プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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77話 赦されぬ安らぎ

 

 冷めきったお茶の匂いが香る空間。

 いつもの調子に戻った先生は椅子に深く座り直した。

 

「それ以来、私はもう杖を持てなくなりました。ディアハはどこかでまだ槍を振るっているようですが……」

 

「ありがとうございました。そんな貴重な話を……」

 

 これ以上はさすがに先生の負担になりそうだったので、俺はその話を切り上げようとした。

 

「いえ、いいのですよ……」

 

 しかし、疲労が残る彼女は俺を見た。

 

「先生……?」

 

「気を付けなさい。【コンル・クリアランス】は完璧ではありません」

 

「…………!」

 

 俺がなぜその魔法を望むのかを理解している先生は忠告した。

 

「戦場を離れた私はずっと研究を続けました。何故あの時、あの不死騎士に効かなかったのかを」

 

 それは先生が本を好む理由だ。そうなっただけの話だった。

 

「ルクス君、浄化魔法を放ってみて下さい。今の貴方ならできるはずです」

 

 突然、実技が始まる。急に教育者になるなよ……。風邪引くわ。

 

 まあでも、俺もなんかできる気がした。

 だって当然の話だ。

 

 俺は()()()()()()()()()を持っているのだから。

 

 魂の存在なんてとっくに知っている。

 

「【コンル・クリアランス】」

 

 世界の情報。

 プログラムされたもののコードを正常に戻す。

 

 理屈を俺なりに解釈できてしまえば、簡単だった。

 

「素晴らしい。その歳でここまで使えるのは世界に愛されているか、既に知っているかのどちらかでしょう」

 

 俺が放った白い光を見て、先生は優しく微笑んだ。

 

「この魔法は戦争の身近でない今の時代では使用者は増えません。逆に戦争だらけの時代には使用者が溢れかえっていました。

 皆魂の存在を信じていたからです。“愛しい人を蘇らせたい”──と」

 

 それは悲しい心理だった。

 そして同時にネトス発展のきっかけでもある。

 

「ルクス君……。

 貴方はネトス教徒よりも教徒らしい感覚を持っているようですね。()()()()()()()、枢機卿も夢ではなかったでしょう」

 

 ネトス教徒は基本女性だ。

 俺の育った孤児院にシスターしかいなかったのはそんな理由だった。

 

 信者に性別は関係ないが、教徒では女性が優先される。

 

「残念です……。僕、結構女神のこと尊敬してるんですけどね」

 

 俺がそう言うと、先生は驚きつつも悲しげな顔をした。

 

「私が言うのもおかしなことですが、ネトス教はもう駄目です。貴方のような信心者(しんじんもの)を受け止める土台が残っていません。人間らしい欲望に取り憑かれた不心得者(ふこころえもの)共の巣窟となってしまいました」

 

 知っている。

 聖都は世界との関わりを絶ち、それを有する聖国は増長し、領土拡大を目論んでいる。

 

「ですかね。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()ので、祈りくらいは続けます」

 

 あの夜のちびっこシスターの悲しい顔を思い出す。

 こっちにおせっかいを焼く癖に自分はちっとも満足そうじゃないヤツだった。

 

「────」

 

 先生が静かに涙を流し始めた。

 何かを噛み締めるように、首飾りを握りしめた。

 

「私は教徒として、教徒ではない貴方が誇らしい。どうか、その信じる心がいつまでも清らかであるように祈っています。

 ですが──」

 

 それは言わなくてもいいことだ。

 こんな子供には言わずに隠していればいいことだ。

 

 騙し続けて、小綺麗なままでいればいいのに、先生は俺に真摯に向き合ってくれた。

 

「ネトス教が犯した過ちも貴方は正しく認識しなければなりません」

 

 わかっている。知っている。

 たった12年の中でもいろいろと理解しているつもりだ。

 

「ネトス教は浄化魔法を得意とする。それは魂をよく知っているからです。

 魂とは情報と言いましたが、それは『数値』とも呼べます。

 つまり────()()()()()()()()

 

 【コンル・クリアランス】は異常な数値を元に戻す。

 ならば、逆の魔法も存在するということだ。

 

「人間の中に魂がある。人間の情報が書かれている。ならば、情報を変えれば善き人間を作ることができるのではないか? そうしてできたのが兵器『ネトス・ヴァリュキュリア』です」

 

 ついさっきまでこの図書室にいた彼女の笑顔を思い出して、胸が痛くなる。

 いや、彼女には関係がない。関係がないことにするんだ。

 

「そして、聖芸品(ディバインファクツ)。その脅威は知っていますね?」

 

「はい」

 

 その多くは平和利用されることはない。ただの武器だ。

 

「そう、ですか……。いえ、何故私はわざわざ女神様を卑下するようなことをしているのでしょうね?」

 

