プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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81話 『現実』という舞台

 

 ◆◆◆

 

 

「私も見ましたよルクス君の演劇。二回しか観劇できていませんが、おもしろい試みですね。大変素晴らしいものでした」

 

「ああ、そう言ってもらえて嬉しいです、先生」

 

「本音ですからね? まず────」

 

 トーリア先生の感想を聞きながら、俺は図書室のソファーで寝転がっていた。

 なんだか、ここが俺の避難場所になっている気がする。

 

 なんとか公開に成功した演劇は、かなりの反響を貰っている。

 

 話題が話題を呼び、街中には演劇のグッズを持つ人々の姿が。

 どのルートが好きなのかで喧嘩が酒場で起こる始末。

 

 遊興楽団は日々の舞台よりも、勝手に二次創作するやつとか、商品を公式と偽って販売しているやつを取り締まる方が仕事になっている。

 そちらはまあ商会が担当してくれているので、なんとかなるだろう。

 

 フィフと俺は最初の四回だけ舞台の上に参加し、あとはゴーレムに任せている。

 

 俺も日々成長している。

 彼女たちの操作はもうなんの苦にもならないレベルにまで来ている。

 

 プライベートのメイ・ゴー・バンドのゴーレムを動かして、楽団メンバーをからかって遊ぶことまでできている。

 もはや一個人が生きていると言える。

 

 多重ロールプレイが小っ恥ずかしいくらいしか悩みがないな。

 

「おや、それは『ドロリオン旅行記』ですね。ついにそれに手を出しましたか」

 

「はい……。多重言語でかなり読みにくいですね」

 

 先生が興奮するように俺の読んでいる本に言及する。

 

 作者が特殊で、複数の作者が一つの旅行記を共有する形式の本だ。

 

 なので、一度行った場所をまた別の視点で説明することもある。

 

「時系列も語り口もバラバラ。いわゆる奇書ですから」

 

「書いてあることも変なことばかりですしね」

 

 普通に民俗学的なことを詳しく書いているかと思えば、急に伝説がどうとか、哲学のことについて語りだす頭のおかしい作者だ。

 

「……今日はこれで帰ります」

 

「また訓練ですか? 闘技大会がんばってくださいね」

 

 わかっているのかどうなのか。

 自然に応援されると力が抜けてしまう。

 

 演劇は金の匂いを感じた商会が介入し、場所を変えて続けることになった。

 とは言っても演者がゴーレムではなくなるので、クオリティは落ちるだろう。

 

 商会にあとは引き継いで俺たちは別のことを始めよう。

 

 その前に、闘技大会だな。

 

「こんにちは」

 

「?」

 

 図書室からの帰り道、廊下で声を掛けられ振り向く。

 

 そこには制服を着た三年生の姿があった。

 

「久しぶりね」

 

 その女生徒に覚えはなかった。

 学園でも見たことがないほどだ。

 

「……すみません、誰でしょう?」

 

「あら? ひどいわ。私よ、『アスト』」

 

 アスト……?

 

 あああああッ!! 思い出した!!

 

 ギルドの登録証で見た名前だ。というか──。

 

「クソ先輩!? ここの生徒だったんすか?」

 

 俺が婚活中に暇して働いていた派遣清掃業。

 その時に会ったサボりパワハラセクハラ先輩だ。

 

「クソ? ふふふ……。ええ、そうよ。おもしろそうだから入ってみたのだけど、つまらなくて通っていないわ」

 

「不登校っすか……。よく進級できましたね」

 

「数は集めていたもの。これ以上は無理でしょうね。貴方に追いつかれてしまうわ」

 

「ダブりはやばいっすよ……」

 

 思ってたけど、この人自由すぎる。

 

「観せてもらったわ。貴方の作品」

 

「あー……。読んで貰ったときとは結構変えましたけど、どうでした?」

 

 俺がそう聞くと先輩は目を細めて興奮し始めた。

 

「素晴らしいわ! やめてよかった! なんていうのかしら? 演出? 音と光と温度が効果的に感覚を刺激して、味わったことのない心の動きだったの!」

 

 おお、口が回る回る……。

 そんで近い! 手つきエロい!

 

 俺の肩に手を添えて、至近距離で先輩は感想を語る。

 

「ねえ、私を好きになる気になった?」

 

 息を吹きかけられた。

 

「なんでやねん……。セクハラやめてくださいよ」

 

「セクハラ……? うふふふふふ! いいわ! いいと思うの!」

 

 よくねえよ! ホントやばすぎでしょこの人。

 

 なにが面白かったのか、先輩のテンションはやばいことになっている。

 徹夜明けなのか?

