正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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「ちょっとどーすんのよネギ。こーんなにいっぱいカード作っちゃって、一体どう責任取るつもりなのよ!?」

 

「えうっ!? 僕ですか!?」

 

「まあまあ姐さん」

 

「そーだよアスナ、もーかったってことでいいじゃん」

 

「朝倉とエロガモは黙ってて!」

 

 元凶と言ってもいい二人に仲裁されて明日菜はくわっと怒鳴り声を上げる。

 

「はい……」

 

「エロガモ!?」

 

 それでもまだ怒りが収まらない明日菜は、夕映とのパクティオーカードを見てため息をついている士郎へと勢いよく振り向いた。

 

「士郎先生も何か言ってやって!」

 

 明日菜の声に何とか反応するが、士郎は幽鬼のように頭を抱えながらふらりと振り返った。

 

「……ホテルの周囲に結界は感じていたけど、悪いものでは無かったから刹那のものだとばかり思っていたからな。分かっていればすぐさま止められたのに」

 

 そしてまた士郎はため息をついた。そんな落ち込み気味の士郎にカモミールが近づいてまあまあと慰める。

 

「旦那にも従者が出来て結果オーライじゃないっスか」

 

「カモミールには悪いけどこのカードは使わないぞ」

 

 明日菜は士郎の言葉に頷きながらカモミールとネギに向けて口を開く。

 

「夕映ちゃんも本屋ちゃんも一般人なんだから厄介事には巻き込めないでしょ。イベントの景品らしいからカードの複製渡したのは仕方ないけど、ネギも士郎先生みたいにマスターカードは使っちゃダメよ」

 

「魔法使いということもバラさない方がいいでしょうね」

 

「そ、そうですね。のどかさんと夕映さんにはすべて秘密にしておきます。……けど」

 

 ネギは士郎、明日菜、刹那の三人に注意を受けてそうですねと同意したがふと顔を上げて明日菜を見た。

 

「ん? どうしたのネギ?」

 

「アスナさんも一般人じゃ……」

 

「今さら私にそーゆーこと言うわけ、ネギ?」

 

 明日菜はジト目でネギのおでこをちょんとつつく。そんなじゃれあいをしてからパクティオーカードの説明をし始めている横で、刹那が士郎にそっと近づいた。

 

「……衛宮先生は神楽坂さんを止めないのですね」

 

 その刹那の言葉に士郎は一瞬だけ何かを考えるように黙り込んで、そして口を開く。

 

「本当なら止めるべきなんだろうけど、明日菜には少し思うところがあってな……」

 

 刹那はそれは、と尚も問おうとしたときに、カモミールが駆け寄ってきた事によってこれ以上聞くことが出来なかった。

 駆け寄ってきたカモミールは士郎の肩へと飛び乗ってタバコに火をつけた。

 

「しっかし旦那、ホントに従者いなくていいんスか? 一人もいないとかっこつかねぇスよ」

 

「今回はチャチャゼロに手伝ってもらっているが、これからも従者は持つつもりは無い。もう俺の我侭に他人を巻き込みたくはないんだ」

 

 士郎はカモミールの言葉に苦笑いしながらも、珍しく硬い雰囲気できっぱりと断わる。そんな士郎にカモミールは腕を組んでうーむと唸ってしまった。

 

「……我侭って、旦那。パートナーつーのはそういうもんじゃないッスか?」

 

「それでも、だ」

 

「しかしなー旦那、今まで一人も従者を持った事が無いって訳じゃないッスよね?」

 

 カモの問いに士郎は言葉を探すように視線を宙に彷徨わせ、一呼吸置いてから口を開いた。

 

「そう……だな。カモ達の思っている魔術的に契約を交わした相手という意味なら、もうかなり昔になるが一人だけ」

 

「へー、士郎先生の従者か興味あるかも」

 

「そうですね、それは私もあります」

 

 明日菜たちの言葉に士郎は軽く目を瞑り、今で無い遠い昔を懐かしむようにして口を開いた。

 

「本当に短い間だったけど、彼女との始めての出会いは今でも色褪せずに覚えている」

 

 士郎はその言葉と共に銀色の月明かりに照らされたかの剣精を幻視した。明日菜たちは言葉を出す事をためらわせる様な士郎の雰囲気にただじっと士郎を見ていた。

 

「彼女は俺の知る中で最高の剣の使い手で、ホント俺には過ぎた従者だったよ」

 

 士郎はふっと緊張感を解いて自嘲めいた笑みを浮かべる。

 

