱陶しい。

 最近呪物の犬化が進んでいる。あと口の悪さも。

 

 所有者を枕にするとか常識がねえのか。

 

「別に貴方にできることはそう多くない。悩むだけ無駄」

 

「……わかってるよ。うぜえな」

 

「そんなに気になること? 純粋に理解できない。人間の社会構造を考えれば、貴方の扱いは格段に良いものとなる」

 

 そういうことだけじゃねえんだよなあ。

 

「めんどくせえんだよ。いろいろと」

 

「そう。人間は生存だけにこだわったほうがいいと思う。だから弱い」

 

「……主語がでけえよ、ったく……」

 

「キレがない。つまらない」

 

 そう言ってフィフは目を閉じた。眠ることはできるらしいが、生物のそれとは違うそうだ。スリープモードに近いか。ほんとに人外なんだよなあコイツ。

 

 今はシゴキのない休日の昼下がり。他の皆も街の復興支援で出掛けている。俺も何かしようとしたけど、止められてしまった。流石に駄目なんだとよ。

 この変装ともそろそろおさらばだ。ルクレヴィス家のメイド、リエーニはもうじき消える。一抹の寂しさぐらいは感じるが、ネット上のハンドルネームを変えるくらいの感覚だ。

 

「──あん?」

 

 屋敷の門に馬車が一台止まった。音がカス野郎のものとは違う。

 まじかよ。こんな時に来客か。

 

 腹の上の重りをずらして起き上がり、身を整える。来賓対応の経験はヴィクトリア以外にもやってきた。まあ、だいたいがカーティスさん目当ての人で、その対応もカーティスさんが現れれば終わるものだった。

 

 予想通り呼び鈴が鳴る。玄関を出て庭の先にいたのは知らない男だった。

 

「私はこの屋敷に仕える者です。本日はどのようなご要件でしょうか」

 

「おや、こんにちは。ボクはファビライヒ・フォノス。カーティス殿と本日約束をしているのだが、卿はご在宅かな?」

 

「申し訳ありません。留守にしております。予定通りであればあと数刻で戻りますが、中でお待ちになりますか?」

 

「いいかい? 待たせてもらうよ」

 

 いつも通りか。あとは客間に押し込んどけば問題無い。

 コイツは多分貴族。それも成り上がりだ。家名がちゃんとあるくせにメイドに対して()()()()()

 

 他の貴族だったら普通に無視されるし、セクハラされるからな。一応公爵家の従者によくやるよ。

 

「ありがとう」

 

 無言でお辞儀をする。広い客間にて、馬鹿でも美味いと感じるお茶っ葉と菓子を用意して、あとは下がればいい。

 

「何かございましたら、そこの呼び鈴を鳴らしてください。では失礼しま──」

 

 ? 目の前で鳴らしやがった。コイツ嫌がらせタイプか?

 

「なんでしょう?」

 

「いやあごめんね、そんな警戒しないで。ちょっと一人だと寂しくてね」

 

 他人と同室のほうがきついだろフツー。

 

「君はこの屋敷に来て長いのかい?」

 

 ……。

 

「三年以上になるかと思います。なにぶん幼い時からお世話になっておりますので、そういった感覚は薄いのです」

 

「あははっ、十分今も幼いだろう。出身はどこなんだい?」

 

 なーんかめんどくせえのが来たなコレ。カーティスさんへの用事も大したもんじゃねえだろ。

 

「武帝国と聞いております。姉とともにお世話になっております」

 

「ほう、珍しいね。この国の雰囲気は正直合わないんじゃないのかい?」

 

 姉がいるという情報は無視、と。合わねえのはこの国だけじゃねえわボケ。

 

「記憶もおぼろげで、言葉もこの国のものしか喋れないので、あまり意識したことはないですね」

 

「なるほどね」

 

 コイツは和やかな雰囲気を出して外面は取り繕っているが、ビジネス感が半端ない。いるよなあこういうタイプ。仲良くなるまでが大変なんだよ。

 

