我が家の玉藻(キャット)さん   作:歌川

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玉藻(キャット)のわくわくオフ会

 地面に足を下ろすと、膝が震えて力が入らず、その場に四つん這いになる。

「こ……怖すぎる……」

山を下りるまでの道行は、私の思っていた中で恐れていた方のルートが選ばれた。

玉藻さんは私を背負うと、凄まじい跳躍をした。そして木々の頭を跳ねて進み、文字通りにあっと言う間もない位の速さで山を下ったのだ。

感じた事のない強さの風圧と暴力的な速さ。私が死ぬ様な事はしないという彼女への信頼感を以てしても、恐怖が勝った。

「すまない、少し急ぎ過ぎたようだな」

「そうだね……あんまりスピードを出すのは遠慮してほしいかな」

玉藻さんは耳を垂らして、反省する様子を見せた。

「しばらく休むか?」

「大丈夫だよ。車で座っていれば落ち着くだろうし。だから、手を貸してね」

私は手を借りて立ち上がり、助手席に座った。座席に背をつけただけでも今は凄く安心を感じる。

一息ついて横を見ると、玉藻さんはいつの間にか、人の姿に化けて服も着替えていた。

「今まで玉藻さんって凄く着替えが早いと思ってたんだけど、もしかして化けてるの?」

「ん?ああ、服の事か。変化で服を着替えることはできるが……なんだか、とらぶるな危険性が有るから服はちゃんと来ているぞ」

「よく着てる赤い和服?みたいな服はなんなの?」

「あれは一応……巫女の装束であると思う。タマモナインの正装だな。着替えとは別で、魔法少女の変身した姿の様な物と思うが良い」

「そうなんだ……」

 玉藻さんが席に座り、車が走り始める。

流れて行く山を眺めていると、疑問が頭に浮かんだ。

「そういえば、あんな派手な現象が起きてるのに、誰にも気づかれないのって不思議だね」

「ああいう所には大体何かが潜んでいると言ったな?今の世に生きてるそういう者は物好きか、訳有って地上に残っているか……

どの道、空からは見れない様に隠す事など朝飯前のヤツ等なのだな」

「それって花咲かじいさん?」

「翁はお節介に冥界から来ていただけであろうと思うが……キャットにも図れぬな」

「そうなんだ。なんか、ちょっと気になるかも」

「間違ってもそういう話のある所には近づいてはならぬからな!猫の手も、届かぬ所にいては意味が無いのでな」

 

 家に帰って来たのは、すっかりと日が昇った頃だった。

疲労感はしっかりと感じているが、山での出来事の興奮も手伝って車の中で眠ることはなかったが、シャワーを浴びると目蓋に重みを感じ始めた。

リビングに行くと冷えた麦茶が用意されていたのでありがたくいただく。暖まった体に染み入るようだ。

 椅子に座り、昨晩の景色を思い出す。

夢のような景色。この世ならざる現象。良い思い出であるはずなのに、少しづつ不安定になっていく現実に不安も感じている。

だけど、そうで有るのに頭の中には彼女の顔が浮かんでくる。目を閉じると、常世の桜を目で追う彼女の顔が。

 

「寝るのならば部屋でしっかりと寝るのだぞ。椅子で寝ても疲れは癒えぬ」

目を開くと、玉藻さんは何やらカジュアルな服に着替えて立っていた。

「あれ?これから出かけるの?」

「うむ。相手方が時間が取れるのが、今日を逃すとしばらくは無いというのでな。忙しないがこれからお出かけである」

「でも大丈夫?」

「心配ご無用。キャットは体の丈夫さが売りなので多少の無理なら無問題!健康優良狐巫女だワン!!

