正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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修学旅行当日の朝、エヴァ邸の玄関にはエヴァファミリーが集まっていた。

 

「ケケケケ。土産デモ楽シミニデモシテロヤ、御主人」

 

「黙れチャチャゼロ」

 

「士郎さん、お弁当を作りましたので食べてください」

 

「ありがとな茶々丸」

 

 お礼を言って士郎は茶々丸から紙袋を受け取った。

 

「いいか、一日一回茶々丸に電話しろ」

 

「ああ、わかった。そう心配するな」

 

 ぽんとエヴァの頭に手の平を乗せ、二度三度と撫でた。エヴァはもう半分あきらめているのか、士郎の手を払う事は無かった。

 

「ふん、誰が心配なんてするか」

 

 しっしっとばかりに手の平を前後させるエヴァに、士郎は苦笑いをしてしまう。

 

「それと子ども扱いするな、さっさと行け」

 

「エヴァもこんな朝早くからありがとな。それじゃ行ってくる」

 

 士郎は二人の頭を見下ろして言った。

 

「ちゃんと二人のお土産も買って来るからな」

 

「いってらっしゃいませ」

 

 士郎の言葉にエヴァはふんと鼻を鳴らすが、茶々丸はぺこりと丁寧にお辞儀をして士郎を見送った。そして二人は士郎とチャチャゼロが見えなくなるまで玄関に佇んでいた。

 

「マスター家の中に入らないのですか?」

 

「ふん、お前こそ」

 

「マスターは呪いのせいで修学旅行に行けず残念ですね」

 

「……オイ、何が残念なんだ? 別にガキどもの旅行など」

 

 唐突にそうもらした茶々丸に、何を言っているんだとエヴァが答えた。

 

「いえ、行きたそうな顔をしていましたので」

 

 違いましたか? と聞く茶々丸に、エヴァはアホかと切り返した。

 

「それよりお前行ってきてもいいんだぞ、行きたいんだろ?」

 

「………………いえ」

 

 茶々丸は静かに首を振る。

 

「私は常にマスターのお傍に」

 

「……おい、何だその間は?」

 

 エヴァは自分の従者をじと目で見るが、茶々丸は平然とどうかしましたかと聞いてきた。

 

「ふん、まあいい。士郎の土産でも期待してろ」

 

「マスターもですね」

 

 茶々丸のそんな言葉にエヴァはふんと鼻を鳴らして家へと入って行き、茶々丸もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎が大宮駅の新幹線乗り場へと着いた時には、新田先生たちや3-Aの生徒達が何人かがもうすでに集まっていた。

士郎は先生たちに挨拶してから図書館探検部の面子が居る所へと足を伸ばした。

 

「士郎さん、おはようございます」

 

「待ち切れなくて始発で来ちゃったー」

 

「まったく、朝から元気だな」

 

 はしゃぐ面々に士郎は苦笑いを浮かべてしまう。

 

「もう土曜日の疲れは完全に取れたか?」

 

「はいです」

 

「いやー、土曜は楽しかったなぁー」

 

 士郎と夕映たちの会話を聞いて古菲がひょこっと顔を出した。

 

「士郎先生と何処か行って来たアルか?」

 

「地底図書室ですよ。魔法の本を取りに行った時のです」

 

 夕映の台詞に古菲は首を捻ってうーんと唸るが、ひらめいたとばかりにポンと手を叩いた。

 

「あーあーあそこアルか。あの時は楽しかったアルね、あの動くでかいのとかも。楓もそう思うネ」

 

「ほほう、あそこへ行ってきたでござるか」

 

 古菲に話を振られた楓はふむふむと顎に手を当てながら頷いて、どうしてまたあそこにでござるかと夕映に理由を尋ねた。

 

「士郎さんが図書館島に興味があるということでしたので、そうなったら図書館探検部の出番ですから」

 

「なるほどそういう理由だったでござるか」

 