「ボクは商人の家系でね。たまに武帝国に行くんだけど、あそこはかなり競争心の強い人々が多くて疲れてしまう。しがらみも多いけどこの国の方がボクには合っているよ」

 

 曖昧に微笑んでおく。同意も反対もしてやんねえぞ。

 

 コイツは何か魔法を使うと、折りたたまれた板のようなものを取り出した。どこから出した。ハイパー手品じゃん。俺もやりたい。

 

「コレはボクが広めた遊びでね。最近貴族の集まりで流行っているものなんだが知っているかい?」

 

 ファビライヒと名乗った男は板を開いて机に置いた。そうすると板の魔法陣が起動して、“駒”が並べられた。

 すげえ。魔法将棋的なやつか?

 

「お恥ずかしながら、存じ上げません」

 

「そうかあ、残念。オリジェンヌではまだ流行っていないか。どうかな? 遊び方を教えるから暇つぶしに対戦相手になってくれないかい?」

 

 ええー…。どういうこっちゃねん。ガキ相手に将棋挑んでくるキモおじさんじゃん。

 

「私ではご期待にはそぐわないかと」

 

「大丈夫。あ、ならお礼をするよ。君くらいの子の感想も聞きたいんだ。教育用としても売り出したくてね」

 

 男の手には紙幣がどっさりと握られていた。フィフ何本買えんだよ。嫌だねえ金持ち様は。

 マジで舐めてんなあコイツ。将棋くらいできるぞオラ。

 

「お礼は結構です。僭越ながらお相手させていただきます」

 

「え? お礼はいらないのに相手するの?」

 

「はい」

 

「んん…?」

 

 なんでおめえが納得行かない顔してんだよ。さっさとルール教えろや。

 

 

 

 

「参りました」

 

「おや、諦めが早くないかい?」

 

 ムカつくムカつくムカつくムカつく。

 めっっっちゃボコられてんだけど。コイツ初心者にガチってんじゃねえぞ。

 

「ここを崩された時点で逆転は無理です。早期講和が得策かと」

 

「ふははっ、こっちとしてはもっといじめたかったのだけどね」

 

 打つ手で人の性格がわかるってホントだな。コイツエグすぎる。

 

 ファビ…なんちゃらはなんというか把握してる定石が多すぎる。

 コイツが作ったゲームなのだから当たり前だとは思うが、だいたいのゲームは制作者よりもプレイヤーの方が攻略しているものだ。

 

 コイツだけ研究が進みすぎている。対戦会では無双してんだろうな。腹立つぅ。

 

「ではもう一局お願い致します」

 

 お茶を飲み干して気合を入れ直す。次にぶっこむ戦法は決まった。

 

「…随分のめり込んでいるね。いや、ボクとしてはありがたいことだけど」

 

 『エクスローン』という名称のこの遊びは、将棋に近い。相手の駒を使えるルールもあるからな。違うところがあるとすれば、駒の役割がだいぶ大味だ。

 複数枚破壊する奴もあるし、弱小ユニット(将棋で言う“歩”、チェスで言う“ポーン”)には絶対負けない駒も存在する。

 

 チェスみたいに千日手にならないように、強力な駒は連続して動かせないなどの制限があるが、一度暴れ出すと手を付けられないユニットが多い。

 それは多分この世界の戦争形態の影響を受けているのだろう。

 

「……本当に初心者なのかい? なにかこういう遊びはやったことがあるのかな?」

 

 なんともいえん。このゲームジャンルはやったことがあるってことでいいのだろうか。

 

「無いです。しかし、とても興味深い遊びです。現実の戦争を参考に作られたのですか?」

 

 まあ素直に答えてやる義理はないだろう。戦争を学んでいるメイドってのもいないだろうし。

 

「そうだね。戦争を遊びにするのは不謹慎だと文句を言われることもあるが、実際にやられるよりは全然マシだと言ってくれる人もいる。お陰でお金には困っていない」

 

 それはまあ確かに。 

 おっ、来た来た。食らえっ!