「そ、それは今の衛宮先生をしてですか?」

 

「ああ、剣においては俺は相手にもならないさ」

 

 驚きながら尋ねた刹那は返ってきた言葉に絶句する。

 

「ソンナヤツガイタナンテ初耳ダゾ」

 

「そうそう話す事でもないからな」

 

 チャチャゼロの言葉に苦笑いをしている士郎に明日菜はふと気になって口を開いた。

 

「それでどんな人だったの?」

 

「高潔で気高く、息を飲むような綺麗な少女だった。それで大食らいでもあったけどな」

 

 ネギと明日菜は士郎の話をへーと感心している横で、カモミールはふと何を思ったのか不思議そうに首を傾げた。

 

「旦那よー、その人はどうしたんスか?」

 

 カモミールのその言葉に士郎はふと遠くを見つめる。

 

「そう、だな、多分故郷に帰っていると思う……」

 

「士郎さん、その人に会いたいとか思わないのですか?」

 

 士郎のどこか歯切れの悪い台詞にネギはふと思いついたとばかりに尋ねた。しかし、士郎はネギの言葉に首を振った。

 

「会いたい気持ちは確かにあるが、彼女と会う時はきっと酷い戦場の中だろうからさ」

 

「それって……」

 

 士郎は苦笑いを浮かべて、話しはこれまでだとばかりに言葉を切った。

 

「それで今日のこれからの予定はどうするんだ?」

 

「あ、はい、僕と明日菜さんは関西呪術協会の本山に行く予定です」

 

「私は今まで通りお嬢様の護衛です。衛宮先生はどうされるのですか?」

 

「俺も近衛の方につくつもりだ」

 

 その士郎の言葉に刹那はどこかほっとしたように肩を降ろして、ネギは少しシュンとしてしまう。

 

「近衛は親書が西の長の下に渡されたとしても、直ぐに狙われる事がなくなるという話でもないからな。ただ親書を渡して近衛の事を話せば何かしらの手を講じてくれると思うからそれも大切な事だぞ」

 

「……そうですね」

 

 ネギは士郎の言葉に顔を上げて明日菜と共に今日の事を話し始めた。

 

「刹那はどうする?」

 

「いくら狙われているとはいえ、せっかくの修学旅行ですからお嬢様が行く所ヘ私も一緒に行きます」

 

「……それもそうだな、せっかくの修学旅行だしな」

 

 それから士郎は刹那にホテルを出る時には一声かけてくれと言葉を残して部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして修学旅行三日目の完全自由行動が始まったが、いつの間にか昨日の五班+ネギ、士郎という組み合わせが出来上がって、皆して宿の近くを歩いていた。

 

「わー、宿の近くもすごくいい所なんですねー」

 

「はい。嵐山、嵯峨野は紅葉の名所が多いので秋に来るのもいいですよ」

 

「それで先生の目的地はどこなの?」

 

「案内するですよ?」

 

「ほらあっちにゲーセンあるから記念に京都のプリクラ撮ろうよ」

 

 無目的にふらふらと歩いているときハルナがゲーセンを見つけて皆、そっちへと向かっていった。

 

「……夕映,昨日はごめんな」

 

「え?」

 

 チャチャゼロを取り上げられ押し込まれるようにして入れられた中で、士郎がポツリとそうもらした。夕映は一瞬何について謝っているのか気付かなかったが、「あっ」と小さな声を上げてキスの事を言っているんだと思い当たり顔を赤くして俯いてしまった。

 

「い、いえ、あれは事故だったです。だから士郎さんも気にしなくていいですよ」

 

「いや、そういう訳にもいかないさ……」

 

 士郎はこの世界のパクティオーというものを完全に理解したわけではないが、夕映と仮契約してから活性していないとはいえ夕映と自分の間にラインのようなもの感じていた。

それがどう転ぶかはこの世界の魔法体系を知らない士郎だったが、日常生活を普通に送る分にはリスクの一つであることには変わりないのだから。

 

 夕映は士郎の心から心配してくれる様子を見て言葉を詰まらせる。

事故は事故ですが、キスはキス……ですが士郎さんをこんなに困らせる事は自分の本意ではないと思い、大きく息を吸い込んで口を開いた。

 

「いいですか士郎さん、された私が言うのです! のどかの手伝いとはいえ昨日のゲームに参加したのは私の責任なのですから、だから士郎さんは本当に気にしなくていいのです! わかったですか?」

 

