授業の無い土曜日の早朝、3-A図書館探検部とチャチャゼロを頭に乗せた士郎が荷物を持って図書館島の入り口に集まっていた。
「休みの日に手間をかけさせて悪いな。修学旅行の準備もあるだろ?」
「いえ、士郎さんが図書館島に興味があるということで私たち3-A図書館探検部が集まったですよ。皆、修学旅行の準備はほぼ終わってるですから」
「そういうことなら私たちの出番だからね」
「せやなー」
「はい」
肯定する図書館探検部の皆に士郎はありがとうと礼を言った。そして夕映が咳払いを一つして空気を一転させる。
「士郎さん、図書館島探検ツアーにようこそです」
「今日は一日よろしくな」
士郎はそう言って手近な夕映の頭をぽんぽんと撫でた。
「んー、何か微妙なラブのにおいが。気のせいかなー」
「気のせいでしょう」
士郎の手を甘受する夕映を見てニヤリと笑うハルナに夕映はきっぱりと言い放った。
「さあ、行きますですよ」
そして士郎を連れた図書館探検部は島へと歩き出した。
「この図書館島は明治の中頃、学園創立とともに建設された世界でも最大規模の巨大図書館です」
夕映を先頭に士郎、木乃香、ハルナ、のどかと続き、説明を聞きながら図書館内へと入って行く。
「ここには二度の大戦中、戦火を避けるべく世界各地からさまざまな貴重書が集められました。蔵書の増加に伴い増改築が繰り返され、現在ではその全貌を知るものはいなくなっています。そこでこれを調査するために麻帆良大学提唱で発足したのが私たち麻帆良学園図書館探検部なのです」
「中・高・大合同サークルなんや」
夕映の解説に木乃香が合いの手を入れて、士郎は二人の言葉になるほどと感心しながら本のある区画へと足を踏み入れた。
「……これはすごいな」
思わずといった感じで口から漏れた士郎の第一声は感嘆の言葉だった。士郎は目の前に広がる巨大な本棚の絶壁と、手すりの下に広がる広大な空間に圧倒されていた。
「へへーん、すごいっしょ。これが図書館島名物、北端大絶壁」
「建築当時の資料が散逸しているのでどういった意図で作られたかは不明です」
「毎年秋にはフリークライミング部の大会が開かれたりするんやえ」
「へー、それはまたすごいな」
士郎は北端大絶壁を左手に図書館探検部の解説を聞きながら感心しつつ、案内されるままに館内を歩いていく。そして小休止もかねて1/30の世界樹のあるベンチで立ち止まり、変わった種類のものがいっぱいで一瞬ためらったものの、すぐ側の自動販売機から士郎は夕映たちにジュースを奢ってベンチへと腰掛けた。
「こう、広大だと管理も大変そうだな」
士郎は苦笑いを浮かべながらもしみじみといった感じでそう漏らした。
「衛宮先生、ここはそうでもないけれど下の階は中学生部員立ち入り禁止で危険なトラップとかあったりするんですよ」
のどかの台詞にふと何かを思い出したのか、士郎は顔を図書館探検部の面々へと向けて口を開く。
「そういえば夕映も言ってたな。盗掘対策のためにトラップがあるってさ」
士郎がぽつりと漏らした言葉にハルナが反応してメガネを光らせた。
「そいやゆえ、あんた士郎先生と仲いいみたいだけどいつの間にそんな関係になったのかなぁ?」
「うちもそれ聞きたい。どうしてなん、ゆえ」
「う、それはですね……」
「名前も呼び合っているしー、あやしいなぁ」
「そこかしこから感じるこの匂いはー」
とか言いながら夕映に迫るハルナと、「そうやえ~」と同意しつつも同じように木乃香も迫る。そんな二人を見ながらのどかは二人を止めるかどうか迷っておろおろとするものの、自分も少し聞きたそうに少しだけ身を乗り出していた。そして士郎はそんな図書館探検部の面々を見て苦笑いを浮かべながらも口を開いた。