 自嘲するように先生は呟いた。

 

「やったことはやったことですから、女神様には反省してもらいましょう」

 

「あははは! 最新の信者にそう言われては女神様も黙るしかありませんね」

 

「そして、()()()()()()()()()()()()()

 

「……!!」

 

 冗談っぽく俺は本音を言った。

 武帝とも女王とも俺は語り合った。詳しく話せてねえのはアンタだけだ。女神さんよ。

 

 この世界の俺を救った責任は取って貰うことにしよう。

 

「ええ……そうですね。また、女神様を……。どうして、そんな簡単なことを考えなかったのでしょうね……」

 

 深い溜め息を先生はこぼした。

 

「ルクス君、もし女神様に会うようなことがあれば言って下さい」

 

「なんですか?」

 

「…………“()()()()()()()()()()”って」

 

 この国で今でもその礼服を着続けるトーリア先生の覚悟はどんなものだったのだろう。

 

 戦士として送り出され、戦場から逃げ帰り、女神が突然消えた。

 残されたのは負の遺産だけ。巻き起こる非難の嵐。

 

 それでもこの人はその首飾りをかけ続けている。

 

「拳も一緒につけておきますね」

 

 俺の一言に先生は笑った。

 

 

 そんな話をしてしまったからだろうか。

 

 その後、俺宛に届いた武帝国のワカラちゃんからの手紙に書いてあった内容に俺は頭が痛くなった。

 

 『反王軍によって王国の東部を守る砦が失われ、ある国の兵士が国境周辺に集結し始めた』と。

 

 その国の名は『()()()()()()()』。ネトス教の本拠地が人間領域の結束を謳い、同じ人間の国である王国を攻めようとしている。

 

 王国も東部に兵を集め始めるようだ。

 

 ふざけんなよ……。

 反王軍の対応だってまだまだあるんだぞ。

 

 人々は焦る。恐怖する。

 

 そして、そんなときにある噂を聞くことになる。

 

 “()()()()()()()()()()()()()()()()()()”──と。

 

 そして魔王領から無事帰還した父上と母上からのお土産話は、俺の眠気を吹き飛ばすには十分だった。

 

 

 

 

 久しぶりの安らぎをヴィクトリアは感じていた。

 

「すげえなーコレ」

 

「そうでしょう?」

 

 ついにリエーニをメイドサロンに誘うことができたからである。

 

 ルクスが学園にやってきてからもお忍びデートは繰り返していたが、個室に完全に二人きりという状況がなかった。

 

 リエーニは主であるルクスに義理立てしているのか、彼が忙しいときには休みを取らない。

 会えるのは本当に限られた時間であり。食事を一緒にするくらいだった。

 

 その食事もヤンバトールの格好であり、街では例の不良集団に絡まれ邪魔されることも多々あった。

 

 だがこの日は違った。

 

 ヴィクトリアはヴィクトリアとしてリエーニを招待したのだ。

 しかもリエーニの方もメイド服だった。

 

 悔しいがフォノス商会の販売した新給仕服は最高だとヴィクトリアは思った。

 

「うわ……池まであるよ。手入れ大変そう」

 

「もう、そういうことを言うと雰囲気が台無しです」

 

 二人きりで利用するには広々とした空間には、豪華な意匠がこれでもかと施してあり、リラックスできるオアシスのような雰囲気が作られていた。

 

「こんなとこで普段趣味パーティやってんの?」

 

「ええ、そうよ」

 

「はぁ~……ようやるわ」

 

 そう言いつつも、リエーニは少しはしゃいでいるのがヴィクトリアにはわかった。

 

 こういう何か凝った空間がリエーニは好きなのである。

 演出があればあるほど良いのだ。

 

「ふふふふふ」

 

 きょろきょろと興味深そうに辺りを見回す黒色の女神にヴィクトリアは気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 リエーニが可愛すぎるのがいけないのだ。

 

「そろそろ落ち着いて座りましょうよ」

 

「おー」

 

 深く沈むソファに座る。

 

 リエーニが紅茶を淹れようとするが、ヴィクトリアは止めた。

 

「あん?」

 

「今日、貴方はもてなしを受ける立場ですわ」

 

 魔法の呼び鈴を鳴らすと、この場所を提供している店の店員がやってきて準備を始めた。

 

「…………」

 

 他人がいると急に静かになるリエーニ。

 それを見るヴィクトリアの視線はニヤついて感情を制御できていなかった。

 

「なあ、見られたけど大丈夫なんかよ」

 

 店員がいなくなるといつも通り話し始めるリエーニ。

 それを見るヴィクトリアの視線はニヤついて感情を制御できていなかった。

 

「大丈夫です。そういうお店ですもの。信用問題ですから」

 

「信用できねえ……遮音するからな」

 

「ふふふ、好きなだけどうぞ?」

 

「なんか……今日のお前きしょいわ……」

 

