プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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51話 仕事の息抜きが仕事です

 

 昼間の王都。気持ちのいい朝だ。

 

 『ギルド・フォノス』へ向かう。

 ファビッさんが俺の会社を参考にしてこの国用に作った組織だ。

 

 王都の支部は一番でかくて人も仕事も多い。

 

 綺麗なオフィスの受付で順番を待つ。

 俺が並んでいるのは日雇い仕事の斡旋ゾーン。

 

 他にはアルバイトとか普通に仕事とかの紹介をしている。

 

「どうぞー」

 

 俺の番になったので、会員証を見せる。

 発行は誰でもできるこのカードは、俺の得意なこと、習得言語などが書かれている。

 職務経歴書みたいなもんだ。

 

 あと同時に所持者には口座が用意される。ガチで銀行作ったよフォノス家。

 まあ金の受け取り楽でいいけどさ。市民にも結構普及していて、身分問わずここの利用者は増えていた。

 

 ファビッさんはこれをさらにいろいろなものに紐づけるシステムを作ろうとしている。

 やってんなぁあの人。

 

「あら、リエーニちゃん。今日は非番?」

 

「はい。最近は事件のせいで、仕事が減りました」

 

 会員証には俺が従者として働いていることが書かれている。

 流石にフォノス家にとは書いていない。情報保護の概念がこのギルドにはあるため、本人が構わないのなら許されている。

 

「やっぱそうなんだねえ。今日のお仕事は屋敷の掃除が入ってるかな。グループで行ってもらうことになるけど、どう?」

 

「お願いします」

 

 入っていたのは清掃業。最近は従者を継続的に雇うよりも、その都度派遣従者を雇う家が増えている。

 どこもコスパだ。

 

 現場に向かうと、監督がいたのでギルドの紹介状とカードを見せる。

 結構暇つぶしにこの副業を続けているので、評価ポイントは上がっている。

 

 と言ってもやってきた仕事の種類と回数が記入されているだけだ。

 ゲームのランクシステムみたいにはいかないようだ。Aランクとかなってみたかった。

 

 仕事が始まり、ババア仕込みの掃除術で俺は仕事をこなしていく。楽なもんだ。

 何も考えずに集中する。素晴らしい。

 

 気分転換が目的だが、一応情報収集も兼ねている。

 はっはっは、俺偉い。普通の貴族野郎には真似できまい。

 

 貴族間での情報よりもこういった場所で入ってくる情報が大きいこともある。

 現に一般にはあの事件で魔物が出たことは伏せられているということがわかった。

 

 まあ、言えんわな。

 

「…………」

 

 今俺が掃除しているのはでけえ図書室。

 さすがに一人ではできないので、もう一人いる。

 

「あのー?」

 

「…………なぁに?」

 

 しかし、こいつがサボっているのである。

 

「仕事してくれません?」

 

「必要ないじゃない?」

 

「いやいるっしょ」

 

 カードを見たら俺より先にギルドに所属していた先輩。

 やる気のねえその女は、あろうことか本を読んで日向ぼっこをしてやがる。

 

「先輩、サボってるじゃないっすか」

 

「“先輩”? ふふふ、そうね、私は先輩ね」

 

 なんだコイツ。殴るか?

 

「仕事しろや」

 

「してるわよ?」

 

「どこがっすか」

 

「貴方に掃除場所を教えてあげたじゃない。私この現場はもう三回目なの」

 

 あ? クソすぎだろこの先輩。

 組む相手によってはこういうこともあるが、よく生き残ってたなコイツ。

 

 ギルドの評価システムは結構シビアだ。遅刻、欠勤が重なると契約不履行で即退会させる。

 

 ということはコイツ、めっちゃサボりが上手いやつだな。

 

「そうやって新人をいびってんですか? 楽しいっすか?」

 

「いびっていないわ」

 

「は? じゃあ今の俺はなんなんすかね?」

 

「だって、貴方()()()()()()()()()

 

 この野郎ぅ……。まごうことなきパワハラ野郎である。許さん。ギルドに報告じゃ。

 

「私今日で実家帰るから、無駄だと思うわよ」

 

 コイツ……!