「夕映には以前道を案内してもらってさ。その時の縁で何かと話しているんだよ」
「そ、そうです!」
夕映は士郎の尻馬に乗るようにして勢いよく肯定した。二人の言葉にハルナは半信半疑というか、本当だったとしてもそれだけじゃないなぁと考えてニヤリと笑う。
「ま、ここいらで許してあげるとするかな」
ハルナの言葉に夕映はほっとため息を一つついた。無論それを見逃すハルナではなかったが。
「士郎先生は今まで何してたん?」
夕映とハルナのやり取りを他所に、木乃香がふと閃いたとばかりに士郎に尋ねた。
「あ、それは私も興味あるかも」
「そういえば初めて会った時、遺跡に入った事があると言ってたですね。考古学者とかだったですか?」
「あ、あの、考古学者なのですか、衛宮先生は?」
木乃香達の質問に士郎は考古学者か、とぽつり反芻して軽く首を捻った。
「古いものには色々と縁があったけどそれを専門にしていたわけではないかな」
魔術と考古学は切っても切り離せないものがあるし、古い概念武装はそのまま遺物でもあるだろうから考古学と言っても差し支えはないだろうなと士郎は考える。
「もともとはNGOに参加して子供たちに読み書きなんかも教えたりしてさ。それからは世界中を転々と回って、一時期は倫敦を拠点にしていたこともあったし。何の因果か今はここで教師をしているんだけどさ。ま、教師といっても外来の講師みたいなものだと思うけど」
自分達の副担任がある意味破天荒な生活を送っていたことに妙な関心と憧憬を覚え、数秒口をぽかんと開けていたが一転。
「うおおっ、スゴイッ。いやー士郎先生あんたもやるね~」
「NGOゆーたらいろんな人を助けたりしてたん?」
「あ、あの、色々お話伺っていいですか?」
士郎はきゃっきゃとはしゃぐ三人に囲まれてその元気に圧倒されてどう対応していいものかと苦笑いを浮かべてしまう。そんな時――
「まあ、待つです」
夕映の待ったの一言でぴたりとそれが止まった。
「はは~ん、士郎先生を独占できないからってさ」
「……違うですよハルナ。まだとっておきの場所に案内していないのですから、そこへ行ってからでも遅くは無いです」
「せやな~、あそこに行ってからでも大丈夫やな」
「前回のときは、私とのどかは行けなかったから悔しかったんだよね」
「わ、私も楽しみです」
時間は有限なのですからという夕映の言葉に納得してハルナ達は士郎への追及をやめてこれから向かう場所へと思いを馳せる。
「場所を移すですよ」
夕映の言葉に従って休憩場所から士郎達は立ち上がり、そしてまた図書館島館内を歩き出し目的地へと向かう。
「そういえば特別な場所に案内してくれるって言っていたな。これから向かう所がそうなのか?」
「ええ、そうですよ。見つけたのは偶然と言っていいのですが」
「あの時は大変やったなー」
夕映の言葉に木乃香はのほほんと楽しそうに頷く。
「私たちは心配したんだから」
「まったくその通りだよ。ネギ先生とバカレンジャーが行方不明になって修羅場ってたんだからさ」
楽しかったと思い出す夕映と木乃香とは対照的に、げんなりといった感じでのどかとハルナは肩を落とした。そんな図書館探検部の面々のやり取りを見ながら士郎はふむと首をひねった。
「それにしてもいったい何の用でそんな所へ行ったんだ。そう簡単に行ける場所でもないようだが」
士郎の疑問に夕映は言葉を詰まらせて、その間に木乃香が口を開いた。
「三学期の期末テストで最下位を取ったクラスは解散やてウワサ、信じてもーたんや」
「それで私が言った図書館島深部に読めば頭が良くなるという『魔法の本』があるらしいという言葉にアスナさんが賛同して、バカレンジャーと私たち図書館探検部、それにネギ先生がその魔法の本を手に入れるために向かったですよ」
