正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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「士郎さ……いえ、先生ですか」

 

 士郎はカフェテラスで龍宮との会話の帰り、ふと背後から話しかけられて振り返った。

 

「夕映、か。別に先生って言わなくてもいいさ」

 

 苦笑いを浮かべる士郎に夕映は「そうですか」と、こくり頷いた。

 

「士郎さんは結局先生になったですね」

 

「まあ、先生っていうよりは本当にネギ君のサポートだから、純粋にそうは言えないかもしれないけどな」

 

「副担任にもなりましたですし、しっかり先生です」

 

 士郎と夕映は初めて会った時、士郎自身の就職のはずなのに、よく分かっていなかった事に二人して首を傾げた事を思い出してふふっと笑う。

 

「それにしても夕映は今、学校の帰りか?」

 

「いえ、図書館の帰りです」

 

「図書館ってあの図書館島のことか?」

 

「士郎さんはまだ行ったこと無いですか?」

 

「昨日の今日だしな。まだ麻帆良の中を把握しているわけではないし、実際に行った事のある場所なんてもっと限られるからさ」

 

 夕映は士郎の答えに頷いて「それもそうですね」と。

 

「案内してくれた日に言っていたな、図書館探検部ってさ。……そういえば近衛と宮崎、早乙女も図書館探検部だったか?」

 

「はい。のどか達も同じです」

 

 夕映は自分の言葉に頷いている士郎を見て、ふといい考えが浮かんだ。

 

「そうです。士郎さんも行ってみませんですか?」

 

「......俺も?」

 

「取って置きの場所に招待するですよ。さし当たっては土曜などどうです?」

 

 士郎は夕映の突然の申し出に一瞬思考がついていかなかったが、それも一瞬で土曜か、と考え始める。

 特にエヴァとも茶々丸ともこれといって約束ごとはしていなかったはず。

 せいぜい家で家事をしているか、茶々丸と一緒に猫の餌やりに行くぐらいか......?

 

「そういえば修学旅行が……」

 

「士郎さんどうしたですか?」

 

 ポツリともらした士郎の言葉が聞こえなかったのか、夕映は不思議そうに士郎の顔を覗き込んだ。

 

「いや、来週から京都へ修学旅行だろ。準備とか、疲労とか大丈夫か?」

 

「大丈夫です。準備はほぼ終わっているですし、日曜日に十分休めるです。士郎さんは準備大丈夫ですか?」

 

「ははは、まだ何も手を付けてないけど旅慣れているからな。数時間あれば問題ないさ」

 

「それではオーケーですね。のどか達にも聞いてみるですので、詳しい話は明日にでも話せると思うです!」

 

 やる気が満ちているのか、あさっての方向を向いてこぶしを強く握る夕映の頭を、士郎はぽんぽんと撫でて落ち着かせる。

 

「そうか、あまり無茶はするなよ」

 

「大丈夫ですよ。早速のどか達に聞いて来るです」

 

「気をつけて帰れよ」

 

「はいです。士郎さんも!」

 

 走り去っていく夕映の後ろ姿を見て「元気だな」とぽつりともらす。そして士郎も今日はいろいろあったなと思いながら帰路へとついた。

 

     

 

 

 夕食も終わり、エヴァ達はおのおの自由に過ごしていた。

 エヴァはベッドに寝そべりながら本を読み、士郎と茶々丸はその隣の茶の間で、茶々丸がお茶を入れ、士郎がそれを飲んでまったりと休んでいた。

 

 しばらくそのまったりとした空気が流れていたが、エヴァが何かを思い出したようで、読んでいた本を閉じて士郎へと向き直った。

 

「士郎、少し耳に挟んだのだが西がきな臭いらしいな。昨日のじじいの話もそれの関係か?」

 

 エヴァはベッドから降りて、茶々丸にお茶を催促しながら士郎の隣へと腰掛けた。

 

「ああ、ネギ君が関西呪術協会の長に親書を届けるのを、陰ながらサポートしてくれと。あと生徒達の、特に近衛には気を配れって」

 

