エヴァの初めての修行という事で夕方、ネギに従者達、それについてくる形となった夕映と古菲の計七人が、エヴァに指定された弟子入り試験をした場所へと向かっていた。
そんな中、明日菜は少し俯きがちな夕映に気が付いて近づいていった。
「夕映ちゃん? どうかしたの?」
「衛宮先生に魔法には関わるなって怒られてしまいまして……」
陰を背負ったような夕映の代わりに、のどかがおずおずと理由を説明する。
「あー、士郎先生は魔法に関わるの否定的だしね」
明日菜は修学旅行での事、先の弟子入りで士郎がネギに投げかけた言葉などを思い出してなんとなく呟いて、その言葉を聞いた夕映が深い溜息を漏らした。
「ま、大丈夫だって。士郎先生もわかってくれるって」
「そうでしょうか……」
「大丈夫大丈夫」
明日菜の元気に触発されたのか、俯き加減の顔を若干上げて前を見る夕映。それからも明日菜は夕映を励ましながら歩き、やがてエヴァが指定した場所へとたどり着いた。 そこにはエヴァと茶々丸、チャチャゼロの三人が佇んでいた。
「よく来たな」
「はい! よろしくお願いしますエヴァンジェリンさん」
ネギが挨拶をする横で、明日菜はきょろきょろと辺りを見回して士郎が居ない事に小首を傾げた。
「ねえエヴァちゃん、士郎先生は?」
「ああ、ヤツはいないぞ」
「いないの?」
怪訝そうな顔をする明日菜の横で夕映がほっと胸を撫で下ろす。
「何だ貴様、士郎のヤツが居ないと安心できないとでも言うのか?」
「別にそう言うわけじゃないけど……」
言葉を濁す明日菜にエヴァは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ケケケ、家政夫ニサンザン釘刺サレテタジャネーカ」
「うるさいぞ、チャチャゼロ」
チャチャゼロの暴露で明日菜はあはははと乾いた笑みを浮かべた。
「ねぇ、エヴァちゃん。弟子入り試験って結局どこら辺が合格ラインだったの? ネギが士郎先生に一発入れられるなんて、どう考えても無理でしょ」
ふと思い浮かんだのか、明日菜がそう口に出していた。問われた方のエヴァはチャチャゼロに悪態をつくのをやめて、鼻を鳴らしやる気なさそうに口を開いた。
「士郎のヤツに一任していたからな、私は知らんぞ」
「知らないって、ちょっと無責任じゃない?」
「ふん、責任も無責任もあるか。弟子を取るなんてメンドウな事を持ってきたのは貴様らだぞ。それをわざわざ許可してやったんだ、感謝してもらいたいくらいだぞ」
エヴァはふふんと鼻を鳴らして明日菜を挑発する。そんなエヴァに明日菜は激昂しかけるが、そこに茶々丸が割って入った。
「マスター、そのくらいにしては?」
「ふん、まぁいい。私が士郎に言ったのは坊やに芽があるかどうかだけだ」
「芽?」
明日菜はもしかしてからかわれていたのかと脳裏に浮かぶが、疑問の方が口に出ていた。
「わざわざ私の時間を割いてやるのだ。無能なヤツを育てる気などない」
「じゃあ、ネギは才能があったから弟子にとったって事?」
明日菜はエヴァに問いかけるが、エヴァは一瞬瞑目して言葉を続けた。
「才能は確かに大事だが、士郎はその先を見せた。何がスイッチになったかは分からんが、あの状態であの士郎に向かって行けたのだ、それぐらいは評価してやる。……あの試験で気概は見せてもらった。だがな、冷静でなければ勝てんぞ。その才能に見合うだけの技術は叩き込んでやる。だが、最終的に勝っていけるかどうかは坊や次第だ」
そこで一旦言葉を切ると、いつの間にか明日菜の隣にやってきて話を聞いていたネギへとニヤリと笑いながら視線を向ける。
「そこまでは面倒見きれんぞ」
「は、はいっ」
元気良く返事をするネギを見て、エヴァは満足そうに頷いた。
「もう無駄話は終わりだ、始めるぞ」
◆
日が落ちて暗くなって来た頃、買い物袋をぶら下げて士郎が家へと帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい、士郎さん」
士郎の声にいち早く反応した茶々丸が降りてきて士郎を出迎える。そして士郎は茶々丸が降りてきた二階、そこから聞こえる喧騒に小首を傾げながら視線を向けた。
