正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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「――ん、ちょっと待つでござる。衛宮殿、電話でござるよ」

 

士郎が学年主任の新田先生にネギを含め、木乃香の実家に生徒たちが何人か着いて行っている事と、一応学園長の許可を貰っていると説明した帰り、ロビーで電話をしていた長瀬に呼び止められた。

 

「……俺にか?」

 

「いいから出るでござるよ」

 

士郎は首を傾げながらも楓に促されて電話を受け取る。

すると携帯の向こうから切羽詰まった夕映の声が聞こえてきた。

 

『ああっ、士郎さんですか!?』

 

「夕映か、何かあったのか?」

 

士郎は嫌なものを感じつつ、夕映に先を促す。

 

『あ、あの、部屋にいきなり子供が来て、煙が……そしたらハルナが石に。私は何とか逃げられたですが……そ、それで――』

 

「夕映、すこし落ち着け」

 

『は、はいです』

 

電話越しに夕映の深呼吸の音を聞きながら、士郎は夕映の言葉と夕映が知らない魔法関係の事と照らし合わせて思考を巡らす。

 

西の総本山の結界が抜かれ、詠春も倒されたと考えて良いと判断する。

そして最悪、すでに木乃香がさらわれている可能性も。

 

「ネギ君はどうなったか分かるか?」

 

『いえ、すぐ屋敷を出てしまったですから……』

 

「そうか……。わかった、ありがとう、必ず助け出すから屋敷から離れた場所で待っていてくれ」

 

『っ! はい、待っているですよ』

 

最初不安だった様子が緩んで、夕映のどこか安心した声色に、士郎は一先ず安堵の息を漏らす。

だが、電話を切った後は冷静にこれからの事に思考を巡らせ始める。

 

「長瀬、電話ありがとうな」

 

「大丈夫でござるよ」

 

楓の、手をひらひらとさせて、なんでもないといった様子に士郎は軽く礼を言って携帯電話を返す。そしてすぐさま自分の部屋へと向かった。

 

「ケケケ家政夫ドウシタヨ、ソンナニ慌テテヨー」

 

新田先生と会うために置いていかれたチャチャゼロは、部屋を出た時とは全然雰囲気が違う士郎を見て、心底楽しそうに笑いながらそう口に出した。

 

「西の総本山が襲われた。最悪もうすでに近衛がさらわれたと思って間違いないだろう」

 

「ケケケケケ楽シクナッテキタジャネーカ」

 

チャチャゼロが鬼気とした笑みを浮かべている側で、士郎は手早く聖骸布のコートを纏い、チャチャゼロと一緒に部屋を飛び出して行く。

 

そして、ホテルを出た所で三人の人影が士郎とチャチャゼロの前に立ち塞がった。

 

「待っていたでござるよ、衛宮殿」

 

「おー来たアルな」

 

「……………」

 

チャイナ服姿の楓と古菲、それにどこか同情めいた視線で大きなケースを担いだ真名が立っていた。

 

「長瀬、龍宮、古菲? どうした、こんな所で」

 

「拙者達も衛宮殿について行くでござる」

 

 士郎は立ち塞がったという事に何か嫌な感じはしていたが、楓が口に出した内容に眉を顰める。

 

「……危険な場所にわざわざ連れて行く事は出来ない」

 

「衛宮殿、最初に助けを求められたのは拙者たちでござるよ。クラスメイトの危機、易々と見逃すわけには行かぬでござるよ」

 

楓は言外に止められたとしても勝手に行くと言い、士郎はそれでも頷く事はできなかった。

そして互いに譲らず時間だけ無駄に流れようとした時、真名が口を開いた。

 

「衛宮先生、議論している暇はないと思うがな。連れて行くにしろ置いていくにしろ今は移動し始めた方が良いんじゃないか? ……ただ、一つ言うなら二人の実力はこの私が保証するよ」

 

「真名の言う通りアルよー」

 

「にんにん」

 

 真名の言葉に一瞬躊躇うが、士郎は真名の言う通り時間が無い事もあってとりあえず保留とし、揃って駅へと向かい電車へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ん~~深夜に宿抜け出すのは修学旅行の醍醐味アルね~♪」