 楓が頷いている正面で夕映はふと地底図書館内で士郎に話した事を思い出して、いい機会だとばかりに口に出した。

 

「そうです。今度本格的に探検するときはお二人には是非付いて来て欲しいのですが」

 

「拙者はOKでござるよ、バカリーダー」

 

「また動くでかいの居るアルか? ワタシわくわくするアルヨ」

 

 夕映の勧誘にグッと親指を突き出すバカブルーとバカイエロー。

 

「というわけで、士郎さん。今度のときも引率をお願いするですよ」

 

 もうすでに確定事項とばかりな夕映に、士郎は苦笑いをしながらもああと頷いた。そんな士郎の様子を見ていた古菲と楓はおやっと思う。

 

「ほほう、衛宮殿も一緒でござるか。これで敵は居ないも同然でござるな」

 

「楓の言うとおりアルね」

 

 古菲と楓が二人して頷いている横で、夕映が不思議そうにして視線にどういうことですという意味を含んで士郎を見上げた。

 

「あ、いや、世界中を旅してきたからな。なんとか人を護ろうとする程度には出来ると思うさ」

 

「それって……」

 

 妙に間接的な士郎の言葉に、夕映はまた首を傾げてしまう。

 

「士郎先生は私よりきっと強いアル」

 

「ウルティマホラの優勝者であるクーフェイさんよりですか?」

 

 驚いている夕映を他所にウルティマホラという言葉に首を傾げる士郎に、夕映が詳しく説明した。

学園大格闘大会の事で、クーフェイさん自身も、中武研―中国武術研究会の部長ですごく強いですと。

 

「中国拳法か、俺も少しだけかじった事はあるけどな」

 

「ホントアルカ?」

 

 目を輝かせる古菲に、士郎は少し困ったように答える。

 

「一応双刀を使うからな、その関係で少しな。でも俺のはほぼ自己流だからな」

 

「ワタシも双剣使うアルヨ。ただ剣だときっと先生に勝てないネ」

 

「いや、無手なら古菲に分があるかもしれないな」

 

 夕映は今度暇な時に手合わせがしたいネなどという話になっていくのを横目に、二人のやり取りを考えていた。

 

「つまり士郎さんはクーフェイさんと同じぐらい強いって事ですか?」

 

「そういう事にしておくでござるよ」

 

 夕映はまだ何か聞きたそうだったが、楓はにんにんとつぶやいてそれ以降の話を煙に巻いてしまった。  

士郎もあまり話す事ではないと思い話を逸らそうと考えていると、いまさらながらに夕映が小脇に何か抱えているものに気づき、よく見るとのどかも同じようなものを持っている事に気がついた。

 

「ま、枕が変わるとー」

 

「寝れなくなるのでマイマクラ持参なのです」

 

 士郎の視線に気がついたのか、のどかと夕映は説明をする。そしてそんな二人に士郎は苦笑いをしてそうかと頷いた。

 

「俺は雨露がしのげれば基本的に何処ででも寝れるからな」

 

「それはうらやましいですね」

 

 睡眠談義に発展していこうとしたとき、のどかがふと何かに気が付いて顔をまっすぐ上げた。

 

「あ、ネギせんせー」

 

 いち早く気づいたのどかが声を出して士郎が振り返ると、そこには手を振って近づいてくるネギが見えていた。

 

「おはようございまーす! わーみんな早―い。あ、士郎先生、チャチャゼロさんは今日も一緒なんですね」

 

 ネギは士郎のすぐ側までやってきて、士郎の頭の上に乗っているチャチャゼロが気になったのか、士郎に対する第一声がそんな言葉だった。

そんなネギに士郎は苦笑いをしてしまった。

 

「修学旅行は一緒に行くことになってな。それよりネギ先生、一応連絡ですがエヴァと茶々丸は修学旅行欠席です」

 

 とてとてと近づいてきたネギに、士郎は先生モードで二人の欠席の連絡をする。

 