「ネギ君たちが来てるのか?」
「ハイ、刹那さんや木乃香さん、それにハカセも居ます」
「……そうか。茶々丸、夕飯食べていくかどうか聞いてきてくれるか?」
「ハイ、分かりました」
ペコリと頭を下げて喧騒が聞こえる二階へとまた上がっていった。士郎は茶々丸を見送ってから買ってきたものを冷蔵庫へとしまうために居間を横切ると、そこには話をするエヴァと木乃香がいた。
「やっと帰ってきたか」
「士郎先生お邪魔してるえー」
むすっとするエヴァとは裏腹に木乃香がニコニコしながら手を振る。そんな対照的な二人に士郎は苦笑いして口を開いた。
「今から夕飯を用意するけど、近衛はどうする? 食べていくなら用意するけど」
士郎の言葉に木乃香は腕を組んでうーんと唸る。
「士郎先生の料理食べたいんやけどなー、アスナ先に帰ってもうたから家で食べるえ」
「じゃあ、別な機会にでもな」
木乃香は断わったものの、後ろ髪を引かれるのかおろおろと悩みはじめた。士郎がそんな木乃香に苦笑いしていると、茶々丸が二階から降りてきた。
「どうだった?」
「ハイ、ハカセだけ食べていくそうです」
「そうか、わかった」
士郎は茶々丸の言葉に頷くと、エヴァの家で料理を始めてからずっと使っているエプロンをしてキッチンへ向かい、そして茶々丸も同じようにエプロンをつけてそれに続いた。
「いつもあんな感じなん?」
「ん? あいつらはいつもあんな感じだぞ」
エヴァが木乃香の言葉に答えて、ずずずと茶々丸が淹れたお茶をすすっている時、寮へと戻ったはずの明日菜の悲鳴と打撃音が聞こえてきた。
「……明日菜か?」
エプロンで手を拭きながら不審気な顔をして士郎がキッチンから出てきた。
「ちょっと外を見てくる」
そう言って士郎がエプロンをしたまま外へ出ようとした時、ドアを蹴り破る勢いで裸の明日菜が泣きながら家の中に飛び込んできた。士郎は一瞬驚いたものの、玄関に掛けてあったコートを素早く被せて、付いて来ていた茶々丸へと振り返る。
「茶々丸、明日菜に服を貸してやってくれるか?」
「ハイ、すぐに」
士郎の言葉に茶々丸がぺこりと頷いて、明日菜を促しながら部屋の奥へと向かっていった。茶々丸と明日菜を見送った士郎は開け放たれたままの玄関へと視線を向ける。するとそこには頭に大きなたんこぶを作ったネギと苦笑いをするタカミチがいた。
「ああ、士郎さん、ど、どうしよう。よけいに怒らせちゃった……」
「よく状況がわからないけど、これ以上明日菜を刺激させない為にも、今は帰ったほうがいいかもしれない」
士郎の言葉を受けてネギはがくっと項垂れてしまった。
「どうもタイミングが悪くてねー」
「貴方は?」
「そういえば初めましてかな、学園長から簡単に話は聞いてるよ衛宮士郎先生。僕は高畑・T・タカミチ」
「衛宮士郎です」
そうして二人は挨拶とばかりに軽く握手を交わす。
「君とエヴァに西の長からお礼の品が来ててね。これを渡しに来たんだけど……」
そう言ってあはははと乾いた笑みを浮かべるタカミチ。そのタカミチの言葉で士郎はなんとなく何があったか理解した。
「何だ、タカミチ来ていたのか」
出て行ったきり戻ってこない士郎を呼び戻す為に、やる気なさそうにふらふらとエヴァがやって来た。
「ああ、エヴァお邪魔してるよ。しかし、あのエヴァが他人を家に置くなんてね」
「ふん、ぬかせ。士郎、こいつらにかまっている暇があるならとっとと飯を作れ」
不機嫌そうなエヴァの飯の催促にタカミチは肩を竦めた。
「おっと、夕飯時だったのか」
「ふん、貴様の分の食事なんてない。さっさと消えろ」
「エヴァがおかんむりだから僕は帰るよ」
はいと、西の長からのお礼の品を士郎に渡すタカミチ。
「ネギ君、僕が送っていくから一緒に行こうか」
「……うん」
それじゃあと挨拶を交わして、とぼとぼと歩くネギをタカミチが促しながら夜道を歩いていった。
「……もう高畑先生帰りました?」
おどおどとした様子でやって来た明日菜に、士郎は今帰ったよと伝えた。そして見守っていた木乃香や刹那に起こった事を説明し、士郎が落ち着くまでここに居るといいと促して、明日菜もその言葉に頷いた。
「そっかー。ほなウチらは先に帰っとるな」