 

「これこれ、遊びではないでござるよ」

 

 そんな事を話す楓と古菲を横目に、士郎と真名は向かい合っていた。

 

「……本当に来るのか?」

 

「前にも言ったが、子供だから生徒だからという理由で蔑ろにされるのは面白くないのでね。古は一般人だが楓はどちらかと言うと私達の方の人間だ。

それに私や楓達は所詮助っ人、露払いが精々ですよ、先生」

 

それでも顔をしかめる士郎の頑固さに真名がため息をついた時、急に真名の携帯電話が鳴った。

 

「もしもし? ……ああ、今そこにいますよ。先生、学園長から電話です」

 

「学園長から? 分かった」

 

 このタイミングで電話という事から十中八九、西の本山での件だろうと思いながら、士郎は真名から携帯電話を受け取る。

 

『おお! 士郎君か、西の本山が大変なんじゃ!』

 

「ええ、分かっています。今向かっているところで」

 

『ほう、もうすでに気付いておったのか、西の長までもが――』

 

「学園長?」

 

電話の向こうから何やら物音が聞こえ、急に学園長の声が途切れてしまった事に士郎は思わず怪訝な表情を浮かべる。

 

「もしもし、学園長?」

 

『じじいならそこで蹲っているぞ』

 

「ッ! エヴァか」

 

『私もいます、士郎さん』

 

「茶々丸も?」

 

『オイ、茶々丸顔が近いぞっ! ……まったく』

 

電話越しに聞こえる向こうの様子に、緊急事態の今であったが士郎は思わず顔を綻ばせてしまった。

 

「それにしても、どうしてエヴァは学園長の所に?」

 

『あ? 暇つぶしにじじいと碁を打っていたんだ。そんな事より私の方から用件を話すぞ』

 

「頼む」

 

エヴァから語られる事はほとんど士郎が考えていた通りの物だった。

ネギが学園長に連絡を取った時点では、ネギ、刹那、明日菜、木乃香を残して皆石にされ、詠春を不意打ちによって石にした白髪の少年は多分、シネマ村で刹那を押さえつけた少年だろうと思う。

 

『もうすでに近衛木乃香は敵の手に渡ったと考えるのが妥当だな』

 

「…………」

 

 士郎もエヴァと同じ事を考えていて沈黙でエヴァの言葉に同意した。

 

「……エヴァ、一つ聞いていいか?」

 

『ん、なんだ? 聞いてやるから話してみろ』

 

「石になったと言ったが、それはもう治す事はできないのか?」

 

重い感情を抱いた、その真剣な士郎の言葉に、電話向こうのエヴァは、嘲りや、不敵さといった感情を含まない純粋な微笑を出して士郎へと口を開いた。

 

『……安心しろ、お前の世界ではどうだったか知らんがこの世界では治せる。だから後の事は心配するな』

 

「そうか、……ありがとうエヴァ」

 

士郎の心からの感謝の言葉にエヴァはフッと笑い、そして何かを思い出したようで今は不敵な笑い声を上げた。

 

『ふふふ、暗い事ばかりだがな、一つ朗報をくれてやろう、それも飛びっきりのな』

 

「朗報?」

 

 妙にご機謙なエヴァの様子に、士郎は怪訝な様子で問い直した。

 

『聞いて驚け、この私が援軍としてお前の元へ行ってやる』

 

「それは確かに心強いが……呪いはどうするんだ?」

 

『修学旅行も学業の一環だからな。今、呪いの精霊をだます準備をしている所だ』

 

 ふふんと鼻を鳴らすエヴァに士郎は苦笑いを浮かべて「そうか」と頷いた。

 

『私が行くまで終わらせるなよ、士郎。久々に全開でやれそうなのだからな』

 

「……それはさすがに保障はできないぞ」

 

 エヴァに切り返した言葉は冗談めいた言葉ではなかったが、その言葉にはどこか悲壮感めいたものは既に無かった。

 

『……少しは精神的余裕が出て来たようだな』

 

「……………」

 

『ふん、どうせそこにいるガキどもを連れて行くかどうかで迷っているのだろう。

実力があってやる気もあるのだ、手ごまに使ってやれば良いだろう。

それにお前の事だ、絶対的な危険には自分から突っ込むのだろう』

 

