私のまわりで聞こえる音が変わったのはいつからだろう。
私の原風景は土の乾いた香りを運ぶ風の音。
流れる汗と汚れた手足の感覚。
毎日の繰り返しを嘆きながらも、どこか純粋に生命の在り方として納得していた。
そんな日常が変わったのは、王都に連れて来られた時だ。
憧れていた王都。高くそびえる城とドレスたち。
目がちかちかするような色とりどりの世界。
目が回るように変化していく時間。
『よ、よろしくね?』
『なんか変な子ねアンタ』
『! えへへ……』
『なんで喜んでるの……?』
宮殿の奥で最初は生きていた。
そこで閉じ込められるように過ごしていた友人と共に生活していた。
それも悪くない生活だった。
どんくさい友人だったけれど、優しい子だったからだ。
その関係も変わってしまったのは、私の素性を知らされた時だ。
『よろしくお願いします! お祖父様!!』
『あ、ああ……お前が……』
初めて会った祖父は困惑していた。
番号が名前だった私に与えられた新しい名前。
『ミゼリア・サルヴァリオン』。
自分の家族。自分の居場所。自分の存在意義。
私は女王となる。そして、幸福になれる。
そう知ったときに私は笑顔で喜んだ。
おとぎ話でよく読んだ。
夢でよく見た。
そんな生活が待っているのだと思った。
褒められた。──褒められ続けた。
好きなものを与えられた。──好きなものだけを与えられた。
でも、まわりの音は酷かった。
近くと遠くで奏でられる音の違い。
その性質の違いが苦しかった。つらかった。痛かった。
どうすればいいのかわからなかった。
近くの音は正しいと言う。でも、遠くの音は違うと言う。
必死に自分なりに動いても、調律された口はそれ以外を奏でない。
『あら、久しぶりじゃない!』
『……お久しぶりです』
私を見つけてくれたと聞いているお父さまの親友に声を掛けたことがある。
悪い噂ばかりの父の話を聞きたいと思ったからだ。彼の口から本当のことを聞きたかった。
でも、それは何故か失敗だった。彼の音には拒否が混じっていたからだ。
『ちょっと何をしているの!!』
『すいません!』
仕事をさぼる使用人の声が聞こえたので、近くまで行って注意したことがある。
誰かの怠慢が全体に影響を及ぼす恐怖を幼い頃に知っていたからだ。
でも、それは何故か失敗だった。彼女の奏でる音が酷くなっていったからだ。
『まあいいわ。それちょーだい?』
『え……』
一人で佇む友人の飲み物を貰おうとそう言ったことがある。
私にとってはいつものやり取りだった。
彼女をなんとか他の友人との輪に入れたくて、上から目線の優しさで行った事だった。
でも、それも失敗だった。それ以来彼女は私に対して音を奏でることが無くなったからだ。
そんな私を大人たちは正しいと言う。
そして、馬鹿だと奏でる。
疲れ果て何もしないときがあった。
寧ろその方が近くと遠くの差は少なかった。
嘔吐と悪夢にうなされ、私は自分の制御方法さえ失った。
聞こえてくる音に安定を求めた。
何かを失敗して褒められ、影で貶され続ける毎日を受け入れたのだ。
苛立ちと混乱が渦巻き、のたうつような合奏が私を苦しめる。
求められていることがわからない。やるべきことがみつからない。
何故か
そのせいだろうか。私は家族に褒められたくて、家族として認められたくて、自分でも馬鹿だと思う決断をした。
よく知りもしない男との結婚。
あの人からすれば道具扱いの都合のいい一方的な契約だ。
それを提案した後に会った彼は、逸る私に対して落ち着いたように接した。
そして、あの音が心地よかった。楽しかった。
彼は私を見ていた。
