プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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69話 進世裁議 Tragic Prelude

 

 魔法陣が起動し、転移魔法によって人影が現れる。

 

 その人物は赤と黒の礼服を身に纏う魔王領幹部ミーナだ。

 

 彼女が転移したのは魔王城の会議室。

 しかし、そこは完全にアルテの娯楽場となっており、遊具や本が散乱している。

 

「わたしで最後ですか?」

 

 ミーナが問いかけたのは他の面々だ。

 

「メンドルウスが欠席だってー」

 

 ちゃぶ台で寛ぐ幹部の一人モードスが答える。

 彼は本を読みながら、机の上に置いてあるジュースを飲んだ。

 

「なぜです?」

 

「わかりきったことだ。私達とは話したくもないのだろう」

 

 いつもの軍服を脱いで、設置されているバーカウンターに足を乗せながら幹部オフィーティトナが答えた。

 彼女も随分リラックスした体勢だ。酔っ払ってすらいる。

 

「その傲慢さ……。所詮魔族ということか……」

 

 部屋の端に立ったまま壁に背を預けているのは幹部プラツム。

 腕を組んだまま彼はカマキリのような顎を鳴らした。

 

「アルテ様は?」

 

「ぐっすりだ。本当にあと1年半起きる気が無いらしい」

 

 オフィーティトナが顎で指し示すのは、部屋の奥の大きなベッドだった。

 

「…………」

 

 そこにはベッドの上に乗せられた空洞の騎士鎧と、その冷たい腕に包まれるように眠る魔王アルテ・リルージュの姿があった。

 騎士鎧をクッションに兜を抱きかかえる姿は親に甘える赤子のようだ。

 

 究極の美が鎮座するその光景をミーナはしばらく眺めていたかったが、気持ちを切り替え定期報告を始めた。

 

「ではわたし達だけで始めましょうか」

 

「ミーナは真面目だなあ。アルテ様が遊んでていいって言ってるのに」

 

「そんなことを言っていると急に目覚めて明日やると言い出しますよ」

 

「うわあ……ありそう……。ま、始めようか」

 

 ジュースを飲み干すとモードスも頭を切り替えた。

 

 ミーナはソファに行儀よく座り話し始める。

 

「王国はなかなか厄介です。公式に発表されるのは明日ですが、王家と保守派の貴族、軍部が繋がりを強化してきました」

 

「王国が……? カルクルールとブレイブハートが弱体化でもしたのか?」

 

 その報告を聞いて、驚いたようにオフィーティトナは反応した。

 彼女は武帝国の元十五傑である。他国ではあるが王国ともなればその事情には精通している。

 

「いいえ、健在です。それぞれの家がとある中立の家に娘を嫁がせました。理由作りとしてはかなり強力な一手です」

 

「はっ、形振りかまっていられないのだろうな。あの国はいつもそうだ。政治のために子供を使い潰す」

 

「その通りです……。まだ成人前の子供の人生をなんだと……ッ!」

 

 この場で人間である彼女達はその所業に怒る。

 逆に他の二体はその感情に共感できない。

 

「それの何が問題なの?」

 

 モードスが純粋に質問する。

 

「……いえ。上位層が巨大な共同体となったと思ってください」

 

「ふーん。まあやることは変わんないし、いいんじゃない?」

 

 気まずそうにミーナは濁した。モードスも深く言及することは無かった。

 

「反王軍と不死騎士についてはどうですか?」

 

 話題を切り替え、ミーナは担当であるモードスに質問する。

 

「反王軍はタイミング失っちゃったから終わりかなって。一応維持してるけど勝手に壊れていくと思うよ。代替案は考え中ー」

 

「どれくらい保ちそうですか?」

 

「アルテ様が起きた時に少しは残ってるかも?」

 

「なるほど。不死騎士の方は?」

 

 モードスの報告を聞いてミーナはメモをすると次の質問をした。

 

「特化型の開発目処は立ったよ。あとは遠距離侵食技術理論の完成を待つだけ」

 

「バルファクトは使えますか?」

 