「だが、エヴァ――」

 

『黙れ士郎。戦う意志がある者は戦うために戦場に出るのだ、それが弱兵だろうが強兵だろうが、だ。そんな者達を戦場から遠ざけるなど、魂の陵辱以外の何者でもないぞ。

……お前は守るのだろう? なら行かせてやれ』

 

エヴァのこの言葉はネギや明日菜が聞いたらそんな大袈裟なと笑い飛ばしたかもしれない、だが幾多の戦場を越えた士郎はそのエヴァの言葉に感じるものが確かにあった。

 

「…………分かった。連れて行く」

 

士郎は数秒沈黙していたが肯定を口に出した。

エヴァは士郎に色々な葛藤があった事を正しく理解して、それでも自分の言葉が鍵となった事に、エヴァは電話越しにふふふと楽しそうに笑った。

 

『それじゃあ士郎、現地でな』

 

「わかった、エヴァも出来るだけ早くな」

 

 二人は話すべき事は全て終わったと、最後は言葉少なく電話を切った。

 

「学園長はなんて?」

 

 真名は士郎から携帯電話を受け取りながら尋ねた。

 

「予感が確信に変わっただけだ。とりあえずネギ君たちは学園長に電話をしてきた時点では無事のようだ」

 

「そうか。それで私達はどのように行くんだ? 今さら帰れとは言わないだろう?」

 

「ああ、龍宮達に手伝ってもらう事にしたさ。……もうすぐ駅に着く、詳しい内容は現場に向かいながらだ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 目的地へと着いた士郎達は颯爽と駅を抜け、千本鳥居を走り抜けながら簡単な作戦会議へと入った。

 

「長瀬には山の中にいるはずの夕映を頼む。龍宮と古菲は俺と一緒に本山へ行ってもらう」

 

「あいあい」

 

「わかたアルよ」

 

「妥当だな」

 

 三人が頷くのを確認して、士郎は一本の短剣を投影して楓に渡した。

 

「これは何でござるか?」

 

「地面に刺すと結界が発動する短剣だ。もし夕映を救出して長瀬が戦闘に入ったら使うように言ってくれ。そう強力なものは防げないが、たいていのものはこれで防げるはずだ」

 

「ふむ、確かに受け取ったでござるよ」

 

 興味深そうに、受け取った短剣を眺める長瀬を横目に、士郎は再度問いかける。

 

「他に何か武器はいるか? 刀剣類なら大抵のものは用意できるが」

 

「拙者は十分間に合ってるでござるよ」

 

「私は銃器なんでね」

 

 にこにこと笑って楓は断わり、真名も担いでいるケースをトントンと叩き断わった。そして士郎は残り一人の古菲へと視線を向ける。

 

「わ、ワタシもいいアルよ」

 

「いや、古は用意してもらえ」

 

「そうでござるよ」

 

 遠慮してか、古菲は士郎の言葉に首を振ったが、間髪入れずに真名と楓に止められた。

 

「そうだな、古菲には必要か……。確か中華刀は扱えるんだったよな?」

 

 士郎は古菲が頷くより早く、干将莫耶を投影する。真名は士郎が投影した中華刀を見て僅かに目を開き、楓はほうと感嘆のため息をついた。

 

 そして古菲は士郎から夫婦剣を慎重に受け取り、軽く振ってみせる。

 

「……士郎先生、こんないい剣ホントに使っていいアルか?」

 

「ああ、そのために出したからな」

 

 念を押すように尋ねた古菲だったが、士郎が頷いた事で走りながらもうれしそうに飛び跳ねる。そして夫婦剣を見ていた古菲は何かに気が付いたのか、ふと小首を傾げた。

 

「士郎先生、この黒くて亀紋のある剣と、白の剣はまるで莫耶の剣の話の干将莫耶アルね~」

 

 何気なく口にした古菲の言葉に、士郎はほうと感嘆のため息をついた。

 

「古菲は分かるか。その夫婦剣は古菲の言った通り干将莫耶さ。さすがにオリジナルではないけどな」

 