何も知らない私に教えてくれた。
それがどんなに誠実なことだったのか、あの日の私には理解できなかった。
『────僕以外の音は耳に入っていますか?』
あの酷い殺し文句は絶対に忘れることはないだろう。
◆
「これはなんという野菜ですの? ミゼリア様」
「……マルグルト。今が旬よ」
「へー、すごいですね! ミゼリア様」
食事会でそんな会話を私はしている。
友人たちは興味津々でその話を聞いていた。
せっかくの華々しい場所で、こんな牧歌的な話をして何が楽しいのだろう。
「育てたことはあるのですか?」
「そりゃあるわよ。売れるもの。寒くて他が育たない時は余った場所でそれを育てるのよ」
「なるほどー」
「美味しいですわね」
別に普通の味だ。
ただ和えただけの野菜に何を驚くのかわからない。
「……その、ミゼリア様、よろしいでしょうか?」
「? なによ?」
一人が気まずそうに声を上げた。
最近は彼女達の方から私へ声を掛けてくることが多くなった。
私に合わせるような音は消え、感情がよく乗るものに変わった。
「何人かで話をしていまして、農作業というものをやってみたいとなったのです」
「はあ?」
彼女の言っていることがわからない。
私たちはあんな作業などやらなくていいのに。
「そうなんですの!」
「なんだかミゼリア様のお話を聞いていて、実際にやってみたいのです」
「自分の作物を育てて食べてみたいですわ」
「ふーん。あんなの別にやんなくていいと思うけど」
綺麗で新鮮な料理を食べながら私はその話を流す。
「それで、ミゼリア様に是非教えて頂きたいのです!!」
「……は?」
手が止まった。
彼女達の目は真剣だった。
「嫌よ!? 誰か勝手に雇えばいいじゃないの!」
「そこをお願いします!!」
「ちょっと恥ずかしいんですの!」
「お父さまにバレたくないんです!!」
「アンタ達だいぶ勝手なこと言ってるわよ!?」
音が変わったと思っていたが、なんだか彼女達は生意気になっている。
王女である私に対する敬意が無くなってきている気がする。
でも、なんだか嫌な音ではなかった。
「ミゼリア様~!」
「お願いします!」
「普段愚痴に付き合っているじゃないですかぁ!」
「今言ったの誰よ!! 黙って食事なさい!!」
そう怒るとしぶしぶ彼女達は引き下がった。
変化したものは音だけではなかった。
それは彼女達の表情にも現れていて、私を視る笑みが嘲るものから慈しむようなものに変わっていた。
「いけませんよ、貴方達。ミゼリア様はお忙しいのですから」
「まあ、そうですわよね」
「最近はそればっかりで私たちには構って頂けませんものね?」
訂正しよう。やはり、その笑顔は嘲るようなものだった。
「な、なんのことよ……」
「うふふふふ」
「まあまあ」
「くすくす」
「うるさいわね!! 黙りなさい!!」
彼女達の音は間違いなく騒音だ。すぐに私はいつものように吠えた。
それは今までとまったく同じやり取りの筈なのに、前までのものとは違っていた。
「それはいいですね。教えて差し上げたらいいのでは?」
「いやよ……。なんで王女になったのに農作業なんて……」
友人たちとのそんなやり取りの後、王族が利用する娯楽用の部屋で私はルクスと会っていた。
その大きなテーブルにはカードが並んでいる。
私がそのことを話すと彼は嬉しそうに頷いた。
よっぽど私が気に入らないらしい。私を土塗れにして笑うつもりなのだ。
「っていうかどういうつもりよ!! いつものデッキはどうしたの!?」
「…気分で変えました」
「ネトス属性をメタってきたのにぃ!!」
「ハハハ」
「むかつく!!」