 

「……あ、そうだ。黒騎士の像だけ買えなかったの。いつ再販されるの?」

 

 買ってる……?!

 あのクソ高いフィギュア買うやついたのかよ。

 

 よく見たら、先輩が身につけている装飾品はあの演劇のグッズばっかだった。

 

「ハマってますね……。そのうち劇場が変わるんですけど、それまでには再販できるかと」

 

「劇場が変わる? もう貴方はやらないの?」

 

「? うっす、俺の監督じゃなくなります。役者も変わります」

 

「そう……」

 

 急にテンション下がるじゃん。

 

「まあ、そのうち新作やりますんで……そのときに」

 

「──()()()()?」

 

 先輩が真顔で見てきた。

 落差激しいよ。この人怖い。

 

「そ、そりゃあ、まあ……」

 

「そうねぇ……。ごめんなさい。無理だと思うの」

 

 なんで謝った?

 まあ先輩がそう言うのもわかる。

 

 社会状況があれだしな。

 

「今すぐじゃなくてもいいんで……。落ち着いたらって感じで……ちょっ! だから近いっす!」

 

 顔を覗き込んでくる先輩。なんか動物的な反応なんだよな。

 目も爬虫類みたいだし……。かっこいいけど。

 

「貴方……魔王領に来なさい。あそこなら好きに暮らせて、いっぱい作れるわ」

 

「魔王領……? 流行りの引っ越しっすか? 先輩も魔王領に別荘作ったとか?」

 

 現在、魔王領は入領を人間に対し許可するようになった。勿論、条件は設けられている。

 そして、親魔の連中はこぞって魔王領に家を作って財産を持ち込んでいる。

 

 先輩の実家もそんな家のひとつなのだろうか。

 

「別荘……。ええ、そうよ。貴方が来れば退屈しないと思うの。どうかしら?」

 

「いやー……お誘いはありがたいんですけど、いろいろありまして……」

 

「……そう。無理強いはよくないことよね?」

 

「……っ。あの……近いっす……」

 

 そう言いつつも俺の首を舐め続ける先輩。だからセクハラやばいって。

 

 ここ誰かに見られたらマジで終わる!

 必死に隠蔽工作を続ける。

 

「貴方の作るものが見られなくなるのは残念だわ。でも、私の都合もあるの。ごめんなさい」

 

「大丈夫っすから! 気にしないで下さい!」

 

 最後に一舐めして、まるで世界から消えるものを嘆くように味わうと先輩は離れた。

 

「マニアックですね……。あんまりこういうことしないほうがいいですよ?」

 

「私もそう思うわ」

 

 なんやねん!

 

「あともう一回──」

 

「ん?」

 

 俺に背を向けて先輩はそう言った。なんじゃ。

 

「あともう一回貴方に訊きに来るわ。そのときには考えも変わっていると思うの」

 

「はいはい」

 

「! ふふふふ!」

 

 投げやりな俺の返答に素の表情で笑うと先輩は別れの挨拶をした。

 

「じゃあね、リエーニ。貴方の物語は()()()()()()()』だったわ」

 

 俺はその感想に何も返すことができなかった。

 

 

◆◆◇

 

 

 ある日の学園の授業で学んだことをルクスは思い出す。

 

 魔石というものは古代に生きた者達の死体の集合体である。

 それは魔素の塊と同じことであり、エネルギーとして利用されるのもこの理屈からである。

 

 生物は魔素を生成し体に蓄えている。

 大気中にも魔素がある。

 

 そうであるのにも関わらず、なぜ魔石の方がエネルギーとして使いやすいのか。

 

 それは魔素の種類が違うからである。

 

 現在地上に生きる生物は【A-1】と名付けられた魔素を使用し生存している。

 空気にも水にも大地にもこの【A-1】が満ちていて、これが無くなると世界は崩壊する。

 

 そして、魔石に残る魔素にはこれ以外の種類しか観測されないのだ。

 

 【B-457】、【BI-58】、【HBK-21】など、その種類は数千以上あった。

 しかし、結びつきや近い種類などもあるため、置換が利くものばかりだ。

 

 逆に言えば今この地上にある魔素【A-1】こそが異常だった。

 この魔素は何者も真似できない孤独な種なのだ。

 

 そして、魔石に効率性で劣る理由が【ゼロオーム】というエネルギーの存在だ。

 

 これは【テントマトウス】というただの強大な力を抑える役割を持っている。

 