「ニセモノでもあの干将莫耶を使えるなんて感激アルよ!」

 

「古、浮かれるのもそこまでにしろ。もう直ぐ鳥居を抜けるぞ」

 

 古菲は真名に注意されて慌てて気を引き締める。そして開けた視界の先には爆発音と空に伸びた一条の魔法の輝きが目に入った。

 

「ケケケ派手ニヤッテルジャネーカ」

 

「……今何か飛んでいかなかったか?」

 

「ああ、ネギ君だ」

 

 真名が目を凝らして見た先に、同じものを見ていた士郎は、ネギが飛び出して行くのを確かに見た。

 

「拙者は先に夕映殿を探しに行くでござるよ」

 

「ああ、任せたぞ長瀬」

 

 楓は士郎の言葉に頷いて消えるように走って行く。

 

「あそこが主戦場みたいだが、私達はどうする、衛宮先生?」

 

「そっちは龍宮と古菲、チャチャゼロに任せる。俺はネギ君が向かった先、近衛がいるだろう場所を目指す」

 

「腕の見せ所アルな」

 

「ケケケ皆殺シニシテヤルゼ」

 

「わかった。衛宮先生も気をつけてな」

 

「龍宮、古の手綱は任せたぞ」

 

「ああ、安心していてくれ」

 

士郎は真名のプロという点を信頼し、そして真名は士郎の真意を正しく理解して頷いた。古菲は「私は馬でないアル」と抗議したがそれは黙殺された。

 

そして言葉を交わし楓は夕映の救出に、真名と古菲、それにチャチャゼロは西の本山へ、士郎はネギが向かった先へとそれぞれ走り出した。

 

 

 

 

 

 

士郎と別れた楓は分身を駆使し、夕映から聞いた少ない情報を手がかりに、山の中を駆けずり回っていた。

 

「衛宮殿や真名は大丈夫でござろうか」

 

 楓はこの森の中に充満する戦の気配にピリピリと反応していたが、ふと木の幹に腰掛けている浴衣姿の少女を見つけて減速した。

 

「ここにいたでござるか、夕映殿」

 

「か、楓さん!」

 

 名前を呼ばれて夕映は勢いよく顔を上げて、今までの寂しさを表すかのように楓へと抱きついた。

 

「もう大丈夫でござるよ」

 

 楓は抱きついてきた夕映を安心させるように二度、三度赤子をあやすように優しく背中を撫でた。

 

「あ、ありがとうです。もう大丈夫です。それで、あの、士郎さんはどうしたですか?」

 

「ふむ、衛宮殿は今この件を解決するために奮闘してるでござる」

 

「そう、ですか」

 

楓は自分の言葉にシュンと小さく肩を落としてしまった夕映に、懐から一本の短剣を取り出して目の前に差し出した。

 

「……これはなんです?」

 

「衛宮殿から夕映殿に渡すように頼まれた物でござるよ」

 

 夕映は楓の言葉に首を捻りながらもその短剣を受け取った。

 

「それを地面に刺すでござる」

 

夕映は言っている意味が分からなかったが、楓に言われるままに地面に突き立てた。

そしてその瞬間、夕映を中心に球状に空間が歪んだ。

楓はほうと息を漏らしながら夕映の周りに発生した力場を触る。

 

「これは……?」

 

「これが衛宮殿から託されたものでござる。きっと夕映殿を守ってくれるでござるよ」

 

夕映は楓の言葉に反応しながらも、突き立てた剣を抜いて大切そうに握り締めた。

そして再び顔を上げた時、楓は真剣な顔でどこか別な場所に視線を向けていた。

 

「あの、楓さん?」

 

「夕映殿、ちょっと失礼するでござるよ」

 

 そして楓は夕映の返答を聞く前に抱きかかえて跳躍した。

 

「ど、どうしたですか?」

 

「夕映殿、あれを見るでござるよ」

 

夕映は楓に促されて向けた視線の先に、ネギとそのネギと同い年ぐらいの少年が対峙しているのを見た。

 

「……ネギ先生?」

 

「ふむ、衛宮殿より拙者の方が早く着くとは、途中で妨害でもされているのでござろうか」

 

「え?」

 

