正義の味方と悪い魔法使い   作:ヒフミくろねこ

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「……ところで話は変わりますが、折り入ってネギ先生に相談があるのです」

 

あやかに南の島に招待されて、未だに明日菜と仲直りしていないネギに、その時の会話を聞きながら明日菜が怒ってしまった理由を説明した後、夕映が決意を秘めた様子でそうネギに切り出した。

 

「相談、ですか?」

 

なんだろうと疑問に思うネギを余所に、夕映とのどかが顔を合わせて頷き合う。

 

「あの、その。ネギ先生、私たちも……魔法使いになれないものでしょうか?」

 

「……へ?」

 

ネギは一瞬呆然として、事の重大さに気がついた。

 

「ええーー魔法使いに!?」

 

「が、がんばって勉強します……」

 

「やはり無理ですか。一般人ではダメ……とか?」

 

「いえっ……必ずしもそうではないですが……」

 

殊勝な心がけの二人にネギは言葉を濁すが、そこにぐいっと夕映が踏み込んでくる。

 

「では是非!」

 

「ダメですよっ。アスナさんのこともそうですけど、無関係なあなた達生徒を危険な目に遭わせるわけにはいきません。士郎さんにきっぱり言われてるんですから!」

 

「ええ、士郎先生は不必要に魔法の世界に関わるなと怒られてしまいました。ですけど私たちは危険と冒険に満ちた『ファンタジーな世界』に足を踏み入れる決意をしたのです。あのドラゴンを倒すのを全部先生達に任せるのもムシがいい話ですし……。私たちも何か力になりたいんです……」

 

ぐっと力を込めて力説する夕映にネギもどういっていいものかと言いよどむ。

 

「夕映さん、のどかさん……。で、でも僕も魔法学校卒業したばかりなので……」

 

「それともう一つ。ネギ先生がよろしければですが……。私もネギ先生と仮契約というヤツをさせて頂けませんか?」

 

一瞬、夕映の言葉にきょとんとするネギだったが、そのすぐ後にその事実に大声を上げてしまう。

 

「えっ、ええ~~っ! 仮契約!?」

 

「ええ、戦力は多い方が良いかと。それに仮契約をしてしまえば、私とネギ先生の問題になって士郎さんも口出しできないはずです! ……どうかしましたか?」

 

顔赤いですよと言う夕映の言葉にネギはあわわと慌ててしまう。

そしてそんなネギ達のところにやっほーと朝倉がやって来た。

 

「何の話してるんだい?」

 

「実はよ、夕映の姉貴が兄貴と仮契約したいっつってよ……」

 

「へー。そーそー仮契約するともれなく一人に一つ面白アイテムがついてくるんだよね。私も何か欲しかったんだよなー」

 

そう言いながら朝倉は怪しくネギに迫る。

そんな様子を夕映とのどかが不思議そうに見ているのに気づいて、朝倉は仮契約がキスをすることだと知らないのかと思って夕映にそっと耳打ちをする。

 

「いいのかい、ゆえっち、仮契約の儀式ってネギ先生とキスするんだよん?」

 

「……え!?」

 

そこで朝倉は耳を放し、でもさと前置きをおいて夕映にとっての爆弾発言を投下した。

 

「ゆえっちもう士郎先生と仮契約してるじゃん。カード持ってるでしょ?」

 

「……え゛っ、ええっ!?」

 

修学旅行で貰ったヤツという朝倉の言葉に、夕映は仮契約がキスと聞いた時以上に動揺してしまう。

 

「あっ、ダメですよ。士郎先生から夕映さんには絶対に話さないでくれって頼まれてたじゃないですかっ!」

 

「ほら、話しちゃったものはしょーがないじゃん」

 

「旦那は魔力があるのに魔法はつかえねーとかいってたけどよ、従者が一人もいないつーのはな」

 

「あ、朝倉さん、カモくん士郎さんに怒られちゃいますよっ」

 

ネギが慌てているすぐ横では、思いがけない事実を知って夕映は呆然と立ち尽くしていた。

 