 ある学者はこの【ゼロオーム】という力は後から生じ、【A-1】に干渉し始めたのではないかという考えを持った。

 

 魔石に眠る古代の魔素には【テントマトウス】しかないからだ。

 

 実は魔石が石となっているのは、【ゼロオーム】が表面に干渉しているからである。

 【ゼロオーム】に覆われたからこそ魔石は生まれたのだ。

 

 よって、魔石の中心には【ゼロオーム】の干渉を受けていない魔素が存在している。

 ならば、と【ゼロオーム】を削除する試みをしたことがある。

 

 結果は巨大なクレーターの跡だ。

 

 馬くらいのサイズの魔石の量で城が一つ無くなった。

 

 もし、【テントマトウス】だけが世界に満ちていた場合、今の世界は崩壊するだろう。

 【ゼロオーム】があるからこそ今の地上は美しく豊かなのだ。

 

 

「…………」

 

 そんな講義を思い出しながら、ルクスはゴーレムの腕で魔石に触れる。

 

 周囲には足を潰された男たちが倒れている。

 ここは反王軍の小さなアジトだ。

 

 しかし、その役割は小さくない。

 彼らは魔石を大量に運んでいた。

 

 きっとまたこれを爆発物として利用し、どこかを襲撃する予定だったのだ。

 

 だから、ルクスはその魔石を潰す。

 

 あの日、グリムプレートが行った魔石への干渉の逆。

 魔石の内部に大気中の魔素【A-1】を送り込むことで、魔石を内部からただの石に変えていくのだ。

 

「てめえ……よくも……夜の騎士……っ! 我らが正義を……」

 

 まだ意識のあった男が石ころに変えられた魔石を見て、ルクスに毒づく。

 

 その視線を男へ一瞬だけ向けると、ルクスは手を向け衝撃波を放った。

 

「がっ……」

 

 脳を揺らされ、あっけなく男は気絶した。

 

 さらに魔法を使い、倒れている男たちには土の拘束具が掛けられた。

 それにはたった今無力化された魔石も使われている。

 

「…………」

 

 雑な対応で苛立ちを隠さずにルクスは歩みを進めた。

 

 学園で本体が睡眠を取る夜の時間に、こうしてルクスは特別製のゴーレム体で工作活動を繰り返していた。

 

 目的はもちろん反王軍の力を削ぐこと。

 聖国との緊張状態で王国兵の多い東部ではなく、それ以外の細々(こまごま)とした別の拠点を確実に潰している。

 

 その過程で貧困な村や、腐った街の現状を目撃し、ストレスを溜めていた。

 

 余裕のない人々。

 泣くだけの子供。

 怒るだけの大人。

 

 秩序のない社会。

 笑顔のない家族。

 

 反王軍を理由に潰し合う関係のない村々。

 反王軍を理由に民から巻き上げる貴族たち。

 

「…………」

 

 豪華な調度品に囲まれた部屋で如何に魔王領が素晴らしいのかを語る領主。

 その領主の土地は貧困が酷かった。それに対し何も対策せずに魔王領へと行こうと決心していた。

 

 馬鹿らしいとルクスは思った。

 吐き捨ててやりたいと何度も思った。

 

「……!」

 

 ルクスは林道で血の跡を見つけた。

 

 それを辿ってみれば、そこには蹂躙された後の家族の死体があった。

 

 剥ぎ取られた服と空っぽのバッグ。

 切り傷と火傷の痕。戯れの拷問までされていたのだろう。

 

「────」

 

 ルクスは存在を消し、その犯人の捜索を始めた。

 そんなことをしたところで助けるべき相手もいない。

 

 これまで何度も助けた相手から剣を向けられた。

 敵から何度も命乞いをされた。

 

「……あ?」

 

「どうした?」

 

「いや……なんでも…ってぇ!?」

 

 離れた場所に犯人たちの姿があった。

 野宿をしながら戦利品をちょうど整理しているところだった。

 

「ぎゃああッ!!」

 

「いてえ……うっ!?」

 

 足を潰し、うるさい男たちを気絶させる。

 

 そして、その姿を現す。

 黒色に包まれた孤独な騎士が無表情なまま夜の光に照らされた。

 

「ひっ……よ、夜の騎士……?」

 

 ルクスは一番扱いやすそうな男だけを残した。

 

「暴れたら命を奪う。質問に答えろ」

 

「わ、わかった……!! ぎゃっ!?」

 

