プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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84話 不完全を嘲笑え

 

「ルクス~! やったな!」

「勝てたじゃねえか!」

 

「おうよ」

 

 闘技大会の出場選手の大きな控室でルクスは友人たちに囲まれていた。

 

 ルクスの派閥の面々であるが、その顔は本当に嬉しそうだった。

 

 純粋にルクスの勝利を友人として喜んでいる面もあったが、やはり、所属している集団のリーダーが実績を持つことに有意義だと感じる部分もあった。

 

 それを感じるルクスはひとまずの安堵を得た。

 

「でも、次は……大丈夫ですかな」

「だって、十五傑の息子だろ?」

 

 ミゲルとランザスが心配した表情で訊いてくる。

 それに笑うと、ルクスはいつもの感じで答えた。

 

「大丈夫もなにも、勝たなきゃ本戦に行けねえじゃねえか。ヴィクトリアとの戦いがあるんだよ」

 

「絶対に組み合わせをいじられていますぞ……」

「なんで、予選で……」

 

 それでも俯く友人たちの肩をルクスは叩いた。

 

「ルクス! お客さんだ!」

 

 入口の方にいた友人がそんなことを言ってきた。

 入ってきた人物を見て、ルクスは一瞬だけ感情を消した。

 

 ミゼリア王女が一人だけでやってきていた。

 

 男爵、子爵の貧乏貴族たちにまともな対応などできるわけもなく、落ち着かない雰囲気を皆出していた。

 

「…………」

 

 訪れたミゼリアの表情は硬い。

 

「……悪い。お前ら席を外してくれ」

 

「はい……」

「おう……」

 

 礼をとりながら、皆退室した。

 

「わざわざどうしたの? ミゼリア」

 

「どうしたって……その……」

 

 ミゼリアの行動は、一人で来たことからただの感情的なものであり、なにも意識していないことが伺えた。

 

 ルクスは慣れたように彼女に近付いて、その肩を抱いた。

 

「応援は嬉しいけど、周囲にどう見えてしまうのかわかっているでしょ?」

 

「……ごめんなさい」

 

 ミゼリアの頬に手を当て、ルクスは優しく微笑んだ。

 彼女も自分の行動に対して、混乱しているようだった。

 

 その素朴で、()()()()()()()()の動きにルクスは僅かな癒やしを得た。

 

「見ていて、ミゼリア。俺が戦うところを」

 

「…………」

 

 今のルクスにミゼリアの気持ちなど理解できるわけもない。

 

 ミゼリアは止めに来たということを。

 だが、ルクスの顔を見てなにも言えなくなったということを。

 

 ルクスの瞳に宿るのは、高揚感。

 原始的で、動物的な、戦いへの期待感。

 

 残される者の気持ちを考えぬ戦う者の顔をしていた。

 

 いつもより荒いキスをされながら、ミゼリアはそれすら受け入れてしまう自分に嫌悪感を抱いた。

 

 

◆◆◇

 

 

 予選の二回戦目が始まり、注目の一戦がやってきた。

 

 舞台に立つのは二人の男。

 

 歴史上、戦いにおいてその名を示し続ける十五傑の息子。

 方やただの目立つ成金の卑しい貴族の息子。

 

 その戦いの認識は人によって違っていた。

 

 ある人にとっては目障りな成金を暴力が蹂躙する様を楽しむためのものであった。

 

 ある人にとっては女を巡るメロドラマであった。

 

 またある人たちにとっては愛する男が危険な目に遭う処刑場であった。

 

「逃げなかったことは褒めてやる。言葉に責任は持つようだな」

 

 向かい合った二人。共に持つのは剣だ。

 まるで武芸者を気取るような口調でバーザクがルクスに話しかける。

 

「勿論ですよ」

 

「……だが、実力が伴っていないな。先程のあの無様な剣筋でよくこのオレも倒すなどと言えたものだ」

 

 バーザクはルクスの一戦目を期待して見ていた。

 しかし、あんな接戦を繰り広げたルクスに失望したのだ。

 

「ああ……そうですか。訊いてもいいですか?」

 

 そのバーザクの発言を、ルクスも失望したように受け取った。

 そして、質問を投げかける。

 

「なんだ?」

 

「貴方は武帝を目指していると聞きました。それはどうしてですか?」

 

「…………何を言っている? 武帝国に生まれた以上目指すのは当然だろう。弱者たる貴様にはわからぬ考えだろうがな」

 

