プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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66話 カルクルール家

 

「つまり、ミゼリア王女は正当な後継者ではないのです!」

 

 そんな突拍子もないことを語る男の声があった。

 

「ほう、面白そうな話だ」

 

 それを聞くのはフィンナ・カルクルール公爵だ。

 

 彼女は大量の書類をテーブルの脇の置いて、食事をしていた。

 何かのソースを料理に丁寧に塗って口に運ぶ。そして、ワインを飲む。

 

 仕事中でありながら、とてもリラックスしている。

 格好は煽情的なドレスで、肉欲を煽る姿をしていた。

 

 それに目を奪われながらも、男は話を続けた。

 

「ダルン・ヴォル・ルクレヴィスが一切接触しないのがその証拠です。

 親友の娘に挨拶もしない? ありえないことです」

 

「たしかに」

 

 今度は肉をフィンナは口に入れる。

 

「そして、三年前の彼の行動を追っていくと、ある町に訪れたあとで引き返しているのです。

 今はもうその町を調べる術はありませんが、孤児院がどうもあったようです!」

 

 気持ちよく男は自分の推論を述べていく。

 

「そして、その周辺の村にはあったのです。金髪金眼の子供の目撃情報が。ちゃんとダルンの情報とともに記録されていました」

 

「ふむふむ」

 

 フィンナは大食いだ。

 次の皿に手を出していく。また違う料理の匂いが充満する。

 

「その後ダルンは王都に帰還しましたが、オリジェンヌのルクレヴィス家の別邸で見つけました!

 いたのです! 同じ年齢の子供が!」

 

「へえ」

 

 垂れたソースを舐めるフィンナ。そこにはかなりの色気があった。

 

「その娘の名はリエーニ。現在フォノス家で働いているそうです!」

 

「そんな子がいたかな?」

 

「サフィレーヌ様の婚約者、ルクス・フォノス専属の召使いとなっているようです。髪と目の色も誤魔化しています」

 

 今度はフィンナはスープを飲み始めた。一向に食事を終える気配がない。

 

「フィンナ公爵様、誤魔化さずともわかっております。ミゼリア王女を立てたのは貴方ですから。

 私に任せてくだされば、このハットリュークの血を滅してまいります!」

 

「…………」

 

 話が終わったと見ると、フィンナはナイフとフォークを置いて、大量に置かれている書類から一枚を手に取った。

 

「そうしましたら是非ミゼリア王女が即位した暁には王配として私を推薦していただきたい」

 

 権力への渇望を隠さずに男が語る。

 彼はカルクルール派閥の中でも重役の位置にいる人物だ。

 

 ──しかし、フィンナにとっては替えのきく、魅力のない男でしか無かった。

 

 彼女の手に取った資料には男のポジションの次の候補がリスト化されている。

 

「実に面白いお話をありがとう、伯爵殿。食事中の良い暇つぶしになったよ」

 

「……な、なにを!?」

 

 フィンナが退室を促すように手を扉に向けると、自動で扉が開いた。

 彼女の使う簡単な魔法だ。

 

「良いのか!? ミゼリアのことをバラすぞ!?」

 

()()()()()()()()()()。良い暇つぶしになりました。ありがとう」

 

 退屈するように彼女はこめかみに手を当てた。

 

「ふざけるな!! 雌狸が!!」

 

「あー、私も今面白い話を思い出したよ。キミの領の話だったかな?」

 

 扉が閉まる。

 最終警告を無視したのは男だ。

 

 これからはただの結果報告が始まる。

 

「何やら聖国の方が出入りしているようじゃないか。旅行かな? 随分と豪遊しているようだ。羨ましいものだよ」

 

「……ッ!」

 

 それは誰も知るはずがない男の急所だった。

 

「どうにも今から4時間後くらいか? そこで事件が起きるそうだ。火事としておこうか。そうしたらいろいろ出てきてしまうらしい」

 

 全て未来のことであるのに、彼女は事実のように語る。

 

「なんでもいいが、歓迎した聖国の役人のリストがいいですかな。接待内容の公開でもいいですな。かなり過激なプレイだねえ? ふははは」

 

「────なぜ、そのことを」

 

 白状したようなものだった。

 それを聞いたフィンナは男の絶望した顔を肴に酒を呷った。

 

 そして指を鳴らし従者を呼んだ。屈強な男達が現れ、男は運ばれていく。

 