「あ、はい、わかりました士郎先生。そうですか……やっぱりエヴァンジェリンさん修学旅行には来れないんですか」

 

 残念そうにシュンとするネギに士郎もそうだなと頷いてポツリもらす。

 

「本当は行きたかったのかもしれないが、結局は言ってくれなかったからな……」

 

 士郎はエヴァと茶々丸の事を思い出しながら弱々しく笑った。

 

「エヴァと茶々丸にはしっかりとお土産を買って来る予定だから、それで少しでも喜んで欲しいんだけどさ」

 

 そう言って、空気を戻すために一つ咳払いをした。

 

「えっと、話を戻しますが六班の編成がこのまま行くと二人だけになるけどどうします?」

 

 士郎の言葉にネギはえっと驚いて急いで班編成の表を見た。

 

「あ、ホントですね。他の班の出席状況によりますけど、もし欠席が無ければ刹那さんをアスナさんの五班で、ザジさんをいいんちょさんの三班にお願いしようかな」

 

 ネギは顔を上げて確認を取る。

 

「士郎先生もいいですか?」

 

「問題は無いですよ」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 そうして確認を終えたネギは、最後に体の力を抜く為か深くため息をついた。そんなネギを士郎はふと不思議そうに見つめた。

 

「ネギ君、どうかしたのか?」

 

「あ、いえ。士郎さんに丁寧にされてちょっと緊張しちゃいました。あはは、まだ慣れませんね」

 

「ま、仕方ない。一応教師だから公私の混同は避けた方がいいからさ」

 

「そうなんですけどね……」

 

 それでもうな垂れてしまうネギに、士郎は慰めるように軽く頭を撫でた。

 

「士郎さん?」

 

「おいおい慣れて行くさ、がんばっていこう」

 

「はい!」

 

 ネギはまるで子犬がじゃれ付くような感じで士郎を見上げて元気良く返事をした。

 

「あ、そうだ。このかさんからおにぎりをもらっていたんでした。今のうちに食べちゃいますねー。のどかさんたちもまた後でー」

 

 手をぶんぶんと振って離れていくネギを見ながら士郎は思わず苦笑いをしてしまった。  

そういえばとネギの台詞で自分も茶々丸からお弁当を作っていてもらった事を思い出して、夕映達に一言断わりを入れてからコーヒーを買って生徒達が見える端の方でお弁当を広げた。

 

 茶々丸が作ってくれたお弁当は、食べ終わった後荷物にならないようにと紙袋に大きめのバケットサンドが二つ入っていた。  

士郎は本当はお茶を淹れたかったんだろうけどポットはかさばるから入れなかったんだろうなと思いながらも、紙袋からバケットサンドを取り出して頬張った。

 

「おや、士郎先生朝ごはんネ。それは先生が作ったカ?」

 

 声をかけられてふと視線を上げると、そこにはダブルシニョンの超鈴音が蒸篭を肩にかけて覗き込んでいた。

士郎はとりあえず頬張っていた分を飲み込んでコーヒーを一口飲んでから、超に向かって口を開いた。

 

「超か。いや、茶々丸が作ってくれたんだが……どうかしたのか?」

 

「ちょっと小耳に挟んだことがあってネ、聞きたいことがあるヨ」

 

 士郎の言葉に超は少し残念そうにするもののすぐに笑顔になった。

そして士郎は超の台詞に思い当たる節が無くてふと小首を捻ったが、とりあえず超の次の言葉を待った。

 

「和洋中なんでも大丈夫でとても美味しいと聞いたヨ。それは本当ネ?」

 

「和洋中も出来るし皆が喜んでもらえる程度には料理はできるが、それがどうかしたのか?」

 

 その士郎の言葉に超はふむふむと頷いて。

 

「もうちょと先の話だけど、学園祭二週間前から超包子は路面電車の屋台を出すネ」

 

 超は人差し指を立てて、楽しそうに言った。

 