 夕映は言ってしまった事に顔を赤くさせその照れを誤魔化すようににガチャガチャとボタンを叩いてフレームを進めたり戻したりとし始めた。そんな夕映に士郎は自分の事で心配かけているなと思い、ぽんと頭に手を置いて軽く撫でた。

 

「そうか……。お詫びって訳ではないが、もし俺に出来る事があるなら言ってくれ、力になるからさ」

 

「士郎さん……。分かりましたです」

 

 夕映的には言いたい事はまだあったが、面と向かって言える事でもないし、言っても士郎が理解してくれないだろうと思って諦めて、笑顔を向けた。そしてその時カシャッという音と共にフラッシュがたかれた。

 

「ん?」

 

「し、しまったです!」

 

 ガチャガチャとボタンをいじくっていたのが災いしたのかシャッターは押され一枚のプリクラが出てきた。

 

「もう一枚撮るか?」

 

「え、あ、はいです」

 

 出てきたプリクラを呆っと眺めている夕映に士郎はそう聞くと夕映は慌てながらも頷いた。夕映は今度は間違えないようにと慎重になりながらも決定のボタンを押す。

 

「お、出てきたな」

 

 夕映は丁寧に取り出して、さっき撮ったのもあわせて慎重に半分に切る。

 

「はい、士郎先生の分です」

 

「ありがとな、夕映」

 

 士郎の礼に夕映は何でも無いですと首を振って自分の分のプリクラを大切にしまった。

 

「オイ家政夫、次ハ俺様ト撮ルゾ」

 

 そこに俺っちもとばかりにカモミールも士郎の肩へと跳んできた。夕映はチャチャゼロに促されて再びプリクラの筐体に入っていく士郎をなんとなく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして色々とメンバーを変えてプリクラをとった後、ハルナが奥の大きな筐体のゲームへと移っていった。

 

「ネギ君、アスナこっちこっちーみんないるえ」

 

「もー何で京都に来てまでゲーセンで遊ぶのよー」

 

 一瞬明日菜は不満そうな言葉を漏らすもののカモミールの熱中している隙に席を外すという言葉に納得した。

 

「何のゲームをやっているんですか?」

 

「魔法使いのゲームですよ」

 

「ほら、私たちが新幹線でやってたカードゲームのゲーセン版なの」

 

 魔法使いのゲームという事もあってネギはそのゲームを始めてしまう。途中ネギと同い年ぐらいの少年が乱入して来て負けてしまうものの、初めてにしてはうまいと褒められたりもした。そしてハルナや夕映達がゲームに熱中し始めた頃合いを見てネギと明日菜は皆から離れる。

 

「じゃ士郎先生、桜咲さんこのかのこと頼むね」

 

「はい、二人とも気をつけてください」

 

「俺は行く事は出来ないが向こうは必ず何かしらかの行動を起こすと思う。だから気をつけていけ」

 

「ハイッ」

 

 そしてネギと明日菜は駆け出して士郎と刹那はそれを見送った。

 

「私たちも気を抜かずに気を引き締めていきましょう」

 

「そうだな。昨日何もしてこなかった分今日は何かしらかの行動は起こすだろうからな」

 

「はい。お嬢様は必ず私がお守りします」

 

 二人を見送ってからしばらくして刹那がネギ達にちびせつなを送り向こうの状況を確認する。そして千本鳥居の中に閉じ込められた事を士郎に伝える。

 

「もう近くにいると思っていいだろう」

 

「……そうですね」

 

 士郎と刹那が背中を合わせるように周囲を見ているときににこにことしながら木乃香がやってきた。

 

「ほら、せっちゃんも遊ぼー」

 

「あっ、いえ、お嬢様私は……」

 

「士郎先生、せっちゃんもらって行くえー」

 

「ああ」

 

 刹那にとって無情とも言える言葉で

 

「え、衛宮先生!」

 

「ここは俺に任せて楽しんで来い。何かあったら直ぐに伝えるから」

 

 刹那は士郎の言葉と木乃香に促されて照れながらもしぶしぶ木乃香に手を引かれて皆の下にいった。士郎は周囲に気を配りながらも楽しむ木乃香や夕映達を見ていた。そして時は来た。

一本の針がとこからともなく投げられ、その針は刹那へと迫る。それを士郎が受け止めるが、刹那は素早く雰囲気を変え木乃香へと視線を向けた。

 

「せっちゃん?」

 

「お嬢様、失礼します」

 

 士郎とチャチャゼロは出入り口までの道を確保して刹那が木乃香の手をとって走りだした。ハルナと夕映も急に走り出した二人に続く。そして士郎とチャチャゼロは皆を守るように周りを固め、再度投擲される針を受け止める。

