プリミティブ・プライメイツ ~暴君転生~   作:翠碧緑

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93話 開戦の雷鳴

 

 反王軍の中核メンバーであるクルモンド・ハーグラエティクは焦っていた。

 

 民を救うために作り上げた反王軍がこのままでは死の軍隊になってしまうからである。

 

 カシアンは民すらも生贄として支配階級への叛逆を行っている。

 しかし、クルモンドの考えはそんな自滅的なものではなく、もっと具体的な救いを求めている。

 

 それは階級や地位と言った歴史と紐づくものをリセットすることだ。

 

 王族や貴族というものは歴史の長さが起因している。

 今の貴族が偉いわけではなく、過去に偉大な人物がいてそれに縋っているだけなのだ。

 

 尊敬されるべきはそんな偉人たちであって、何も成し遂げていない今の王族や貴族ではない。

 

 そして偉人たちが残してしまったシステムは今も世界を圧迫し続けている。

 

 残される財産、蓄えられた知識、優秀な血筋。

 

 未来になるほど人と人の格差ができていく。

 

 財産を持たず働くしかない者。

 知識がないために搾取されてしまう者。

 血筋を優先するがあまりに迫害される者。

 

 そんな者たちがもしかしたら賢者、勇者となっていたかもしれない可能性を世界が潰してしまう。

 

 絶対的な支配者である女王たちが消えた今こそ世界は平らに(なら)されるべきである。

 

 大戦争で騎士として戦い、地獄を体験し、上の腐敗を目撃したクルモンドは現在まで影響する過去の抹消を望むのだ。

 

「もうまもなく、全ての兵力が揃います」

 

「うむ、急がせろ。遅れれば休憩はできぬぞ」

 

 ロルカニア王国王都の近くに存在する学園都市。その南に位置する断崖絶壁。

 

 高さにして三百メートルはあるその崖を彼らは()()()()()()()()

 

 武器だけを背中に背負い、肉体の力だけで登ってきたのである。

 

 人間の戦士としての精鋭たち。大戦争の生き残り。

 これくらいできて当然である。

 

 補給無しの一発勝負だ。

 学園都市の制圧さえできてしまえば、王都は目の前だ。

 

 クルモンドが援軍を待たずにこんな作戦をしているのは、反王軍の民たちに犠牲を出さぬようにである。

 

 カシアンは数だけを集めて、無謀な突撃だけをさせている。

 そして、刻印を彼らに刻み込み、魔物へと変わる呪いを仕込んでしまった。

 

 そんなことは王都を落としてしまえば終わるのだ。

 

 そして、本隊とは別の動きをするクルモンドは魔王領より届けられている黒き槍のことは知らない。

 

 連絡や中継を行っていたケログが行方不明となっているために、他の軍隊の情報を共有できていないのである。

 

 彼はただ民が無謀な突撃を繰り返しているのだと思っていた。

 

「王都との分断は完了しました。あとは攻め入るのみですね」

 

「都市には市民も多い。手早く済ますぞ」

 

 学園の大きな建物はすぐそこに見えている。

 城塞都市の形をとっているそこには、常人には超えられぬ壁がそびえていた。

 

 彼らが陣を敷くのは草原を少し離れた岩場である。

 

 強靭な肉体を酷使して、次々に騎士たちが崖を登り終え到着してくる。

 

 “もうすぐ戦いが始まる”。

 

 気合いが入るその一瞬の意識の隙間を縫って、騎士達に忍び寄る刃があった。

 

「ガハッ!?」

 

 ──突然、一人の騎士が喉を掻き切られ、倒れた。

 

「何奴!!」

 

「…………」

 

 見るとそこには、短刀を片手に立つ男がいた。

 

 かなりの隠密能力を持つ者だった。奇襲に特化した暗殺者だ。

 その男は学園にて【共通語学】を教える教師であった。

 

 短刀についた血を払い、クルモンドを一瞥(いちべつ)するとその男は逃げていく。

 

「おのれ!!」

「待て!!」

 

 奇襲を行うはずが、作戦がばれていた。

 しかも自分たちが奇襲を受けた。

 

 それは騎士たちの逆上をもたらした。

 

 去っていく暗殺者を騎士の何人かが追い掛けていく。

 

「追うなッ!! ……カァッ!!」

 

 それを怒鳴るように止めたクルモンドは雷撃ともに魔力の斬撃を放った。

 

 稲妻が地面を這っていき暗殺者を追いかけるが、その手前で魔法陣の罠が起動し大爆発が起きた。

 

「……っ!!」

 

「これは……」

 

 もしも暗殺者を追い掛けていたらあの大爆発に巻き込まれていただろう。

 

「総員武器を構えよ!! 舐めるなよ? ()()()()()!!」

 

 敵の戦力を今の攻防で予測したクルモンドは部下に(げき)を飛ばす。

 

「隊長! 岩石がっ!?」

 

 巨大な岩が飛んできた。

 

 それはとある力自慢の教師が投げた五メートル程の大きさのものだった。

 