 戦闘用ゴーレムの腕を弄り、中から隠しナイフを取り出したルクスは男に投げた。

 男の手には刃物が握られていたからだ。

 

 ルクスはもう言葉を交わすのも面倒だった。

 

「…………」

 

「待て!! 待ってくれ!!」

 

 無言で足潰し用の鉄棒を取り出すルクスに慌てて男は弁明する。

 

「……どこに売るつもりだった?」

 

 ルクスは戦利品の行き先を質問した。

 

「……そ、それは。すまん、俺はそういう情報を教えられていなくて……。ひいいっ!! 痛いのはやめてく──ぎゃあああああっ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 足を潰し、気絶した男を睨むように見つめた後、ルクスは遠くを見た。

 男の反応から方向を割り出したのだ。

 

 移動を開始する。

 

 朝までまだ時間はあるが、この距離で活動ができるのは一旦ここまでだった。

 

 明日は学園にて闘技大会が開かれる。

 

 停止中は透明化をして隠しているこのゴーレム体に割く脳内リソースは大きい。

 

 フィフ無し、姿消し無し、変装は続ける。

 闘技大会にて、そんな縛りがある戦いを自らに課したルクスはこのゴーレム体を一旦解除することを決めた。

 

 稼働実験の末、行使範囲と精度の研究は完了した。

 後は“個人的な趣味”である。

 

 だが、その趣味が精神に与える影響が大きすぎることをルクスは完全にわかっていなかった。

 

「……!」

 

 先程の男たちの資金源になっている施設を発見した。

 見える人影は難民のように思えるが、象徴的に掲げられているものがあった。

 

 逆さまの王冠。

 反王軍の拠点の一部だ。

 

 家族ぐるみで協力している者たちもいるようで、雰囲気は悪そうではなかった。

 

 だが、ここのあたりまでもうすぐ王国軍の部隊がやってくるだろう。

 近くの拠点を潰した後に、王国軍を誘導したからだ。

 

 誰にも気付かれること無く『音聞』としてルクスは潜入する。

 

 調べてみるとここは武器庫としての役割を持っているようだった。

 

 数丁の聖芸品と剣が大量にあった。

 鎧は農民に用意している余裕はないようだ。

 

「お前、それはあっちだって!」

「そうだっけ?」

「重い~」

 

「…………?」

 

 子供の声が聞こえてきた。

 ルクスは思わず立ち止まってその方向を見てしまう。

 

 子供がいることは珍しくなかった。

 少ない食事で得られる貴重な人手だからだ。

 

 しかし、その子供たちの声は──()()()()()()()()

 

「早くしろ!!」

「でもさー、モノルス、こんなことしてていいのかな?」

 

 ものを運びながら言い争う子供たち。

 

 その子たちとは一緒に畑を耕した記憶がある。

 

「何を言ってるのよ!! これで貴族たちを倒せるんだから」

「そうだぞ!!」

 

 備品をチェックしながら気合いを入れる子供たち。

 

 その子たちには能力を使ってモノマネを披露したことがある。

 

「……元気出しなさいよ」

「うん……」

 

 少ない食事を摂りながら、慰め合う子供たち。

 

 彼女たちを以前看病したことがある。

 

「────」

 

 目眩を起こして、ルクスは誰にもバレないように崩れ落ちた。

 視界を何かで塞ぎたかった。

 

 だが、性能の良い聴覚がさらなる詳細な情報を拾って来る。

 

「俺達は運が良かったよ……」

「うん……」

 

「シスターたち死んじゃった……」

 

 なんとか情報の整理を行おうとルクスは努力した。

 しかし、そんな優秀な処理能力を持っているものだから、傷を増やしていく。

 

「全部貴族のせいだっ!!」

 

「そうよ!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「ああ、絶対に見つけ出して、助けるぞ!!」

 

「アイツ目立つからすぐにわかるだろ!」

 

 何故か子供たちは笑った。

 

 ルクスには意味がわからなかった。

 

 いや、わかっている。受け止められなかっただけだ。

 

 “ルクスは育った孤児院を失った”のだ。

 

「────」

 

 その体には呼吸機能はない。だから助かった。

 もしあったら叫びだしていただろう。

 

 しかも子供たちは『リエーニ』を貴族から取り返そうとしている。

 

(やめてくれ……。やめてくれよ……こんなこと……)

 

 喧嘩別れをしたままの院長の顔を思い出す。

 からかうように頭を撫でてきたシスターを思い出す。

 

(死んだ……のか?)