「ま、私とのどかは連絡要員として地上に残ったんだけどね」
「うん」
木乃香たちの言葉に士郎はそうかと頷く。
「魔法の本というのはひとまず置いておいたとしても、期末テストはどうにかなったみたいだな。とくにクラスがどうこうというのは聞いてないから」
「ええ。結論から言いますと最下位ではありませんでした。ただクラス解散というのはやはり噂でしかなくて、本当はネギ先生がクビになるという話だったみたいです」
「クビに?」
「はい、ネギせんせー、本採用の最終課題が今までずっと最下位だった2-Aの最下位脱出だったみたいで……」
士郎は夕映の説明にふと首をひねったが、その問いにはのどかが答えてくれた。
「しかーし、なんと2-Aは最下位脱出どころかトップになって、いやー一時はどうなることかと思ったね」
その顛末を聞いて士郎は思わず苦笑いしてしまった。
そしてそうこう話しているうちに士郎たちは図書館島の建物の裏手へとやってきていた。
「ここか?」
「いえ、今日はそちらではないです」
士郎は背の高い両開きの扉をさして夕映に尋ねるが夕映は首を振って否定した。
「目的の場所への直通ではないのですが、途中まではエレベーターがあるですよ」
機械の駆動音と共に扉が開き士郎たちは早速エレベーターへと乗り込んだ。皆が乗ったエレベーターは順調に地下を進み、軽快な音と一緒に扉が開いた。
眼下に広がる竪穴に初めて見る面々は軽く圧倒されるが、士郎とハルナは身を乗り出して一番下までどれだけあるのかを確認した。
「螺旋階段か……」
「それにしてもものすごい高さだね。こりゃ落ちたら死ぬな」
「それではそろそろ行くですよ。一時間も歩けば目的の場所に着きますから」
一時間という夕映の言葉にハルナは一瞬だれるが、仕方ないかと気を取り直して皆と歩き始めた。
「ここが今日の目的地、幻の地底図書室です!」
螺旋階段を降りきって滝の裏側から抜けた先で、夕映は宣言のような言葉を叫んだ。その夕映の言葉に木乃香たちは歓声と拍手を惜しみなく送っていた。士郎はそんな図書館探検部達に思わず苦笑いを浮かべつつも視線を地底図書室全体へと向けた。
「……チャチャゼロ、気づいているか?」
「ケケケ魔法ノ力ノコトカヨ」
幾らか鋭い視線をした士郎とは対照的に、チャチャゼロはいつものように笑って答えた。
「ここは……」
「士郎さん、どうかしたですか?」
士郎は自分の思考に埋没しようとしたとき、鋭い表情を解いて振り返った。
「夕映か……。いや、すごいなと思ってな。あの絶壁もすごかったがこの地下にこれほどの広い空間があるなんてさ」
「ええ、図書室というには広すぎますからね」
そして何とはなしに二人は地底図書室の奥へと視線を向けた。
「ゆえー、士郎先生――もういい時間だしお昼食べるよー」
もうすでに歩き始めていたのか、ハルナが大声で二人を呼ぶ。士郎と夕映は顔を見合わせてどちらからともなく歩き始めた。そしてしばらく歩いた先の開かれている場所でシートを敷いて三人が待っていた。
「士郎先生、うちがお弁当作ったんやえ」
どうだと見せる木乃香に士郎は苦笑いしつつ、自分も荷物からバスケットを取り出した。
「俺も多少多めに作ってきたんだけどな」
ほらとばかりにバスケットを開け、色々な具が挟まったバゲットサンドを見せた。
「おお、こりゃまたすごい」
「先生も料理できるんやなー」
「家事全般が趣味みたいなものだからな」
士郎のバゲットサンドを見て目を輝かせている図書館探検部の面々に苦笑いしながらも士郎はそんなことを言う。
「うちも家事は結構自信があるんやえ、料理も好きやしなー」