「私が、士郎さんの従者……」と呟きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

南の島で悲喜交々な様子を見せている頃。

学園長に呼ばれていると言う理由で南の島には行かなかった士郎は、一人麻帆良学園の学園長室の前へと来ていた。

失礼しますとノックをして入室すると、そこには学園長の他に予想外の人物がいた。

 

「どうも神鳴流です~~」

 

「月詠?」

 

士郎はにっこり笑ってひらひらと手を振る月詠を見てから学園長へと視線を移す。どういう事ですかと。

 

「西との歩み寄りの一環じゃよ」

 

「京都での件で、ですか?」

 

「ふむ、まだこちらへの嫌悪感は完全には拭えてなくてのう。繋がりの深い神鳴流の人間からという事になって……。まぁ、彼女本人がこちらに来たがったのが一番の理由なんじゃが」

 

「……そうですか」

 

「中等部二年に転入で、士郎君とは授業で会うことは無いのじゃが、何かと気を遣ってやって欲しくてのう」

 

「それは構いませんが……」

 

「士郎はん、よろしゅう」

 

「ああ。よろしくな月詠」

 

ペコリと頭を下げる月詠。

 

「ふぉっふぉっふぉ、君の方からネギ君たちにそれとなく伝えて欲しくての。頼んだぞ士郎先生」

 

自分でネギに話すのが嫌なんじゃないのかと思ったりするものの、士郎は学園長の言葉に頷き、当初の目的である書類の詰まった封筒を受け取り、月詠と一緒に学園長室から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎はん、これから暇ですか~?」

 

こっちの世界での身分証となる書類など確認してると、すぐ隣でにこにこしている月詠が士郎にそう尋ねてきた。

 

「いや、大丈夫だけど……月詠はこっちに来たばかりなのか? 何か手伝う事があるなら手を貸すが……」

 

まっていましたとばかりにパンと手を叩き月詠は満面の笑みを浮かべた。

 

「お~さすが士郎はん。荷解き手伝ってくれはるんやな~」

 

それじゃあ行きますえ~と言って、士郎の返答も聞かずに腕を絡めて引っ張るようにして歩き出した。

士郎は仕方ないと苦笑いしつつも月詠の好きなようにさせていた。

ふと、歩き出しから暫く経った時、とある事に気づいて月詠に尋ねた。

 

「そういえば月詠、どこに住むんだ?」

 

「もうすぐ見えてきますえ~。士郎はんあれです~」

 

くすりと笑って月詠が示した先は麻帆良の学生寮。

 

「学生寮か、それもそうか……」

 

自分の生徒達の大半が寮である事を思い出して、京都から一人来た月詠なら当然ここに入寮するはずだなと思った。

だが、そこまで考えが到った時、「ん?」と眉をひそめて一つの問題点がある事に気が付いた。

 

「……ちょっと待て月詠、ここは女子寮だぞ」

 

「そうですな~。ほな行きますえ~」

 

躊躇する士郎を普通の女子中学生の膂力を遥かに超える力でずるずると引きずって、寮内へと強引に入っていく月詠。

だが入り口すぐのセントラルホールで士郎は月詠を抱えて無理やり止まった。

 

「おろ?」

 

月詠は宙に浮いた事に小首を傾げ、不思議そうに士郎を見上げる。

そして全く分かっていない月詠に士郎は深い溜息をついて何とか説得しようとする。

 

「だから、女子寮に俺が入るのはまずいだろ?」

 

「きっと大丈夫です~。士郎はん先生やろ?」

 

月詠は士郎の腕からトンと降りて、なんでもない事ようにくすりと笑った。

 

「注意されたらでいいんえ~。ほな行きますえ~」

 

渋る士郎を月詠は再び引きずってフロアーを上がっていく。

そして士郎が注意される事もなく、自分のクラスの生徒とも会うこともなく、二人は一つの部屋の前で止まった。

 

「ただいま戻りました~。お客さん連れて来たえ~」

 

部屋の奥からおかえりなさいと声をかけてきた少女が、士郎の姿を見て固まってしまった。

 

「士郎はん、こちら一緒の部屋の愛衣はんや」

 