あっ。でも今日は帰りがちょっと遅くなるかもしれないから、たまにはご主人さまの愛のこもったご飯なんかを用意してくれるとキャットの毛のツヤがアップ!するかもしれないぞ!」

「うん。分かった。何か用意しておくね」

アクビ混じりに手を振ると、玉藻さんも手を振って出かけていった。

私の手料理か……最近はすっかり作っていないだけに、不安だけども、大事なのは気持ちか……

しかし何を作ろうか?ダメだ、思考をしようにも今はとても眠い。

後の事は後で考えればいいか。霞んで目を擦りながら、ベッドへと向かって行った。

 

 

 

 

──────

 

 

 駅を出ると、見知った顔がこちらを向く。折田は我の顔を確認すると、近くにやってきた。

「こんにちは。久しぶりだけど元気にやってるかしら?」

「おうさ!ご主人も元気だし、我もこの通りだ!」

「そう。それなら良いわ。それでわざわざ呼び出して何の用があるのかしら?」

「少しばかり気になる事があってな。一人で確認するのも危険と思ってお主を呼んだ訳なのだが……」

携帯端末を取り出し、以前取った写真を折田に見せる。

「えーっと……これは?」

「うっかり見えてしまった立香のスマホの画面なのだが……この通知に有る『教授』という名前が気にならないか?」

「……どんな間柄でもプライバシーは尊重するのをオススメするわ。まあ、確かに教授ね……気にしすぎじゃないかしら?」

「キャットもそうは思ったが、気になるエピソードがあってな。立香の進学先については知っているだろう?」

「T大学でしょ?彼女、カルデアで習得した技術やらは身に付いてるみたいだし、別に不思議な事はないと思うけど」

「別にそこには疑問はない。我が主が自身の歩む道にある障害を乗り越えられぬ訳が無いのだからな。

そうではなく。受験もせず、その教授の出す課題に答えるだけで進学出来たというのだ。あまりにも怪しいではないか。

立香が言うにはネットで出会った読書友達らしいが、その様な権力を持つ者と都合良く友人となるなどと……」

「それは確かに怪しいはね。だからそいつに会いに行く訳?よく連絡出来たわね」

「お行儀は良くないが、立香のスマホからちょちょいとな……すると是非とも会いに来て欲しいと来たものだ。

とはいえ流石のキャットも用心堅固。一人で行く気にはならなかったという訳だな」

「なるほどね。まあ2人なら負ける事もそうないわね……それでこれからどこに行くのかしら?」

「教授の自宅だ!」

 

 バスに揺られて目的地へと向かう。

「そういえばアンタってさ、カルデアにいた時と雰囲気変わったわね。凄く話しやすいというか、ちゃんと意思疎通ができて驚いたわ」

「狂化がバーサーカーというサーヴァントとしてのクラスによる物だったからな。今を生きている妖狐としてもタマモキャットには無いのが自然であろう」

「それはそうね。今を生きてるっていうのに昔の枠組みに囚われ続け必要なんてないんだし」

「しかし、ただ生きいるだけでは世を乱すのがタマモナインの宿命……そんな訳でちょっとだけ狂化を施してのが今のワタシである!」

「アンタそんな事してるの?!」

「危険な事は承知である。しかしそれをしなければ、巨悪を裏から操る美人秘書みたいな事をしていても不思議ではないぞ」

「あんまりそんな姿は想像できないわね。アンタはなんて言うか……人の為に何かするのが楽しいって感じじゃない?」

「その評価には感謝しよう。しかし、主なき我はどんな暴走をするのか分かっている。

世話焼きも度を過ぎれば毒となる。カルデアでもよく見た末路であろう?そうした世を乱す輩にはなりなくなかった……

……と言っても立香と出会えた事を考えると杞憂で有ったのだが」

「え?ああ、はいはい。急に惚気話になるの止めてくれない?」

「身を捧げて奉仕する者がいれば、それを星とするのがキャットの生き様よ……

もう一つ問題があるのだが……狂化を解除できないようにしっかりとプロテクトを掛けたせいで、もう死ぬまで解けないのだ!