 その典型的な夢をルクスは笑わなかった。

 そして同時にバーザクに対しての期待を失った。

 

「貴方は武帝がどんな顔をしているのか知らない」

 

「計算もできぬのか? オレたちの生まれた頃にはその座は空席だっただろう」

 

 意味のわからぬ発言にバーザクは苛立つ。

 頭の悪い問答に付き合えぬと剣を抜き放った。

 

 お互いの『アルテラ・アニマ』が起動する。試合開始の合図だ。

 

「お前に『武帝』は譲らない──」

 

「なに?────ッ!?」

 

 爆音が響き渡った。

 

 それはルクスが放った土系統の魔法。

 それにより試合場の地面が変形し、地割れが起こったのだ。

 

「これは……」

 

 地形の変化に足を取られ、バーザクは一歩遅れる。

 

 あり得なかった。ここまでの規模の魔法を使える相手ではないと思っていた。

 

 揺れる大地がバーザクを囲むように壁を作り出していく。

 

「【桜花爛漫(おうからんまん)斬滅尽(ざんめつじん)】!!」

 

 不死騎士襲撃の際、パーティホールでヴィクトリアが使用した第五剣術(イツファーブ)の派生。

 それと同系統のものをバーザクが使用した。

 

 彼の場合は単純な魔力を力任せに剣に纏わせ、それを振るだけだ。

 

 試合用に準備された剣のリーチは互いに同じ。

 だが、バーザクは自分の身に宿る膨大な魔素を魔力に変換し、その剣の刃を魔力で巨大にする。

 

 剣の持つ重量は変わらないのに、その巨剣は凄まじい威力と攻撃範囲を手に入れる。

 

 一振りで彼を囲もうとしていた土の壁は砕け、崩れていく。

 

 その先には奇襲をしてきたルクスがいる。

 ルクスは大規模な魔法を展開しようとしていた。

 

「ハ……ッ!! まさか魔法使いだったとはな! だが無駄なことだ」

 

 その間にも蠢く大地がバーザクを飲み込もうとするが、それら全てをバーザクは切り崩していった。

 

 その時点でバーザクと一部の観客は気が付いていた。

 一回戦目から──いや、訓練の時からルクスは観客を騙していたのだ。

 

 最初から魔法を使う相手ならば、バーザクもすぐに距離を詰めていただろう。

 

 全てはその一瞬の時間のためだった。

 

 

「ね? わかった?」

 

「…………」

 

 観客席でエルヴァリスはヴィクトリアに微笑む。

 それに対して返事をせずにヴィクトリアは試合に集中していた。

 

 おそらくバーザクはヴィクトリアと同じ戦法だ。

 力技によるルール的勝利。

 

 だが、永久に削り続けるヴィクトリアとは違い、バーザクの攻撃は一撃で『アルテラ・アニマ』の許容量を超える。

 

 ルクスは被弾が負けにつながるのだ。

 

「ゴーレム……?」

 

 ルクスが展開しようとしているのは、ゴーレム生成の魔法だった。

 

 彼を中心に大量の土が集まっていく。

 

「させぬ」

 

 バーザクがさらに巨大に、厚くした巨剣を振り下ろした。

 それは大地の壁すら貫通し、ルクスに届いた。

 

「──ッ!?」

 

 ヴィクトリアは驚愕した。

 おそらく、エルヴァリス以外の全員が目を見張ったことだろう。

 

 大地を壊されても、ルクスにはダメージが入っていなかった。

 

「なに……あの防御魔法は……」

 

「へえ……珍しい血が入ってそうね、ルクス君」

 

 エルヴァリスも反応した。

 

 防御魔法の理屈は簡単だ。魔力を盾にすればいい。

 だがルクスの使ったものはどこか普通ではなかった。

 

 バーザクの巨剣が霧散していったのだ。

 

「ほう……」

 

 魔力を失った自分の剣を見て、バーザクも驚いていた。

 纏っていたものが全て消されていた。

 

 だが、強力な魔法は何度も使えるものではない。

 

 再びバーザクは魔力の光を剣に纏わせた。

 

 そして、大地はやがて巨大な人となり、ルクスはゴーレムの内部へ入っていった。

 

 右手に持つものは無骨な棒だ。しかし、その物理的な重さはどんなものもへし折ってしまうだろう。

 そして、左手は普通の手に見えた。

 