 モードスの部下である魔族についてミーナは尋ねる。

 

「実験させとく分には協力的だよ彼女。平気で人間食べちゃうから、面倒だけど」

 

「まあ上手くやってください。無抵抗の捕虜に手を出すほど馬鹿では無いでしょう」

 

 溜息をついてモードスは手を振った。

 

「オフィの方はどうですか?」

 

「予測通りだ」

 

 ミーナに訊かれ、オフィーティトナは酒の入ったグラスの下敷きにしていた魔法紙を放り投げた。

 

 ミーナはそれを受け取ると目を通す。

 それには大地を横から見た断面図が描いてあった。

 

「『クエイカー』を一匹、冥界・絶叫層マグナクラム2569キロ地点に確認している」

 

 ミーナの見る八層に分かれている大地。それの五層目部分に印が光って表示されている。

 

「半年前から少しずつ誘導し、配置している。あとは起爆するだけだ」

 

 酒を飲みながら、彼女は報告を終えた。

 

「そうですか。アルテ様の気分には対応できそうですか?」

 

 それを聞いてオフィーティトナは眠るアルテを見た。

 

「どうだかな。あのまま“十年”眠るようならこちらにも被害が出るかもしれんぞ」

 

「十分です。わかりました。プラツムはどうですか?」

 

 ミーナは腕を組むプラツムに話しかける。

 威圧感のある彼だが、何もなく答えた。

 

「前回の報告会から我が王に反逆したモノどもの粛清は終えた」

 

 彼の仕事は魔王領内の治安維持だった。

 

 魔王領の敵は多い。

 未だにアルテに逆らう勢力や、人間領域から侵入してくる者も後を絶たない。

 

 魔王領は何重もの対応を日々行っているのである。

 人間領域はその一つでしか無い。

 

 実を言えば今日メンドルウスがいないのは仕事が忙しいだけである。

 

「あ、そうなの? だったらお願いがあるんだけどいい?」

 

「なんだ」

 

 モードスがプラツムに仕事の依頼をする。

 

「反王軍の幹部として一人送り込んでるんだけど、そろそろいらないから消しておいてほしいなって!」

 

「魔族か。いいだろう」

 

 相手が魔族だと聞いて、プラツムは喉を鳴らした。

 

「バレないようにゆっくりでいいよ。プラツムさん目立つし」

 

「クハハッ! 言っていろ、モードス」

 

「ふふふ」

 

 気さくなやり取りが行われる。

 彼らはアルテの下に集った訳ありだ。

 

 魔王となる前から彼女に従ってきたのは、それぞれの目的のためである。

 

「これくらいですか。はあ……オフィ、わたしにも何かお酒を」

 

「なんだ珍しい。適当にいくぞ」

 

「お願いします。明日も王国で接待です」

 

「よくやる。私など──」

 

 それでも確かな絆があった。

 彼らの望みが人間の滅びを招いたとしても、彼らはやり遂げると主に誓った。

 

 微睡む魔王の近くにいる彼らは語らいながら時間を各々過ごしていた。

 

 

 

 

 ロルカニア王国では大きな催しが宮殿で開かれる予定だった。

 地方の貴族まで顔を出し、既に会場ではいろいろな挨拶が交わされている。

 

 その催しとは話題の多い王女ミゼリアの婚約発表である。

 発表するということは事実上の結婚相手が決まったということだ。

 

 ミゼリアは公爵の後押しもある政治上欠かせない存在だ。その相手ともなれば知っておかなくてはならない。

 

 さらに重要なのが、一部の貴族が知る噂だ。

 その婚約相手はカルクルール公爵令嬢、ブレイブハート侯爵令嬢とも婚約しているということだった。

 

 その噂が真実なのだとすれば、3つの家の緩衝地帯となるのがその相手である。

 直接公爵家に頼むのは難しいが、その相手が格下であれば自分に有利に働くように“お願い”ができるかもしれない。

 

 しかしその相手を見て、貴族たちはそんな考えが愚かだったと知ることになる。

 何故ならその相手は今や王国中の経済を牛耳る一族であるからだ。

 