「古菲や茶々丸も手伝ってもらうけど人手は多い方がイイネ。もし手伝ってくれるなら超包子第二料理人の地位を用意しておくヨ」

 

 超は士郎にニヤリと人の悪い笑みを浮かべてウインクを一つして、肩にかけていた蒸篭から点心を一つ取り出して士郎に渡した。

 

「これはお近づきのしるしネ。うちの肉まんは美味しいヨ。士郎先生の料理も口にしてみたかったけど次の機会にするネ」

 

「返答は今度でいいネ、それまで考えてほしいヨ」

 

 そう言いながらも超は手を軽く振って去っていった。士郎は超を見送りながらも勧誘の事を反芻して、早速もらった超包子の肉まんを頬張った。

 

「なかなか美味しいな。それにしても料理人か」

 

士郎はポツリともらして、つくづく料理に縁があるなと思って苦笑いをしてしまった。  それからは手早く食事を済ませてどんどん集まってくる生徒達を集め、ネギと一緒に出欠の確認等を行った。

 

出欠の結果、刹那とザジが居る六班は二人だけとなって、事前の相談通りそれぞれ五班と三班に振り分ける事となった。  

そして所定の時間となり各クラス、最後の点呼を取ってネギの先導の元、新幹線へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではみなさん、15年度の修学旅行が始まりました。この四泊五日の旅行で楽しい思い出を一杯作ってくださいね」

 

 クラス皆の元気良い返事を聞いて、ネギは満足そうに頷いてから再び話し始める。

 

「麻帆良学園の修学旅行は班ごとの自由時間も多く取ってあり楽しい旅になると思いますが、その分ケガや迷子、他の人に迷惑かけたりなどしないよう一人一人が気をつけなければなりません」

 

 ネギは少し真面目な顔になり、生徒たちを見渡した。

 

「特にケガには気をつけ――」

 

ちょうど話しているそのタイミングで急に扉が開いて、ネギは車内販売の売り子に撥ねられてしまった。

そんなどこか滑稽な様子に車内には失笑と笑いが皆から漏れる。

諸注意の話も終わり、生徒達は各々京都に着くまで自由に過ごし始める。  

新幹線が順調に進む中、チャチャゼロを頭に乗せた士郎は新幹線の車両内を歩いていた。

 

「モウソロソロ仕掛ケテクンジャネーカ」

 

「ああ、分かっているチャチャゼロ」

 

 士郎に向けてチャチャゼロは警告のような事を喋るが、その実、これから起こる事が待ちきれないとばかりに楽しそうな話し振りであった。  

そんなチャチャゼロに士郎は苦笑いを浮かべながらも車内を進む。

そして気を取り直して扉を開けた先には竹刀袋を担いだ桜咲刹那が佇んでいた。

 

「桜咲?」

 

「衛宮、先生?」

 

 二人して呆然とそう呟いた時、3-Aのいる車両の方から甲高い悲鳴が聞こえ騒然とした空気が流れてきた。

 

「ケケケ、ナンカ飛ンデ来ルゾ」

 

 チャチャゼロがそう口にする前に士郎はすでに何かが飛んでくるのを感じ、体をそちらへと向けていた。  

それは意図せずに士郎は刹那の視界を遮るかのようにして立ちはだかる様な格好となり、士郎は誰よりも早く手紙を咥えた高速で飛行してくる何かを視界に捉えた。  

交差する一瞬、チャチャゼロが士郎の頭から飛び降りるようにして式紙を切り裂き、士郎は床に落ちる前に手紙を掴んでいた。

 

「待て――っ!」

 

 士郎が手紙を手にしてから数秒と経たずにカモミールを肩に乗せてネギが駆け込んできた。そして視界に士郎と刹那を捉えて呆然と立ち尽くしてしまった。

 

「あ、士郎さん! と、桜咲さん……?」

 

「……ネギ先生」

 

 ネギは士郎さんはまだしもどうして桜咲さんがここにいるんだろうと思ったが、士郎が手にしているものに目が留まった時、そんな疑念は吹き飛んでしまった。

 