士郎は木乃香の言葉に頷きながらみんなでつまめばいいさとバスケットを広げた。そして士郎は木乃香の弁当を、木乃香たちはためしとばかりに士郎のバゲットサンドを手にとってそれぞれ食べ始めた。
「うわっ、何これ、めちゃくちゃ美味しいじゃん」
「ほんまやなー、どうしたらこんな味だせるんやろか」
「そこら辺のお店のものより断然に美味しいです」
「衛宮せんせー、すごいですよー」
明け透けな褒め言葉に士郎は若干照れて頬を掻いた。
「ま、長い事料理をしているしな。それに料理の上手い人と縁でもあるのか、その関係でさ、色々と勉強もしたりしたからな」
「ほな、先生はどんな料理が出来るん?」
「今では和洋中どれも出来るかな。もともとは和食が得意で中華はあまり出来なかったんだが、世界中を旅していると食材の手に入れやすさは中華が一番だからな。そんなことより今はお昼を食べないか?」
「そやな。お茶を配るえー」
木乃香が皆にお茶を配り談笑しながらも本格的にお昼を食べ始める。そんな中ふと士郎は気がついてチャチャゼロを見た。
「チャチャゼロはいいのか、お昼?」
「ケケケ俺様ニハ酒ガアレバイイ」
「お酒なんて持ってきてないぞ」
そんな士郎を他所にチャチャゼロは鞄を漁りワインやら焼酎やらを取り出して士郎に見せ付けた。
「なっ、少し重いとは思っていたがそんなところに仕込んでいたのか、まったく……」
呆れる士郎を見ながらもチャチャゼロはコップにお酒を注いでそれを飲み始めた。
「あ、あの衛宮せんせー。前々から気になってはいたのですけどその人形は?」
のどかの言葉に士郎はどう説明したらいいのか首を捻るが、何とか口を開いた。
「そう、だな、茶々丸の姉になるのか?」
「へー、茶々丸さんのお姉さんか」
「え、でもでも小さいですよ? 妹さんではなくて?」
「まあのどか、士郎さんの話を聞くですよ」
驚いているのどかに夕映が落ち着きなさいとばかりに声をかけて、二人して士郎に向き直った。
「こういう言い方はアレなんだが、茶々丸がロボットというのは知っているだろう」
のどかたちは士郎の言葉にそういえばとばかりにこくこくと頷く。
「その同系の先行機種とでも言えばいいのか、先に作られたのがチャチャゼロ……だから茶々丸の姉なんだ」
「あ、そっかそういうことだったんですね」
士郎の説明でのどかはようやく納得したのか顔を綻ばせた。
「へー。でもなんで士郎先生が茶々丸さんの姉を頭に乗せてるの?」
「……そういえば士郎さんと初めて会った時も茶々丸さんが迎えに来たです。それも何か関係がある事なのですか?」
ハルナと夕映の質問に士郎はふむと一度頷いてから、そういえば言っていなかったかとばかりに口を開いた。
「一緒に住んでいるから、かな?」
誰ともなく「えっ」と言葉を漏らして固まった。
「えっと、ごめん先生、誰と?」
いち早く回復したハルナが恐る恐るといった感じで士郎へと問いかけた。
「エヴァの家でエヴァと茶々丸、あとチャチャゼロとな。これも言っていなかったか?」
「ええ、全然聞いてないですよ。それにどうしてエヴァンジェリンさんが?」
「エヴァとは知り合いだし、茶々丸とチャチャゼロのマスターだしな。その関係でチャチャゼロを借りているんだ。それに子供が、茶々丸が居るとはいえ、一軒家に住んでいるのは無用心だろう?」
士郎の説明に完全には納得いかなかったものの、皆はとりあえずなるほどと頷いた。それとチャチャゼロが「ケケケ御主人ガ子供カヨ」とつぶやいたのは聞こえていたが士郎はきっぱりと黙殺した。
「結局うちが作った分も士郎先生が作った分も食べてもーたな」
「ああ、まったくだな」
見事に空になったお弁当箱を片付けながら木乃香と士郎は満足そうに頷いた。