「明日菜さん元気出してください」
「……うん、ありがと」
木乃香はエヴァと士郎達にも手を振って刹那と共にエヴァの家を後にした。
「明日菜、晩御飯食べていくだろ。今準備するから少し待っていてくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
茶々丸はエヴァと明日菜、二階から降りてきた葉加瀬にお茶を入れてから士郎を手伝う為に再びキッチンへと向かう。ふと、葉加瀬はそんな茶々丸の後姿を興味深そうに見送っていた。 しばらくの後、いい匂いをさせた料理を持って士郎と茶々丸が戻ってきた。そして士郎に今日の日中あった、ネギが自分の事を関係ないから関わるなと拒否された事を詳しく説明した。
「そういうことだったんですねー」
「……どう思っていたの?」
なるほどなるほどと頷く葉加瀬に明日菜が怪訝そうに問いかけた。
「いえー、原因はパイパンかなーって」
「ちょっ、ハカセちゃん!」
「違うのですか?」
「茶々丸さんも真面目な顔して尋ねないでっ!」
「いえ、刹那さんも同意見でしたが?」
「刹那さんまで……」
そこでとうとうテーブルに突っ伏してしまった感情多彩な明日菜に、士郎は思わず笑いそうになるがそれを何とかかみ殺す。エヴァはというといい酒の肴だとばかりにくっくっくと遠慮なく笑っていた。 ふと、何かを思い出したのか明日菜がゆっくりと起き上がって士郎を見た。
「……そういえば夕映ちゃんにも同じような事言ったんだって?」
「パイパンか?」
「ちょっ、エヴァちゃんいい加減そこから離れてよっ!」
チャチャゼロもケケケと笑い始めるが明日菜は無視をして空気を戻す為に咳払いを一つした。
「えっと、ほら夕映ちゃんに魔法と関わるなとか、本屋ちゃんだけいいとか、きつい事言ったでしょ。落ち込んでたよ、夕映ちゃん」
明日菜の言葉に士郎は「……そうか」と頷いただけだった。
そんな士郎に明日菜は眉を吊り上げる。
「そうかって、ほらなんか言うことあるでしょ。悪かっただとか、ごめんなさいしないとだめとか」
「悪いが意見を変える気はない。別に夕映だけでなく、宮崎も、明日菜も魔法に関わって欲しくないと思っている」
士郎は真剣な顔でそう答えると明日菜は「そんな―」と食い下がろうとしたが、その前に士郎が再び口を開いた。
「俺が本格的にこっちの世界に入り込んだ事件があったんだ」
「え?」
士郎の唐突な言葉に、明日菜は不思議そうに士郎の顔を見上げた。
「どういうこと? ネギみたいに魔法学校とかじゃなくて?」
士郎が異世界の魔術師である事を知らない明日菜の言葉に苦笑いを浮かべて、士郎は話を続ける。
「俺の使うのはネギ君の魔法とは種類が違う、魔法と陰陽術の違いと思ってくれればいいさ」
士郎は軽く言ったつもりだったが、明日菜は思いの他よく分からないと言った様子で小首を傾げていた。
「いや、そんな悩まなくていい。ただエヴァやネギ君が使うものとだけ分かれば」
「……うん、そういうことなら大丈夫」
「便宜的に魔法じゃなくて魔術と呼ばせてもらうが、俺の魔術は同じ魔術師だった親父から頼みこんで教えてもらったものなんだけどさ。教えてもらったのは親父が死ぬまでのほんの数年、基礎の基礎でしかも結果的に間違ったものを」
「……えっ、間違っていたの?」
明日菜は死んだという事にピクリと反応していたが、士郎はそれには言及せずに明日菜のもっともな疑問に頷いていた。
「ああ、親父は多分魔術の世界に深入りさせたくなかったのか、直ぐ諦めると思ってたんだと思う。俺の使う魔術はリスクが伴うし、魔術の世界がどういうものか分かっていたからさ。でも、俺は馬鹿の一つ覚えで、その間違った方法でずっと、それも高校二年になるまでそれを続けてたのさ」
「えっと、それで強くなったの?」
「いや全然弱かった。使える魔術は二つだけ、それも著しく成功率が低くて。桜咲やネギ君は言うに及ばず、多分今の明日菜よりも弱かったんじゃないかな?」
「えっ!」
修学旅行でもネギの弟子入りの時にも問答無用で強かった光景を思いだし、士郎の言葉が信じられなくて明日菜は目を丸くして絶句した。明日菜の驚いている様子に士郎も昔の自分を思い出して苦笑いを浮かべる。