「あ、ソレは僕の大切な親書! あ、ありがとうございます助かりました!」

 

 ネギは腕をばたばたと振ってはしゃぎながら士郎へと駆け寄ると、早速手紙を受け取って安堵のため息をついた。そんなネギの様子を刹那はどこか一歩引いたような雰囲気で見ていた。

 

「それはネギ先生のモノですか? 気をつけたほうがいいですね、ネギ先生。特に向こうに着いてからはね」

 

 刹那はネギに向けて言った。

 

「……それでは」

 

「あ、どうもご親切に……」

 

 刹那はそう忠告めいた言葉を残し、ネギと士郎に軽く会釈をして二人の脇を通り過ぎた。ただ士郎の脇を通り過ぎる瞬間厳しい視線を送り、何事も無かったかのように颯爽と3-Aの車両へと戻って行った。  

ネギはカモミールにニ、三何かを聞かされてはっと驚いたように、刹那がいなくなった先を困惑的な視線で見ていた。

 

「それじゃあ、俺達も車両へ戻るか?」

 

「え、あ、はい、そうですね」

 

 ネギは生返事で腕を組みながら何かを考えながら歩き出した。

士郎はそんなネギの後姿を見ながらも何も聞かずにゆっくりと歩き出した。

 

それからは3-Aの車両は多少騒然としていたものの特に何事も無く京都へと進み、車内にもうすぐ京都に到着するというアナウンスが流れ、ネギと士郎は生徒達に降りる準備をするように促した。  

ネギはこれからの事に期待半分、不安半分に胸を躍らせて、士郎は皆が何事も無く楽しく過ごせるようにと思っていた。

 

 

「では皆さん、いざ京都へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も傾き、麻帆良学園の修学旅行生たちは修学旅行の宿泊地であるホテル嵐山に来ていた。

士郎は先生達の打ち合わせが終わった後、早い時間に露天風呂へと入り、割り当てられた部屋で日中の事を考えながら一人、お茶を飲んでいた。  

恋占いの落とし穴と音羽の滝の酒の混入、酒の混入は未然に防いだもののまだどちらも子供の悪戯めいたものの範疇。

 

「まだいたずら程度だがこれからどうなるか分からないか、近衛の事もあるしな。……ん?」

 

 昼間の事を考えていた士郎はふと部屋の空気が一転したのを感じ気を引き締める。  数秒の後、コンコンとドアがノックされ士郎のどうぞという了承の声と共に扉が開く。

そしてそこには何時ものように竹刀袋を担いだ桜咲刹那が居た。

 

「桜咲? どうした何か用事か?」

 

「はい、少しお聞きしたい事があります」

 

「そうか、まあ中に入ってくれ」

 

 士郎はどこか緊張感を孕んだ刹那に部屋の中に入るように促して座布団を敷く。

部屋に入ってきた刹那は部屋の中を一瞥してから士郎へと向き直った。

 

「今お茶を入れるからな、少し待っていてくれ」

 

 お茶を淹れようとする士郎に刹那はおかまいなくと言うが、士郎はすぐ済むからとばかりにお茶を淹れ部屋にあったお茶請けと共に刹那の前に出した。

 

「ありがとうございます」

 

 刹那は士郎の淹れたお茶を一瞥しただけですぐに士郎へと向き直った。

 

「単刀直入に聞きます。衛宮先生、あなたは何者ですか?」

 

「俺が、何者か、か?」

 

「はい、そうです。まるで滑り込ませたかのようにこの修学旅行の一週間前に赴任」

 

 刹那は士郎を値踏みするように言葉を重ねる。

 

「麻帆良の魔法先生というわけでもないのにかなりの手練れ。西の間者か、もしくはお嬢様の莫大な魔力を狙った者か……」

 

「判断がつかないから直接聞きに来たのか」

 