月詠は固まったままのルームメイト、愛衣に構わずに士郎に紹介をする。

そして次に愛衣に士郎を紹介しようとした時、愛衣が素っ頓狂な声を上げた。

 

「はわわわ、え、衛宮先生!? つ、月詠さんどうして衛宮先生が!?」

 

くいくいと月詠の袖を引っ張りながら愛衣がおどおどしながらも尋ねるが、尋ねられた方の月詠はきょとんとしてなんでもないような事のようにあっさりと口にする。

 

「私の知り合いです~」

 

「……やっぱり女子寮に俺がいるのはまずいのか?」

 

眉を顰めながら呟く士郎に愛衣は慌てて首を振った。

 

「あ、いえ、驚いちゃって。先生ですし、一人で出歩かなければ大丈夫だと思いますよ?あ、えっと、佐倉愛衣です。ど、どうぞ入ってください」

 

愛衣は少しギクシャクしながらも士郎を中に招き入れる。

そしてお茶入れてきますと言ってそそくさとキッチンへと向かった。

月詠はそんな愛衣の後ろを不思議そうにしながらポツリと口を開いた。

 

「士郎はんは有名なん~? 愛衣はん、ウチと一緒のクラスなら授業は受けてないですよね~」

 

「いや、これでも一応教師だし、新任だしな。知っていてもおかしくはないだろう」

 

士郎の言葉を聞いても月詠はどこか納得できないものを感じてうーんと唸りながら小首を傾げた。

 

士郎と月詠がそんな会話をしていると、お盆にコップを乗せた愛衣が、お茶をこぼさない様にしながらも急いで戻ってきた。

 

「ど、どうぞお茶です」

 

まだ緊張しているのか、若干震えながらもコップを置く愛衣に士郎は苦笑いを浮かべる。

 

「今は教師とか気にしなくていいぞ。佐倉……愛衣は俺の生徒じゃないし、俺は月詠の知り合いとして来ているんだからさ」

 

はわわわわと慌てる愛衣に士郎は、どうしたんだと小首を傾げた。

 

「士郎はんいきなり名前を呼ぶなんてやりはるね~」

 

「……馴れ馴れしいか? 嫌なら佐倉って呼ぶが」

 

士郎は一瞬月詠の言葉に一理あるなと思い、愛衣に尋ねる。

 

「あ、いえ、別にいいですけど、どうしてかなって。あ、話したくなかったらいいんです、えっと、ごめんなさい」

 

相変わらずな愛衣の様子に士郎は苦笑いを浮かべながらも、懐かしむように口を開いた。

 

「特にこだわりとかはないんだけどな。実家での親友の妹なんだが、桜って名前の妹分がいてな、それでなんとなくだよ」

 

「妹分、ですか?」

 

士郎の言葉に目を丸くする愛衣に、士郎は「ああ」と頷く。

 

「高校の時にちょっと怪我をしてな。一人暮らしだった俺に、当時まだ中学生だった桜が身の回りの世話をしてくれてさ。それから朝、夕と一緒にご飯を食べるのが習慣となって、半分家族みたいな付き合いになったんだ」

 

だから妹分なんだよと説明する士郎に愛衣は「へー」と関心する。

そして黙って聞いていた月詠はふむふむと頷き、ふと口を開いた。

 

「……一人暮らしの家に二人っきり。その桜はんは通い妻でしたか~?」

 

「へ?」

 

月詠のとんでもない言葉に愛衣はきょとんとするが、士郎は飲んでいたお茶を吹くのだけは堪えたが、咽て激しく咳き込んだ。

 

「……い、いや、別に通い妻とかじゃないぞ。それに二人っきりじゃなくて、俺の保護者みたいな姉のような人が何時もいたしな」

 

どこか歯切れの悪い士郎に月詠は半信半疑だったが、愛衣は士郎の言葉に引っかかるものを感じてふと小首を捻った。

 

「衛宮先生、その保護者の人が身の周りの世話とかしなかったんですか?」

 

愛衣の至極まっとうな疑問に、士郎は腕を組んで難しい顔をして考え込んでしまった。

 

「衛宮先生?」

 

