昼間に海で遊ぶのはとても無理があるという事で、玉藻さんと2人で夜の海へと向かう。
装いだけでも楽しもうと、お揃いのシャツとショートパンツで町明かりで薄く照らされた砂浜を歩く。
後ろを見るとサンダルの足跡の横に、大きなケモノの足跡が続いているのが何とも愛らしい
。
「夜の海って独特の怖さがあるよね」
「先も見えず、動きも限られる。根源的な恐怖というヤツだな」
言葉を少なく、当ても無く歩みを進める。
「しかしまぁ……我のせいでこうも寂し気な夏のバケーションにしてしまって申し訳ないな」
「大丈夫。これでも結構楽しんでるよ。それに玉藻さんの変化が安定しないの私のせいでも有るし」
「気を使わせるな」
玉藻さんは一つため息をついた。
実際、私としてはこうして夏の空気感を2人で味わっているだけでも結構テンションが上がっているのだが、静かで寂し気というのは否定しにくい。
「ちょっと座ろっか」
冷たい砂浜の上に、並んで座り海を眺める。暗闇の中で波が海を揺らしている。
波の音と広がる暗闇。他に感じるのは私の手に置かれた玉藻さんの温かさだけ。
こうしていると、世界の中で私達だけが残された様に感じて嬉しくなる。
「しかしだ、せめて水着位は着て来るべきだったか?このシンプルなペアルックも捨てがたいが、やはり夏と言えば水着ではないか?」
「うーん……流石に水着で夜の砂浜を歩くのは、ちょっと人目が怖いかな。注意されるだろうし」
「ダメか」
玉藻さんは砂を掴んで海に向かって投げた。音も無く、海の中に消えて行く。
「そもそも、我は水着など一着も持ってないからせんのない事だが……立香はどういった水着が好きだ?参考として聞いておきたい」
「え?…………玉藻さんにはどんな水着でも似合うと思うよ」
「そういった誤魔化しでは無く、ハッキリ言うがよい!恥を隠す様な間柄でもあるまいに」
ツンツンとわき腹と突かれる。
「そんな事、急に聞かれてもさあ……赤いビキニ……かな?玉藻さんっていうとやっぱり赤色が似合うなって思うし」
「ふむふむ。赤のビキニか。若干の被りを感じるが、そう悪い案ではないな。ご主人が喜ぶのなら着てみたいぞ」
「…………ちょっと気持ち悪いこと言って良い?」
「ご主人の言葉を聞かぬという選択は我に無い。申してみよ」
「スク水ってどう思う?」
「聞かなかった事にしよう」
沈黙が続く中、私は立ち上がって体についた砂を払った。
それに続いて、玉藻さんも立ち上がる。
「来年は水着で来たいね」
「うむ」
少し気まずい空気の中、私達は砂浜を後にした。
勝手に可能性を見出したのは確かにこっちなんだけどさ!
今年は結構ガックリきた!