夕映は楓が言った言葉の意味を尋ねようとした時、丁度直ぐ脇を走り抜けたもう一人の楓に目を奪われてしまった。

そのもう一人の楓は巨大な手裏剣を投擲してそれは丁度、今にも殴りかかろうとしていたネギと黒髪の少年、小太郎の間に止めるようにして突き刺さった。

 

「何!?」

 

 水を差される形となったその手裏剣に、小太郎は驚愕の声を上げ、その最大の隙に楓の分身によって吹き飛ばされた。

 

「あっ」

 

 そして、ネギはこの時になってようやく、木の上に夕映を抱いて佇む楓の存在に気がついた。

 

「な、長瀬さん! それに夕映さんも!?」

 

「熱くなって我を忘れ、大局を見誤るとは……精進が足りぬでござるよ、ネギ坊主」

 

 そう言って楓は夕映を抱いたままネギの直ぐ側に降り立った。

 

「何や、姉ちゃん達は!?」

 

「え……? な、長瀬さん、で、でも、あれ? な、何でここに……」

 

「私が携帯電話で呼んだです、ネギ先生。それに士郎さんも来ているですよ」

 

「えっ、士郎さんも?」

 

 夕映は楓の腕から下りてネギに簡単に説明するが、ネギは何が何だかといった様子で軽い混乱状態に陥っていた。

 

「さあ、ここは拙者に任せ、行くでござる。急ぐのでござろう?」

 

「で、でも、え? あのっ……」

 

「これこれネギ坊主混乱するでない。詳しい話しは後でござるよ。……拙者のコトなら心配いらぬ。今は考えるより行動の時でござるよ」

 

 そう言って楓はコツンとネギの頭を優しく叩く。

それでも渋るネギを突き飛ばし「さあ早く!」と急がせた。ネギは一瞬だけ振り返ったが直ぐに走り出した。

 

「あっ、待てネギ!」

 

小太郎は走り出したネギを追いかけようとしたが、その進路上に楓が投げた短剣が突き刺さりそれ以上行くことは出来なかった。

 

「……! おい、そこのデカい姉ちゃん邪魔すんなや。俺は女を殴る趣味とちゃうんやで」

 

 小太郎の啖呵に楓は楽しそうに不敵に笑う。

 

「ふ、コタローと言ったか、少年……。ネギ坊主を好敵手と認めるとはなかなかいい目をしているでござるな。だが今は主義を捨て本気を出すのがいいでござるよ。

――今はまだ拙者の方があのネギ坊主よりも強い」

 

楓は小太郎を静かに見て、何時もは糸目なその瞳を開く。

小太郎は楓の言葉とその雰囲気に何かに気がついたように顔を上げた。

そして十六に分身した楓が現れる。

 

「甲賀中忍、長瀬楓、参る」

 

「ハッ、上等ッ!」

 

 

 

 

 

 

士郎は下半身を強化しながらネギが飛んでいった方向へ一人走っていた。

走る先に細い光の柱と強大な魔力を感じてそこが目的地であろうと中りをつけていた。

そして尚も速度を上げようとした時、殺気を感じてその場を飛び去った。

 

「どうも神鳴流です~」

 

 投擲された先からは何時ものようににこっと笑いながら抜き身の二刀の刃をもって月詠は姿を現した。

 

「月詠か……」

 

「はい月詠です~」

 

士郎に名前を呼ばれ月詠が頷いたとき、轟音と共にはっきりと分かるような光の柱が立ち上った。一瞬二人は光の柱へと視線を移すが直ぐに視線を戻して対峙する。

 

「どうやら雇い主の千草はんの計画が上手くいってるみたいですな~。

まあ、ウチには関係ありまへんけどな~士郎はん」

 

そう言うや否や、月詠は足止めとか余力とかそういう考えを全て捨てて、士郎の力を見るために全力で刀に気を送って斬撃を放つ。士郎はその斬撃を避けるが、その斬撃は木々を薙ぎ払って吹き飛ばした。

 

「……どうしても立ち塞がるというのか、月詠」

 

「はい~。士郎はんはきっと今のこの状況でしか相手してくれへんお人や」

 

