めっちゃモテ期来た。以上。
ふえぇ……。政治闘争始まったの?
いや、一人は多分年下メイドに興奮してる変態だってことは分かってんだけどさ。
ファビッさんみたいなタイプの他の貴族はいると思ってたよ?
フォノス家と繋がりを持ちたいっていう所が出てくるのは予想してたよ?
でも、二大巨頭が来るとは思わねえじゃん!!
カルクルールが他の名家からの視線があるのにここまで露骨にやってくるとは思わなかった。
あのメロンパイ公爵の強みは子沢山なところにある。
サフィがその娘であるならば、それを利用してくるのは当然か。
なんか俺のこと喋ったのかな……。急に恥ずかしくなってきた。
カルクルールの娘を知らねえ無知な成金の息子って評価だもんな……。
なぁにが『親同士の話って難しくて嫌でしょ?』だよ。
キモすぎだろ。
そして、偽者ちゃんことミゼリア・サルヴァリオンだ。
百パー政略結婚じゃん。鬱だ……。
王家の財政は厳しい。いや、動く金の桁は違うんだけど。
国は潤っているが、王家自体に財力はない。
他の貴族やマイファザーが容赦なくむしり取ったのだ。
言い方に語弊があるな。税収の方法が変わったが正しいか。
作物によるものではなく、貨幣による徴収に変わった。
封建主義の国に資本主義爆誕だ。うわぁい!
それにより財務大臣派閥が急成長。国庫の鍵を握っているのはこの派閥である。
ファビッさんは次期大臣候補にまでなっている。
魔王領に派遣される理由もこれだろう。マジで政界汚い。
そんな風にして置いていかれたのが王家だ。
王家が財源として確保していたのが、“学園や文化的施設の運営”だった。
それがこの間のテロでぶっ飛んだ。キレそう。
そして貧乏王家がすり寄ってきたのがフォノス家。フォノス商会。まあ、俺だ。
そこはもうこの際しょうがない。
だが問題は王位継承の話だ。
偽者ちゃんは国王第三子の娘。普通に考えれば王位継承なんて夢のまた夢だ。祟りでも起きない限りな。
でも、彼女の後ろには“カルクルール家”がいる。彼女がお飾りではあるが女王になる可能性が高い。
ヴィクトリアとかいうアホは放っておいて、後の二人は実質カルクルール派閥の差し金となるわけだ。
「ルクス様。サフィレーヌ・カルクルール様がお越しなられました」
とうとう俺の地獄タイムが始まる。
背後がめんどくさすぎるのに、更には三股を前提にしたやり取りが始まる。
一人相手するのもしんどいのに、同時に三人はもう死でしょ?
なんとか引き伸ばして向こうに撤回させたい。けど、権力繋がり的にはクソ嬉しいというジレンマ。
オヤジ……。ダルン……。ファビッさん……。ぼく死んでくる。
「通せ」
偉そうに命令する。
さてさて、まずは何から確認しましょうかね。
◆
「来た!」
そうかぁ……。よくきたねえ。
元気いっぱいなサフィはボスンっと客間の椅子に飛び込んだ。
気が抜けるなあ、この子。
「よく来たね、
あえてその呼び方を続ける。
位の差はあるが、意地で突っ張る。負けねえぞ俺はよ!
「!! うん!」
良かったー。気にしていないようだ。
実はカルクルールだって知ってたアピールしとくぜ。
「今日はどんな用事で来たのかな?」
「──?」
どうしてそこで首をかしげるの?
サフィはその海色の目で俺の全身をじっと見ると、少しテンションを落とした。
「…………。ルクス、調子悪いの? また今度来たほうがいい?」
「いやいやそんなことないよ? ゆっくりしていって欲しいな。いろいろ聞きたいし」
うげっ!! テンション低かったか?
「……わかった。ごめんなさい」
ぐあぁ……女の子に気を遣わせてしまった。
「気にしないで。サフィは今回の話をどう思うの?」
「すごい!!」
そうかぁ。いい笑顔だなあ。
分かってるのかな……。心配になってきた。
「えっと……フィンナ公爵は成金の息子との婚約は反対じゃないかな?」
「ううん! お母さまは応援してくれてるよ?」
やっぱそうなのかあ。応援って……。
実の娘をなんだと思ってんだよあの人。
「そうだ! わたし正式に“カルクルールの次期当主”になったの!」
────は?