 

「せ、せっちゃんどこ行くん? 足速いよぉー」

 

「ああっ、す、すいませんこのかお嬢様」

 

「な、なぜいきなりマラソン大会に?」

 

 息を切らし始めている夕映たちを見て士郎は刹那に視線を送った。

 

「この場は任せて先に行け」

 

「分かりました。ではまた後ほど」

 

 刹那は士郎の提案に了承とばかりに軽く会釈をした、そして士郎はチャチャゼロを頭に乗せて、一瞬で方向転換すると襲撃者の下へと走る。投擲地点には月詠が微笑みながら立っていた。

 

「士郎はん、またお会いましたな~」

 

「月詠か……」

 

 険しい顔とは対照的に月詠はくすっと笑う。

 

「はい月詠です~。残念ですが~ここでは士郎はんと戦えへんので~」

 

 月詠は言うだけ言って、隠し持っていたペットボトルを投げそれを爆発させる。

そして辺り一面に濃い霧が発生した。士郎は「ほなまたあとで~」と言葉を残して逃走する月詠をこの霧の中でも追撃できたが、刹那と合流するべく踵を返して走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎先生?」

 

 士郎は月詠を退けて刹那が向かった先、シネマ村で刹那と木乃香の二人を探している時、ふと背後から呼び止められて振り返るとそこには貴婦人姿の千鶴がいた。

 

「千鶴か……」

 

「先生もシネマ村に?」

 

 士郎は千鶴の姿を見て軽く息を吐き、千鶴は頬に手を当てて微笑みながら士郎へと尋ねた。

 

「まあな。それより桜咲と近衛を見なかったか?」

 

 士郎の言葉に千鶴はふっと笑みを消し、どこか真剣な様子で士郎に視線を送る。

 

「千鶴?」

 

「士郎先生、一つ聞いてもよろしいですか?」

 

「ああ、俺に答えられる事なら」

 

 千鶴の様子に士郎は怪訝そうに眉を顰めるが千鶴の様子を察して千鶴に向き直る。

 

「もしかして、士郎先生と桜咲さんってつきあってます?」

 

「……は?」

 

 士郎は千鶴の口から出た言葉がいまいち理解できず、思わず間抜けな顔をしてしまった。そんな士郎を見て千鶴はほほほと笑みが戻った。

 

「いえ、どこか人と一歩置いたような桜咲さんがこの修学旅行中、いつも先生の側にいたみたいでしたから。一日目の夜も先生の部屋へ行っていましたよね?」

 

 千鶴の言葉に士郎は軽く驚いてから頷いた。そしてふむと唸ってから口を開いた。

 

「そうか……。千鶴には少しだけ事情を話しておこうか。近衛の実家が京都だということは知っているか?」

 

「このかさんですか?」

 

 刹那の話をしているのにと千鶴は不思議そうに小首を傾げるか、士郎は千鶴の言葉に頷いて尚も喋り続ける。

 

「そうだ。今近衛の実家がごたついていてな。その関係でその事を知っている桜咲、そして学園長から頼まれた俺がなるべく二人の側にいるようにしているんだ。近衛はこの件を知らないから、何かと桜咲と一緒にいるように見えたのかもな」

 

「……そうでしたの」

 

「一応、この件はあまり他言する事ではないから黙っていてくれるとありがたい」

 

 千鶴は士郎の話しに頷き、この事についてはこれ以上尋ねようとは思わなかった。そしてそんな千鶴に士郎は相好を崩して頭を下げた。

 

「あとごめんな、昨日せっかく誘ってもらったのに」

 

「いえ、かまいませんわ士郎先生」

 

 にこっと笑って許してくれる千鶴に士郎はもう一度頭を下げた。

 

「そういえば桜咲さんとこのかさんでしたわね」

 

「知っているのか?」

 

 険しい表情となった士郎を千鶴は正面から見てはいと頷いた。

 

「つい先ほど桜咲さんとこのかさんの前に、このかさんをかけて決闘だとメガネをかけた少女が現れまして。三十分後シネマ村、正門横「日本橋」にて決闘を、と。まだ二十分近くは時間はありますわ」

 

「そうか、ありがとう千鶴」

 

 士郎は千鶴の有益な情報に礼を言って決闘の場所へと向かおうとしたが、千鶴に袖を引かれて振り返った。

 

「……どうかしたか、千鶴?」

 