月詠の言葉に士郎は何も答えず、静かに干将莫耶を投影した。静かに戦闘態勢に入る士郎に、月詠は緊張感を増しながらもそれでもどこか笑みを深くした。

 

「いきますえ~」

 

右手の大刀を振りかぶり切りかかるが、士郎はそれを左手の干将で刃を散らせながら受け止める。

そこへ間髪いれず逆手に持った月詠の小刀が士郎の右手側から空を切り裂き迫った。

 

だが士郎はそれをかわし、莫耶を持ちながら鎖を投影して月詠を捕縛しようとしたが、月詠の右手の大刀に返す刀で切り刻まれた。

そして両者は一時、間合いを空けて離れる。

 

「やっぱり強いやな~士郎はん。けどウチを捕らえようなんて甘いえ~」

 

そんな月詠の言葉に反応するように、今度は士郎が月詠へと駆け、右手の莫耶を投げる。

その投擲は月詠の左手の小刀に簡単に弾かれるが、そこへ干将で切りかかり、同時に空いた右手で再度鎖を投影する。

 

「無駄やえ~」

 

気の抜けた声だが鋭い斬撃が干将を迎撃し、鎖を小刀の柄で弾き飛ばす。

だがそこへ弾かれた莫耶が迫り、そして同時に四つ投影した鎖が意思を持った蛇のように月詠へと迫った。

 

「神鳴流奥義~」

 

だが、二刀の刃を円を描く様に振り迫りくる全ての鎖を断ち切り、飛来する莫耶をも弾いた。

 

「……ひゃくれつお~かざ~ん、やえ」

 

 月詠は回転の勢いに乗せて士郎に振り向いてえへっと笑った。

 

「士郎はんええ加減にしとき~時間も迫ってるやろ~」

 

 月詠は遠くに見える輝く光の柱を見ながら最後通牒のような言葉を士郎へと向けた。

 

「……………」

 

士郎は無言で月詠に向き直り干将莫耶を消した。月詠は武器を消した士郎に怪訝な顔をするが、どこと無く変わった雰囲気にこれからの士郎の攻撃に胸をときめかせた。

 

だが士郎は月詠の期待を裏切るかのように、手に投影した武器はただの木の短剣だった。がっかりした月詠の気持ちなど気にせずに士郎はその木の短剣を月詠に向かって投げる。

そして月詠は迫りくる木の短剣をその二刀の刃で叩き落すために振りかぶった。

 

「士郎はん――」

 

 一本、二本――

 

「――神鳴流に飛び道具は」

 

 三本、四本――

 

「――効きまへんえ~」

 

 五本、六本と叩き落し間合いを開ける士郎へと追撃する。

 そして迫る七本目。

 

「えっ?」

 

その時、月詠には何が起こったのか分からなかった。

ただ七本目の短剣に大刀が触れた時、想像だにしなかった衝撃で右手の大刀が吹き飛ばされた。

 

混乱から立ち直る間もなく八本目が迫り、左手の小刀で迎撃しようとしたが同じように衝撃で吹き飛ばされる。

無手となった月詠は直ぐに両手の拳に気を集め体勢を整えようとしたが、その両手を寸分無く狙われて大きく弾かれ、そして体が大きく開いた。

 

月詠は何もできずに最後の二本の木の短剣の軌道をただ見ているしかなかった。

体へと触れたその短剣はどこにそんな運動量があったのかという勢いで、月詠はまるでトラックに撥ねられたかのように木に叩きつけられた。

 

「――――っ!」

 

叩きつけられた月詠は気で体を守っていたのにその衝撃で息が止まり咳き込んだ。

そして士郎は静かに歩み寄って、起き上がろうとする月詠を静かに横たわらせた。

 

「月詠、これで決着はついた。……静かに横になっていろ」

 

月詠はその士郎の気遣う言葉で全身の体の力を抜き、士郎の介抱を素直に受けた。

 

「……士郎はん今の魔法はなんや~。ものすごい衝撃やったんやえ~」

 

「……今のは魔法ではないさ。とある人に教えてもらった純粋な投擲技法で、名を鉄甲作用という」

 