こうして、もう必要の無い狂化のせいで、抑えの効かない時がある。テンションのおかしいキャットが残されたのだ!」

「完全に自業自得じゃない……」

「うむ。過ぎたことは横に置いておくとして、折田には何か悩みはないのか?燃え盛る怒りで何かを焼きたくなるとか」

「復讐者としてのしがらみに何か悩んだ覚えは特に無いわね。今でも教会を見ると、怒りを覚えるけど……

そうね。強いて言えば、私が神に祈ることはない。それ位かしら」

 

 お互いについての知見を深めている間に目当ての場所に着いたのでバスを降りて歩いた。

「教授とやらは、結構良い場所に住んでるのね」

指定された住所には、大きな洋風の家。いやこれはむしろ洋館と言った方が正しいのかもしれない。

レンガ造りの門をくぐると、緑の溢れる庭園が広がっていた。

「そうだな。庭も広く、管理も行き届いている……暴れて乱すには勿体ない場所ではあるな」

「一応聞いておくけど、暴力は最終手段よね?」

「最終手段。それは話し合いでは解決できない時のプランBであるか」

「立香の事が心配なのは分かるけど、落ち着きなさい。ろくでもない奴の可能性は高いけど……話くらいは聞かないと」

玄関扉に近づくと、身なりの整った女性が現れて頭を下げた。その人と簡単に挨拶を済ませると、どうやら使用人という事だった。

客間へと案内され、教授は用事が終わったら来ると言うので柔らかそうなソファに腰を下ろした。

「拍子抜けって言うか……結界も仕掛けも何も無いわね」

「あの使用人も怪しい素振りもなく恐らくただに一般人であろう。これは本当に話がしたいだけなのやもしれぬ」

部屋を見渡す。客間という事もあり、飾り棚に机と3人掛けソファと主人用の1人掛けのソファだけとシンプルにまとまっている。

出来れば菓子盆の一つとお茶の用意もほしい所だが部屋の雰囲気には合わぬか……

 折田の方に視線を向ける。警戒をしているのか、座らずに窓際で外を眺めている。

「遅いわね……」

そう愚痴をこぼれると、廊下の方からカートを転がす音が聞こえて来た。

「悪いね。紅茶のブレンドに悩んでいたら遅くなってしまった」

その言葉と共に扉を開き、その姿が目に映る。服装こそは現代に馴染んだ落ち着いた物だが、その顔には確かに見覚えがあった。

「「モリアーティ!」」

「そう警戒しないでくれ。今の僕はただの学生だ」

 

 とりあえず私はテーブルのセッティングを手伝った。

人数分の紅茶とイチゴのケーキが机の上に並ぶ。正直に言えばとても意外だ。人をもてなすタイプだとは思っていなかった。

「とりあえず紅茶でも飲んで一息いれてくれ」

勧められるままに紅茶を飲む。良い香りだ。そこからケーキを一口いただく。

あの紅茶は少しばかり渋いと感じたが、たっぷり乗った生クリームを口に入れるとその理由がハッキリと分かった。

「美味いな。丁寧なもてないし感謝する」

「厨房に立つ君から賛辞の言葉を言われるとはね。ここは素直に受け取っておくよ」

口角を少し上げながら、彼も紅茶を飲む。

その様子を見て、警戒の必要は無いと感じたのか、折田はようやくワタシの隣に座った。

「あら、美味しいわね。このケーキ」

そして和やかなお茶の時間はすぎていった。

 

 テーブルの上は片づけられ、食器類をカートに戻すと、先ほどの使用人がそれを運んで片づける。

「それじゃあ場の空気が落ち着いた所で、話に入ろうか」

「その前に一つ聞きたいのだが、お主の今生においての名を聞かせてもらおう」

「ああ……クソ!……ジェームズ・モリアーティ……ジェームズ・モリアーティだよ!

何考えたら息子にこんな名前付けるんだ?!頭のイかれたシャーロキアン共め!!」

折田は吹き出しそうになりながら、口を手で押さえる。

あの様子を見れば案ずるまでも無く、どういう家で育ったのか理解できた。

「……ジェームズでいい。苗字の方で呼ばれるのは苦手なんだ。それで話を戻すが、君たちの状況について話が聞きたい」

ワタシ達は簡単に自分達の状況について語った。ジェームズの方も大体同じような物だった。

「しかしまあ、タマモキャット……君は……ずるくないか?いや、なんか良い友人ポジションに収まってるジャンヌもだけどね!