「士郎先生、その格好で向かうのかしら?」

 

 士郎の格好はダークグレーのスーツに何時もの赤いコート姿で、士郎はどこか変なところがあるかと首を捻った。

そんな士郎を千鶴は楽しそうに笑って自分のスカートを見せるように摘まんで見せた。

 

「ここはシネマ村ですよ。だから士郎先生も着替えなければいけませんわ。チャチャゼロちゃんも」

 

 そう言って千鶴は背伸びをして士郎の頭の上のチャチャゼロを抱きかかえた。

 

「オイ、オンナ何ヲスル」

 

「はい、チャチャゼロちゃんも着替えましょうね」

 

 チャチャゼロに有無を言わせずに歩き出す千鶴に士郎は苦笑いを浮かべて後を追った。

 千鶴は士郎に選んだ衣装を渡し、チャチャゼロ着替えさせるために行ってしまった。

士郎は渡された黒い着流しを着て、腰には自分で投影した真剣を二本、腰に差して決闘の場へと思いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 月詠に決闘を申し込まれた三十分後、刹那は元ちびせつなの形代を代用したネギと合流して、シネマ村正門横「日本橋」にあやか達と共に来ていた。そしてふふふふと笑いながら橋の向こうから月詠がゆっくりと歩いてきた。 

 

「ぎょーさん連れてきてくれはっておおきに~。士郎はんが居ないのが気になりますけど、楽しくなりそうですな~」

 

 月詠は橋の中ほどで足を止め、そして尚も喋り続ける。

 

「ほな始めましょうか~、センパイ。このか様も刹那センパイもウチのモノにしてみせますえ~」

 

 ふふふと笑う月詠に木乃香はえもいわれぬ恐怖に駆られて、刹那の背中に反射的にすがり付いた。

 

「せ、せっちゃん、あの人なんかこわい。き、気をつけて……」

 

「安心してください、このかお嬢様。何があっても私がお嬢様をお守りします」

 

「……せ、せっちゃん」

 

 刹那の心から安心させるような笑みで、木乃香は不安そうな表情から花が咲くような笑顔へと変わっていった。そしてそのやり取りに周囲の観衆がわあっと沸き、あやか達も刹那に加勢すると言い出し始めた。だが、刹那はあやか達の行動に焦り、月詠を見た。

 

「ツクヨミ……と言ったか? この人達は――」

 

「ハイ、センパイ、心得てます~。この方たちには私の可愛いペットがお相手します」

 

 月詠は言うや否や呪符をばら撒き――

 

「ひゃっきやこ~」

 

 月詠の言葉と共に大小さまざまなコミカルな妖怪が大勢召喚された。刹那はちびネギを見かけだけ等身大にして木乃香を任せ、自分は月詠と対峙した。両者抜刀して切り結ぼうとしたその瞬間――

 

「そこまでですわ」

 

 凛とした少女の声がこの場に響いた。そして観衆や刹那達が一斉にその声がした方向へと視線を向けた。するとそこには腰に二本の刀を差し、着流し姿で「子を貸し腕貸しつかまつる」という旗を差した木の乳母車を押す士郎と、乳母車に乗るチャチャゼロ、士郎に寄り添うように立つ貴婦人姿の千鶴が居た。

 

「やはり、士郎はん来はったんやな~」

 

 クラスメイトや観衆が子連れ狼だとざわめく中、士郎は千鶴から離れ刹那の元へと向かう。

 

「少し遅れたか。チャチャゼロ!」

 

「ハイチャーン、ッテカーケケケケケ」

 

 士郎の言葉でチャチャゼロは木の乳母車から飛び出し、二刀の刃で妖怪達の蹂躙を始める。

 

「月詠、これからは俺が相手になる。刹那、近衛を連れて引け」

 

 士郎は刹那と木乃香の前に立ち、二本の刀を抜いた。

 

「衛宮先生、この場はお任せします。では――」

 

 刹那は士郎に会釈をしてすぐさま木乃香とネギを追った。

 

「追わなくていいのか?」

 

「はい~」

 

 月詠は士郎の言葉ににっこり笑いながら頷き、抜刀してある二本の刀で士郎へと斬りかかる。

士郎もすかさず抜刀して「にとーれんげきざんてつせーん」を受け止めた。両者の刃が花火を散らし鍔迫り合いを始める。

 

「お前も関東魔法協会に恨みがあるのか?」

 

「いえ~。ウチはただの助っ人ですから~。雇い主の計画はウチには関係ありまへん。今はただ士郎はんと剣を交えたいだけ……」

 