 士郎の言葉にエヴァはふんと鼻を鳴らして、茶々丸からお茶を受け取った。

 エヴァにお茶を渡した茶々丸は、

 

「士郎さんもお茶のお代わりいかがですか」

 

 という言葉に、士郎は「頼む」と空になった湯飲みを渡した。

 

「ふん、士郎に親書を預けたほうが確実なのにな」

 

 ぼうっと茶々丸が入れるお茶を見ながら、エヴァがぽつりと漏らした。

 

「エヴァ、それは……」

 

「何、私も分かっているさ。素性の明らかでないものを使えない事ぐらいはな」

 

 

「それで西の妨害の確実性はどのくらいなんだ?」

 

 そのエヴァの言葉に士郎は、茶々丸からお茶を受け取りながらうーんと唸った。

 

「学園長は西と東はもともと仲が悪くて、もしかしたらあるかもしれないとは言ってたけどさ……具体的にはこれといって言っていなかったかな。近衛には桜咲が護衛に付いているとも言っていたし」

 

「近衛木乃香と桜咲刹那、か」

 

「何か知っているのか?」

 

 しみじみと呟くエヴァに、士郎は不思議そうに問いかける。

 

「ああ、近衛木乃香は詠春の娘だろ。それに桜咲刹那は神鳴流の使い手だ。ま、詠春が刹那を護衛につけさせたのだろう」

 

「関西呪術協会の長と知り合いなのか?」

 

「知り合いといえば知り合いだな。ヤツはNGO団体、悠久の風でナギがパーティーリーダーをしていた赤い翼のメンバーでな、その関係というやつさ。あとヤツ自身も神鳴流使い手でな…………ふむ」

 

 エヴァは説明の途中で何を思ったのか、顎に手を当ててなにやら考え始めてしまった。

 茶々丸はそんなエヴァを横目に、空になったエヴァと士郎の湯飲みにお茶を継ぎ足し、士郎は「ありがとう」と言って一口口に含んだ。

 

「……ん、そういえばチャチャゼロはどこへ行った?」

 

 エヴァは考えが纏ったのか、ふと気がついたように顔を上げて、今日は見ていないなと言いながら周囲を見回す。

 そんなエヴァに士郎も、そういえば一日中見なかったなと賛同した。

 

「あの、マスター?」

 

「知っているのか茶々丸?」

 

「あ、いえ。昨日の夜、マスターがぐるぐる巻きにして納戸に放り込んだのでは?」

 

 その茶々丸の台詞に、エヴァと士郎は一瞬沈黙し、あーあーと手を叩きながら「そういえば」と呟き、昨日の晩にしていたことを思い出した。

 

「もう二、三日放置していてもよかったんだがな。まあいい、茶々丸、ここにつれて来い」

 

「はい、マスター」

 

 茶々丸はペコリとお辞儀をして、チャチャゼロを回収するために一階へと降りていった。

 

「さて、チャチャゼロが来るまでに、西のやつらの事を教えてやろう」

 

 エヴァはメガネをかけながら、移動式の黒板を士郎の目の前へと引っ張ってきた。

 

「まずは簡単に、西洋魔術師と西の……呪符使いどもの違いを教えてやろう。他の人間と契約を交わし従者にするのが西洋魔術師、善鬼や護鬼とかいう式神どもを使役するのが呪符使いだ。坊やなんかは典型的な西洋魔術師だな。ま、従者や式神どもに守りを任せ、その間に呪文を詠唱し攻撃するのは変わらんがな」

 

 カツカツとチョークの音を響かせながら、エヴァは簡単な絵と重要事項を黒板に書いていく。

 

「お前にとって、呪符使いよりも厄介なのは神鳴流だろうな」

 

 エヴァは「神鳴流」と書き、ここが重要とばかりに二本のアンダーラインをカツカツと引いた。

神鳴流と首を傾げる士郎に、エヴァはふむと頷き説明を始める。

 