「ぬうぅッ……!!」

 

 クルモンドが再び雷撃をその剣で放つ。青白い閃光が広がり、その巨石に直撃した。

 その威力はその大岩を粉々にするほどだった。

 

 敵はおそらく大戦争の生き残り。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「態勢を立て直せ!! 信号を上げよ!! 王都方面の部隊と挟み撃ちだ!!」

 

 彼の指示で部下が空中に光を放つ。

 それは時間が前倒しになったとき用の攻撃指令だ。

 

 これで学園北の王都への道を遮断していた部隊に連絡が入った。

 

「ぐあっ!?」

 

「隊長!!」

 

「ええい!! 今度はなんだ!?」

 

 情けない悲鳴が上がった方向を見ると、先程砕いた岩の欠片から生成された何かが騎士たち襲っていた。

 

「ゴーレムナイト……!? そうか……貴方か……『岩重砕グスタフ・ロターク』ッ!!」

 

 再び雷撃の一閃。

 クルモンドは一体のゴーレムナイトを破壊した。

 

 しかし、次々と生まれたその戦闘に特化した人形が騎士を攻撃し始める。

 

「第二分隊はその土人形の相手をせよッ!! 第一、第三部隊は我に続け!! 敵の本丸を叩く!!」

 

 クルモンドが前方、学園へ向けて巨大な雷撃を放つ。

 大量に設置してあった魔法陣の罠が起動し、大爆発を再び起こしていった。

 

 また設置される前にその作り出した道に突撃するのだ。

 

「まだ崖を登る軟弱者ども!! 先に行くぞ!! 迅速に参戦せよ!!」

 

 未だに崖を登る騎士たちにも指示を飛ばすが、それを許す敵ではなかった。

 

 超高速で飛来する槍のような弓。それは空気の層を裂き回転しながら、吸い込まれるように意味のわからぬ軌道を描いて崖を登る騎士を撃ち抜いた。

 

「ガッ!?」

 

「ぐあああああああああっ!!」

 

 そして、その着弾点には魔力の爆発が起こった。

 飛び散る崖の破片と風圧で、数人の騎士たちが落下していった。

 

「ちぃ……ッ!! あの螺旋槍(らせんそう)……。未だ現役か……『アンリーネ・ブレイブハート』……!!」

 

 また歴戦の強者の攻撃であった。

 

 クルモンドは怖気づくことなく突撃を開始した。

 

「敵に不足無し!! 全軍、反王の意思を示せ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 彼らが駆け出すと、次々と魔法の攻撃がやってきた。

 

 防御魔法を展開しながら、騎士たちが突っ込んでいく。それくらいできるのだから、彼らは騎士なのである。

 

 魔法による絨毛爆撃。学園の城塞から放たれるそれは、強力ではあるが騎士の歩みを止めるには至らない。

 

「見えた……ッ!」

 

 敵の姿をクルモンドが捉える。

 

 年齢も見た目の統一性のない十数人の大人だった。

 その人物たちがそれぞれの武器を手に立っていた。

 

「我の攻撃に合わせて砲撃を放て!! ……カァッ!!」

 

 クルモンドがさらに走る速度を上げる。そして前方を薙ぎ払うように雷撃の一閃を放った。

 

 それに追随して部下たちも魔力による攻撃を次々に放っていく。

 

「ふ……まさしく……歴戦か……」

 

 クルモンドは純粋に敵を称賛した。

 

 彼ら反王軍の騎士たちが今まさに立ち向かおうとしているたった十数人の人間たち。

 

 あれだけの攻撃を受けてなお、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐあっ!?」

 

「腕がっ!!」

 

 炎で、岩で、矢で、呪いで、次々と部下が倒れていく。

 

「怯むなッ!! 数で押すのだ!!」

 

 あれだけの猛者たちをここまで集中的に運用することなど本来はあり得ない。

 

 それは戦争がないからこそ起きたこと。

 あれだけの戦士たちがやることがなかった平和な期間だったからこそ起きた偶然だった。

 

 クルモンドは自分のことを強い人間だと信じ、その実力も申し分ないと考えている。

 しかし、あのクラスの戦士がああも多くては苦労しそうだった。

 

「我が騎士たちよ!! よく見よ!! あれが諸君らの敵である!! 不正を認識しながらも、何もしてこなかった民を支配する側の人間だッ!!」

 

 怯え、迷い始める部下を叱咤する。

 たとえ歴戦の強者たちであっても、所詮は個人。

 

 数が勝つのは自明の理である。

 

「我が怒りに続け!! 反王の意思は我の道の後ろに続くのだッ!! ──世界をやり直すのであるッ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 クルモンドの肉体が雷を纏う。

 それは彼の使う魔法。人間としての限界を超えるものだ。

 

 この瞬間、彼の力は魔族に匹敵しうるものになる。

 

 その後ろに続く騎士たちも小さくはあるが、雷を纏い始める。

 クルモンドの魔法の劣化ではあるが、彼らも肉体の強化を使えるのだ。

 