「そうか」

 

 無駄話はここまでとばかりに士郎は鍔迫り合いを止め、一度間合いを取った。

そしてさっとチャチャゼロの妖怪を倒す度合いを見る。チャチャゼロはもうすでに半数近くを消していた。

 

「アラ、よそ見はあきまへんえ」

 

 月詠は視線を外した士郎をここぞとばかりに攻め立てるが、全て士郎に受け止められてしまう。そして斬りあっていても何処か余裕を見せる士郎に月詠は口を尖らせる。

 

「士郎はんは何時も余裕を見せるんやね~。ウチでは力不足やろか?」

 

 月詠は不平そうにそんな言葉を漏らして「ざーんくーせーん」と気の斬撃を放ち、士郎は周囲に被害を与えないようにそれを打ち落とす。

 

「悪いが戦いを楽しもうとは思わないからな」

 

「まあまあそ~言わんと~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな会話を交わしながらも刹那は木乃香を避難させたかと思った時、視界の端に城の天守閣を捉えた。

 

「聞ーとるか、お嬢様のもう一人の護衛。桜咲刹那は抑えさせてもろうたわ。この鬼の矢が二人をピタリと狙っとるのが見えるやろ! お嬢様の身を案じるなら手は出さんとき!!」

 

「せっちゃん!」

 

木乃香は白い髪の少年に押さえつけられている刹那を見て、ネギと一緒に駆け寄ろうとするが、刹那に睨まれてネギがすんでの所で踏み留まり木乃香を止める。

そしてそんな様子を千草は鼻を鳴らして笑う。

 

「フフ、ネギ言うたか、坊や? 一歩でも動いたら射たせてもらいますえ。さあ、おとなしくお嬢様を渡してもらおか」

 

 千草の言葉に士郎は天守閣を視界に入れて、対峙していた月詠と大きく間合いを取った

 

「放しまへんえ~士郎はん」

 

 士郎は月詠の言葉に反応せずに真直ぐと天守閣を見上げ、月詠に無防備な背中を晒した。月詠は士郎の行動に眉を顰めるが、それでも両に持つ刀を構え斬りかかった。

 

「ケッ、邪魔ハサセネーゾ」

 

「ふふふ、今度はお人形さんですか~。でも、通らせてもらいますえ~」

 

 直ぐ背後で刃を散らしあっているチャチャゼロと月詠をどこか遠くに感じ、音も無く瞬時に弓を投影し、そして剣と言う名の矢を放つ。

月詠はチャチャゼロと斬り合っている時、ふと――――

 

我が骨子は捻じれ狂う

 

と聞こえた気がした。

突風によりネギの体が動いた事で士郎も千草も予想だにしない形で鬼の矢が射られた。士郎の矢は風を切り裂き、鬼を貫くが時すでに遅く、鬼の矢は盾となった幻影のネギを貫き木乃香へと迫る。

 

「近衛ッ!」

 

 声を上げた士郎には絶望的に遠く、だが刹那には手の届く場所だった。刹那は白い髪の少年から抜け出し、木乃香に誓った通り身をもって木乃香を守った。そして体勢を崩して天守閣から落下した。

 

「刹那ッ!」

 

「せ、せっちゃーん!」

 

 士郎は刹那が体勢を崩した時から走り出していたが、木乃香も刹那を追って飛び降りた。その時、士郎は手に神を縛る鎖を投影していた。

そして空中で抱き合った二人へと伸ばそうとした時、それは起こった。

 

「……近衛?」

 

 士郎は足を止め、巻き起こった光の本流を正面から見る。

その視線の先に、魔力の風が木乃香と刹那を中心に吹き乱れ、木乃香は刹那を抱えて堀の縁にゆっくりと降り立った。

 

「せっちゃん……よかった」

 

「お、お嬢様……」

 

 刹那は何が起こったのか理解できなかったが、白い髪の少年に負わされた傷や、矢が突き刺さったはずの傷跡が消えている事に気付き、呆然と木乃香を見あげた。

 

「お、お嬢様、チカラをお使いに……?」

 

「ウ、ウチ今何やったん? 夢中で……」

 

 二人して呆然と見つめ合っている所に士郎が駆け寄ってきた。

 

「二人とも大丈夫か!?」

 

「あ、士郎先生」

 

「……衛宮先生。私もお嬢様も大丈夫です」

 

「そうか……」

 