「貴様ッ!! 下女が!! こんな暴虐を続けてどうなるかわかっているのか!?」

 

「どうにもなっていないから私はここにいるわけだがね」

 

 フィンナは羽交い締めにされている男に近づき、耳に口を近づけた。

 そして囁く。

 

「ちなみにさっきのお話だが、外れだ。()()()()()()

 

 醜く叫びながら運ばれていく男をフィンナは陽気に見送った。

 

 そして、食事に戻る。

 横に置いてある書類を見ながら、彼女はパンを食べた。

 

「失礼します」

 

 そうすると今度は別の客が来たようだ。

 

 入ってきたのはまだ成人前の少年だった。

 

「なんだね? ああ……シャルル」

 

 なんとか少年の名前をフィンナは思い出した。

 

「母上、サフィレーヌを次期当主に据えたという話は本当ですか?」

 

 フィンナにとってこの会話はデジャブだった。

 

 このような会話を最近はかなりの回数繰り返している。

 彼女の子供が多いのだから当然だ。

 

 おそらくこの少年は一回目なのだろう。

 

「本当だとも。伝わるのが遅れたのかな? それはすまなかった」

 

「!!」

 

 それを聞いたシャルルという名前の少年は、声を震わせて意見を述べた。

 

「あんな脳無しには務まりません!」

 

 これもまたデジャブだった。

 つまらない会話の応酬が始まることが予想されるので、フィンナは食事を再開した。

 

 それを『続けろ』と言われたと勘違いしたシャルルは続ける。

 

「あの女には無理です。鈍臭く言葉もまともに話せません」

 

「……もういい。()()()述べ給え」

 

 フィンナは一蹴した。

 開口一番に回りくどいことを言ってくるこの人間は愛するに値しないからだ。

 

「端的……?」

 

 鈍臭く言葉もまともに話せないのは一体どちらなのか。

 フィンナは理解に苦しんだ。

 

「キミは一回目だったかな? 説明してやろう。

 誰かをこき下ろす前に、自分がどれくらいふさわしいか、どのような大望があって次期当主の座を欲するのかを述べ給え」

 

 肉を切り分けながら、フィンナは目を合わさずに『フィンナ公爵の息子の地位』にいる少年に説明した。

 

「ま、魔王領の依存からの脱却です。このままでは我が国は魔王領の傀儡国家になってしまいます。

 私は派閥の連携を強化し、それを実現したいのです!」

 

「うん。素晴らしい考えだとも。だが違うね」

 

「違う……?」

 

 フィンナは横の資料から一枚取り出した。

 そこには息子と娘のリストが一覧となって表示されていた。

 

 その内数カ所には()()()()()()()()()

 

「『王国の頂に立ち、権力に釣られてきた女をしゃぶりつくし、男を従わせ、毎日贅沢に生きたい』。

 そう述べるべきだった」

 

「そ、そんなことは望んでいません!」

 

「ふむ。なら勘違いだったか。すまないね」

 

 実の息子に取るような態度ではなかった。しかし、彼女にとっては母を満足させられないものは、子供として失格だった。

 自分の子供を名乗るのならば、愛される何かを有していて欲しい。

 

 無償の愛などフィンナにとってはあり得なかった。

 

「ぶ、侮辱です!」

 

「…………」

 

 また始まった。

 結局この子供も揚げ足をとって母を失脚させたいだけなのだ。

 

 そもそも先程シャルルが述べたことは公爵でなくとも目指すべきものだ。

 根本が捻じれているからそんなことを恥ずかしげもなく言えるのだろう。

 

「あー……。もう用は済んだかね?」

 

「母上!! そもそもどうしてサフィレーヌなどを選んだのですか?」

 

 フィンナの視線が手元の資料に移る。

 そしてペンを手に取り、シャルルと書かれた欄を消そうとした。

 

 そのときにまた別の客の気配がした。

 

「失礼します」

 

 それはフィンナが最近よく聞く声だった。

 

「入り給え」

 

「……!」

 

 シャルルは入室の際に母が返事をしたことに驚いた。

 だいたいの声は無視されるからだ。

 

「あうっ!!」

 

 そして、転倒とともに入室してきたのはサフィレーヌだった。

 

「お母さま……」

 

「今日はどうした?」

 