 

「ほう…」

 

 ふっふっふ、動けまい。リエーニ包囲陣の完成だ。絞め殺してやる。

 ここで初めてファビっさんは茶をすすって長考に入った。気持ちええ~。菓子がうめえ。態度を崩して煽りてえ…。俺苦しいよ。

 

「盤面有利ですね。どうされますか」

 

 結局煽っちまった。てへ。

 

「…こうしようか」

 

「…………?」

 

 あ。俺が逆に動けなくなった。死ね死ね死ね死ね。

 俺は自分で組んだ陣形で逆に自分の使えるルートを制限してしまったのだ。

 

 ふざけんなよコイツ。ぜってえ将棋もうめえだろ。今度作って持ってこうかな。

 

「ゲームには人の性格が出ると言われていてね。キミの性格は…『なかなか』だね」

 

 どういう意味じゃコラ。もうお茶注がねえぞ。

 

「最低限しか教えない貴方もどうかと思いますが」

 

「あははは! それはごめんね。()()()()()にはあれくらいでちょうどいいんだよ」

 

 破裂しそうな脳味噌を使いながら、なんとか一手返す。

 そうしたら速攻でファビっさんは返してきやがった。発狂しそう。泣きそう。

 

「……ボクは商人で、貴族と結婚したことで爵位を得た人間だ。このように成り上がる人間は多くてね」

 

 くそー。右も駄目か。“大弓”ユニットをなんとか配置して相手の“長槍”ユニットを殺すしか無い。

 

「そんな人間がぶつかるのが、家に誇りを持つ貴族との確執さ。成金と旧家はどこでも仲は悪いものさ」

 

 いや、でもあそこに配置された相手のユニットが邪魔でいけねえ…。そこまで準備してやがったのかよ。

 

「これからの時代、誇りだけでは生きていけない。ボクの妻はそれをよく理解している人なのだが、ほとんどの力ある人間がそれを理解していない」

 

「すいません。思考の邪魔なので黙ってもらえますか?」

 

「あはははは! どうぞ、考えなさい?」

 

 うるさいんじゃボケ。欠片も興味ないわ。

 くそぅ…。脱出経路が細すぎる。相手のミスが無かったら終わりだ。

 

 オラっ、テメエの番じゃい。

 

「キミは()()()をしたことがあるかい?」

 

 あ? なめとんかコイツ。……そういや、俺自身が買い物したこと無かったわ。

 

「付き添いでやり取りを見たことがある程度です」

 

「お金の価値はわかるかい?」

 

「? 物の値段の基準であれば、ある程度は理解しているつもりです。もちろんこの街でのものしか知りませんが」

 

()()()()()!」

 

「……」

 

 喧嘩売っとんのかコイツ。貴族ってやつは人を馬鹿にしなきゃ生きていけねえのか?

 

「覚えておくといいよ。俗物(きぞく)どもは買い物をしたことがない。アレは“ただ物を手に入れているだけ”だ」

 

 ぎゃああッ! そこには打つなよ! 細い道がまた細くなった……。

 

「……。ちゃんと売買をしていることには変わりがないのでは? それほどまでに財産を築いていることだと思います」

 

「そうかな? 自分と他人の財産の区別のついていないものばかりだ」

 

 クソ。右側の戦力は捨てるしかねえ。自陣まで撤退!

 

「恐ろしいことをおっしゃるのですね」

 

「失礼だが、キミはいくつなのかな?」

 

「詳しいことはわかりません。発育具合から9つ程度だと言われていますが」

 

 ぎゃあッ!? すかさず分断された!? くそがよ。

 

「──キミはお金とはなんなのかわかるかな?」

 

 だから人が考えてる時に話しかけてくんなよ。盤外戦術やめろや。ジャッジいねえの?