「ルクスを相手に迎えるなら当然だって! 喜べ!!」
強制っすか?
「それはすごいね」
なんとかサフィの言葉を受け止め流す。
そんな俺の反応に不服だったのか、サフィは強くセールスポイントをアピールするように声を大きくして言った。
「だから、ルクスはカルクルールの当主になるの!
「────サフィ?」
それはあり得ない発言だった。
国王はサルヴァリオンだ。
明らかに不敬な発言だ。
室内にはフィフとリエーニ。あとは彼女の従者が一人。
不用意な発言は控えないといけない。
俺は咎めるように彼女を睨む。
「なーに?」
「ちゃんとしておこう。国王はオスリクス陛下だよ」
「うん。知ってるよ?」
当然だと彼女は反応した。それでもさらに先を口にした。
「でも──
「…………」
その瞬間、俺はサフィを見直した。いや、正しく認識した。
この子はカルクルールだ。間違いなくあのタヌキ公爵の娘だ。
11歳の女の子だと思って舐めていた。
そうだ。何を言っているんだ。
彼女は俺よりも深くこの世界を生きてきた子なんだ。
その目は正しくこの世を見ている。
「そう思うんだね、サフィは」
「うん! だから、わたしと結婚したルクスは王さまなの」
これは彼女の交渉だ。
あの公爵の差し金は伊達ではなかった。
ならば、俺も精一杯乗らせてもらおう。実権を握ることができるのならば、成り上がりとしては申し分ない。
足場固めを怠らずにゆっくりとやっていけばいい。
「それはよくわからないけど、君との婚姻は僕としても嬉しいな」
「うん!! うん!!」
そんなはしゃぐとまたコケるぞ。
今まで会ってきた人とは違うタイプでよくわからないなぁ。
……なんか、普通に喜んでるぞ? 演技なの?
これ駆け引きなのか? うーん、違和感。
ちょい確認しておくか。
「でも、ならどうしてミゼリア様からもお手紙を送らせたんだい? 実質的な支配者が公爵だと思っているなら、王家からの手紙は不要でしょ? それともフィンナ公爵様の考えなのかな?」
「────え」
うきうきではしゃいでいたサフィが凍った。正しい表現だって思えるくらいには。
まじかよ……。胃が痛くなってきたな。
「もしかして、知らない……?」
「何が?」
真顔のサフィ怖い。
リエーニに手紙を持ってこさせる。ついでに暴走令嬢のも。
「────」
ああ待って手紙破ける!
それらを読んだサフィの目がすごいことになった。
彼女の手は紙を引き裂きそうになるくらい力んでおりまする。
「その……有難い事にお誘いを受けてね……」
俺は悪くはないよね? 誰か弁護してぇ……。
「…………」
怒りと焦りがサフィの表情にはあった。
そうして、純粋に俺に質問をぶつける。
「ルクスは、わたしと結婚するのはイヤ?」
「────」
単純で強力な質問だった。
俺の中に様々な考えが走っていく。
この世界の慣習。世間体。
打算と計略。
俺個人の下らない価値観。
目の前で困っている少女。
そして、俺は
「カルクルール家との婚姻は貴族としてとても有り難いよ」
「! そうだよね!」
俺の右側に駆け寄って座るサフィ。その仮面は剥がれかけていた。
「そして、僕自身もこの話は是非とも進めたいと思ってる」
「ルクス!」
俺の手を握るサフィ。
この国の貴族にとって、婚前の男女の触れ合いはご法度レベルだ。
多分路上チューくらい淫らな行為とされる。
「だけど、僕の心は今女性に向けている時間がない」
事実を告げる。
サフィの顔は変わらない。
俺の顔も変わらない。
光の仮面が葛藤を消してくれる。
「他の家の誘いもこちらから断ることもしない。……権力を僕は手に入れたいからね」
正直に言ってしまえば、今回の話は渡りに船だった。
あとは個人間の心の問題だけだ。まあそれが重要なんだけど。
海色の目は俺を見つめている。
正しくは俺の仮面の奥を。
永遠の沈黙が訪れるかと思ったが、サフィの声によってその時間は消え去った。
「いいよ!!」
「……ん?」
「やったっ!! ルクス! ルクスがわたしの!!」
俺の右肩に抱きつくサフィ。
えー……? 軽くない?
なんなの? この子がわからない。
「三股かける宣言したんだよ?」
「? うん」
「その、君を愛しているわけじゃないんだよ?」
「うん。それが?」
出たよ。異文化交流。
こんな違う?