「いやー、食べた食べた。もう動けないかも」
「私もお腹いっぱいですー」
「私もですよ」
三者三様軽くお腹をさするがそんな中、ハルナが勢いよく立ち上がった。
「ハルナどうしたですか?」
「そこに貴重な本があって読まないなんて本好きの名が廃るってもんよっ。そういうことで士郎先生、本の散策に行ってきますっ!」
ハルナのテンションに当てられながらも士郎は許可のために頷く。
「あまり遠くに行かないようにな」
「わかってますって先生。さ、ゆえも行くよ」
パックのジュースを飲みながらまったりとしていた夕映の片腕を引っ手繰るようにしてハルナが歩き出す。
「ハルナ放すですよっ」
なんて声も聞こえてくるが、そんな様子にのどかが慌てながらもしっかりと後ろを付いて行く。
「ほな、うちも行ってくるえ」
「ああ、気をつけてな」
「大丈夫やえー」
ハルナ達の後を追って木乃香も駆け出し、士郎は見送った。
「チャチャゼロはどうする?」
「俺様ハココデ酒デモ飲ンデルゼ」
「そうか、ついでに荷物番も頼んだぞ。あとあんまり飲み過ぎないようにしろよ」
聞いているのか聞いていないのか構わずに酒を飲むチャチャゼロに士郎は苦笑いして一人歩き始めた。そしてしばらく歩いた先で地底湖に半分沈んでいる棚から本を一冊取り出してパラパラと捲った。
「水に浸かっていたのにまったく痛んでいないか……これもやはり魔法の力なのだろうか」
士郎はとりあえず取り出した本を元の場所へと戻して手近にあった岩場へと腰掛けて、何とはなしにこの地底図書室の空間を見上げた。
地下であるはずなのに光が満ちて、そして暖かい。無秩序に本棚が置かれ木の根と新旧さまざまな建物が並ぶ不思議な空間。
士郎は呆っとしながら視線を彷徨わせている時、背後から足音が聞こえて振り返るとそこには夕映が一人立っていた。
「夕映?」
「あ、いえ、別に士郎さんの邪魔をしたかった訳では無くて……」
おたおたとする夕映に士郎は近づいてポンポンと頭を撫でてひとまず落ち着かせた。
「別に気にしてないさ。それより少し歩くか?」
「は、はいです」
しばらく二人は何も話さずに地底図書室内をゆっくりと歩いていた。士郎は天井や周りの風景を見ながら、夕映は士郎の一歩後ろをついて歩く様に歩いていた。
「夕映はここをどう思う?」
「地底図書室をですか?」
夕映は士郎の問いにそうですねと前置きを置いてから喋り始めた。
「暖かい光にあふれて貴重な本が沢山ある、まるで楽園です」
手をふるふるさせて力説する夕映に士郎は苦笑いしながらもそうかと頷く。そんな士郎に夕映は不審に思って問いかけた。
「どうしたですか?」
「いや、ここは不思議な場所だと思ってさ。明治に作られて二度の世界大戦の戦火を逃れるために世界中から本がここに集まった、そして増改築を重ねてここまでに至る。百数十年前に作られたにしてはここは時が経ち過ぎている」
「それもそう、ですね」
夕映は今気がついたとばかりに軽く驚き、視点を変えて再度地底図書室を見回した。
「ここに蔓延っている木の根も十年二十年なんて少ない時間でこうはならないだろう。それにここまで根を張っている木というのも、そうそうあるものじゃないだろう?」
そうそうあるものじゃないという士郎の言葉に夕映ははっと気がついたように口を開く。
「もしかしたら世界樹の根なのかもしれないです」
「世界樹?」
「ええ、知りませんか? この麻帆良にある巨大な木のことです」
士郎は夕映の言ったことに思い当たる節があったのか、ああと声を出して頷く。
「遠目では何度か見たな、あれは世界樹というのか」