 しかし、その左手には魔力の盾が現れた。先程のルクス本体に展開されたものとは違い、単純な防御魔法のようだが、それはただバーザクの攻撃に合わせたものだ。

 

 いくらでもその土の肉体は変化する。

 

 それこそ、その無機質な鎧の性能の特筆すべき点である。

 

 この場にいる者は全員知らないが、その大地の鎧は王都の知識の蔵を襲撃した“不吉なもの”と酷似していた。

 

「…………」

 

 ヴィクトリアは絶句した。

 いつものルクスの雰囲気とは全く違うその暴力的フォルムに圧倒されたのだ。

 

 その巨体が動き出す。

 まっすぐにバーザクに向かって凶器を振り下ろした。

 

「ふんッ!!」

 

 空間が振動するような衝撃だった。

 

 本来ならば、人間が潰れるような破壊の一振りをバーザクは容易に受け止めていた。

 

 ルクスが奇策を以て練った時間で生成された巨大なゴーレムアーマーだが、それは純粋な力の前には戦法の一つに過ぎない。

 

「ふははははははッ! おもしろいッ! だが、それで終わりか?」

 

 再び展開されたバーザクの巨剣が旋風となって攻撃を開始する。

 

 地形の破壊と変化はまだ続いている。

 大地の巨人が襲い来る。

 

 ────それをバーザクは受けきっていた。

 

 尚且つ、ルクスの作り出した鎧の右腕を切断してみせた。

 

「……フッ」

 

 余裕そうな笑みだった。

 期待以上の相手に興奮する獰猛な感情を見せたまま、バーザクは剣を振るい続けた。

 

 ゴーレムの手が修復されていく。

 

「ははっ! そう来なくてはな!!」

 

 巨大な人と超常の人間から生まれた人が激突を繰り返す。

 

 砂煙に包まれる会場は、その戦いに魅了されていた。固唾を飲んで見守っていた。

 

 観客の前で繰り広げられる戦いは、試合を超えていた。

 

「────」

 

 ヴィクトリアもそれを見ていた。

 

 やがて、バーザクはゴーレムの足を切り崩した。そこからルクス本体が入っていると思われる胴体に一撃を入れる準備をする。

 ルクスが入っていくところを目撃していたのだから、当然そうするだろう。

 

 ヴィクトリアもバーザクと“同じ位置”にいたとしたら、完全に同じことをしていた。

 

 だが、それを上から眺める観客たちは知っている。──そのゴーレムの背中には穴が空いていることを。

 

 視界を悪くするその砂煙の中に潜む暗殺者の姿を観客は見ている。

 

 止めを刺そうと力を込めるバーザクの後ろから近付く刃を皆見守っていた。

 

 それが決まればおそらく試合が終わる。まさに決定的な一撃となる。

 

 だからだろうか、観客席は一様に黙していた。

 前の試合まではあんなにはしゃいで騒ぎ回っていた者達が静かだった。

 

 だから、たった一人の、誰かの声がよく響いてしまった。

 

 

「後ろから──」

 

 

 それが聞こえぬほどバーザクの能力は低くなかった。

 

「────」

「────」

 

 二人の視線が交差する。

 バーザクは反応した。

 

 忍びよるルクスの刃は空を切る。

 

 全てこのための布石だった。

 

 訓練の手抜きも、ゴーレムに集中させるのも、観客からの注目度を上げるのも。

 

 負け惜しみを言うのならば、本来、ここには“姿消し”と“音消し”が加わっていた。

 

 だが、結果は結果だ。

 

 ルクスは絶大な優位性を失っただけだった。

 

「……っ!」

 

「はあッ!!」

 

 そこから始まったのは純粋な剣技の戦いだった。

 もうバーザクがルクスを逃がすはずもない。

 

 彼はもうルクスの脅威を知ってしまったのだ。

 接近戦に持ち込むしかない。

 

 バーザクの一撃をルクスは受け流す。

 

 豪の一撃と柔の技。

 

 本気のぶつかり合いになっていた。

 

 その互角に見える戦いを見て、先程まではあんなに静かだったのに、会場は熱気に包まれた。

 

「……つまんなーい。絶対にルクス君の勝ちなのにー」

 

 そんな展開を迎えた試合にエルヴァリスは嘆くような声を上げた。

 

「…………え?」

 

 そして、彼女の隣からは気の抜けた声が聞こえてきた。

 