 刹那の言葉に士郎は一先ず胸を撫で下ろしたが、治ったとはいえ傷を防げなかった事を悔やむ。

そして刹那はそんな士郎に気付く事も無く、「刹那さーん」と声を出して飛んできたちびネギとカモミールへと視線を向けた。

 

「敵の数も多い。ここは一度落ち合おうぜ!」

 

「そ、そうですね。衛宮先生もそれでいいですか?」

 

「そうだな」

 

 刹那は士郎の言葉に頷いて木乃香を抱き上げ、呆然とする木乃香に宣言をした。

 

「お嬢様、今からお嬢様の御実家へ参りましょう。神楽坂さんと合流します!」

 

 士郎達はすぐさまシネマ村の外で落ち合う事を決め、それぞれの更衣所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 士郎とチャチャゼロが着替え終わり更衣所を出ようとした時、待っていたかのように千鶴と出くわした。

 

「士郎先生、怪我などはありませんでしたか?」

 

「千鶴か。ああ、大丈夫だ」

 

「本当に、ですか?」

 

 千鶴は士郎の顔を覗き込むようにじっと見て、再び口を開いた。

 

「士郎先生は精一杯がんばりましたよ。私たちを守って、周りの人を守って、桜咲さんたちを気にかけて。結果的にはみんな大丈夫なのですから」

 

「…………そうか?」

 

「はい。士郎先生、もう大丈夫ですか?」

 

「……ああ」

 

 その士郎の言葉に千鶴は再び士郎の顔を覗き込み、どこか暗いと感じた何かが消え去る事は無かったが、その影が少しだけ緩んだ事にひとまずほっと胸を撫で下ろした。

そして何処か不安げだった表情を綻ばせてにこっと笑顔を見せた。

 

「これから先生はどうされるんですか?」

 

「……刹那や近衛達と近衛の実家に向かう」

 

 士郎は一瞬言うかどうかを迷ったが、嘘をつく事は出来ないなと思い、そのままの事を話した。

 

「なら、あやか達の事は任せてください」

 

「……そうだな、任せた」

 

士郎の話を聞いて直ぐに即答した千鶴に士郎は軽い驚きを感じたが、渡りに船のその提案に頷いた。

色々と疑問に思う事、聞きたい事があるだろうに、一切何も尋ねて来ない千鶴に士郎は頭を下げた。

 

「千鶴、ありがとうな」

 

「なんのことですか?」

 

 全てを分かった上でにこにことした笑顔を浮かべる千鶴に、士郎は苦笑いを浮かべて、そして合わせるようになんでもないと首を振った。

 

「これからの事を任せた」

 

「はい。いってらっしゃい、士郎先生」

 

 士郎は千鶴に見送られながら、このシネマ村で千鶴に大きな借りが出来てしまったなと苦笑いしながらも、外で待っている刹那達の下へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 刹那達と合流してちびネギから社道での事を聞き、のどかに魔法がばれた事や、途中で朝倉達が追いかけてきた事に頭を痛めつつもネギ達と合流した。

 

「大変だったみたいだな。怪我の具合はどうだ?」

 

「はい。もう大丈夫です」

 

「何が大丈夫よ! まだふらふらなクセして!」

 

「まあまあ」

 

「朝倉、あんたこの危険さ全然わかってないでしょ!?」

 

 仲裁に入った朝倉に、明日菜はがーっと吼えて突っかかって行く。そんな様子に士郎とネギは二人して苦笑いを浮かべてしまった。

 

「それで、宮崎には魔法の事は?」

 

「……はい、簡単には説明しました」

 

「そうか……」

 

 士郎はネギの言葉に頷いて、こっちをちらちらと窺っていたのどかのへと振り向いて近寄っていった。

 

「あ、え、衛宮せんせー?」

 

「宮崎、ネギ君から説明は聞いたか?」

 

「ね、ネギせんせーが魔法使いという話、ですか? あ、もしかして衛宮せんせーも?」

 

 のどかの疑問に士郎は苦笑いをする事で答え、そして真剣な表情となってのどかを見つめる。

 

「魔法使いという事が知られてしまうと、知ってしまった方、知られてしまった両方に危険性が発生する。宮崎は、偶発的にだがネギ君の従者となったんだ。最終的な判断はネギ君に任せるけど、それだけは知っておいてくれ」

 

「は、はい、わかりました」

 

 士郎の言葉を素直に聞いて頷くのどかに顔を綻ばすが、また真面目な顔になって一枚のカードを取り出した。

 

「それは、ゆえの……?」

 