私たちが遊んでいるのは対戦用のカードゲーム「イフ・マロンテンド」だ。
非売品の特別製の遊びらしい。
自分でも驚くくらい私はこの遊びに熱中していた。
寝る間を惜しんでベッドの上で練習するほどだ。
複雑で念入りに作られたルール。一つのミスが敗北につながる容赦のない作り。
そして、敵対する人物がこのゲームの創作者であるという点。
ルクスに勝ちたくて、私はずっと戦法を練っている。
「では『武帝』の能力を全エネルギー消費して起動。消費したエネルギーの数だけ攻撃力が上昇し、このターン中『武帝』は自分以外全てのユニットに攻撃でダメージを与えます」
「!! し、知らないわよ、そんな能力!!」
「いや、渡したカードに入っていたでしょう?」
「何枚あると思ってるの!? 一つ一つ覚えているわけ無いでしょ!」
「勉強不足です。はいこーげき」
「ああああああああっ!!」
彼の攻撃で私の布陣は壊滅した。ついでに彼の布陣の『武帝』以外のユニットも死んでいる。
そのカード名に恥じない一撃だった。
「もう一回よ!! 早くしなさい!!」
「はいはい」
あっさり負けて、また別の日にもまた負ける。
でも、その試行錯誤が楽しかった。
少し友人たちにこの遊びを提案したことがあるが、あまり楽しさを理解して貰えなかった。
あっさりした勝利がとても虚しかった。
「話は戻りますが、本当にやってみていいのではないでしょうか?」
「え?」
手札を見ながら迷っていると、彼がそんなこと言う。
「農作業レクチャーです。そういったイベントは楽しいものですよ?」
「農作業が?」
嫌そうな私の顔を見て、彼は笑うと続けた。
「気持ちはわかりますが、そんな機会を逃すのも勿体ないと思います」
「どこでやるのよ、そんなの……」
「うーん……」
私が必死に作った布陣をまたも蹴散らしながら、彼は提案してきた。
「いっそウチで開催しましょうか? 農業体験」
「ええ?」
「講師役お願いしますよ?」
「はぁ!? アンタだってできるでしょ! やりなさいよ!」
「僕なんてそんなそんな……」
わざとらしい態度に私の血管が張り裂けそうになる。
「まあ貴方に教わりたいと言っているのですから、邪魔するのも忍びないですし。
当日僕はあくまでサポートとして参加しますよ。ミゼリアが許してくれるなら、ですけど?」
しかし、そんな音を聞いた私は情けなく顔を背けることしかできなかった。
「ミゼリア?」
「もう、勝手にしなさいよ! あくまでアンタが主催だからね!? 私の名前でアンタがあの子達を誘うの!! いい!?」
「はいはい」
また私は彼の音におかしくさせられる。
熱くなった頭を振ってなんとか落ち着かせると、再び遊びに熱中するのだった。
◆
当日には数人ほどの友人が集まった。
物好きな子たちだ。
王家が所有する宮殿の中庭に彼女達の姿があった。
目の前には簡易的な畑が作られている。土系統が得意だというルクスが魔法で作った。
楽をして出来上がった本当にお遊びの広さだ。
私が耕していたものの一部にも満たない。
懐かしい匂いが私の鼻をくすぐった。
「この服いいですわね」
「ウチの使用人にも着せようかしら」
普段のドレスを汚すわけにはいかないので、彼女達には着替えてもらった。
給仕服に身を包む令嬢達。でもどこか楽しそうだった。
「お気に入りでしたら持ち帰っていただいても構いません。
後日ウチの商会で販売するモデルですので、よろしければどうぞ」
勝手にちゃっかりと宣伝している男。
給仕服でありながらその服は豪華な意匠が施してあり、凝ったデザインをしていた。
使用人服という名のドレスに近い。
(いつの間にあんなの用意してたの?)
