正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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出会い/エヴァ編
001


「っ!ここはどこだ?」

 

士郎は今まで確か土蔵にいたはずなのにと思い、周囲を警戒しながらも周りの状況と自分の体の状態を素早く確かめた。

 

林の中?

放浪から帰ってきたときの荷物も一緒にある……。

 

何かの幻術に嵌ったのか?

いや、体に残るこの魔力の残滓は……。

 

「魔力の暴走? そうだ、数年ぶりに冬木に帰ってきて、土蔵でゼルレッチの爺さんに見せてもらった宝石剣の投影を試していて……もしかして、どこかに飛ばされたのか?」

 

原因に思い当たった士郎は、とりあえず場所を移そうと立ち上がるが、体に残る魔力のせいで体がうまく動かない。

 

「数年ぶりの投影の失敗か。まだまだ未熟と言えばいいんだか、さすが宝石剣と言えばいいのか。あの爺さん、シロウなら投影も出来るだろうとか言ってたくせに」

 

はぁとため息をつきながら、士郎は赤い聖骸布のコートを靡かせ、警戒しつつ移動を始める。

 

「それにしても、ここはどこなんだ。アインツベルンの森か? もし外国とか言ったら、さすがに泣くぞ……」

 

「……ん?」

 

「氷結武装解除!!」

 

「っ! 投影開始!」

 

士郎は林の上の方から何か気配を感じた瞬間、液体の小瓶のようなものを投げられ、魔術の展開を感じ、反射的に干将莫耶を投影し、それを防ぐ。

 

しかし、魔力の暴走によって腕に力が入らず、陰剣・莫耶を吹き飛ばされてしまう。

 

「っち! まだ力が入らないか!」

 

「抵抗したのか……」

 

「誰だ?」

 

声が聞こえた方に視線を送ると、黒いマントに三角帽を被った小柄な少女が悠然と立っていた。

 

「迷い込んだか……いや、そんなはずはないか。私の魔法を抵抗するような武装だ」

 

「何を目的に来たかは知らんが、吐いてもらうぞ」

 

「え、いや俺は……」

 

「結界に気付かれずに侵入したことは褒めてやろう。だが、血を吸った後の私に出会うとはな。まあいい、これも仕事だ……ん」

 

少女は自分の台詞の途中から、目の前の男――衛宮士郎の雰囲気が変化していることに気付き、怪訝そうな表情を送る。

 

「血を吸った、だと……」

 

「ああ、そうだ。私は吸血鬼だ。そんなことは当たり前だろう」

 

「我が名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。闇の福音、不死の魔法使いと呼ばれた身」

 

士郎は「魔法使い」という言葉に一瞬ピクッと反応するものの、やることはひとつだとエヴァンジェリンに身構える。

 

まだ、魔力の暴走の余韻は残っているが……いけるか、いや行くんだ。

 

「同調開始」

 

士郎は魔力の暴走が残る体に鞭打ち、体を強化しエヴァへと向かっていく。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

エヴァは魔法の詠唱をしながらも低空で飛行し、士郎から距離をとる。

 

「氷の精霊七頭! 集い来たりて敵を裂け! 魔法の射手! 連弾! 氷の七矢!!」

 

「なっ! 五小節以上の大魔術!」

 

士郎は慌ててエヴァの魔法の軸線上から回避するものの、エヴァの氷の矢はなおも士郎を追撃し着弾、爆風が粉塵を撒き、一時的に視界を奪う。

 

五小節以上の魔術のはずなのに、威力が弱い?

 

瞬間的に干将莫耶を盾にして防ぎ、視界を閉ざされながらも士郎は不思議そうに考える。

 

何かの理由で魔力が制限されているのか?