 軽い感じでフィンナに声をかけるサフィレーヌにさらにシャルルは口を開ける。

 気さくな親子の会話のようだったからだ。

 

「ルクスを呼びたいです」

 

「ふむ……2日後でどうかな?」

 

「じゃあその日にわたしは体調不良になります」

 

「! ふははははははは!! 任せ給え」

 

「ありがとうございます!」

 

 サフィレーヌはそれだけで帰っていく。

 

 会話が終わったようだった。

 シャルルには理解できない会話だった。

 

 ルクスとはルクス・フォノスのようだ。サフィレーヌの婚約者となった人物だからそれはわかる。

 

 呼びたいというのもこの宮殿に招くということだとわかる。

 その予定が、2日後で決まったらしい。

 

 だが、サフィレーヌが体調不良となるとはどういうことだろうか。

 

 そして、それを聞いたフィンナが笑った。

 母が笑ったところなど見たことがないシャルルは恐怖した。

 

 そして、何かをフィンナが了承した。

 

 そうして会話が終わったのだ。

 

「母上、今のはどういったお話だったのですか?」

 

「キミには関係ない話だから、気にしなくていいとも」

 

「……そうですか。失礼しました」

 

「では出て行き給え」

 

「え?」

 

 フィンナの資料のシャルルの欄には斜線が引かれていた。

 

 もうシャルルは“関係ない”存在なのだ。

 

 シャルルの失敗。それはまた端的に言わなかったからだ。

 

 彼は『母上、今のはどういったお話だったのですか?』ではなく、『サフィレーヌと仲良さそうにしているのはずるい』と言わなければならなかった。

 

 

 

 

「大丈夫? サフィ」

 

「うん!」

 

 元気そうにサフィはベッドの上にいる。

 初めてのサフィからのお誘いだったが、直前でサフィは体調を崩してしまったようだ。

 

 サフィの部屋は殺風景だった。

 ベッドと机。あとは数冊の本。

 

 その本は俺もジジイに読まされた魔法使い御用達のやつで、しかも原本。共通語で書かれたものだった。

 サフィは魔法が好きなようだ。

 

「もう。知らせてくれればよかったのに」

 

「ホントに悪くなっちゃった……」

 

「ん?」

 

「ルクスが来てくれて嬉しい!」

 

 そうかぁ……よかったねえ。

 なにかの病気なのだろうか?

 

 今の彼女はベッドの上に仰向けになり、首と両手首、あと両足首に輪っかを装着していた。

 その輪っかからは管が伸びて、変な容器に繋がっている。

 

 点滴……とも違うな。なんだこれ。

 

「熱は?」

 

「よくわかんない」

 

「ちょっとごめんね」

 

「っ!」

 

 サフィのおでこに触るとかなり熱かった。

 抱きついてくるときに感じる熱で、この子の体温が高いことは分かっていたけど、さらに熱い。

 

「もっとやって」

 

「はいはい」

 

 包むように彼女の頭に手を乗せた。

 気持ちよさそうにサフィは目を閉じた。

 

 しばらくそうしていると、医者の集団が入ってきた。

 

 彼女のつけている装置の交換があるそうだ。

 全員が女性で、彼女の着替えも始めそうだったので、退室して部屋の外に出た。

 

 定期的にある症状なのだろうか。

 サフィのこと、上辺しか知らなかったんだな……。

 

「……少しいいかな?」

 

 そうして時間をぼうっと潰していると、声を掛けられた。

 

 その声の主を直接見るのは二回目だ。

 忘れるはずがない。

 

 コイツはダルンに屈辱を与え、ミゼリアを擁立し、王国を支配する女だ。

 

「これは、お初お目にかかります。サフィレーヌ様より婚約者に選んでいただきました、ルクスと申します」

 

「やあ、こんにちは? こんな廊下でどうしたのかな?」

 

 それはこっちのセリフだが。

 

 待ち構えていたように女は言ってきた。

 

「サフィレーヌ様の見舞いに来ておりましたが、お召し替えが始まったので逃げておりました」

 

「おやおや、殊勝な少年だね」

 

 人の良さそうな微笑みを浮かべながら、女は手招きをしてきた。

 

「それならば少し話でもどうかな?」

 

「是非にとも」

 

 イメージと違い、女の格好は仕事用のフォーマルなものだった。肌が一切見えない。

 浮き出るシルエットがかなりえっちだが、服自体はドレススーツみたいな格好いいやつだ。

 