 閃光と弾けるような音が彼らを包んでいく。

 

 そして、クルモンドは敵の一人にたどり着く。

 

 彼の力任せの雷撃を受け止めるのは、魔法の杖──でありながらも巨大な鈍器のような見た目をしている。

 

 大槌をその敵は杖としているのだ。

 

「やはり貴方か──『岩重砕グスタフ・ロターク』ッ!!」

 

「ほう……『雷走光クルモンド・ハーグラエティク』。久しぶりの顔だ」

 

 クルモンドの一撃を受けたのは、グスタフだった。

 

 そのままクルモンドが暴力的な斬撃の嵐を吹き荒れさせる。

 

 稲妻が二人の周りを飛び交うが、お互いに無傷である。

 グスタフはクルモンドの重く速い一撃を、その巨大で鈍重な大槌で受け止めている。

 

「──ッ!!」

 

 武器をぶつけ合っているクルモンドだけを狙う矢があった。

 

 すぐさまクルモンドは閃光とともにその場を離脱した。

 

 彼が直前にいた場所、グスタフの前には大きな矢が刺さっていた。

 

「相変わらず……速いですね。クルモンド殿」

 

 クルモンドが見上げると、そこには“空中に立つ女性”の姿があった。

 

 空間に干渉することを得意とする弓使い。

 大戦争中に王族の護衛などという任務を受けなければ、間違いなく二つ名を持っていた騎士。

 

 アンリーネ・ブレイブハートだ。

 

「まさかまだお二人のような方が現役でいらっしゃるとは……。王国はどれほど人から搾取を続けるのか……」

 

「搾取された覚えはないがな。()()()()()()

「貴方の方こそ、手段を履き違えているのではないですか?」

 

 力を持ちながらも、それを利用されている哀れな強者には何も語る言葉はない。

 

「……お二人は貴族。残念ですが、我が敵……。新たなる世界のために沈んでいただきます」

 

 アンリーネに向かって雷撃が放たれる。

 

 それを体勢を変えぬまま空中をスライドするように避けたアンリーネは、螺旋槍と呼ばれる彼女独特の矢を放った。

 

 それは物理法則を無視した軌道でクルモンドを狙う。

 

 クルモンドは人間の速度を超えた状態で、それを避けていく。

 避けてもその矢はまた軌道を変えて、クルモンドを追い掛け続ける。

 

 そして、クルモンドの逃げる先にはゴーレムナイトが生成されていた。

 

「く……ッ!?」

 

 振り下ろされた大きな土の騎士の大剣を避けて、突破したさらに先にあるのはグスタフの魔法陣だった。

 いくつもの術式が大地に道となって設置されている。

 

 おそらくは増幅術式。

 あの上に立てば無限に増殖するアンリーネの螺旋槍の大雨を受けることになる。

 

「カアァ……ッ!!」

 

 クルモンドが選択したのは強行突破だった。

 

 全身から雷を放ちながら、全力でそこを駆け抜けた。

 地形を変える速度で駆け抜け、魔法陣も破壊していく。

 

「フンッ!!」

 

 そして後ろを振り返り、追い掛けてくる螺旋槍を雷撃で撃ち落とした。

 

「!!」

 

 防ぎきり息をつこうと思ったその瞬間、間髪入れずに彼の立つ場所にグスタフの大鎚が叩き込まれる。

 

 クルモンドは避けたが、いた場所にはクレーターができた。

 

「……やはり、一筋縄でいかぬか」

 

「我が意思を止められると思うな!! 愚者どもッ!!」

 

 学園の教師陣もやがて反王軍の騎士たちと接敵する。

 

 できればクルモンドをここで片付けておきたかったグスタフは、険しい表情になった。

 

 思想に支配されながらも、クルモンドは精鋭騎士に匹敵する大戦争の生き残りだ。

 

「ハアァァァアッ!!」

 

 再び青白い閃光が周囲に広がっていく。

 この目眩ましも兼ねたクルモンドの攻撃が非常に厄介だった。

 

 そして、気が付けばグスタフはクルモンドに回り込まれている。

 

 大鎚で受け止め、ゴーレムナイトで追撃し、アンリーネの矢がそれを狙うが、捉えきれない。

 

「悪たる上位者は、いらぬのだッ!! 我が雷撃を受け入れよ!!」

 

「……埒が明かぬ。アンリーネは他の支援へ回れ」

「畏まりました。無理はなさいませんように」

「クハハハッ……! 今更の話だな!」

 

 雷鳴と打撃の音が響き渡る。

 閃光が空気を焼き、大地が揺れる。

 

 昨日行われた闘技大会など遊戯だと思える程の激戦が繰り広げられる。

 

 お互いに受け仕損じれば即死の戦い。そして、勝ってもまだ次が待っている。

 

 永遠の極限。永久の疲労。

 

 ──それが続くのが戦場である。これを楽しむなど、どうかしているのだ。

 

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