だが、やることは同じだ。

 

「やったか?」

 

エヴァは粉塵の先を見ると、多少の傷は負ったものの、致命的なダメージを受けていない士郎の姿があった。

 

「こんなものじゃ効かないぞ、吸血鬼。配下の下僕を出したらどうだ」

 

「ふん、ずいぶんと余裕そうじゃないか。あわてて私の魔法を避けようとしたくせに」

 

「いや、予想外に威力が低かったからな」

 

エヴァと士郎はお互いを挑発しながらも、次の一手を探り合う。

 

この程度の魔術なら多少の無理は効くか。

攻撃方法は距離を開けての魔術のみか?

それとも何か奥の手があるのか?

 

魔法障壁の類が展開された様子もなかったのに、あの剣だけで氷の矢を受けてほぼ無傷だと?

魔法使いではないのか?

……しかし強敵であることに代わりはしない。

 

全力時ならまだしも、この状況では分が悪いか。

茶々丸が来るには、まだ時間がかかるな……。

 

「魔術を使えるのは驚くに値するが、俺の知ってる吸血鬼の魔術師とは雲泥の差だな。それだけ若い死徒なのか?」

 

「なんだと、最強の魔法使いを捕まえて……なにものだ、そいつは?」

 

時間稼ぎと知的好奇心のために、エヴァは士郎の話に乗ってくる。

 

「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。魔道元帥とか宝石のゼルレッチとか呼ばれている、死徒二十七祖のたしか第四位の人だ。知らないはずないだろう」

 

「……誰だ、そいつは?」

 

エヴァの本当に怪訝そうな表情を見て、士郎はまったくそんなことも知らないのかと呟いてエヴァに向き直る。

 

「お前は本当に田舎者か、生まれたばかりの死徒なのか。どちらにしろ井の中の蛙だな」

 

ふー、とやれやれとばかりにため息をつく士郎に、エヴァは激昂する。

 

「田舎者だと! ここ十五年はここに括りつけられてはいるが、私は元賞金六百万ドルの賞金首だ。そのゼルレッチとかいうやつの方が田舎者ではないのか!」

 

「それに、死徒死徒死徒と! 私はハイデイライトウォーカーたる吸血鬼の真祖だぞ!」

 

語りをするにはリスクが高すぎるその言葉に驚き、士郎はエヴァに向かって問い詰めるように口を開いた。

 

「なっ! 真祖だと!? まさかブリュンスタッド!?」

 

「ブリュンスタッド? 何だそれは? さっきからお前は何を言ってるか分からんぞ」

 

ブリュンスタッドも知らない真祖だと?

どういうことだ……まさか!

 

「ちょっ――」

 

士郎がある考察に気がついてエヴァを制止させようとしたその瞬間、何かが士郎とエヴァの間で爆発を起こし、緩んでいた二人の空気を一気に引き締めた。

 

「狙撃!」

 

「茶々丸か!」

 

狙撃と判断するや否や、士郎はエヴァから離れ、狙撃された方向から身を隠すように木に隠れた。

 

「ご無事ですか、マスター」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

茶々丸は自分の身長の倍もある銃身を持ってエヴァの側に降り立ち、士郎が隠れた方へ向けて照準を合わせる。

 

「それにしても、よくも私をコケにしてくれたな。百倍にして返してやるぞ! 茶々丸!」

 

「はい、マスター」

 

「ちょっと待て! 俺の話を!」

 

「いまさら命乞いか。だがもう遅い、問答無用だ!」

 

「……すいません」

 

茶々丸はぺこりと頭を下げて砲撃を始めると、士郎は茶々丸を支点に扇状に走って逃げる。

 

「逃げてばかりではつまらんぞ! 魔法の射手! 連弾! 氷の十一矢!」

 

「くっ、同調開始!」

 

士郎は干将莫耶で迫り来る十一の氷の矢を打ち砕きながらも、意識下の七本の黒鍵を空中に投影し、剣射撃を行う。

 

「っち! 氷盾!」

 

エヴァは自分に向かってくる黒鍵のみを魔法の盾で防ぐものの、その攻撃方法で魔法が使えることに気付き、ますます士郎の存在を不可思議に思う。

 

「マスター、ご無事で」

 

「ああ、大丈夫だ。それにしても、奴はどのぐらいの剣を持っているのだ。それになぜ魔法障壁も張らない……」

 