力の抜けるような完全に戦意のない月詠の喋りに、士郎は苦笑いしながらも問いに答えた。そして光の柱へと真剣な表情を向ける。

 

「そのまま安静にしていればそのうち動けるようになるはずだ」

 

士郎は立ち上がり月詠に背を向けた、そして走り出そうとする士郎に月詠は声をかけた。

 

「士郎はん、千草はんはこの先の祭壇にいるえ。お嬢様の魔力でたいそうな鬼を復活させるって言う話や~」

 

「……そうか、ありがとな月詠」

 

 そしてそれ以上振り返ることなく士郎は走り出した。

 月詠は走り去っていく士郎の背中を見ながらほぅっとため息をつく。

 

「……ほんま、士郎はんはいけずな人やわ~」

 

 

 

 

 

 ネギに木乃香の事を任せた刹那と明日菜は二人、千草が召喚した妖怪達と戦い続けていた。

 だが敵の数が半分以下になってきた時、今まで静観していた強力な鬼達が動き出し徐々に劣勢に追い込まれていた。

 そして劣勢になりながらも相手をしていた時、ネギが飛んでいった先に巨大な光の柱が轟音と共に出現した。

 

「あ、あの光の柱は!?」

 

「ほっほー、こいつは見物やなぁ」

 

 光の柱に気をとられていた時、烏族の一人に明日菜はハマノツルギを持った右腕を掴まれて宙吊りにされてしまった。

 

「明日菜さん!」

 

「あっ、や……」

 

 明日菜は宙吊りにされながらも烏族に蹴りを入れるが全く効いてはいなかった。

 

「ハリセンが使えなければただの小娘か……。さてどうする神鳴流剣士、手詰まりか?」

 

 もはや完全に最悪となった状況で刹那は唇を噛み、ある覚悟をした時それは起こった。

 

「ぐおっ! ぬおおっ、しまった。新手か!?」

 

 明日菜を捕らえていた烏族は眉間に狙撃を受けて、明日菜が戸惑う中、霞のように消えてしまった。そしてその狙撃は尚も続く。

 

「これは術を施された弾丸……何奴!?」

 

 大鬼が狙撃された方向を見た時、そこには狙撃銃を持った褐色の少女が立っていた。

 

「らしくない。苦戦しているようじゃないか?」

 

「あ……」

 

「え、えええーっ!?」

 

 刹那は呆然と口を開け、明日菜は素っ頓狂な叫び声をあげてしまった。

 その二人の視線の先には真名が銃を持ち、その影から干将莫耶の夫婦剣を持った古菲、自分の体よりも巨大な剣を担ぐチャチャゼロの二人も出てくる。

 

「この仕事料はツケにしてあげるよ、刹那」

 

「うひゃー、あのデカいの本物アルかー? 強そアルねー」

 

「ケケケケケ、サア端カラバラシテヤルゼ」

 

 そう言うや否や三者三様それぞれ戦場に突入する。

 その中で真名は片膝をつきながら迫りくる鬼達に術を施した弾丸を喰らわせ、遠距離から確実に敵の戦力を削ぐ。

 

 だが敵も一方的に数を減らされる事を良しとせず、四人の烏族が真名を取り囲むように強襲した。

 

「図に乗るなよ、小便クサい小娘どもが」

 

「接近戦でテッポウは使えまい」

 

 勝負は見えたとばかりに勝ち誇る烏族に対して真名は不敵に薄く笑う。

 そして真名はケースを踏み二挺の拳銃を取り出し、息をつかす間もなく初弾を装填し、敵に動く暇を与えず発砲した。

 

 銃弾は相手を倒すには至らなかったが全て着弾する。

 だが敵もさることながら一人の烏族が傷口を押さえながらも持っていた大刀で真名へと斬りかかった。

 

「小娘ぇっ!」

 

 真名は頭上から振り下ろされる大刀を冷静に左手の銃の銃底で防ぎ、そのまま発砲して武器を破壊、そして右手の銃でゼロ距離とも呼べるほどの至近距離で相手の眉間に銃弾を打ち込む。

 

 だが真名はそこで終わることなく、水が流れるが如く拳銃による近接格闘を見せ、武器を破壊しながらも包囲していた四人全ての烏族を掃討した。

 

「なっ……ななな、なんで龍宮さんが。てゆーかなんであんなに強いのー!?