 運わりぃ……なんで最終日この現場なんだよ。

 

「そっすか……。有終の美とか知らないんすね」

 

「面白い考えね。考えたことなかったわ」

 

 やばすぎ。価値観が違いすぎる。どこかのお嬢様の暇つぶしかよ。

 貴族の道楽やめてくれよ。俺は……まあ、ちゃうやん?

 

「はあ……。本好きなんスか?」

 

 諦めてちゃっちゃかと掃除を進める。

 

 先輩はペラペラと本をめくっていた。

 この現場に何回も来ていたということは、そういうことなのだろう。

 

「……本そのものじゃなくて、流行っているものに興味があるわね」

 

「へー」

 

 トレンド好きなのね。

 でも、ここにある本だいぶ古くねえか?

 

 お、そうだ。

 

「ならこれ読んでみてくれません?」

 

 服に入れていたメモ帳を放り投げた。

 先輩は片手でキャッチするとそれを開いた。

 

「これは?」

 

「最近構想してる演劇用の脚本っす。ちょっと感想聞かせてください」

 

 王都は発展しているが、まだ娯楽が足りていなかった。

 日本を知る身からすれば、もっとなにか欲しい。

 

 欲しければ作るしか無いのがこの世界だ。

 あとでまたファビッさんに事業計画書を持っていかなくちゃ……。こわい。

 

「…………」

 

 読むのはや!

 ホントに読んでんのか?

 

 数分で読み終えた先輩はメモ帳を閉じて、語ってきた。

 

「……これ、最後は白騎士についていくのでしょう?」

 

 うわ、ほんとに読んでる。

 そのメモにはエンディングまでは書かれていなかった。

 

「“主人公は女王となるために白騎士についていく”。そうでしょう?」

 

 少しつまらなそうに先輩は語った。

 

 物語のおおまかな流れはこうだ。

 

 ある日、農民の女の子のもとに二人のイケメン騎士がやってくる。

 この世界の基本的な物語は女の子と騎士だ。それをパクっている。

 

 彼らは女の子を女王にするためにやってきたという。

 女の子は運命に巻き込まれながらも、選択していくという()()()()お話だ。

 

 その過程で、女の子は悩むことになる。

 

 白騎士について行って、公正な女王となるか。

 黒騎士について行って、尊大な女王となるか。

 

 片方は自分を殺すが安寧が手に入り、もう片方は自分をさらけ出し混沌を手に入れる。

 

「想定している劇は特殊なんすよ。やろうと思ってるのは“マルチエンド”っす」

 

「──“マルチエンド”……?」

 

 先輩は目を見開いて、俺を見てきた。

 さっきまであんなにつまらなそうにしていたけど、やっと興味を持って貰えたようだ。

 

「公開される日によって物語を変えます。ある日は白騎士ルート。またある時は黒騎士ルート。

 そんでまたある時は両方ぶんどりルート。全員ぶっ殺し鬼畜ルートもいいっすね」

 

 リピーター確保のための施策だ。

 どうせ役者は全部俺が演る予定だし。問題ないべ。

 

「────」

 

「うわっ!? な、なんすか……?」

 

 いつのまにか先輩が目の前にいた。

 縦に裂けた瞳孔が俺をじっと見つめる。

 

 な、なんでしょう?

 

「貴方……()()()()()()()()()()()()?」

 

「は? いやっすけど……」

 

 どんなセリフ?

 

「残念だわ。では、私のところに来ない?」

 

「え? いやっすけど……」

 

 な、なんかグイグイ来ますね?

 息がかかってくすぐったい。……()()()()()。やば。

 セクハラもかますとかどんだけ派遣ラストではっちゃける気だよ。

 

「なら、この演劇を私の実家で公演してもらいたいわ。勿論報酬は払うわよ?」

 

「すんません。俺、企業所属してるんで……」

 

 手つきがエロいよこの人……。触りすぎじゃね?

 

「……これはいつ公開する予定なの?」

 

「場所が確保できればいつでも……。に、2年はかからないと、思いますけど……」

 

 スカートを抑えて退避する俺。

 

 あっぶね!? 股間触られるとこだったぞ?