不審に思って少し士郎に近づいた愛衣は「藤ねぇが俺の身の回りの世話……」と言う士郎の呟きが聞こえ、その上何か怖いものを想像したのか、身震いした士郎を見て、愛衣は聞いてはいけないことだったと直感した。

 

「あ、あの! 衛宮先生その事はもういいですから……」

 

「あ、ああ、そうか、すまんな」

 

「いえいえ、私の方こそ」

 

ぺこぺこと頭を下げあう士郎と愛衣を見て、月詠はさっきから引っかかっていた事を愛衣へと尋ねた。

 

「愛衣はん愛衣はん、士郎はんは有名なん?」

 

「えっと、そうですね。衛宮先生は結構有名ですよ?」

 

「そう、なのか?」

 

予想外だとばかりに眉をひそめる士郎に愛衣はハイと頷いた。

 

「子供先生の助手みたいな、という事も有名である事に拍車をかけているんですけど。衛宮先生は困っている子がいると放って置けないというか、手伝ったり助けてくれたりするから結構な人気なんですよ?」

 

よく分かっていなさそうな士郎の顔に愛衣はくすりと笑って言葉を続ける。

 

「……私も一度美化委員の仕事を手伝ってもらった事があるんですよ。先生は覚えていないみたいですけど」

 

「む、そうなのか?」

 

「はい」

 

まだ愛衣の言葉が信じられないのか士郎はむむむと腕を組んで唸ってしまう。

そんな士郎が面白くて愛衣は小さく、くすりと笑みを漏らした。

 

「そういえば衛宮先生はどんな用事で来たんですか?」

 

何となく聞いた愛衣の言葉に、士郎ははっとして組んでいた腕を解いて月詠を見た。

視線を向けられた月詠は「照れるえ~」と漏らしてわざとらしくぽっと顔を赤くした。

 

「……いや、月詠の荷解きの手伝いに来たんだが」

 

士郎はどこか疲れたように言いながら部屋の中を見回す。

確かに荷物の詰められたダンボールがあるのだが、既に半分ほど梱包を解かれていた。

 

「私も手伝いますけど、すぐに終わりそうですね……」

 

愛衣も士郎と同じ方へ視線を向けてそう呟いたが、何かを思いついたのか手をパンと合わせて士郎へと振り返った。

 

「そうです。月詠さんの歓迎会をしませんか?」

 

「おろ?」

 

「そうだな、それがいい」

 

きょとんとする月詠を置き去りにして、頷きあった士郎と愛衣はさくさくと話を進めていく。

 

「今から仕込みに入るから色々できるな……」

 

「え? 衛宮先生料理できるんですか?」

 

「ああ、これでもちょっとしたものだぞ」

 

「お姉さまも呼んじゃいましょう」

 

「お姉さま?」

 

「あ、別に実の姉とかじゃなくて、色々とお世話になっている人なんです」

 

士郎もネギ達に声を掛けようと一瞬思ったものの、今は麻帆良にいないと思い直し、エヴァに声を掛けても拒否するだろうしなと首を傾げる。

そしてあれこれと歓迎会の事に思考を巡らす二人に月詠が唐突に突撃してきた。

 

「うおっ」

 

「きゃっ」

 

二人の驚きも気にせずに月詠は二人まとめて抱きついて満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとな~、士郎はん、愛衣はん。ウチはその間ちゃっちゃちゃと残りの荷物片付けてるえ~」

 

そう言って二人から離れると、月詠はひょいひょいと重そうなダンボール箱を持って、鼻歌混じりに自分のスペースへと歩いていった。

ご機嫌な月詠に士郎と愛衣は顔を見合わせて笑うと、これからの予定を話し合う。

 

「まずは買出しだな」

 

「はい。お姉さまに、まほらストアで待っていてもらうように電話しますね」

 

士郎は携帯を取り出して早速連絡を取る愛衣を横目に、月詠の様子を見に行く。

 

「士郎はん、まだいたんですなー」

 

「ああ、これから出かけてくる。……やっぱり武器とかも持ってきているんだよな」

 

士郎は月詠の服の不自然なふくらみを見ながら、愛衣に聞こえないように小声で月詠に尋ねる。

そんな士郎の視線に気づいた月詠は、自分を抱くようにしながら身をくねらせた。

 