 

「龍宮とはたまに仕事を一緒にする中で……」

 

 明日菜は四人にも囲まれていたのに真名の余りにもあっけなく倒してしまった様に、目を丸くして絶叫する。そしてそんな明日菜に刹那は説明を加えた。

 

「さすが真名アルねー。しかし私本物のオバケ見るの初めてアルよ」

 

「古、お前は人間大の弱そうな奴だけ相手にしてくれればいい」

 

「あ、バカにしてるアルね~。中国四千年の技、なめたらアカンアルよ~」

 

 真名の言葉に古菲はプンプンと怒るが、そんな古菲に鬼達は狙い目だとばかりに背後から襲い掛かった。

 

「よっ」

 

 だがそんな攻撃にも古菲はどこか余裕を持ち、中国武術特有の歩法で、小柄な古菲には重いだろう干将莫耶を自在に操る。

 二刀特有の攻防一体、左手の黒の干将で相手の攻撃を捌き、右手の白の莫耶で斬り返す。

 

「哈ッ」

 

「なにぃッ!」

 

 一体の鬼を斬り、それでも古菲の攻撃は止まらず陰陽の干将莫耶が舞う。そして古菲が通った道には斬撃によって倒れた鬼達の屍が消えていった。

 

「アイヤー。ニセモノとは言ってたアルが、さすが干将莫耶アルね」

 

 襲い掛かってきた鬼たちを全て返り討ちにした古菲は干将莫耶を軽く振って、思わず頬ずりしそうになるぐらい干将莫耶を見つめた。

 

「古菲まで助けに……しかも結構強いし、何かわかんないけど助かった……?ってゆーかくーふぇが持ってるのって士郎先生の剣じゃ!?」

 

「えへへへ。士郎先生から借りたアルよ~」

 

「えっ! 士郎先生来てるの?」

 

 古菲の言葉に明日菜は吃驚して素っ頓狂な叫び声を上げる。

 そしてその隙を見逃さず鬼達が襲い掛かったが、そこに小さな影が乱入して全てを切断した。

 

「ケケケケケ、バカガキガボケットシテンジャネーゼ」

 

「あんた士郎先生の殺人人形!?」

 

 チャチャゼロの出現に目を丸くする明日菜に、真名は敵を銃撃しながら口を開く。

 

「衛宮先生はネギ先生を追っていったよ」

 

「ホント!?」

 

 真名の言葉に明日菜は再び驚きの声をあげ、刹那はまだ戦いは続いているが事態が好転してきている事に安心する。

 

「さあ、もっと強い奴はいないアルか?」

 

「調子に乗ってるとケガするぞ」

 

「ケケケケケ」

 

 助っ人の登場、士郎がここに来ていると言う事もあり士気は確かに上がっていた。

 そして着実に敵の数が減っていっている時、それは起こった。

 

「ちょ、ちょっと刹那さん、アレは!?」

 

「えっ……な、何だあれは!?」

 

 明日菜や刹那だけでなく、敵である鬼達も巨大な光の柱の方向を見た。

 その視線の先には遠く離れたこの場所からでもはっきりと分かる、前後に顔を持つ二対四本の腕を持つ巨大な鬼が出現した。

 

「ネギの奴と士郎先生、間に合わなかったの!?」

 

「わかりません。でも助けに行かなければ」

 

「そ、そうは言ってもこいつらが……」

 

 呆然としながらも剣を振る明日菜と刹那に示し合わせたかのように鬼達がやってくるが、一体二体と銃弾を受けて倒れていく。

 

「行け刹那! あの可愛らしい先生を助けに!」

 

「ここは私達に任せるアルよ」

 

「しかし……」

 

「大丈夫だ、仕事料ははずんでもらうがな」

 

 刹那は真名の言葉に頷きその場を蹴る。

 

「すまない! 行きましょう、明日菜さん」

 

「う、うん」

 

 

 そして走り出した時、二人は空に一条の赤い光を見た。

 

 




なんだかとてもFateとなのはのクロスものが読みたくて仕方ないです。
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