「話を戻すが俺が魔術の世界にのめり込むようになった事件、明日菜で言うところのエヴァの事件だな」
明日菜は士郎の言葉を受けて「初めて魔法と関わった事件……」とポツリと呟いた。
「あれは高校二年の冬。表向きガス漏れによる昏睡などの兆候はもう既に起こっていたが、俺が直接関わったきっかけは弓道場で弓の手入れをして遅くなった帰り、それに遭遇した事だった」
「それって……?」
「最上級の使い魔、いや明日菜には従者と言った方がいいか、その従者による殺し合い。そしてその相手に俺は察知され、目撃者を排除するという名目で心臓を槍で突かれた」
士郎はそう言って心臓のある場所をトントンと軽く叩いた。そして明日菜は士郎が言ってのけた内容に完全に絶句した。
「ちょっ、え、心臓を突かれたって大丈夫だったの?」
「まぁ、死ぬ直前で助けられて何とか一命は取り留めたんだけどな。
その時の俺は何が起こっているのか理解できずに、そのままわけも分からず家に帰ったんだ。だが、殺したはずの相手が生きていると知られて再度襲撃された」
「ちょっと、まずいじゃないですか!」
テーブルを叩いていきり立つ明日菜に、士郎は苦笑いを浮かべてしまう。
「ああ。それで俺は土壇場で相手と同種の従者を召喚して何とか追い払ったのさ。それが全ての始まり、と言ってもいいのかもな」
「……なんかご都合主義ね、さっきは殺されかけたっていうのに」
明日菜のもっともといえばもっともな言葉に、士郎は苦笑いを深めてそのご都合主義の内訳を説明する。
「武器を取ろうとして逃げ込んだ先に召喚陣が敷かれていた事と、俺に従者を召喚する資格があった事で九死に一生を得たんだ。まあ、偶発的で色々と問題があったんだけどな」
「……資格とか最上級の従者とか何が起こってたんですか?」
「七人の魔術師と七人の従者による、願いが何でもかなう魔法の道具の争奪戦、最後の一組になるまでの殺し合い」
淡々と出た、殺し合いという言葉に明日菜はごくりと息を飲んだ。
「で、でも魔法使いって世のため人のためって!」
「まあ、私利私欲の魔術師が集まったと考えてくれ。俺の場合は巻き込まれたって形になったんだけどな」
「他の魔法使いが止めたりしなかったの?」
「……そういうのはなかったな」
止めると言う明日菜の言葉に、士郎はこの世界に来てから何度となく感じた温度差に思わず苦笑いを浮かべた。
「そ、それで結局最後はどうなったんですか?」
士郎はそうだなと前置きを置いて、少し真剣な表情で口を開いた。
「従者が実は八人いたとか、俺の従者が奪われたりと色々あったんだが。他のマスターと協力したりして、何とか最後まで生き残る事が出来た」
「…………」
そっけない事実の羅列だったが、その士郎の言葉と表情に、明日菜は深い万感の思いを感じてただ黙って士郎を見た。
「……それで、なんでもかなう魔法の道具はどうなったの?」
「…………中身は、呪いで満たされた紛い物だった。だから、最後に破壊した」
「はぁ?」
殺し合いをしてまで奪い合った果ての事実に、明日菜は絶句した。
「ただの害悪を撒き散らすものでしかなくなっていてな」
「それじゃあ、何の為に士郎先生が傷を負ったのか分からないじゃない」
苦笑いしながら喋る士郎に明日菜は理不尽が許せなくて吼えた。そしてそんな様子に、エヴァがポツリと口を開いた。
「それで何人ぐらい死んだんだ?」
「えっ?」
今まで完全に聞き手に回っていたエヴァがお茶をすすりながら士郎に尋ねた、その質問の内容に驚く明日菜を無視して。
「そうだな、分かっているだけで数人。もしかしたら俺の知らないところで犠牲者が出ていたのかもしれない……」
「そ、それって! 人殺しじゃない。警察はッ!」
「バカか、貴様。魔法使いを律する事が出来るのは同じ世界に住むものだけだ。警察なんぞクソの役にも立たんぞ」
いきり立つ明日菜とは違って、エヴァは冷静に言葉を返して、この世界の真実の一面を投げかけ、再びお茶を一口含んだ。
「で、でも……」
「一応、抑制機構のようなものはあるんだろ、エヴァ?」
「ま、そうだな。タカミチのヤツが外に出かけるのもそんなんだからな」