人が陰ながら元マスターを支えていたというのに大胆に傍にいるなんて!僕だって日本に生まれてたらそうしてたぞ!」

なんとなくそうだとは思っていたが、寂しかったのか。ジェームズよ……。

気持ちは分かる。やいのやいのと騒いでいるが、落ち着くまでしばらく待った。

話としては、あまり好きになれなかった両親からどう離れるか苦心した話と、

日本に来て如何にして金を稼いだかの知能自慢だった。そこは流石と言った所である。

「別に誰に止められてる訳でもないんだし、表立って会いに行けばいいじゃない?

あの子が友人にする人を選ぶタイプじゃないのは知ってるでしょ」

「残念ながら論外だ!僕は僕が悪人だというのを理解している!マスターの事を考えれば今の距離感が丁度いい」

「面倒なヤツだな……その割には大学進学に結構後押しをしていたようだが、どのようなお気持ちで?」

「ああ、その件か。受験なんて面倒な行為はやる必要が無いならやらないに限るからね。

その資格の証明をして、後はちょっとしたコネを使っただけさ。そこから生まれた彼女の余暇を十分に味わったのは君だろう?タマモキャット」

「ああ。お主のその心遣いには感謝の気持ちしか湧いてこないな!タマモキャットの肉球スタンプを送ろう!」

ワタシは取り出したスタンプカードにスタンプを押してジェームズに渡す。

「なんだい?これは」

「キャットの運営する家政婦の派遣会社(従業員一名)のスタンプカードである!スタンプが貯まると一回分無料の特別サービスだ!」

「お礼にしてはささやかにすぎるね!」

 

 文句を言いながらも、ジェームズはスタンプカードを懐にしまった。

「そういえばアンタさ、私達の事を見て特に驚く様子もなかったけど、どこかで見張ってたり?」

「ああ、別に隠す様な事でもないから言うけど、読書家のネットコミュニティで偶然出会ったのが立香との再会さ。

そしてチャットでの雑談の中から拾った情報をまとめて、何となく頭に浮かぶのは誰かと考えれば難しい考えじゃないだろう?」

「女の子との会話の分析っていうと少し気持ち悪いけど、そこは置いておきましょう。

あの子ってばネットでも壁が薄くて心配になるわね……それとは別に、どうやってネット上であった人を立香と断定したのかしらね?」

「……現代の悪事とハッキングは、どうしても切り離せないと言う所から理解してもらいたいのだが……」

「足の骨と腕の骨。どちらが大事が選ばせてやろう」

「一回だけだ!個人情報の照合の為に一回だけしかやってない!」

「どうする?折るなら私が押さえておくけど?」

「んーー………まぁ不埒な行いについては、我の現状においての感謝がギリギリ勝るので今回は見逃すととしよう。

良かったな!」

 怒りが無い訳ではないが、目の前の額の汗を拭う男がいなければキャットが立香と出会っていたのかも分からないのだ。

そうと思えばこれ位は許してやるべきだろう。いや、やはり猫パンチ(強)はしておくべきだったか。

 

「ところで、君達は自分が何者なのか。という事について考えた事はないかい?」

「それは人はパンのみに生きるにあらず。という話か?」

「そういう話では無くて。何故、人間と人理の影を混ぜ合わせた存在として生きているかだ」

「ああ、そういう話ね。考えるても答えが出る訳でもないし、最近は特に気にして無いわ」

「我も同じである。パンのみに生きるにあらず。しかして言葉のみでも生きては行けぬ……切りがない問題に頭を悩まさせているばかりではいられないのである」

「僕もそこは同じだ。だけでも、ここにいる君たちがどんな存在だったのかを考えると、仮説が一つだけ思いついた。

どこかの探偵に言わせれば『まだ語るべき時ではない』という程度の思い付きさ」

「ふむ。とりあえず聞いてみようではないか」

「僕らはこの人類史においての部外者なのさ。

異なる世界の分け御霊。存在しない憎しみの側面。世界に名を刻むには拙い者。

本来ならサーヴァントとして召喚されるはずのない存在ばかりじゃないか。

そして……ここからはかなり突拍子の無い話になるんだが……世界が再構成された時に余剰が発生してしまったんじゃないか?