「簡単にはじじいから聞いているとは思うがな、一応話してやろう。

 やつらは気を操り、剣術、手裏剣術、徒手武術といった技術も使う退魔組織の戦闘集団だ。基本的に剣士だと思っておけば問題は無いが、手練れともなるとそこら辺を更地に変える事も難しくはない。

 ま、攻撃魔法レベルの攻撃をバンバン放つやつらとでも覚えておけ」

 

 攻撃魔法レベルの攻撃というところで、士郎はふむと頷く。

 

「退魔組織の一族だったか?」

 

「一族とも言えなくも無いが、必ずしも血は繋がってはいないぞ」

 

 そのエヴァの言葉に、再び士郎は考え込むかのようにふむと頷いた。

 

「……血が繋がっていないのが、そんなに不思議か?」

 

「あ、まぁ、そうだな。俺の世界では血を重ねて、その異能をより濃くするために近親交配をする退魔集団がいたし。それに魔術師の場合は血のつながりが何よりも重要だったしな。親から子へ、一子相伝、一族の秘伝を連綿と伝え続けるからさ」

 

「お前達の世界では異常なほど血にこだわるな。一族の秘伝とか言っても、所詮は技術だろう。何か理由でもあるのか?」

 

「ああ、魔術回路と魔術刻印だな。まあ、魔術刻印の方がより重要なんだけどさ」

 

 そう前置きを置いた士郎は、簡単に解説を始めた。

 

「魔術回路とは、魔術師が体内に持つ擬似神経で、生命力を魔力に変換する路であり、幽体と物質とを繋げる回路の事だ。で、次に魔術刻印。これはその魔術師の家系における後継者の証で遺産。その意味合いは、その家が伝えてきた魔術を凝縮した刺青のような物。魔術回路は先天的に本数が決まっているけど、魔術刻印を移植するためには必ず同じ血筋のものじゃないとだめだからさ」

 

「ふむ、こちらで言うなら魔術回路は魔法発動体と魔力容量を同時に兼ね備えたもので、魔術刻印は生ける魔道書だな。で、士郎も持っているのだろ?」

 

 何をとは聞かなかったが、士郎は首を振った。

 そんな士郎にエヴァは怪訝な視線を向ける。

 

「親父は確かに魔術師だったけど、俺は親父に引き取られた養子だからさ。魔術刻印の継承はしていないんだ」

 

「……そうか。しかしそれでよく魔術を使えたな。一応血筋が関係するのだろう?」

 

「住んでいた場所が日本でも屈指の霊地の場所でさ。もしかしたら野に下った魔術師の血が混じっていたのかもしれない。まあ、今となっては詳しく調べる事もできないから、意味の無い事だけどな」

 

 エヴァは士郎の話をふむふむと頷きながら聞いていたが、すべて飲み込めたとき、ため息を一つついた。

 

「それにしても、まったく逆だな。確かに血は要素として能力の上限を左右するが、お前達のようにはせん。完全に技術体系を成しているからな。

 才能さえあれば誰でも使える。まあ、研究主体のそっちと、実益主義のこちらとではあり方が違うのも頷けるがな」

 

 エヴァは「ふう」とやれやれとため息をついて椅子に腰掛け、士郎にお茶を催促した。

 そんなエヴァに士郎は苦笑いを浮かべながらも、言われるままにお茶を入れる準備をしていると、階下から猿轡をかまされ、ぐるぐる巻きにされたチャチャゼロを連れて茶々丸が戻ってきた。

 

「誰だ、こんなにきつく縛ったのは!」

 

 茶々丸からチャチャゼロを受け取った数分後、エヴァが吼えた。

 そんなエヴァに茶々丸が律儀に、

 

「マスターですが」

 

 と呟くが、それは綺麗にシカトされた。

 

「もういい、士郎、切れ!」

 

 とうとうあきらめたのか、エヴァは士郎に向けてチャチャゼロを転がせた。

 士郎はそんなエヴァに苦笑いをするものの、短剣を投影してチャチャゼロを拘束していた縄をすべて断ち切る。

 