しゅんと項垂れる明日菜に、士郎はゆっくりと丁寧に諭すように言葉を紡ぐ。
「魔術との関わり方は運が悪ければすぐに死に繋がる。俺は魔術と言うもの知っていて運が良かった方だと思う。一方的に魔術に関わって命を落とした事例を何度となく見てきた。だからあまり不用意に魔法に関わって欲しくないんだ」
「…………」
明日菜は士郎の言葉を聞いて黙り込んでしまった。だが――
「……でも」
士郎は俯きながら呟いた明日菜の言葉に耳を傾け、その意志を聞こうとする。
「でも、私は、士郎先生やエヴァちゃんよりも全然弱いけど、けどさ、ネギのこと心配なのよ。だからネギのこと守れるように、パートナーとして見て欲しくて……」
「……そうか」
士郎は明日菜の言葉を微笑みながら聞いて、エヴァはふふんと鼻を鳴らして耳を傾けていた。
「だから、士郎先生の忠告には従えない。心配してくれるのは嬉しいけど、私は魔法の世界に、ネギに関わっていくと思う」
明日菜は俯いていた顔をいつの間にか上げて、真っ直ぐ士郎を見る。
「きっと士郎先生は私を心配して言ってくれてるんだと思う。でも、私バカだから前に進むしか出来ない。ごめん士郎先生」
「いや、いいさ」
あっさりと頷いてしまった士郎に明日菜は不思議そうな視線を向ける。そんな明日菜に気が付いて士郎は再び口を開いた。
「明日菜の場合、少し事情が違うからな」
「え、違うって。私なんかあったっけ?」
「おい、士郎、こんなバカなんぞ放って置けばいいんじゃないか?」
「ちょっと、エヴァちゃん!」
ふんと鼻を鳴らしてバカにするエヴァと、それに怒る明日菜の掛け合いに苦笑いしつつ、士郎は口を開く。
「魔法無効化能力の事だ。特異な能力は異端と同義でもあるし、その能力を狙ってくる者がいないとも限らないしな。それに巻き込まれるか、それとも自分から進むか……。明日菜は進むんだろ?」
微笑みながら言った士郎の台詞に、明日菜は虚を衝かれたように口を開けてぽかんとするが、一瞬後には決意を秘めた目で士郎を見返し、「もちろん!」と満面の笑みを浮かべながら士郎の言葉に返答した。
「麻帆良にいる間は、学園長を始めとした魔法先生が守るだろうし、ネギ君もきっと明日菜の事を守ろうとするだろう。力になれる事があるなら俺のとこでもいいしな、一応明日菜の副担任でもあるんだし」
「はいッ! ……はぁ、それにしても士郎先生はしっかり先生してるのに、まったくあのガキは」
元気よく頷いた後に、明日菜はネギの事を思い出して拳を握り締めてふるふると震えた。
「っと、そういえば夕映ちゃん士郎先生と契約してるんだよね? 魔法と関わらせたくないなら契約解除とかしないの? 出来るかどうかわかんないけど」
明日菜のふと沸いた疑問に士郎はゆっくりと頭を振った。
「……いや、何か動きがあるまではとりあえずこのままで行くつもりだ」
「どうしてって聞いていいのかな?」
「このまま魔法に近づかないでくれればいいんだが、もしもの時の緊急避難にな」
「……危険なとこへ行ったりしたら強制召喚するって事?」
さっきネギに無理やり呼び出された事を思い出して、暗くなりながらも明日菜は口にする。
「それもそうだが、夕映を諦めさせる為の要因のひとつとしてだな。それに魔法の事を知ったばかりの現状で、俺との契約を断ち切ったとしても一人で突き進むかもしれない。だったら何かしらの繋がりがあった方がいいからな」
「なるほど。ちゃんと考えているんだ。ネギとは大違い、やっぱ大人は違う」
「買い被りすぎだよ」
明日菜の称賛を、士郎は苦笑しながら否定した。
「ネギ君はネギ君なりに、みんなを守ろうと必死に足掻いている最中なんだろうさ。空回りすることもあるだろうけど、そこは明日菜が支えてやってくれ」
「……むぅ、士郎先生は甘いなぁ」
明日菜は自分の疑問や胸のつかえが落ち着いたのか、士郎の作った食事をおいしそうにかきこみ始めた。
「もうネギ君と仲直りできるか?」
その士郎の一言で、ピタリと明日菜の箸が止まった。
「……まだ許してやんない」
相談を始めた時とは違ったどこか拗ねたような明日菜の様子に、士郎は苦笑いしながら、ただそうかと頷いただけだった。