 士郎の言葉に刹那はコクリとも頷かずにただじっと士郎の目を見る。  

直接尋ねるのがあまりいい策とは言えない事は刹那も感じてはいたが、西の妨害がエスカレートする前に士郎が敵か味方かをはっきりさせたかったからこそのこの行動だろうと士郎は思った。

 

「もし、お嬢様に危害を加えようとするのなら私が排除する」

 

 そう言うと共に刹那は竹刀袋から白木作りの野太刀、夕凪を抜いて腰溜めに構えた。

 

「それよりいいのか? 今は五班の風呂の時間じゃないのか?」

 

 一瞬士郎は刹那の思いの強さにふっと微笑むが真剣な表情になって刹那に尋ねる。

 

「話をそらさないでもらいたい。今この部屋には人払いの結界を敷いてあります一般人は入れませんよ」

 

 だから邪魔は入らず時間はあるという言外に言って、急かすように刹那が夕凪の鯉口を切った時、人払いの結界を張った士郎の部屋の扉が開かれ小さい影が躍り出た。

 

「ケケケ、イイカンジジャネーカ。俺様モマゼロヨ」

 

「や、やいてめえ、桜咲刹那! やっぱりてめえ、関西呪術協会のスパイだったんだな!?」

 

 夕凪を腰溜めに構えて抜刀体制だった刹那と士郎の間に、二刀の刃を持って頭にカモミールを乗せたチャチャゼロが体を滑り込ませた。

 

「なっ、違う、誤解だ! わ、私よりも衛宮先生の方が!」

 

 オコジョだからってなめんなよとばかりに言ったカモミールの台詞に刹那が慌てて弁解をするがカモは変わらずに激昂している。

 

「二人とも少し落ち着け。色々誤解があるようだからな、簡単に説明するぞ」

 

 士郎の言葉に刹那とカモミールは互いに牽制しながらもコクリと頷いた。

 

「まずは桜咲の事だが京都神鳴流の剣士だが近衛の護衛だ、だから安心しろカモミール」

 

「士郎の旦那がそう言うんだったら俺っちは信じるぜ。すまなかったな刹那の姐さん」

 

「あ、いえっ、気にしてませんから」

 

 士郎の台詞にカモミールは雰囲気を一転させて刹那に謝った。そんなカモミールの殊勝な様子に刹那は慌てながらも首を振る。

 

「でも衛宮先生はどうして私の事を? このかお嬢様の事も知っていたようですが……」

 

 刹那はどうやら敵ではないようだと感じて態度を軟化させて士郎に聞く。

 

「そうだな、俺は正式な麻帆良学園の魔法先生ではないが……エヴァの事は知っているか?」

 

「エヴァンジェリンさんですか? は、はい真祖の吸血鬼で一応は麻帆良の警備員もかねていると学園長から聞いています」

 

「立ち位置的にはそれに似ているかな。何かあったときには手伝うって感じでさ」

 

 士郎は二人の表情を見ながら続ける。

 

「今回の修学旅行の事も学園長から聞いている。メインは生徒達やネギ君の護衛、それと西の長にネギ君が学園長からの親書を渡すサポートだな」

 

 コクコクと士郎の話を聞いていたカモミールだったが、士郎の言葉にあれっと不審に思う箇所を感じて首を捻った。

 

「旦那、護衛ってネギの兄貴もか?」

 

「ああ、どれだけ魔法に精通していたとしてもネギ君はまだ十歳の子供だからな」

 

「それもそうですね」

 

 士郎の言葉に刹那も賛同して頷くが、そんな刹那に向けて士郎は口を開く。

 

「桜咲の事も護るからな。近衛の護衛も全て任せて安心しろ、と言っても安心は出来ないだろうが、せめて後ろに俺が居る事を覚えていてくれ」

 

「あ、はい、ありがとうございます。それとすみませんでした、衛宮先生を疑うようなまねをしてしまって」

 

 スッと頭を深く下げる刹那に士郎はなんでもないように首を振った。

 