「ん? どうしたのヴィアちゃん」

 

 エルヴァリスがその声の主を見ると、思わず立ち上がり突っ立っていた。

 

「うそ……。うそよ……。なんで……?」

 

 その顔はある種の絶望に満ちていた。

 

 視線はルクスだけに向けられている。

 

 ヴィクトリアは知っている。

 その剣を、その足さばきを、その戦い方を知っている。

 

「────()()()()?」

 

 全てを受け止めきるあの子らしい戦い方。そのままだった。

 さらに言えば、盤外を含めた騙し討ちもそっくりだ。

 

 いや、そっくりなのではなく──。

 

 ゴーレム魔法。フォノス家。アンリーネ。

 

 そして、“約束”。

 

『ならば、いつでもいいので、真剣勝負を望みます。貴方のような人が表に立てないのは我慢なりません。大舞台で私と殺し合いなさい』

 

『殺し合いはしねえけど、その約束は守ってやるよ』

 

 あの時の笑顔が思い出される。

 

「馬鹿な子……。なんて……なんて馬鹿なの……? 私……」

 

 自然と涙がこぼれた。

 自らの愚かさに。視界の狭さに。

 

 ヴィクトリアの何かが崩れていく。

 

 そうだった。

 ヴィクトリアは『あの子』が、『あの子』だけが好きだったのだ。

 

 それもまたきっと人々は“異常”だと呼ぶのだろう。

 だが、ヴィクトリアにとってそれは全く違う意味を持つのだ。

 

 後悔が彼女の胸中に渦巻くが、同時にまだ暖かさがあった。

 

 だってそうだ。

 彼女は今、求めた人の隣にいるのだ。

 

 いろいろと言ってやりたいが、アンリーネに心の中で感謝を述べた。

 

 だが、そんなヴィクトリアの思考とは裏腹に、下に広がる舞台ではさらなる展開が起ころうとしていた。

 

 まあ、気にすることはない。──気付くのが()()()()()()の話だ。

 

 

◆◇◇

 

 

 きついなあ……。

 

 何がって言われると、多分大したものじゃないんだろうな。

 俺の抱える悩みなんて、世界に滅茶苦茶あるもののたった一つにすぎない。

 

 でもさあ……少しくらいは愚痴ってもいいだろ?

 

 しんどいよ。しんどいんだよ。

 

 俺ってけっこうできる範囲でよくやってると思うんだ。

 

 だって、わけのわからない結婚の話だって上手くまとめてるし、馬鹿みたいな反王軍の邪魔もやってる。

 金使って遊ぶわけでもなく、勉強だってちゃんとやってるんだぜ?

 

 でも、やっぱ駄目なのかな。

 

 他人に配慮して、自分をないがしろにして、調和を目指して。

 

 それじゃあ、駄目だったのかな。

 

 少しだけいい感じだったんだよ。

 手応えがあったんだ。

 

 魔王がやばいやつでも、魔族が悪いやつでも、また人間はアイツらがやったように団結できるような気がしてたんだ。

 

 でも、そうだった。

 

 アイツらでさえ、数百年かかったことだったんだ。

 

 そうだよな。俺の見てきた優しさっていうのは、異世界の、異国の、異人たちのものだ。

 俺が基準にする価値観はある意味で完成されたものであり、俺の国が歴史を重ねてたどり着いた境地なんだよ。

 

 ああ……あの息苦しくも穏やかな幸福の世界に帰りたい。

 

「……ッ!」

 

「……貴様を侮ったことは認めよう。磨かれたその剣技、称賛に値する」

 

 足りないや。

 

 うん、足りない。

 

 地力での勝負では一手届かない。

 

 息が続かない。腕が重い。頭が痛い。

 

 このままだとアイツの一撃を受けて即アウトだ。

 

 いいなあ、力が強くて。

 いいなあ、鍛えてるだけでよくて。

 いいなあ、頭が悪くて。

 

 いいなあ、────本気で戦えて。

 

「…………」

 

「……ははは、戦士の目だ! なぜ道化の真似などやっていた? お前は──」

 

 うるさいなあ。ムカつくなあ。気に入らないなあ。

 

 あーあ、もういいかな。

 

 孤児院も無くなったし、人間は争ってばっかだし、魔王はガチだし。

 

 俺なんかじゃなくても代わりに誰かがやってくれるって。

 今までがおかしかったんだから。

 