 

「こちらでどうでしょうか?」

 

「うーん……迷うわね……。貴方はどう思う?」

 

 王家の控室でミゼリアは準備をしていた。

 いつもなら興味なくスルーしていた髪型も珍しく吟味している。

 

「ルクス様はストレートな髪が好みだと聞いているので、それはどうですか?」

 

「そうなの?」

 

「ルクス様の従者の方が皆そうなので、そんな噂があるのですが、違いますかね?」

 

 ミゼリアはメイクを担当している従者と会話を重ねていく。

 以前の彼女ならば考えられないことだ。

 

「んー…、じゃあそれでお願い」

 

「かしこまりました」

 

 今日のミゼリアは服装すらも自分で選んでいた。

 それがルクスへの想いから来ていることを察している従者は何も言わずに微笑んだ。

 

「どうでしょう?」

 

「あー……リエーニだっけ? ルクスの騎士の子。あの子みたいね。飾り付けだけお願い。オススメでいいわ」

 

 黄金を彩る黒色のリボンを付けて、ミゼリアの御めかしは完成した。

 

「これでいいわ。考えてみると難しいわね……。毎日違うもの考えてるなんてあなたすごいわ」

 

「……嬉しい言葉です、殿()()

 

 長く担当してきた従者が初めてミゼリアをそう呼んだ。それに気付かないミゼリアだったが、それでいいと従者はなんとなく思った。

 

「ありがとう、下がっていいわ。またよろしくね」

 

「はい! 大丈夫ですよ、ミゼリア様。今の貴方様を見ればルクス様も骨抜きです!」

 

「う、うるさい! 早く下がりなさい!」

 

 笑顔で退室していく従者。ミゼリアの顔は真っ赤だった。

 

「失礼します」

 

 そこにミゼリアのよく知る声が聞こえてくる。

 

「入っていいわよ!」

 

 そうして入室したのは、サフィレーヌ・カルクルールだった。

 

 青を基調としたドレスを着用した彼女の髪も綺麗なストレートになっていた。

 

「こちらで待つよう言われました」

 

「聞いているわ! 座りなさい」

 

「失礼します」

 

「…………」

 

 よそよそしい友人にミゼリアの顔が歪む。

 彼女にはわからない気まずい沈黙が訪れる。

 

 友人に対する話しかけ方をミゼリアは忘れてしまっていた。

 

「失礼しますわ」

 

 また一人やってくる。

 この流れならば誰なのか決まっている。

 

 燃えるような明るい色を持ち、腰には剣を佩く英雄の血を継ぐ者。

 ヴィクトリア・ブレイブハート侯爵令嬢である。

 

 彼女も腰まで届くようなストレートヘアをしていた。

 

「ミゼリア様、大変お美しいですわ。サフィレーヌもとても似合っています」

 

「ふん!」

「ありがとうございます、お姉様」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らすミゼリアと、笑顔で流すサフィレーヌ。対称的な反応だった。

 

「こちら、失礼しますね」

 

「立ってなさいよ!」

 

「失礼しますわ」

 

「ちょっと!」

 

 無理矢理自分のスペースを確保するヴィクトリア。ミゼリアは軽くあしらっていた。

 

「二人ともあのパーティ襲撃以来ですかね。まさかこんな形で会うことになるとは思いませんでしたわ」

 

「こっちこそ驚きよ! アンタに結婚する気があったなんてね? ルクスは男よ?」

 

 ミゼリアはヴィクトリアのメイドサロンに誘われたことがあった。

 意味がわからず拒否したが、その時にヴィクトリアの趣味については知ったのである。

 

「まあ、政略結婚ですから。仕方のないことですわ」

 

「仕方ない……?」

 

「この婚約はあくまで契約ですもの。二人ともそうなのでしょう? ()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!!」

「────」

 

 ヴィクトリア以外の二人の雰囲気がその言葉を聞いて変わった。

 

「?」

 

 警戒態勢に変わった二人の理由が分からずヴィクトリアは困惑する。

 

「そう思うのなら、やめればいいじゃない!」

 