 

 彼の目の前には子供たちがいる。

 

 彼が生きる理由にしていた者たちだ。

 

 子供たちの暮らしをなんとか良くしようとしていたのに、これでは意味がない。

 

「──ぁ。──ぁ」

 

 今すぐに出ていって助け出したい。──それで?

 

 王都に連れ帰って彼らを豊かにする。──それで?

 

 今すぐに権力を使って子供たちを、孤児院を取り戻す。

 

 ──全てを無駄にしてまでやることか?

 

「…………っ!」

 

 呆然と立ち尽くすルクスは目の前で生活する子供たちを真顔で見ていた。

 

 そこには“見えない壁”が存在している。

 

 彼の頭の中では地獄のような問答が繰り返されている。

 

 子供たちを助けるということはリエーニの正体を明かす行為だ。

 それはミゼリアを殺す。カルクルールが敵対する。

 

 そもそも誰にどのように説明すれば理解してもらえるのかわからない。

 

(貴族に敵対するこの子たちを懐に入れてどうなる……?

 くそ、時間もない。くそ……くそ……)

 

 もしこの拠点が王国軍に襲撃されたとして、反王軍に嬉々として参加するこの子たちが丁重に扱われることはない。

 

「ぅ…………」

 

 その体に嘔吐する機能はなかった。

 

 ルクスの耳が王国軍の音を聞きつけた。

 

「なに!?」

 

「敵!?」

 

 次々に慣れた手つきで準備をしはじめる子供たち。

 

「────……」

 

 ルクスは()()()()()()()()()()()

 

 

「!?」

「なに!?」

「いやああああああああああっ!!」

 

 聞きたくない悲鳴が木霊する。

 

 ルクスの放った魔法が子供たちを捕らえた。

 

 大地の蔓が彼らの手足を拘束し集めると、その場所に即席の檻が作られていく。

 

「助けてええええええええええ!!」

「くそ!! くそ!!」

「敵がどこかにいるぞおおおおおおお!!」

 

「ぁ……。…………」

 

 ルクスの心はその光景を拒絶していた。

 

 自らを敵と呼ぶ子供たち。

 自分の魔法に恐怖し泣き始める子供たち。

 

 だが、これで子供たちは哀れな被害者となる。その先はわからない。わかりたくもない。

 

 そして、ついでのように拠点を破壊していった。

 作業だった。

 

 この拠点の主要メンバーのような人間には障害が残るように衝撃波で脳味噌にダメージを与えた。

 

 炎と悲鳴がその舞台に響く。

 

 もしこれが本当に誰かの物語の舞台ならば、とても素晴らしい演出だと観客は褒めるのかもしれない。

 

「────」

 

 コントラストの強い光に当たりながら、ルクスはぼうっとその光景を見ていた。

 その目には体温が感じられない。本当に人形のようだった。

 

 やがて到着した軍隊が子供たちを『保護』する姿を見て、なんとか心を残した。

 

 もし子供たちが蹂躙されるような景色を見ていた場合、彼の剣は王国に向いていただろう。

 

 彼はゴーレム体の自壊術式を起動する。

 その起動を確認すると衣服を燃やし、崩壊を迎えたルクスの精神は学園に戻っていく。

 

 ──早く帰りたかった。こんな現実を見たくなかった。

 

 まだ朝まで時間があるというのに彼は戻った。そして、帰ってすぐに意識を落とした。

 そうしなければ死んでしまいそうだったからだ。

 

 

「…………」

 

 

 ────そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

 炎は消え、自壊術式も途中で止まる。

 

 ソレを敢えて呼ぶのならば『リエーニ』だ。

 

 リエーニはルクスと違い、自分の外見に興味などない。

 

 だからこそ今の自分が、焼け焦げた衣服を着る顔すら判別できないバケモノのような見た目であることも気にしていない。

 そして、隠蔽魔法など使っていない。

 

 “やっと壊れていた心が正常に戻った”。

 

 リエーニは喜んだ。

 

「はぁ……はぁ……。誰か……いるの……?」

 

 リエーニの目の前に怪我をして倒れている女性がいた。

 王国軍から逃げてきたのだろう。

 

 可哀想に。

 

 体に仕込まれている刃物を取り出し、リエーニは解体した。

 

「えっ……? なに、なに? なにいいいいいいいい!?」

 

 ちゃんと切り刻んであげた。丁寧に苦しませた。

 

 楽しみな闘技大会まで遊ぶことを決め、リエーニは更なる夜の闇へと歩き出した。

 

 こんな苦しみがあるなんて──本当に素晴らしい世界だ。

 

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