 誰の目から見てもヴィクトリアの機嫌は良かった。

 それはリエーニを摂取できたことも大きいが、他にも理由があった。

 

「最近の学園の盛り上がりが楽しいんですの」

 

「盛り上がりって……ガチの派閥争いしてるだけやん」

 

「ふふふふ……あの子たち本当に手強いんですのよ? 離間工作もネガティブキャンペーンもまったく効きませんの」

 

「それでいいのか、最上級生」

 

 学園内で起こっている混沌とした争いに対して、ヴィクトリアの派閥も本気で挑んでいた。

 

「今まで私ありきで戦い勝ってきましたけど、あの二人の派閥はちゃんと私以外も狙っている。何もせずに私の恩恵に預かろうとする娘も出てきていたから、いい薬になっていますの」

 

 初めて対等と言える派閥が出てきたことで、ヴィクトリアは充実しているのだ。

 

 そんな戦闘狂のような彼女に対して、紅茶を飲みながらリエーニは冷たい視線を送った。

 

「楽しそうで何よりだな……」

 

「そういう貴方の方こそ、なにやら盛り上がっているようですわね」

 

 ルクスの小さな派閥の動きもヴィクトリアは追っていた。

 

 ルクスの方は学園内ではなく外での活動に重きを置いているようだ。

 

「木っ端貴族の男たちと楽しそうに毎日どこかの食事処で歌っているのを私が知らないと思いまして?」

 

 その活動にリエーニも参加していることをヴィクトリアは不満に思っていた。

 

「なんだよ?」

 

「貴方の歌は軽々しく他人に聞かせたくありませんわ……」

 

「じゃあ聞きに来いよ。明日は7番通りの肉屋前でライブするから」

 

 ヴィクトリアはなんてことのないように笑顔のリエーニにもやもやした感情を抱く。

 

「それにでけえ舞台も決まったんだよ。演劇の。特等席用意するから来いよ」

 

「……ルクスの招待で?」

 

「ええやろ、そんなん気にすんなよ」

 

 ヴィクトリアはリエーニの魔法をルクスが利用していると思っている為に気に入らないのだ。

 

 従者の力は確かに主のものであるが、リエーニはヴィクトリアのものである。彼女はそういう認識だ。

 

「な、なあ、いい加減ルクスがどうたらとか気にしないでくれって! いいところあるってルクスにも! な?」

 

「……なんでそんなに必死に。まさか……」

 

「だああああああっ!! めんどくせえな!!」

 

 勿論ヴィクトリアは八つ当たりしているだけで、ルクス自体は嫌いではない。だが、彼を理解する必要を感じられなかったのだ。

 

 過密なスケジュールで講義を取る勤勉な彼の行動も、あぶれた下級貴族たちに手を差し伸べていることも知っている。

 

 婚約者の他二人が取り合いをするほど魅力を持っているのはわかっているが、ヴィクトリアには一番魅力的なリエーニがいるのだ。

 

「はあ……とりあえず招待したら来いよな……ったく」

 

「!? リ、リエーにっ!?」

 

「…………」

 

 何故か少し拗ねたリエーニがヴィクトリアの横にやってきて、彼女の肩に頭を乗せてきたのだ。

 

 人前では絶対に見せないであろう、素のリエーニの甘え方だった。

 普段は大人っぽく皮肉に満ちたリエーニが外見相応の子供のようになっている。

 

 平均よりも身長の小さいリエーニが並ぶと、ヴィクトリアのスタイルの良さが目立つ。

 

 リエーニの成長が遅い理由は魔法の使いすぎだろう。

 魔素を使いすぎて、肉体構成まで回せていないのだ。

 

 言うなれば“成長という魔法”を使うための魔素が不足している状態だ。

 

 そんな小さくて可愛らしいリエーニの息がかかり、ヴィクトリアは興奮した。

 

 リエーニがこういった行動をすることは滅多にない。

 そのことを知るヴィクトリアにとって、それは俗に言う“デレた”というものだった。

 

 侯爵令嬢であり、英雄としての血筋を持つ女であるはずのヴィクトリアは、にへらと情けない緩んだ表情でリエーニの肩を抱いて愛でた。

 

「珍しい。どうしたんですのー?」

 

「うるせえな……。黙ってろよ」

 

「ふふふふふ、可愛い可愛い!」

 

「くそが。……お前が苦労してんのも知ってるけど、()()()()()()()

 

 本当にここまでリエーニが気落ちしているのは珍しかった。

 

 詳しいことまではリエーニは語らない。

 しかし、それが大事なことであるとなんとなく察したヴィクトリアは、からかうのをやめて優しくリエーニの頭を撫でた。

 

 しばらくリエーニの匂いを吸いながら、ヴィクトリアはその頭を撫で続ける至福の時間を過ごした。

 