 やべえよこの先輩。ギルド、ちゃんと素行調査しとけ。

 

「ふふふ……()()()()()。それじゃあ今すぐ帰らなくちゃ」

 

 つかつかと先輩は出口に向かって歩いていった。

 

「は? 仕事終わってないっすよ!?」

 

「あ、名前を聞いていなかったわ。なんていうの貴方?」

 

「リ、リエーニっすけど……」

 

 なんで今?

 

「そう。()()()()()リエーニ」

 

「な、なにがっすか?」

 

 扉を開けて振り返った先輩の表情は変わっていた。

 さっきまではこの世がどうでもいいみたいな死んだ目をしていたのに。

 

「──“やめる理由”をくれて、ありがとう」

 

 その女は笑っていた。

 でもそれは全てを諦めたような微笑みだった。

 

 おい、バックれたんだけどあの先輩。

 

 

 

 

「やった……のか……」

 

「ええ……そうね」

 

 男が膝から崩れ落ちた。

 それに駆け寄る仲間たち。

 

「この時点でこの強さかよ……。これが“魔族”か……」

 

 仲間の男が呟いた感想が全てだった。

 

 彼らの目の前には巨大な死体があった。

 

 それはこの地を支配していたもの。

 魔王領のいち地方のただの城。そこのただの城主だった。

 

 一部の離反した魔物の協力を得て、やっと辿り着いたのだ。

 

「だが、敵の戦力を削ったことには変わりない。この調子で行こう」

 

「そうね」

 

 彼らは人間領域より出発し、ここまで辿り着いた()()たちだ。

 人類の宿敵である魔族。その王を倒すためにやってきたのだ。

 

 出身は『聖国ラークフム』。聖国はこうした勇者(スパイ)を度々魔王領へと派遣していた。

 別に帰還も成果も期待していない。ただの使い捨てに過ぎない事実を彼らは自覚していない。

 

 ただの時間稼ぎと嫌がらせだった。

 

 そんな事実を知らずに使命に燃える彼らの表情は明るい。

 

 一歩一歩魔王都へ近づく。

 そして、強くなっていく。

 

 それがあの大戦争を知らない若者たちの希望だった。

 

 その証明として、彼らの目の前には成果がある。

 

 荒れた部屋。そこには大量の紙切れと破壊された机が散乱していた。

 彼らが訪れた時、敵達はなにかに取り組み油断していた。

 

 一人を失い、怪我はたくさんした。

 だが倒すことができた。

 

 ()()()()()()()()()()()、強大な敵に打ち勝った。それが彼らにできた自信だった。

 

「よし、休憩したら行こう」

 

「そうね。美味しそうな食べ物いっぱいあったし」

 

「お風呂もあったわ」

 

「あのベッド気持ちよく寝れそうだなあ」

 

 そんな喜びの瞬間はすぐに終わりを迎える。

 

 

 

「おい、馬鹿ども! いい加減報告書をあげて貰いたのだが、って……」

 

 

 そんな声が響いた。

 振り向くと魔法陣。転移魔法だろう。

 

 そこに立つのは間違いなく異形の存在だった。

 

「え────」

 

「……なんだ?」

 

 かなりの高身長の人型。

 すらっとしたフォルム。姿勢はよく物腰も柔らか。

 

 着ているスーツも上等なもの。手に持つ板のようなものはわからないが、ソレの荷物はそれだけだった。

 

 だが、明らかに人間ではない。

 

 動く液体だった。

 黒く透き通った水が体を形成していた。

 

 顔と呼べる場所には何もなく、ただ気泡が渦巻いていた。

 

「ああ……また殺されたか……。弱すぎる……。

 どうして事務処理できるやつはこうも弱いのか」

 

 現れた異形は人間達の前に倒れる存在をそう吐き捨てた。

 

「貴様、こいつらの仲間か!?」

 

「魔族!!」

 

 全員戦闘態勢を整える。

 限界が皆近かったが、そうも言っていられない緊急事態だった。

 

 もう一体魔族が現れたのだ。

 

「仲間……? 私が……? ソレと……?」

 

 異形の体の中の気泡が激しく流動し、怒りを露わにする。

 