 だって、日本で天罰を受ける前から俺はどうしようもない奴だったんだし。

 

 誤魔化すのはやめよう。演技するのはやめよう。真似するのはやめよう。

 

 俺は優しくなんかない。他人を優先できない。力を誇示するどうしようもないクズだった。

 

 今更善人ぶったって意味なんかない。

 

 そうだろ?──ああその通りだ。

 

 だいたいさ、一番簡単な方法があるんだよね。

 人間関係も、社会的地位も、歴史的価値観も全部虚無にできるいい方法が。──ああその通りだ。

 

 みんな、ごめんな。

 俺は……好きにするよ。だって、他のみんなが好き勝手してるんだから。

 

 ちょっとくらい遊ばしてよ。サボらせてよ。俺だけ我慢するなんて嫌だよ。

 

「──ふ」

 

「……? 笑ったのか……?」

 

 “語りだけはご立派な雑魚”から距離を取る。

 

 演出は派手にしないとな。──ああその通りだ。

 

 さあ、笑おう(あそぼう)見下そう(あそぼう)踏みにじろう(あそぼう)

 

 ああ、やっぱいいなあ……戦いって。日本ではできないことだからさ。

 

           ────穏やかなる世界などつまらない。

 

 俺の生きた世界にはもうそんなものなかったからさ。

 

   ────だからこそそれが存在するこの世界は素晴らしい。

 

 戻ろう。

 

 ────還ろう。

 

 ──原始の(プリミティブ・)霊長(プライメイツ)へ。

 

 アア、ヤット、ヒトツニ、カミアッタ。

 

 

◇◇◇

 

 

 ────嵐が起こった。

 

 日に照らされるこの晴天の中に嵐が起こったのだ。

 

 空は赤くなり、暴風と雷鳴が響き渡る。

 

「うあああああああああっ!?」

「なに!?」

 

 試合場に広がっていた砂煙がその暴風に巻き上げられ、竜巻のようになった。

 

「観客席を守れ!」

 

 防御魔法が観客席に施されていく。

 あくまで保険用のものだったが、まさか役立つとは運営側も思っていなかった。

 

「…………なにが?」

 

 轟音が木霊するその空間は、人間領域の中とは思えない環境となっていた。

 

 何故なら、それは大気中の魔素が急激に失われた時に起こる現象だったからだ。

 

「────ヴィアちゃん。あの子って……人間なの?」

 

「え? 何を言って──」

 

 嵐に巻き上げられる髪を抑えながら、ヴィクトリアは冗談を口にするエルヴァリスを見る。

 しかし、エルヴァリスの表情は、本気だった。

 

 それはまるで獲物を見るようなものだった。

 

 試合場は砂煙でよく見えない。

 

 しかし、向かい合う二人の影はわかった。

 

「……何をした?」

 

 バーザクが問い掛ける相手は笑っていた。

 

「くくくくくく、あははははははははっ!!」

 

 ソレが集めた魔素が形を作っていく。

 ソレが今まで学んできた全てが展開される。

 

 砂塵の中で、発光する魔力の塊に包まれたソレの姿をバーザクは一瞬だけ目撃する。

 

 その人物の姿は変わっていた。

 その輝きは祝福された証明。人間の原初の特徴。女神(ネトス)が求めた人間の最終体。

 

 黄金の髪と瞳。

 

 それがその人間の特徴だった。

 

 赤き空の下、激しい閃光と荒々しい風がその再誕を祝福する。

 

 一言で表すのならば、“悪趣味”だった。

 

 ソレは黄金の鎧に身を包み、その兜には荘厳な王冠が載せられている。

 派手で無駄で贅沢な飾り付けだった。

 

 当然だ。そこに御わすのは王である。

 

 いつの時代も人は一人を求める。

 どんな主義に傾倒しようとも、一人が人の上に立つことに変わりはない。

 

 親、年上、先輩、階級、資産、歴史、種族、環境。どれかを上に置く。

 

 つまり、人には必要なのだ。絶対的な個人が。自分たちを統合する神なる一が。

 

 嘆くことはない。

 

 当然のことだ。

 

 王はお喜びだ。

 またこの世界に生まれ落ちることができて大変ご満悦である。

 

 実に十二年ぶりのことだ。

 

 では始めよう。

 

 争いを維持しよう。苦しみを広げよう。嘆きを大きくしよう。

 

 さあ、ひれ伏せ。────我らが暴君の転生はここに成った。

 

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