我が家の玉藻(キャット)さん   作:歌川

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玉藻(キャット)さんと夜の逢瀬

 目を覚ますと、丁度お昼を回った時間だった。

夕方まで起きれなかったらどうしようかと心配だったので安心した。この時間なら、買い物に行く時間も十分ある。

じゃあ、何を作ろうか?と考えていると、しばらくの間料理をしていないので上手く作れるのかという不安が湧いてくる。

しかし、買ってきた総菜を並べたら、玉藻さんは表に出さずともガッカリするだろう。あの人はそういう人だ。

それに私だって少しは出来るんだぞ!という所を見せたい。天井を見つめながら頭を働かせる。

「オムライス……」

何となく、口から出たその料理に思いを寄せる。最近食べてないし、丁度良いのかも。

後一皿、何かが欲しいかな。スープ……トマトかコンソメか……

定番な選択肢を上げていく中で、そもそも誰の為に作るのかと考える。玉藻さんの為だ。

あの人が好きな物。何が良いか少し考えると、日々感じる違和感がその答えを簡単に照らし出す。ニンジンである。

盛り付けもキッチリと整えているのに、ニンジンが含まれた料理は絶対に盛り付けに差が出ている。

それなら作る料理も見えてくる。私はベッドから飛び起きて、買い物へと向かった。

 

 

 食後。玉藻さんはご機嫌な様子で、テーブルの上の食器を片付けてシンクへと持っていく。

「片付けも私がやるよ」

「本来、台所はキャットの戦場である。全てを主に任せるなど、あってはならぬ!我の為と思うならば場を譲るのだ!」

力強く言われてしまうと、手も出し辛く。大人しく、食後のお茶の用意をして待つ事にした。

 テレビを何となく見ていると、桜の開花情報が流れて来る。

見頃だと紹介されたその満開の桜の木々を見て、私の中には昨夜の景色が蘇る。触れれば、消えてしまう儚い存在だったが、その存在は強く心に刻まれた気がする。

「濃いお茶を望むのならそれで良いが、ただ忘れているだけならば、もう入れても良いな」

そう言って玉藻さんは急須を取り、湯飲みにお茶を入れた。

「ごめんね。ちょっと昨日の事、思い出してた」

「良い思い出になっているのなら良いが。その……衝撃の強い光景を見せたと少しばかりの反省もあるのでな」

「まあ、そこはちょっとね。怖くはあったけど、それ以上に綺麗だったって思えるから」

お茶を一口飲んで、話を変える。

「そういえば、玉藻さん。今日は誰に会いに行ってたの?」

「古い友人と連絡が取れたので。まあ、お互いに元気にやってると、確認した程度の話だ」

「ふーん。……それって今生の友人?」

「……ふふふ。おかしな事を言うご主人だ。まるでキャットが100万回生きたが如くに輪廻を回っている様に言うではないか」

「別にそこは今更隠す様なことじゃないでしょ。それに玉藻さん、昨日幼い頃は育ての親と二人っきりだったって言ってたから。

もしかして何かやましい事があるの?」

「誓ってそれは無い!……あまり言いたくはないが……まあ、そうだな。前世の戦友達と少しな」

「なんだ。それ位なら玉藻さんなら全然ある話じゃないかな?今更、私に隠す様な話でもないと思うよ」

「まあ前世に当たる時の話は繊細な問題のある話なのでな。気を使ってしまうのだ」

「大丈夫。色々言えない事はあるって分かってるよ」

「隠し事ばかりですまないな……詫び。という訳では無いがこれでどうか一つ」

玉藻さんは冷蔵庫から箱を持ち出して、それを開く。イチゴのショートケーキだ。

「友人からご馳走された物が中々に美味くてな。立香にも味わって貰いたく思い、買ってきたのだ」

「おー。わざわざありがとう」

フォークとケーキが乗ったお皿を受け取り、私はそれを食べた。

「本当だ。凄く美味しい」

パクパクとそれを食べ進め、一息いれてお茶を飲んでから気づく。

「あれ。玉藻さんの分は?」

「ああ、我はもう食べたからな。ご主人が美味しそうに食べる姿を見れればそれで良い」

うーん。そうは言われても、このままでは心地が悪い。

「じゃあ一口だけどう?私だけ食べるのも気が引けちゃう」

「むぅ。それならば一口だけ」

玉藻さんはそういうと、私の横に座り「あ」と口を開いた。

今までしっかりと見た事が無かったが、人間よりも鋭い犬歯が有るのが見えた。キスする時に気を付けないとかな?