「それより良かったのか? 五班の風呂の時間だったのに」

 

「ええ、ホテルに着いた直後、衛宮先生がつかまらなかったのでこの時間になってしまいましたが大丈夫ですよ」

 

 そういう事じゃないんだがと言葉を濁す士郎に刹那は不思議そうな顔をするが、そこでカモミールがはっとして忘れていたとばかりに口を開いた。

 

「そうだ! 俺っちそのことで旦那のとこに来たんだった」

 

 忘れるところだったぜと言うカモミールへと士郎と刹那は視線を移した。

 

「露天風呂でこのか姉さんがお猿な式紙に攫われそうになったんスよっ!」

 

「なっ! お嬢様はご無事ですかっ!?」

 

 刹那の手が一瞬でチャチャゼロの頭に伸びカモミールを捕まえて詰め寄った。

 

「い、痛いっスよ姐さんっ」

 

「ああっ、すみません。それでお嬢様は?」

 

 刹那は慌てて握り締めていたカモミールを放して顔だけ近づけた。

 

「兄貴とアスナの姐さんと一緒に居たんだがよ。攫われそうになっちまって、そのとき――」

 

「ケケケ俺様ガ皆殺シニシテヤッタガナ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 刹那は不覚とばかりに歯をかみ締めチャチャゼロに平に頭を下げた。そんな刹那の様子をチャチャゼロは気にした風も無くケケケと笑うだけだった。

 

「衛宮先生はその事を危惧していらしたんですね」

 

「ああ。それにしてもやっぱり近衛に的を絞ってきたか……」

 

「そうですね……」

 

 二人して深刻そうにする様子を見てカモミールは不思議そうにしていた。

 

「どういうことっスか? 旦那、姐さん?」

 

「おそらく、奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうとしているのでは……」

 

「このか姉さんの力?」

 

「ああ、極東一の魔力の持ち主で悪用される事を学園長も危惧していたんだ」

 

 士郎の極東一という言葉にカモミールは一瞬驚愕の表情となるが、なるほどとばかりに頷いた。

 

「明日の班行動には近衛の護衛につく事になりそうだな。しかし他の班はどうするか……」

 

「私が各班に式紙を放っておきます。何かあれば分かりますので」

 

「陰陽術というやつか、便利だな」

 

 妙に感心する士郎に刹那とカモミールは

 

「そういえば士郎の旦那はどんなことが?」

 

「ええ、それは私も知っておきたい」

 

 二人の真剣な様子に士郎は苦笑いをして自分の事を簡単に話す。

 

「そう大したことは出来ないさ。魔力で体を強化して剣で戦い、弓を射る。魔法らしい魔法は一切使えないかな?」

 

 士郎の言葉になるほどなるほどカモミールは頷く。

 

「いえ、それでも衛宮先生はかなりの手練れだということは分かりますから」

 

「旦那はバリバリの戦士系ってことっすね。しかし、旦那には従者はいないっすか? 俺っちが何とかしますぜ」

 

 チャチャゼロはエヴァンジェリンの従者っすよねというカモミールに士郎は首を振って従者は必要ないと答える。

五万オコジョドルがとつぶやくカモミールに士郎は苦笑いをする。

 

「桜咲とカモミールは一度ネギ君のところへ行って事情を説明した方がいいな」

 

「そうですね、一応ネギ先生の味方と話しておいた方がいいでしょう」

 

 それでは色々とすいませんでしたと頭を下げる刹那に士郎は気にするなと言って部屋から送り出す。

 

「アルベール、酒樽ヲ手ニ入レタンダガ飲ムカ?」

 

「お、いいねー。じゃ、旦那俺っちはまた後で来るんでよろしくー」

 

カモミールもチャチャゼロの誘い答えてから刹那の肩に飛び移り一緒にネギの元へと向かって行った。  

 

 

士郎はそんな二人を見送り、これから起こるであろう事を一人考えていた。

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