「ヒデーゾ御主人」

 

「フン、自業自得だ」

 

「それでチャチャゼロを連れてきてどうするんだ?」

 

 士郎は投げ出されたままのチャチャゼロを起こし、わざわざチャチャゼロを連れて来た理由を尋ねた。

 

「京都へ連れて行け」

 

「は?」

 

「オイオイ御主人、俺様ハ動ケネーンダゾ」

 

 エヴァの単純明快なその言葉に、士郎は呆然とし、チャチャゼロは何言ってんだとばかりに反論したが、そんな二人にエヴァはフンと鼻を鳴らした。

 

「士郎の戦闘能力には心配なんてしてはいないが、問題は知識の方だ。

 士郎の世界の魔術と、こっちの世界の魔法では、あり方、理論からしてまったくの別物だからな。そこを突け込まれる……というか、そこの齟齬でつまらんミスをする可能性が大きいのでな」

 

 

 エヴァは助言者というか知恵袋にでも使えというが、士郎はふと何かを思いついたのか口を開いた。

 

「なあ、エヴァ。チャチャゼロは動く事ができないのか?」

 

 停電のときのように、という士郎にエヴァは首を振る。

 

「私の魔力が封印されているこの状況では、せいぜい魔力が満ちている空間でなければ、チャチャゼロは動く事はできん」

 

「魔力があればチャチャゼロは動く事ができるんだな?」

 

「ああ」

 

「それは別に、エヴァだけの魔力じゃなければいけないという訳でもないんだろ?」

 

「……何を考えている、士郎」

 

 エヴァはお茶を啜っていた顔を上げて士郎を見つめ、思考を巡らす。

 

「俺の魔力で動く事はできないのか?」

 

「魔力供給をするというのか。仮契約、いや違うか……お前の世界の契約術か?」

 

「契約術って言うわけでもないけど、チャチャゼロにパスを通してラインを繋げれば、多分魔力を供給する事ができると思う。もし、エヴァとチャチャゼロがいいというなら、してもかまわない」

 

 士郎の言葉にエヴァはふむと呟いて、何かを考えるかのように二、三度頷いてから顔を上げた。

 

「それもいいかも知れんな」

 

「オイオイ本気カヨ御主人」

 

 士郎の考えに同意するエヴァに、チャチャゼロはいくらか真面目な声色を混ぜて問いかける。

 

「ああ、私は本気だ」

 

 一瞬だけエヴァとチャチャゼロは見詰め合い、二人の間に緊張が生まれるが、それはすぐに霧散した。

 

「御主人ガソウ言ッテンナラ、俺様モ問題ハナイゼ。ソレニダ、家政夫ノコトモ、ソンナニイヤジャナイカラナ」

 

 少し前までの真面目な雰囲気が無かったかのように、チャチャゼロは士郎へと向けて、いつものようにケケケと笑う。

 

「えっと、俺としては願ったり叶ったりなんだが……いいのか、二人とも?」

 

「この私が言っているんだ。いいに決まってる」

 

「俺様モイイゾ」

 

 従者とその主人が頷く様子に、士郎はそうかと頷いて心を決める。

 

「始めるぞ」

 

「イツデモキヤガレ」

 

 チャチャゼロの、まるで喧嘩を買うような口調に、士郎は一瞬苦笑いを浮かべるが、すぐに真剣な表情となり、自身の魔術回路を起動させる。

 

「同調開始」

 

 士郎は投影したナイフで指先を切り、そこから流れる血を媒介にして魔力を込め、チャチャゼロにパスを通す。

 そしてチャチャゼロを解析しながら、魔力のラインを繋げた。

 

「どうだ、チャチャゼロ?」

 

 士郎はゆっくりと魔術回路を切り、自分とチャチャゼロに繋がったラインを確認しながら問いかけた。

 チャチャゼロは士郎の問いに答えるように立ち上がり、確認するように手足を動かしてみる。

 

「オオ!ヤット動ケルゼ。アリガトヨ、家政夫」

 