元を正そうにも、正す為の元がない存在が」

「その辻褄合わせが私達?」

「確かめ様のない話だ。検証も何も無い思いつきだしね。まあ、結局どうあれ、何も変わらないさ。

今を生きてるなら、生きて行くしかないんだから」

 

 話の場も落ち着いたという事で、解散する流れになった。

少し庭を見て回りたいと提案すると、折田は「早く帰りたい」と先に帰ってしまった。

荘厳という程ではないけれど、花に彩られた庭園は美しい光景だった。

満足して帰ろうとすると、ベンチに座ったジェームズが目に入った。

「お邪魔したな。良い庭だったぞ。それでは我も帰るぞ」

「ああ、今日はありがとう。わざわざ来てくれて」

どことなく、ジェームズは元気が無い様に見える。

「何か悩みでもあるのか?今ならケーキの分のお礼として一つ位なら聞いても良いぞ」

「悩みか……君たちを見て、改めて僕はどう生きるべきかと悩んでいるんだ。

漫画家に家政婦。しがらみ無く道を選んだ君たちに対して僕はどうだ!過去をなぞってまた悪の道を行こうとしている」

「ふむ。その様に話を取られると少し恥ずかしいな。我もそうだが、折田も趣味が高じてその道に行っただけだかぞ」

「それでも僕からすれば立派に思うよ。このまま行けば、あのいけ好かない老人になると思うと反吐がでる!」

「あのダンディスタイルも悪くないと思うが……それが嫌ならば善人として生きれば良いのではないか」

「僕が善人として?」

「うむ。一度真逆の道を歩いてみるのも損ではあるまい。それが気に入らないのなら、また戻れば別の道も見えてくるかもしれぬ」

「……いや、結構有りなのかもな。あの腹が立つ親の期待も裏切れるし。それに……

いっその事、探偵になるのも有りかもな」

 

 電車の中。面白い考察を聞いたなと思いながら思考する。

ジェームズの考えが当たっているのなら、ハンドカワイイ同盟のパッションリップとも会えるだろうか?

いや、サクラファイブから考えると五つ子でないとそれが無理か……

最低限、依り代になる存在がなければ消えて行くだけなのか?

エリザベート・バートリー。いや、エリちゃんズについて考えるのは止めよう。最悪、姫路城にいるという恐ろしい事態が起きていたら手に負える話ではない。

あの問題を起こしそうな集団がいるのならば、とっくに何か問題が起きているだろう。

つまり、エリちゃんズはいないはずである。多分。

 

 アレコレと想像という名の妄想をしている内に、我が家に着く。日も傾き、そろそろ夕ご飯の時間である。

家の中に入るとケチャップを炒める匂いが鼻をくすぐる。立香が何かを作ってくれているようだ。

耳と尻尾が嬉しそうに跳ねる。喜びの感情表現の為に容易に変化が解けるのは、如何ともし難い。

「今帰ったぞ!ご主人!」

「おかえりー」

台所に向かうと、立香はチキンライスを炒めていた。傍らのボウルには溶いたタマゴが入っている。

「丁度言いタイミングだよ。もうすぐ出来るから待っててね」

「何か手伝う事はないか?」

「大丈夫。今日は私が全部やるから待っててよ」

そうと言われたら、大人しく待つのが台所に立つ者の決まりである。

なので自室に戻り、軽装に着替える。尻尾周りが楽な服は外では着にくい露出度なのが問題だ。

立香にも目のやり場に困ると言われるが、こっちとしては誘惑しているつもりなのでそこは気にしない。

 部屋から戻ると、テーブルの上には料理が並んでいた。オムライスとスープ皿に盛られたオレンジ色のスープだ。

我を誘うその匂いに引かれるままに席につく。

「これは……」

「人参のポタージュだよ。好きでしょ?人参」

「うむ。それはそうだが……言ったことはあったか?」

「言われなくても分かるよ。だって人参が入る料理の時だけ、盛り付けに露骨な差があるし」

抑えていたつもりだったが気づかれていたか……顔が熱い。

「結構上手くできたつもりだからさ。味わって食べてよ」

「ああ。とても楽しみだ」

思わず喉がなる。

ガッいてはダメだ。気を落ち着かせて、手を合わせる。彼女の用意してくれた料理に感謝を込めて。

「いただきます」「いただきます」





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