(個人的に使う予定があったのですが、いい機会なので反応を知ろうかと。好評でなによりです)
(もしかしてあのデザインって……)
(僕が作りました。メイド服の可愛さがこの世界には足りません)
あの遊びといい、本当に器用な男だ。
「もちろん、ミゼリアのは特別製ですので」
「どーでもいいけど……」
そう言いつつ私は金色の刺繍とリボンを触る。
何度か鏡で確認したが、本当に凝ったものだ。
「皆々様、本日はお集まり頂きありがとうございます。今回のイベントの主催を務めます、フォノス家のルクス・フォノスです。よろしくお願いします」
慣れたように進行していくルクス。
「…………」
それを見つめる友人たちの顔は、何か嫌だった。
顔を伏せたり、いつもより静かにしている。
あれだけルクスを私と一緒に馬鹿にしていたくせに、都合のいいことだ。
まあ今となってはどうでもいいのだけど。
「そして、今日の指導役を務めていただきます、ミゼリア様です」
自分でも不思議な優越感に浸っていると、ルクスは私を紹介した。
私も何か言わなければならないのだろうか。
「ミゼリアよ! 一言いっておくわ!! 教える以上本気でやるから。畑を舐めんじゃないわよ!!」
「はい。熱いお話ありがとうございましたー」
「ちょっと!!」
軽く私をあしらうルクスを怒る。しかし、彼は無視して続ける。
「作業中はちゃんと休憩は取りましょう。体調が良くなければ遠慮せず言うようにお願いしますー。
ミゼリア様には言いにくいでしょうから、私まで言ってください」
「どういう意味!?」
そんな滑稽なやり取りをする私たちへの音の反応は微笑ましいものを見たような笑い声だけだった。
「土が口に入りましたぁ、ミゼリア様ぁ……」
「死にゃしないわよ!」
「あ!」
「危ないでしょ! 農具を使う時は周囲に気を付けなさい!!」
「どうですか? ミゼリア様」
「もっと間隔を空けて種を植えなさい。結局全滅するわよ!」
思った以上に疲れた。
そもそも畑とは何かから説明しなければならなかったからだ。
「いつ野菜が採れますの? 2時間くらいですか?」
「……そんなわけないでしょ」
「見てくださいミゼリア様! こんなにたくさん生き物が!」
「虫平気なのね……。意外だわ……」
久しぶりの汗と腰の痛みを感じながら少し休憩をした。
今はルクスが彼女達の対応をしている。本当に彼にも経験があるようだ。
「どうぞ、ミゼリア様」
「ん? なにしてるのよ」
紅茶を持ってきたのは友人だった。まるで、使用人のような行動をしている。
「今日の私はこの通り、ミゼリア様の使用人ですので」
「…………」
彼の作った服が本当に気に入ったらしい。その友人は優雅にターンした。
今日の彼女達は少しおかしい。
もっと静かなイメージがあったからだ。
「ミゼリア様? ひょっとして余計なことでしたか……?」
面倒な音を出す子だ。
「もう……さっさとよこしなさい」
「! はい!」
私の従者だったなら叱るくらいの食器音を立てながら紅茶が用意された。
なんなのだろうか。
「……ありがとう」
なんとなくお礼を言うと友人の顔は普段以上に輝くような笑みに変わった。
「! いえ! いいえ!!」
別に味が変わったわけではないのに、その紅茶はなんだか美味しく感じられた。
「……はしたなくてお申し訳ありません」
無言の私に何を思ったのか、彼女は謝罪した。
「なんの話?」
「その、今日の私たちを見て、落胆されたのではないかと……」
その言葉にああ、と納得する。
作業を続ける子たちを見れば、土だらけの令嬢達ばかりだ。
平民だの野蛮だの馬鹿にしている癖に、今日の彼女達はどうなのか。
スコップで土を掘り返し、ミミズを持って別の子を追いかけ回す。
あのはしゃぎようでは平民と変わらない。
貴族としてのお淑やかさは欠片も感じられなかった。
「確かにおかしなテンションね貴方達。どこにこんな元気があったんだか……」
「あはは……別に普段からこんなものですよ?」
「え?」
私が彼女を見ると、少し困ったように笑っていた。
「王女殿下の前にいるのです。こんな姿見せられません」
考えてみれば当たり前の話だ。
王女だとふんぞり返っていた私には、彼女達も元はなんでもない人間だったのだと理解できていなかった。
「……今も王女の前にいるのだけど?」
誤魔化すように私はそう言った。
「お許しを。ミゼリア様ならいいかな……と」
「ちょっと!」
なんだか生意気になったものだ。