「こっちこそ頼りにしてるぞ、チャチャゼロ。それより大丈夫だとは思うが、不具合はないか?」

 

 チャチャゼロの言葉に安堵するものの、一応確認のために再び問いかけた。

 そんな士郎にチャチャゼロは、念入りに体を動かし始めた。

 飛んだり跳ねたり、どこから取り出したのか、自分の背の倍はあろうかという剣まで振り回している。

 

 そんなチャチャゼロを横目に、士郎は茶々丸からお茶を受け取る。

 

「しかし、ずいぶん簡単にラインとやらを繋いだのだな。純粋に魔力を渡すようだが……ふむ。私とはラインを繋げられないのか?」

 

 エヴァはなんとなくといった思いつきで士郎に提案したが、士郎はその言葉に思いっきり言葉を詰まらせた。

 

「ラインを繋げられるなら、今の状態でも魔法を使えると思ったのだがな……どうかしたか?」

 

 エヴァは挙動不審気味の士郎に怪訝な視線を向けるが、士郎は咳払いをして何とか口を開ける。

 

「あ、いや、できないわけでもないが、チャチャゼロみたいに簡単にはいかない。俺は魔具のようなものの解析に長けているから、チャチャゼロにラインを通せたけど、人とラインを繋げるのはまったく別だからさ」

 

 士郎の言葉に対して期待もしていなかったのか、エヴァは深く突っ込む事も無く「そうか」と呟いた。

 

 そして一通り確認し終えたのか、チャチャゼロはエヴァの下へとやってくる。

 

「魔力ダケガキテルカンジダナ。御主人ヨリモ力ハデネーゾ」

 

「それは当たり前だ。こちらの場合は、魔力を送るという事と身体能力強化は同じだが、士郎の場合は純粋に魔力という動力のみを送っているのだからな。それでもお前なら、そこら辺のヤツラなら敵ではないだろう」

 

「ケケケ、西ノヤツラハ俺様ガ皆殺シニシテヤルゼ」

 

 チャチャゼロの頼もしいのだが物騒な台詞に、士郎は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「しかし、チャチャゼロはすごいな。エヴァの魔力が有れば、それ以上に強いのか」

 

「ふん、当たり前だ。人形使いと呼ばれた、この私の初代従者だぞ。私と同じ数百年を生きてきたのだ」

 

 チャチャゼロの感想としてもらした士郎の言葉に、エヴァは当たり前だとばかりに突っ込んだ。

 

「エヴァも、ありがとな」

 

 士郎はエヴァの従者であるはずのチャチャゼロを借りる事に礼を述べて、エヴァの頭を撫でようとしたが、指先から流れる血にエヴァは気づく。

 

「ふ、ふんっ。そ、それより、その切った指を貸せ。血を止めてやる」

 

 エヴァは照れ隠しに士郎の手を奪い取って、切れた箇所の指先をちゅーちゅー吸う。

 そんなエヴァに士郎は優しい笑顔を浮かべるが、ふと視線を感じてその方向を見ると、茶々丸がぼうっとした視線を送っていた。

 

「…………………」

 

「ん? 茶々丸、どうかしたのか?」

 

「……いえ、士郎さん。なんでもありません」

 

「ケケケケケ、嫉妬シテルノカ」

 

「え……そんなことは………」

 

 言葉を詰まらせる茶々丸に、士郎はポンと頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でた。

 

「茶々丸はいつもエヴァの役に立っているし、俺も世話になってるんだから大丈夫だ」

 

「そうだぞ、茶々丸」

 

「………ありがとうございます、マスター、士郎さん」

 

 和やかな空気のエヴァファミリー。

 

「まあ、武器はそんなに持ってはいけないだろうが、いざとなったら士郎に出してもらえ。刃物ならなんでも出せるからな」

 

「楽シミニシテイルゼ、家政夫」

 

 旅行自体ではなく、戦える事を指しているのだろうなと思って、士郎はため息をつく。

 

「何も無いのが一番なんだけどな……」

 

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