エヴァは不思議そうに思いながらも詠唱を始め、茶々丸は持っていた銃身を放り出し、士郎に向かって駆ける。

 

「……失礼します」

 

士郎は仕方がないかと思い直し、干将莫耶の峰を返し、茶々丸と打ち合う覚悟を決めた。

 

「自動人形か?」

 

「……いえ、ロボットです」

 

茶々丸のパンチを半歩後ろに下がって回避しようとしたところに、ボッという音がして有線のパンチが飛び、不意打ちとなった形で士郎が吹き飛ばされる。

 

「なっ! ロケットパンチ!」

 

「口を開いてる暇はないぞ! 氷爆!」

 

氷爆の直撃を受け、再び吹き飛ばされた先に茶々丸がバーニアを吹かし、高速で走り込み、上空へと蹴り上げた。

 

「これで終わりだ! 魔法の射手、連弾! 氷の十三矢!」

 

茶々丸の蹴りは干将莫耶で防いだものの、身動きが取れない士郎に十三の氷の矢が迫る。

 

そして直撃かと思われた瞬間―――

 

「火炎剣!」

 

士郎が投影した一本の剣により、戦局は一変した。

 

「一瞬で蒸発させただと!」

 

「マスター、蒸気で視界が……」

 

呆然とする茶々丸を吹き飛ばし――

 

「天の鎖」

 

投影された鎖によってエヴァが拘束され、その喉元に干将が突きつけられた。

 

そして、霧が晴れる。

 

「とりあえず、話していいか?」

 

「っく! なんだ、言ってみろ?」

 

もうここで年貢の納め時かと観念し、エヴァは全身の力を抜いた。

 

「これは確認なんだが、血を吸った者はどうなった?」

 

「は? 記憶を消して返したぞ」

 

「死者にはしてないのか?」

 

「殺すわけないだろう。少し魔力の補充をさせてもらっただけだ。それに私は色々あるが、一応ここの警備員だぞ」

 

「吸血鬼にはならないんだな?」

 

「私の呪いが解かれているならまだしも、こんな状態なら大事になることはない」

 

士郎はそうかと呟き、聞きたかった答えを聞けて安堵の息を吐いた。

 

「で、エヴァンジェリン?」

 

「……なんだ?」

 

「ブリュンスタッドって名前、知らないんだよな?」

 

「知らんぞ」

 

「ゼルレッチも死徒も知らないんだよな?」

 

「さっきから知らんと言っている」

 

「魔法使い、なんだよな?」

 

「散々戦っていて、いまさら何を言ってるんだ、貴様」

 

エヴァは完全に開き直ったように士郎の問いに不敵に答えるが、士郎はうんうん唸って考え込んでしまった。

 

――吸血鬼がブリュンスタッドも死徒も知らないなんて、本当に別な世界みたいだな。

血を吸っても死徒にも死者にもならないみたいだし……。

 

それにしても俺は第二魔法の体現者?

爺さんだったらまだしも、遠坂にばれたら本当に殺されるかも……。

 

「おい、何をぶつぶつ言ってる」

 

「あ、ごめん。えっと、投降したいんだけど」

 

そう言って士郎は鎖を消し、エヴァの戒めを解いた。

 

「はあ? 何言ってるんだ?」

 

「む……」

 

「なら、いったい何しにそんな武装でここに侵入したんだ。魔法使いだろ、貴様」

 

「いや、俺は魔術使いだ」

 

「? まあいい。それで侵入した理由は?」

 

「……理由というかなんというか、事故でここに飛ばされたんだけど」

 

「転移魔法の失敗か? で、どこから来たんだ?」

 

「転移魔法というか……うーん、一応魔法なのか。えっと……」

 

「ええい! はっきりしろ!」

 

「……俺、異世界から来たみたいだ」

 

「は?」

 

そのとき、世界が止まった。

 

「マスター、ご無事で?」

 

ふらふらしながらやってきた茶々丸が見たのは、固まったエヴァの姿であった。

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