「はい。どういう種の木なのかは分かりませんが……学園が建てられる前からずっとあったらしいですし、『世界樹をこよなく愛する会』という同好会もあるくらいですから麻帆良では結構有名ですよ」
夕映の言葉に士郎は感心しながら、張り巡らされている樹木に思いを馳せる。そんな士郎の横顔を夕映は呆っと見た。
「あ、あの士郎さん」
「ん、どうかしたのか夕映?」
不思議そうな顔をする士郎にどう言っていいものかと一瞬迷ったが夕映は口を開いた。
「あ、いえ。もしよかったらですが私が案内しましょうか? 私も麻帆良の全てを知っているわけではないですが……」
夕映の自信無さげな提案に士郎は夕映の頭を軽く撫でた。
「それもいいかもしれない。ただ、お互いが暇な時にしような。来週から修学旅行もある事だし」
「そうですね」
夕映は頷きながらも士郎と同じように顔を上げてこの空間を見回した。
「図書館島地下は、あ、ここじゃないもっと上の階です。そこは下へ行くほど増改築が繰り返され混沌とはしていますが、この地底図書室はやっぱり別格です。遺跡、と言っていいのでしょうか? 掘り進めて見つけたのか、元からあった上に図書館島を立てたのかはわかりませんが、これは図書館探検部である私への挑戦です!」
夕映の遺跡という言葉から士郎はふと考える。一般生徒である夕映は知らないがここは、麻帆良学園都市は学園であると共に魔法使いの拠点でもあるはずだ。そしてここは遺跡であるとするなら昔の魔法使いが建てた物。あるいは関東魔法協会の理事をしている学園長が仕切っているんだ。深く魔法使いが関わっている事が容易に予想できる。
「もしここが遺跡だとしたらこの奥にはどんな危険が待っているかは分かったものじゃない。エレベーターが通っている事から今現在も管理しているのだろうが、それなりの準備をしないと遭難というのも考えられるからな」
その士郎の言葉に夕映はそういえばと以前来た時の事を思い出す。
「魔法の本を取りに来たと話しましたが、その時、動く石像を見たですよ」
「動く石像?」
「はい、魔法の本の番人でガードロボットか何かだったのでしょうか? もしこの先にそういうのがいるなら古菲さんや楓さんに護衛をしてもらわないと駄目ですね」
ガードロボットではなくて本物の魔法生物か、もしくは見守っていた魔法使いの魔法か何かかも知れない。それにしても護衛か……。
「古菲や長瀬は強いのか?」
「はい。前のときの動く石像のときに結構助けてもらいましたから」
「そうか。もし本格的に調査するなら俺にも一声かけてくれ。一応これでも夕映の先生だからな」
「はいです」
その後、士郎と夕映はこの暖かい空間でハルナが呼びに来るまでまったりと過ごしていた。いい時間ということもあり荷物をまとめ、また一時間以上もかかる螺旋階段を地底図書室での話やこの螺旋階段の話をしながら帰路についた。そして士郎は学生寮の前まで図書館探検部を送った。
「今日はありがとうな、誘ってくれて」
そう言って士郎は夕映の頭をポンポンと軽く撫でた。
「あ、いえ、私は図書館探検部ですから……」
そんな夕映の様子にハルナは何も言わずニヤリと笑う。
「皆も今日はありがとな」
「いえいえ、私たちも楽しかったからね。じゃ先生、月曜日にね」
「士郎先生、今度うちに料理教えてなー」
「士郎せんせー、さようならー」
「今日はゆっくり休んで、月曜日にな」
皆が頷いたことを確認して、士郎もチャチャゼロと共に家路に就いた。
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読んでくださった方、教えてくださった方、本当にありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。