 “逆鱗に触れた”。それだけはわかった。

 

「【フィレ・ルスヒ】!!」

 

 女性が唱えた炎の魔法が連続してソレに叩き込まれる。

 

「【ティーメ・カースクラ】!」

 

 継続する回復魔法が彼らに掛けられた。先程の戦闘で負った怪我も癒えていく。

 

「ああ……本当に面倒だ。面倒くさい……」

 

 あれだけの砲撃を受けても相手はびくともしていない。

 

「強力な防御魔法ね……」

 

「あれを放つ! 援護を!」

 

「了解!」

 

 連携を以て敵を倒す。それが人間の在り方だ。

 

 そうだとも。()()()()()()()()()()()()()

 

「おえええええッ!!」

 

「ぐがっ!?」

 

 前衛にいた男と女が突然苦しみだし、嘔吐した。

 目は血走り、呼吸が荒い。

 

「【ティーメ】!」

 

「ぐっ……!! がはっ!!」

 

 最後尾の女が唱えた魔法で回復し、なんとか持ち直そうとするが、再び苦しみだした。

 

「馬鹿すぎて吐きたいのはこっちの方だ」

 

 そこに敵が近づいてくる。

 最初の炎で燃えながら近づいてくる。

 

 その燃えている箇所から“生じる気体”が部屋には充満している。

 

「────……」

 

 男が即死した。無言だった。

 

「あ……」

 

 続いてその隣の女が死んだ。赤い液体を穴から吹き出しながら息絶えた。

 

「毒!?」

 

「【プロテクト・ヴィード】!」

 

 風の守りが残った二人を守る。

 

「なんで勝手に死んでいるんだ……? 本当に馬鹿すぎて可哀想だな。

 おい、お前達。戦闘行為を停止しろ。投降しろ」

 

「ふざけるなッ!!」

 

 男が吠える。

 

 あの異形は仲間を殺したのだ。許せるものか。

 

 男が構えを取る。

 それは対魔族に特化した、最古にして必殺の一撃。

 

「【鉄樹開花(てつじゅかいか)】!!」

 

 第一剣術(ヒワン)、その一刀。切断という結果を与える一撃。

 風に守られた男は素早く敵に近付きその斬撃を当てた。

 

 間違いなくそれは敵を切断した。()()()()()()()()()()()()()()()

 切断されたその敵の液体が、男に降りかかった。

 

「……本当に何をしているんだ?」

 

「ぎゃああああああああっ!?」

 

 男は一瞬にして溶けた。帰らぬ人になった。

 

「ひぃ……バケモノ」

 

「うーむ……。本当にあの方はなぜこんなものを残しておくのだろうか」

 

 “ただ歩いていただけ”のソレは疑問を抱く。自分の王に対して。

 

「もう面倒だ。一人くらいどうでもいいだろう。お前はここで働け」

 

「いやああああああああっ!?」

 

 ソレの腕が女を掴んだ。そうして、女は喰われた。作り変えられた。

 一度溶けた体が再生し、もう一度女の姿を取った。

 

「…………」

 

「自己紹介してみろ」

 

「わらしもくるがたみろ」

 

「……馬鹿がすぎる。まあ、あれを()()()()()()()()()低級だからこんなものか……」

 

 彼らが倒したのは、“ただの魔物”だ。ここの城を担当していたただの事務官だ。

 

 その異形、『睡獨流(すいどくりゅう)メンドルウス』はため息をついて、その城の後処理を始めることにした。

 また余計な仕事が増えた。

 

 あの魔王は好き勝手がすぎる。

 

 メンドルウスは先日“出張”とやらから帰ってきた魔王アルテにこう告げられた。

 

『計画を2年くらい延ばすことにしたわ。楽しみができたの』

 

 あの瞬間メンドルウスの仕事の大半が白紙になった。

 それは別に構わない。やることは変わらない。

 

 だが、馬鹿な人間はそんなこと関係なく暴走するだろう。

 

「ああ、面倒くさい。面倒くさい……」

 

 苛立ったメンドルウスはなんとなく作成した魔物を殴り飛ばした。

 

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