 もっとやばい服装してると思ってたけど、噂は当てにならんか。

 

 案内された部屋は、完全仕事用って感じのもので、無駄が一切無かった。

 

 大量の資料が山積みで、仕事自体はやっているらしい。

 

「座ってくれ給え」

 

「失礼します」

 

 一対一で向かい合うとかなり威圧感がある。

 体格的なものじゃなく、雰囲気で圧倒されるような感覚だ。

 

「改めて。知っていて無駄な挨拶だとは思うが、フィンナ・カルクルール。公爵だ。サフィレーヌの母親さ」

 

「よく存じております」

 

 メロンメロン公爵だろ? 知っとるわ。

 

「すまないが、食事をしながらでも? 私は大食漢でね」

 

 え、いいなー。俺も腹減ってきた。

 考えてみりゃ、コイツも義理の母ちゃんになんのか。

 

 なら言ってみよう。

 

「私も何か頂いてもよろしいですか? その方が気まずくないのでは?」

 

「はははっ! それはいい。何がいい?」

 

「フィンナ様のお気に入りを一品いただけると幸いです」 

 

「よろしい」

 

 パイパイ公爵が指を鳴らすと、従者がやってきて注文を受けていった。

 かっこいいな。映画で見たやつ。

 

 ちょっとぶっ込んだけど、やっぱこれくらいで動じる女じゃねえか。

 

「ふむ、理解できたよ。では遠慮は要るまい?」

 

 うわ。この女もなんかやる気出してきたよ。いい笑顔じゃ。

 

「なぜ、()()()()()()()()?」

 

 ぐえっ! いきなりクリティカルかよ。

 この女探り合いとかしないの?

 

 もうわかっている前提で話を進めるほうがいいのかな。

 

「言っている意味がよくわかりませんが、答えるとしたら個人的な理由です」

 

「大人しくする気はあるかね?」

 

「あります」

 

「ふはははははは! よく言う!」

 

 やっぱ怖いわこの人。

 

 きっと人より理解度が上に行き過ぎていて、他人を周回遅れにさせている。

 

 他人に会話を理解させる気がない引きこもり女王って感じ?

 そう考えるとタコだけどまだあの女王は会話できるようにしてくれる優しさがあったんだな。

 

「陛下と話はできたのかな?」

 

「はい、家族になりますから」

 

「おお、良い言い方だね」

 

 褒められた。嬉しくねえ……。

 抱えている情報量の差が違いすぎるのか?

 

 どうしようもねえな、こりゃ。

 開き直るか。

 

「こちらからお聞きしても?」

 

「なんだね?」

 

「なぜ今回の婚約をお認めになったのですか?」

 

「かわいい娘の頼みだったからね」

 

 なんだコイツ。

 白々しいな。

 

 食事が運ばれてきた。

 俺の前には結構普通のランチが出てきた。

 

 パンと肉とサラダだ。

 

 一方メロン女の机には見てるこっちが腹一杯になりそうなほどの料理が並べられていた。

 

「驚いたかね?」

 

「かなり。また身籠られたのですか?」

 

「正解だ。まあ、それでも普段からこれくらいは食すがね」

 

 すげー……。フードファイターやん。

 しかもまた生むのかよ。パワフルだな。

 

「そちらの味の方はどうかな?」

 

 え? フツーすぎるが。

 

「慣れ親しんだ味です」

 

()()()()

 

 何が? もう会話が飛び過ぎだよこのおっぱい。

 

「なぜそういう言葉になったのか教えていただいてもいいですか?」

 

 もう聞いちゃえ。

 

「その料理を食べて、無理矢理褒めだすようならそれまでの男と切り捨てようと思ってね」

 

 こっわ。トラップやんけ。

 

 公爵、この国の支配者が提供した食事が普通のはずがないと自己暗示にかかると、こんなランチセットでも美味しく思えてしまう。

 

 そして、そういう人間をこの女は嫌うのだ。

 

「性格が捻じれて一周していますね」

 

「はははっ!! もっと言ってくれ! 愉快だ!」

 

 ええ…?

 罵倒されるのが好き、的な?