 

 テキトーに返そ。

 

「“見えるようになった価値”だと認識していますが」

 

「ほう。具体的にはどういうことかな」

 

 ミスれミスれミスれミスれ。

 

「ある時、食料を大量に交換しようと持ち寄ります。しかし、それを運ぶのは大変です。ですので、()()()()()()()を間に挟みます。そうすると、野菜百個が手のひらに収まります。あとはその鉄を他の野菜に変えればいい。先人の知恵ですね」

 

「……ふむ。これは難しい話になるが、食料以外にも金銭のやり取りが発生する。これはただの紙切れに過ぎないのにどうしてそれが成立するのかな」

 

 札束をぴらぴらとぞんざいに扱うファビッさん。さっきからなんなんだよ。

 

 だが、会話に集中して盤面の穴に気付いていない。馬鹿め。そこは俺の急所だ、がはは。

 お願いやめてやめてやめてやめて。

 

 思いっきり()らしてやる。

 

「それは“信用”でしょう。国が保証する価値です」

 

「…………」

 

 んなのどこでも言われてる話だろうがよ。馬鹿にすんじゃねえぞ。

 

「結局、貨幣なんて()()()()です。借金の積み重ねによって発生する利益を国が徴収し、運用しているに過ぎません。未だに物々交換の土地もありますし、まだまだ未完のシステムです」

 

「……完璧だね」

 

「?」

 

 なんかマジ顔になったファビっさんは盤面も見ずに駒を動かした。

 

 あああああああああッ! そこだけは打たないでって言ったじゃん!! 

 

「……参りました」

 

「中々楽しませてもらったよ。そろそろカーティス殿も帰ってくるだろう。下がっていいよ。ありがとう」

 

 ちくせう……。コイツマジで性格わりいよ。ブッコロリストに入れておこう。

 

「お礼にコレを上げよう。ここまで熱中してくれるなら嬉しいよ」

 

 えっ……エクスローン貰った。コイツ超いいやつじゃん。恩返しリストに直行。

 

「いつでも挑戦を受けるよ。キミなら大歓迎だ」

 

 俺はそれをひったくるように受け取ると、お辞儀をして退室しようとする。

 すると、後ろから声を掛けられた。

 

「──キミは()()()()()()()()()んだい?」

 

 ──妙な名前の聞き方をしやがる。

 

「……リエーニ、と呼ばれております」

 

「そうか。よろしくリエーニ。キミはたいへん慎重だね。完璧さ。世の貴族の子息、子女に見習わせたいほどだ」

 

 …………。一応いつでも逃げられるように準備はしている。ポンコツゴーレムも起きているはずだ。

 

「すまない。突然で困惑しただろうが、ボクは助言のつもりさ」

 

「助言、ですか?」

 

 悪意は無い。ファビライヒからはカーティスさん達のような荒々しさは感じない。

 でも、けっして優しくはない。

 

「キミの主と言えばいいのかな? ダルン様自身には政治の才能はない」

 

 急にゴミカスをこき下ろし始めた。完全に同意したいが、体裁がある。へっ、俺も染まっちまったもんだぜ。

 

「彼が王都に帰還したのは一年ちょっと前。戦争が終わって放蕩した不良と世間では言われているが、戦中、戦前から彼を知る者はそうは思っていない」

 

 それは、新たな火種の予感だった。

 

「ならば何故彼は帰ってきたのか? 諦めた? そんなまさか」

 

 優雅に茶を楽しみながら、ファビライヒは語る。その視線は()()()()()()()()()()()()()

 

「王都では注意しなさい。人間の敵は魔族だけではない」

 

 戦争などとは比べることすら烏滸がましい小さな争い。だがそんな争いでも人は死ぬ。剣に切られ、魔法に焼かれるだけが死ではない。

 

 それは、これから待つ理不尽の洗礼だった。

 

「覚えておくように。“人間は自分だけのために頭が良くなる生き物”なのだとね」

 

 この世界はやっぱどうしようもなくクソだ。

 

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