「……キモかったら言ってくれ」

 

「きゃっ!」

 

 本当に今日のリエーニはどうにかなっているようだった。

 リエーニがヴィクトリアの膝を枕にして、仰向けになった。

 

 さすがにヴィクトリアも驚いて、幼い少女のような声を上げてしまった。

 

 見下ろすと申し訳なさそうなリエーニと目が合った。

 

「……リエーニ?」

 

「すまん……」

 

「ふふ、どうしてあやまるのかしら? 別に気にしなくてよ?」

 

 ヴィクトリアはリエーニの髪の毛をいじった。

 くすぐったそうにしながらもリエーニは“膝のお駄賃だ”とでも思っているようで、それを受け入れた。

 

 リエーニの顔をよく見ると疲れがあった。

 寝不足なのか目の下に隈がある。

 

 静かな空間には彼女たちの息遣いと水が流れる音だけが響いていた。

 

「…………」

 

 やがて、リエーニは気持ち良さそうに目を細め、うとうとしはじめる。

 ヴィクトリアは慈しむようにそれを見るが、さすがに場所を変えたほうがいいだろうと思い、リエーニに声をかけた。

 

「あら、眠るのならあちらのベッドの方が……。……いや、あの、そういうことではなく……ッ!! 純粋な気持ちで……っ!!」

 

 案内しようと思ったベッドがあまりにも()()()()()()を出していたので、慣れの無い男のように慌てて弁明しはじめるヴィクトリア。

 

 そうは言いつつも本心ではヴィクトリアはそれを望んでいた。興味があった。

 

「ぷっ……くくく……。最悪の誘い文句だな……」

 

 それを聞いて優しく笑ったリエーニは起き上がって、眠気が残る目でヴィクトリアを見た。

 

「う……」

 

 そんな風に見つめられると本当にヴィクトリアは抑えが効かなくなってしまう。

 

 リエーニの目には迷いがあった。

 やはり、同性というのはさすがに抵抗があるのだろうか。そんなことをヴィクトリアは思った。

 

 しばらくするとリエーニは何かを決心したような顔になった。

 まるで隠している何かを曝け出すことを決めたように。

 

「……その気があるなら覚悟しろよ?」

 

「……っ!」

 

 初めてのリエーニからの口付けだった。

 

 移動する二人。

 

 ヴィクトリアは夢心地になっていた。

 ふわふわと雲の上を歩くような現実感のなさを感じていた。

 

 リエーニの方も嫌とは思っていない雰囲気だった。

 

 甘い空気に満たされようとした空間。

 すれ違っていた人間たちがやっと理解し合うときがきた。

 

「────」

 

 

 だがそんなことを──この世界が許すはずがない。

 

 

「揺れてる……?」

 

 コトコト、とカップが振動する音。少し揺らぐ視界。

 三半規管がバランスを保とうと稼働する。

 

 そして、ズンっと大地が一瞬沈むような感覚の後、大きく世界が揺れ動いた。

 

「地震ですか……最近多いですわね」

 

 この世界でも地震と呼ばれる現象はあった。

 

 しかし、とある世界とはメカニズムが違った。

 

 この世界での地震の原因は地下に存在する“冥界に住む住人が蠢いたこと”によって起こる。

 地上に住む者には確認できないことではあるが、そういう風に言い伝えられていた。

 

「は……は……」

 

「……? リエーニ?」

 

 揺れが収まってきてヴィクトリアが愛しい者を見ると、床にへたり込んで息を激しくするリエーニの姿があった。

 

「う……く……」

 

「ちょっと……リエーニ! どうしたんですの!? 揺れはもうないですわよ?」

 

 駆け寄ったヴィクトリアが見たリエーニの顔は蒼白で、視線がおかしくなっていた。

 

「あ……ヴィクトリア……? そうか……そうだった……」

 

「────」

 

 視線が合ったリエーニは、ヴィクトリアを認識すると安心したように笑い、涙を流した。

 

「リエーニ……」

 

「わりぃ……地震が苦手でさ……」

 

 リエーニの足が動いていなかった。まるで、足があることを忘れているようだった。

 

 ヴィクトリアは必死にリエーニを抱きしめた。それくらいしかできなかった。

 

「……ちょっとそんな雰囲気じゃなくなっちまったな。すまん……」

 

「気にしないでいいのよ。また後日たっぷり返してもらいますから」

 

「あははは……」

 

 無言になった二人は強く抱き締め合った。お互いの心音と息遣いを聞き合った。

 

()()()()()()()……」

 

「……?」

 

 ぼそりとリエーニが呟く。そして、リエーニはいつもの顔に戻った。

 

 目の下の隈すら消え失せた顔にはもう疲れは見えない。

 

 ────いや、“もう見せない”という表現の方が正しいだろう。

 

 それ以来リエーニが甘えることはなかった。

 

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