 

 こっち結構命がけなんだよなぁ……。

 

「貴方はいいかもしれませんが、他に聞かれたら私が死んでしまいます」

 

「私が許すのだから問題はない。キミはこの国では不死となる」

 

「傲慢ですね。社会的には不死になれません」

 

「肉体があれば不死さ」

 

 美味しそうに肉を噛む公爵。

 ここまで来ると流石に一種の尊敬が出てくるな。

 

「……ふむ、そうだな。ここからは“フィンナという女として”お相手をしよう」

 

「では僕は義理の息子としてお相手します」

 

 うおおおおおおお! 来るぞおおおおお!

 

「それは期待してみようかな。ではルクス、キミには足りないものがある。それを自覚して欲しい」

 

「さっそくダメ出しですか?」

 

 食事が喉を通らん。

 義理の母ちゃん怖すぎ。

 

()()()()()()()()()?」

 

「────」

 

 端的にこの人は俺の急所をついてきた。

 

 俺はそんな子供の考えをしないように生きている。そうしようとしている。

 行動に理由を据え、客観的真実を証明しながら生きている。

 

「私が今の地位を得ているのはね、ズルをしていないからさ」

 

「……かなり語弊があるようですが?」

 

「ミゼリア王女の話かな?」

 

 そうだとも。

 彼女の状況をズルじゃ無かったとは言わせない。

 

「ハットリュークとハディアの子がもし生きていたとして、無事に帰ってきたとしようか」

 

 サフィと同じ目が俺を視る。

 この人は俺に合わせた話し方を選んでいるようだった。

 

()()()()()()()

 

 憐れむような視線だった。

 

「世界との乖離に苦しみ、誰にも理解されず、理解できるものは敵となる。そういう人生さ」

 

 食べるのを止め、俺に対し諭すようにフィンナという女は語る。

 

「端的に言おう。世界は()()()()だ」

 

 今まで俺が出会ってきた人達とは真逆の思考だ。

 

 おそらく、この人は俺と近い位置にいる。性格だとか人間性の話でだ。

 

 だが、この女性はその考えに辿り着いた。

 きっと俺も辿るかもしれない結果の一つがこの女性の位置なのかもしれない。

 

「それがミゼリアを作った理由ですか?」

 

「そこまでは知ったか。その通り。あるものを消すよりも、最初から無い方が扱いやすい」

 

 それは両親の痕跡の話だろう。

 偽物として立てた人物に本当の両親がいた場合、そこから足がつく。

 

「ズルはしていないと……?」

 

「ああ。国の為だ。国民は王など望んでいない。自分たちの生活が回るのなら、どこに誰がいようと気にはしない」

 

「……それは事実です。だが、回っていないはずです」

 

 反王軍がその証明だ。

 

「いいや」

 

 とても幸せなように女は微笑んだ。

 

「私が『国民』だ。国は回っているとも」

 

 なんつー女だよ。

 自己中心、自己保全、完全な保守だ。

 

「見給えこの美食の数々を。私の愛の数を、私の権力をご存知かね?」

 

 蠱惑的で煽情的なこの国に巣食う暴君だ。

 一つの人としての在り方の究極だった。

 

「私の幸福でこの国は成り立っている」

 

 笑いながら女は宣言する。自分の在り方を。

 それがいかに歪んだものであるのかを自覚しながら。

 

「宮殿を綺麗に、王都を整備し、国庫を豊かにするのは私のため。

 軍備を強化し、英雄を活躍させ、教育を導入したのも私のため。

 繋がりを増やし、愛を深め、子供を生むのは私のため」

 

 “自分と周囲の人が幸せでありますように”。そんな普通の願いを極め続けて出来上がったのが、目の前の女性だった。

 

 やばい人だと思った。

 理解できても共感はしたくない人だった。

 

 声を張り上げ愉快そうな声だった。

 惜しげもなく痴態を晒すような真似だった。

 

「キミが今生きていて、私と会話し、親子となるのも──私のためさ」

 

 でも、最後の一文だけの声は切なく、悲しげに聞こえた。ほんの小さな揺らぎだ。

 それは俺の耳だからこそ捉えることができた、彼女の真実だったのかもしれない。

 

「一つ質問をいいですか?」

 

「なにかな?」

 

「──ハットリューク王子はどのようにお亡くなりになったのですか?」

 

 俺がそう問い掛けると、彼女はゆっくりとまぶたを閉じた。

 そして、ただ事実だけを端的に述べた。

 

「疲労により、階段から落下して死んだよ」

 

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