ファビッさんとかが異常なのかなやっぱ……。
この世界にはこんなジョークがある。
“取り敢えず結婚したいならロルカニア人を選べ。愛の数がアイツらの力だ”。
「ルクスの調子良くなったら、一緒にお母さまに会いに行こう!」
俺ロルカニア人ちょっと怖くなってきたよ。
産めよ増やせよの時代ってさすがに終わったよね?
元の世界の西洋的価値観に縛られてるってわかってるんだけど……。
どうにも慣れねえ……。
こういうやり取りがあと二つ待っていて、それ以降も続くってことっすか?
「そうだね。是非挨拶しないと」
今だけはこの無表情クール系仮面に感謝した。
この世界はホンマ……クソ!!
◆
「気を付けてね」
「うん!」
サフィレーヌは上機嫌で返事をする。その声が自分のものになったのだから。
逢瀬が終わり、彼女は帰宅するところである。
馬車に乗ろうと台に足をかけた途端、世界が揺らいだ。
「わっ!?」
「……言ってるそばから。まったく」
後ろに向かってひっくり返りそうになるサフィレーヌをルクスが受け止めた。
「ルクス、ごめんなさい!」
「いいって……大丈夫」
仮面の奥の彼は痛みに少し顔を歪ませた。
サフィレーヌは青褪める。今日だけは
「ルクス……」
「いま転んだからもう今日は大丈夫だね?」
優しい笑顔。暖かい心。
それは歪んだ表の奥にある彼の真実。
ふとした瞬間に押し寄せるそれに魅せられ、サフィレーヌは表情を赤くした。
純粋で、幼稚な肉体の反応だった。
「──あ、──りがとう」
たったそれだけのことで、息ができなかった──。
帰りの馬車に揺られながら、サフィレーヌは自分の意識をコントロールするのに精一杯だった。
(やった……ッ!)
歓喜していた。興奮していた。
元々サフィレーヌは自分が相手にされていないと理解している。
だからフィンナという武器を使った。利用した。
カルクルールという自分を縛る鎖を敢えて振り回した。
それでも彼が頷くかはわからなかった。
必死に喋った。できる限りの自分の“長所”を語った。
政治の力しか無い自分を差し上げた。
そうして──
(わたし……ルクスの婚約者になれた……っ)
嬉しさで人は涙を流せることをサフィレーヌは初めて知った。
自分でも驚く現象だった。
呼吸は乱れ、体は震えている。緊張からの解放によるものだろう。
顔を両手で覆い隠し、交渉の結果を実感する。
そして、すぐにまたその顔が曇った。
心のどこかに刺さった小さな針。
それは二本ある。
(お姉様と……ミゼリア、様……)
ミゼリアには一応敬称を付けた。今付けておかないと現実でどうなるか分からなかったからだ。
あの二人もルクスが好きなのか。それは違う。
ミゼリアは絶対にそうではないと断言できる。昔からの付き合いだからだ。
ミゼリアはそんな感情を抱けるほど大人ではなかった。つい先日までサフィレーヌもそうだったからわかる。
そして、恋に溺れた者の動きも同時に理解していた。
その点で言えば、お姉様──ヴィクトリアはサフィレーヌと同じだと言える。
(お姉様はあの黒髪の子を愛している……)
だが、あれは────『ルクス』だ。
ヴィクトリアは何故か分かっていなかったが、ルクスはあのパーティ襲撃事件の時、机の下で魔力の塊の人形と入れ替わっていた。
ヴィクトリアはルクスに怒り、ルクスに愛を抱いていた。
そうだ。──サフィレーヌには
サフィレーヌは人とは違う世界に生きている。
魔力が視えている。そして、それを感じる6番目の感覚を持っている。
人よりも多いその感覚を誰とも共有できないため、彼女は誰にも理解されないのだ。
(どうして、ルクスは怪我をしていたの?)
今日会ったルクスの見た目は酷いものだった。
彼が自分自身を偽っていることを理解しているため、サフィレーヌは訊かなかった。
でも、危ないことはしてほしくないと思う。
(お嫁さんになるから訊いてもいいのかな?)
それを聞いたときにルクスはどんな反応をするのだろうか。
少しだけ意地悪な笑みを浮かべながらサフィレーヌは次出会える日を待つ。
そして同時に、ルクス自体を愛していないニ匹に対してもオモイを募らせるのだった。