知らなかった。彼女達があんなふうに笑うなんて。
「……今まではなんだったのよ」
「
使用人のように礼を取り、彼女は顔を伏せて謝罪した。
不思議と怒りは湧かなかった。
むしろ一致する音の旋律が心地よい。
これが“本音”と呼べるものなのだと知った。
「言うようになったわね」
「ミゼリア様もお変わりになりましたね。今まででしたら私には叱責を飛ばされたはずですから」
怒るべきなのに、私は笑った。
「……私の家が領有する土地は畜産業が多いのです。
そして、十年前の大戦争で人手が減り穀倉地帯が被害を受け、人々の食事の為に家畜の食事を優先するおかしなことになっています。
飢えが広がり、正直、逃げ出したいくらいです」
そう語る彼女の顔は重いものを背負う戦士のような顔だった。
穀倉地帯はたしかイフ・マロンテンドでは全属性のエネルギーカードとして使える便利なものだ。
家畜はシーハルン属性のエネルギーカードだった。
これらがなければユニットの運用ができない。
さらに『飢饉』は厄介な事象カードで、よくルクスの戦法で私のエネルギーを消されているからその悲惨さもわかる。
ムカつくルクスの顔が浮かんできた。
「……大変ね」
「はい。“お前に我が領の未来がかかっている”と、そう父には送り出されました」
「────!」
彼女も誰かに命令され役割を演じようとしていた。
「何もわからない社交会で、なんとか繋がりを持とうと必死でした。
ミゼリア様のまわりは正直、怖かったです。みんな怯えて緊張していました。“言いたくもない罵倒”を必死に考えて、頭がおかしくなりそうでした」
衝撃的な発言だった。
私は彼女達が口の悪い性格だと思っていた。
違うのだ。
私たちはお互いを鏡にしていた。
──なんて、愚か者だったのだろう。
「今は……違うの?」
「はい。自信を持って言えます。少なくとも今日来た者たちは同じ気持ちです」
そうだった。
なぜ私は世界を私だけだと思っていたのだろうか。
近くの音が建前で、遠くの音が本音。そんな法則は無いのだ。
どこにも本音がないこともある。
「…………馬鹿ね。私たちって」
「貴方は馬鹿ではありません。嘘をつき続ける私たちとは違います。
貴方はただ知らなかっただけなのです」
「馬鹿にしてない?」
「おや、気付いたのならば、馬鹿ではないですね」
「ちょっと!!」
こちらを小馬鹿にする彼女の態度に吠える。
それを聞いたのか、遠くの友人たちもこちらを見て笑った。
みんながやってくる。
「二人だけで何を話していますの?」
「ずるいですわ!」
「貴方私にもお茶を」
「自分でどうぞ?」
「なんですって!?」
“私のまわりに人がいる”。
今まで音を聞くばかりで、私は見ていなかった。
また、教えられた。
私はお節介な教師を見る。
そうすると彼は手を振ってきた。
「!」
つい顔を逸らしてしまう。
「妬けますわね」
「今日は本当に見せつけられました」
「羨ましい」
「うるさい!」
ニヤニヤとこちらを見る友人たち。
「ま、合格ですわね」
「ええ。噂とは違い丁寧な男です」
「王女の相手なのですからあれくらい当然です!」
「私も相手してくださらないかしら?」
そして、急に彼の批評をはじめた。
「貴方達……。そして最後は誰!?」
「うかうかしていられませんよ? ミゼリア様」
「え?」
そんな私の反応に彼女達は眉を下げた。
「ちゃんと言葉でおっしゃらないと」
「そうですわ。むしろ体で迫ってはいかが?」
「はしたない! 最初は手からでしょう?」
「うるさいわね!? 貴方達ホントに私のこと王女だとわかってる!?」
思いっきり机を叩く。それでも彼女達の反応は変わらない。
なんだか、心地の良い時間だった。
サフィレーヌとはまた違うやり取りだが、嫌いではなかった。
遠くには無言で私達を見つめる優しい笑顔がある。
また私の心臓は鼓動を激しくする。
『ありがとう……』
彼に聞こえないように風に乗せて呟く。
希望が生まれる。できる気がした。
そうだ、私はこの国の王女。
祝福されし黄金を持ち、風に愛された者。
これから学んでいこう。全てを。私ならそれができるはずだ。
「ていうか、まずは手からってどういうこと……?」
「……?」
「ミゼリア様、まさか……」
「嘘ですわよね?」
無知な私を嘆く友人たちとその日を終える。
暖かい大切な時間が過ぎていく。
彼の心を知らずに微笑む私の愚かさを叱るように、──冷たい風が吹いた気がした。