なんて事を思っている間も玉藻さんはそのまま動かない。あっ。これ、私が食べさせないといけないのか。

フォークで一口分を切り分けて、それを口の中に運んだ。

「ん」と口を閉じてそれを食べた。玉藻さんが味わうのをジッと見つめる。なんだか妙な気持ちだ。

「やはり、愛する者の手から食べさせてもらうと甘美なる味わいになるな!……どうした?」

恥ずかしさを感じて、なんとなく目線を逸らしてしまった。

「なんか……なんかさ。キスしたくなった」

 くぐもった声が部屋に響いた後、少しばかりの静寂の後に口を開く。

「やっぱり……甘いね」

「ああ。文字通りの甘いキスだな……しかし、立香は欲張りだな」

意地悪そうに玉藻さんは笑った。

「別に食べさせたのが惜しい訳じゃないから!」

 

 なかなか冷めない体の火照りを覚ます為に、冷たいシャワーを浴びる。やがて、熱は冷めてハッキリと鏡に映った自分の姿が見えた。

シャワーを止めて、ゆっくりと思考を巡らせる。

私は玉藻さんの何が好きなんだろう。言ってしまえば、容姿になってしまうと思う。一目惚れだ。

そこから会う度に、彼女に惹かれて行った。愉快な所。弱い所。知る度に好きになって行った。

譲りたく無いと思っていた気持ちも、結局飲み込んで、恋仲になった。

 いい加減、体を許す関係になっても良いんじゃないかと思いながらも、人に体を委ねるのが怖くて前に進めないのが素直な気持ちだ。

衝動的な部分の強い玉藻さんが、そこについてはずっと我慢してくれているのは、愛を感じつつも申し訳なく思う。

鏡に映る自身の体を見つめて、思い浮かべる。

あの指が、あの爪が私の体に這う光景を。

 

 自室に戻ると、当然の様に玉藻さんが待ち構えていた。明日の準備を整える間、尻尾に櫛を掛けて整えている。

「それ、私が手伝っても平気?」

「ん?ああ、一人でやるとどうしても届きにくいのでな。尻尾の根本の辺りをお願いしたい」

私に櫛を渡すと、玉藻さんは背中を向けて座り直す。

私はその横に、座った。すると、尻尾よりも先に、首筋に目が行った。

お風呂上り故にわずかに赤みが差す。邪な想像をしたばかりなせいだろう。それが目に付いて離れない。

思わず鳴りそうになった喉を抑え、尻尾に櫛を通す。柔らかく、滑らかなソレは何も抵抗が無いように流れていく。

「なんか尻尾の毛の手触りって不思議だね。手足の毛より……なんて言うのかな。透明感がある?」

「鋭いな。尻尾は霊的な部分でも有るからな。作りが違うのだ。そもそも手足の様なケモノで無く、耳と尻尾はキツネだから別物なのだな」

「前から思ってたけど、その手足は猫なの?」

「猫と言えば猫である。犬と言えば犬かもしれぬ。まあキツネではないな」

床に置かれた玉藻さんの手を握る。比べてみると尻尾の方がふわふわしているかも。

「まあ、可愛いければ私は何でもいいかな」

 

 部屋の電気を消して、布団に入ると玉藻さんは私の片腕に抱きついてきた。

「ところで……毛づくろいをしてもらう前、なんだか怪しい気配を感じたのだが……

ワタシとしては、立香が良いのであれば多少強引でも良いぞ」

「……まだ……待っててほしいかな。まだ、ちょっと怖い」

「そうか。……立香の気持ちの折り合いがつくまで、ワタシはいくらでも待てるから心配するな。

まあ、来世までというのは流石に待てぬが」

「そんなに待たせるつもりは無いよ」

布団の中でポツリポツリと話していると、やがて玉藻さんは静かに寝息を立て始めた。

昨日からずっと起きていたんだ。そう考えると元気に起きていたは流石と言うべきか。

こうして今日も、物理的な愛の重みを片腕に感じながら眠りについた。





FGOが一応終わったから書き始めたのに、思った以上に終わりそうに無くて震える。
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