「そうだ。夕映には話すつもりも関わらせるつもりもない。だから夕映にはこのカードの使い方を教えないでくれると助かる」

 

「え、でも……」

 

 何かを言いたそうにしていたのどかだったが、士郎の真摯な様子に言う事は無かった。

 

「はい、わかりました……」

 

「あ、見て見て。あれ入り口じゃない? ほら、のどかも早く!」

 

 この先に見える大きな門を見つけると、ハルナがのどかを大きな声で呼んだ。

 

「もう話しは終わりだ。行ってあげていいからさ」

 

「あ、はい、行ってきますね」

 

 のどかがハルナ達に合流すると「レッツゴー!」と掛け声を出して走っていってしまった。

 

「そ、そこは敵の本拠地なのよ!? 何が出てくるか!」

 

 明日菜の静止も聞かず門をくぐった先には、式服を着た人たちがずらりと整列していた。そして一同揃って頭を下げる。

 

「お帰りなさいませ、このかお嬢様」

 

「へ?」

 

 敵の本拠地だと完全に思い込んでいた明日菜とネギは、目を丸くして呆然としてしまった。ネギや木乃香達が家の人に囲まれて談笑をする中、明日菜はどういう事なのかと刹那に尋ねた。

 

「えーと, つまりその……ここは関西呪術協会の総本山であると同時に、このかお嬢様のご実家でもあるのです」

 

「えぇーーっ!? それ初耳よ、何で言ってくれなかったの!?」

 

「す、すいませんっ……」

 

「もしかして士郎先生も知っていたとか?」

 

 明日菜はくるっと振り返って、士郎が苦笑いをしている様を見てがぉーと吼えた。

 

「い、今、御実家に近づくとお嬢様が危険だと思っていたのですが、シネマ村ではそれが裏目に出てしまったようですしね。御実家――総本山に入ってしまえば安全です」

 

「そ、そっか。ここがこのかの実家かー。もしかして士郎先生が朝倉達を無理やり帰さなかったのも?」

 

「ああ、シネマ村で別れていたならまだよかったんだけどさ。

相手も形振り構わなくなってきているからな。途中で分かれるよりは、というやつだ」

 

 士郎の話しで明日菜とネギは「深く考えているなー」と感心している時、「長が待っています」と声をかけられて揃って奥へと招かれた。

屋敷内に招かれて案内された場所へ足を進めると、ハルナ達は予想以上の歓迎ぶりにはてな顔を浮かべたが、ネギの秘密の任務という説明にほほうと頷いていた。

そしてネギ達が座った正面の階段から、式服の一人の男性が下りてくる。

 

「お待たせしました。ようこそ明日菜君、このかのクラスメイトの皆さん、担任のネギ先生、そして衛宮先生」

 

 やって来た人物に木乃香が抱きついたり、明日菜の好みだったりと一時騒然とするものの、ネギが頃合いを見計らって詠春の前に出て、そして手紙を差し出した。

 

「東の長、麻帆良学園学園長、近衛近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

 

「確かに承りました、ネギ君」

 

 西の長、近衛詠春は確りとネギが差し出した手紙を受け取り軽く目を通した。

 

「いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝えください。任務御苦労、ネギ・スプリングフィールド君!!」

 

「あ……ハイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰られるのですか?」

 

「ええ、担任副と担任が揃っていないのもまずいですからね」

 

 士郎は頭の上から聞こえる「酒ガー」と不満の声を漏らすチャチャゼロを黙殺して、詠春と二人、門の所へと来ていた。

 

「話しは刹那君から聞いています。このかと刹那君を守ってもらってありがとうございます」

 

「いえ、どちらも自分の生徒ですし、それに子供を守るのは大人の仕事ですから」

 

「それでも礼は言っておきます」

 

「学園長から何か?」

 

 士郎は出会った時の詠春を思い出して、ふとそう口に出ていた。そんな士郎に詠春はハハハとどこか困ったような笑い声出して口を開いた。

 

「ただ、変わった男が行くとだけ。何か含むような所はありましたがそれだけでした」

 

 詠春の台詞に士郎は、ふぉっふぉっふぉと笑う好々爺然とした学園長の顔が脳裏によぎった。

 

「大丈夫だと思いますが、生徒達を頼みます」

 

「その頼み確かに承りました。……学園での二人の事をよろしくお願いします」

 

「もちろん」

 

 二人して苦笑いを浮かべ、士郎は門をくぐりホテルへと、詠春は屋敷の中へとそれぞれ戻って行った。

 

そして夜は更ける。

 

 

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