「ミゼリア様、お姉様の目的はルクスの従者の“女の子”なのです」

 

「……へえ、そう」

 

 ここでサフィレーヌが会話に参加した。

 情報をミゼリアに流し、まるで二人は共同戦線を張っているようだった。

 

「そうですけど……二人ともどうしたのかしら?」

 

「別に……。取り敢えずアンタが乱入した理由は分かったわ」

 

 今この場で流れを読めていないのは年上のヴィクトリアだけだった。

 彼女は“二人も政略結婚で心無く婚約した”と思っている。

 

「…………」

 

 サフィレーヌが今警戒しているのは、親友のミゼリアだった。

 

 ミゼリアの怒り方が自分のものを傷つけられた時と同じだったからだ。

 全てはわからないが、少なくともミゼリアはルクスのことを身内に置いているようだった。

 

「そのリエーニといられれば、アンタはルクスはどうでもいいってこと?」

 

「はい。その通りですわ」

 

「なら、それでいいわ。使用人なんてどうでもいいし」

 

「あら、言いましたね? あとで言っても駄目ですわよ?」

 

「アンタと一緒にすんじゃないわよ!! ……ふん」

 

 さらにサフィレーヌは驚く。

 ミゼリアが話術を駆使しているからだ。

 

 少し前の彼女からは考えられない変化だった。

 

(本当にルクスは優しすぎる……)

 

 ルクスの与えたものだとサフィレーヌはすぐさま理解した。

 

「……サフィレーヌは()()()()?」

 

 まさかのミゼリアからの探りだ。

 サフィレーヌはなんとか思考を絞り出していく。

 

「わたしはお母さまに言われていますので、()()()()()()

 

「そ、そうなの……」

 

「?」

 

 サフィレーヌの仲良くするという発言に何故か反応するミゼリア。

 

「どうしました? 王女殿下」

 

 気になったのか、ヴィクトリアが指摘する。

 

「その……二人は知っているの? あの……」

 

「?」

「?」

 

「仲良くするって……そうなんでしょ!?」

 

 突然ミゼリアが暴れ出した。

 顔が真っ赤になっている。

 

「なんのお話ですか?」

「ミゼリア様……もしかして、“子作り”のことですか?」

「ああ……」

 

「な、なななななっ、サフィレーヌ!!」

 

 サフィレーヌが察してその話題を振る。

 それを聞いたヴィクトリアは納得いった顔になり、ミゼリアは硬直した。

 

 ミゼリア以外の二人はなんとも言えない顔になった。

 婚約しておいて、前提を理解していない少女がいたからだ。

 

「ど、どうするの!? あんなこと……っ!!」

 

 最近知識を得たような反応だった。

 

「……まあ、うん」

 

 サフィレーヌは淡白な反応だった。

 そもそも母親があのフィンナ公爵なのだ。

 

 意図せずに目撃したこともある。

 

「私は子供はいらないと告げてありますわ。嫌なら王女殿下は愛するお二人目を見つければ──」

「い、いらないわよ!!」

「……忙しい方ですわね……」

 

 ヴィクトリアが普通の貴族の流れを言おうとすると、必死の形相でミゼリアが否定した。

 

「…………」

 

 その反応で、サフィレーヌは確信した。

 あれは行為そのものに混乱しているだけで、相手を拒絶しているわけではないと。

 

「ミゼリア様、別に焦らなくても大丈夫です。結婚していきなりなんてことにはなりません」

 

「そ、そう?」

 

 サフィレーヌは笑顔で誘導する。

 

「お互いの合意が必要なものですから。()()口付けもしていないのでしょう? 無理はやめたほうがいいですよ」

 

「…………!」

 

 サフィレーヌのその言葉を聞いた瞬間、ミゼリアは驚愕した。

 

(え……? 今のサフィレーヌの言い方って……)

 

 そして、正しく言葉の意味を理解した。

 サフィレーヌの慰めの皮を被った攻撃的な一言に気付いたのだ。

 

「サフィレーヌ……っ。アンタ……」

 

「どうしました?」

 

 あどけない顔を続けるサフィレーヌ。

 友人に対し初めて本当の意味での負の感情をミゼリアは抱く。

 

「ずいぶん舐めた言い方をしてくれるじゃない?」

 

「わたしは受け入れただけですよ?」

 

 それはそれはいい笑顔だった。

 

「────」

 

 ミゼリアは理由のわからない憎悪を親友に向けていた。

 ここまで敵対心を抱いたのは初めてだった。

 

「サフィレーヌ、そうだったの……?」

 

 呑気に驚くヴィクトリア。

 彼女だけが温度差があった。

 

「はい。ごめんなさい、お姉様」

 

「なぜ私に謝るのかしら?」

 

 勝ち誇った笑みをサフィレーヌはヴィクトリアへ向けた。

 理解ができず困惑するヴィクトリアだったが、自分は関係ないとアピールをした。

 

「平気よ。私はもう()()()()()と口付けを交わしていますもの……ふふふ」

 

「え──?」

 

 それを聞いたサフィレーヌは一転して敗北したような絶望を表情に浮かべた。

 

「はあ? もしかしてそれって……」

 

「リエーニとです! 幼少の頃に既に私達は誓いをしていますから!」

 

 呆れたように質問するミゼリアにヴィクトリアは笑顔で答えた。

 

(サフィレーヌの今の反応は何……?)

 

「……ッ! ……ッ!」

 

 必死に唇を噛み、獣性を抑えようとしている親友の姿を見たミゼリアはただ事ではない雰囲気を感じた。

 

「サフィレーヌ?」

 

 ヴィクトリアが無自覚に勝者の余裕を見せる。

 

「なんでしょうか、お姉様」

 

「え? い、いえ……」

 

 ヴィクトリアが困惑するのも無理はない。

 サフィレーヌはあれだけ慕っていたヴィクトリアに対しても隠さぬ敵対心を見せているのだから。

 

「…………」

 

 彼女が素直な子だったのを知っているミゼリアは、感情を抑えようとしているその姿に普段以上の感情の暴走を感じた。

 

「とにかく! 今日は“私とルクスの”婚約発表会なのを忘れないで!! あくまでアンタ達はおまけよ!」

 

 ミゼリアが無理矢理その場は治めた。

 何故かあのまま進むと刀傷沙汰になる可能性を感じたからだ。

 

「……はい」

「そうですわね」

 

 ミゼリアはついでに権力による優越感を感じていた。

 笑えるほど気分が良かった。

 

 こうして初めて行われた三妃会談は終了した。

 

 従者に呼ばれ、彼女たちは会場へ向かっていく。

 

 その手前で待つのは、彼女たちの運命。

 全てを愛し、全てを苦しめると誓った少年。

 

 その少年はやってくる彼女たちの表情を見て、何かを察したのか困ったような微笑みを浮かべる。

 

 でも、絶対に彼女たちから視線を外すような真似はしなかった。

 

 

 こうしてこの世界の未来は確定した。

 

 それは苦しみを少し和らげる程度の違いでしかない。

 だが決定的な違いだった。

 

 彼の選択により三人の少女の運命が変わる。

 

 

 一人は社会との乖離に苦しみ倫理を外れ、ただ血を求め罪の有無問わず命を奪い続ける悪鬼になる。

 そして、誰にも愛されることはなく英雄に討たれるはずだった。

 

 一人は迫害を受け続け人間性を捨て去り、生存のため効率的に思考し心を喰らい続ける怪物となる。

 そして、誰にも愛されることはなく英雄に討たれるはずだった。

 

 一人は疑心に囚われ信心を否定し、愛を無視して耳を塞ぎ粛清を繰り返し続ける独裁者となる。

 そして、誰にも愛されることはなく英雄に討たれるはずだった。

 

 数多の未来で歴史の影に埋もれるはずだった彼女たちが光に照らされた。それはこの世界にまだ見ぬ結果をもたらすだろう。

 

 銀色の奥に潜む“ソレ”だけがその事を知っている。

 

 ──ソレだけが喜んでいた。

 

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