「ほんま目ざといですえ~士郎はん。色々と持ってきているんですけど~士郎はんたちが買い物行ってる間に、整理しておきます~」

 

「ああ、それがいいだろう」

 

二人して小声で話していると電話を掛け終わった愛衣がやって来た。

 

「衛宮先生ここにいたんですか、お姉さま、すぐ来てくれるそうです。それでは行きましょう衛宮先生」

 

「ああ、分かった」

 

「じゃあ、行って来るね月詠さん」

 

「お早いお帰り待ってるえ~」

 

「ああ、なるべく早く戻ってくるな」

 

手をひらひらと振って月詠は士郎と愛衣を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出た士郎と愛衣はそのまま寮を出ようとしたが、入り口の公衆電話を見つけて士郎がふと立ち止まった。

 

「衛宮先生?」

 

「ちょっと、電話してきていいか?」

 

「あ、はいいいですよ。私、玄関でまっていますね」

 

愛衣の言葉に士郎はすまんと詫びて、愛衣はいえいえと首を振りながら玄関へと向かった。

士郎は愛衣の後ろ姿を横目に見ながら茶々丸の携帯へと電話を掛ける。

そして数コールの後茶々丸が出た。

 

『もしもし?』

 

「あ、茶々丸か?」

 

『士郎さん? どうかされましたか?』

 

不思議そうな声をする茶々丸に士郎は用件を切り出した。

 

「月詠――京都で戦った神鳴流の剣士の子なんだが、西のからの歩み寄りと言う事で麻帆良に転入してきてさ。それで今夜、月詠のルームメイトの子とかと歓迎会をするから夕食は作れないと思ってな。エヴァは来ないって言いそうだが、茶々丸はどうする?」

 

『………………』

 

「茶々丸?」

 

『………………』

 

士郎は電話から茶々丸の返答が帰ってこない事に首を傾げる。

電話の向こうから、エヴァの「茶々丸、お茶をくれ」と言う声が漏れて聞こえる事から、もしかして携帯を置いてお茶を淹れているかと首を捻る。

 

「おーい、茶々丸」

 

『……はい、聞こえていますよ、士郎さん』

 

どこか何時もよりどんよりとしているような茶々丸の声に、士郎はまたもや首を捻る。さっきはもう少し明るかったような気がしたのに、と。

 

「それで、茶々丸はどうする?」

 

『……今日は一人でマスターの食事を作りますので、士郎さんは楽しんできてください』

 

「すまないな茶々丸」

 

『……いえ。用件はそれだけですか?』

 

「ああ、夜には帰るから」

 

『はい、それでは』

 

そして士郎は最後に挨拶を交わして電話を切った。

士郎はふと「茶々丸、どうかしたのだろうか?」と漏らすが、愛衣が待っている事を思い出して足早に愛衣が待っている玄関へと向かい、二人してまほらストアへと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お姉さまー」

 

「メイ、待っていましたわ」

 

まほらストアの前に立っていた金髪の制服姿をした女の子を見つけると愛衣は駆け出し、士郎はゆっくりと歩み寄っていく。

そして近づいてくる士郎に気が付いたのか恭しく頭を下げた。

 

「初めまして、あなたが衛宮先生ですか。私は聖ウルスラ女子高等学校2年の高音・D・グッドマンですわ」

 

「衛宮士郎、一応英語の教師をしてる」

 

「メイからお噂は伺っていますわ」

 

「はわわわ、お、お姉さま!」

 

愛衣が慌てて高音の口を塞ごうとするが高音はそれをさらりとかわす。

そんな二人のじゃれあいに士郎は微笑ましいものを感じて思わず笑みを漏らした。

 

「お姉さま、笑われてるじゃないですかぁ」

 

「メイ、気にしては駄目ですよ。衛宮先生、早く買い物を済ませましょうか?」

 

「そうだな」

 

高音は士郎を促すようにして歩き出すと、愛衣が慌てて二人に続いて入って行った。

士郎が籠を持ちながら高音と愛衣がついて回るような形となり、途中愛衣に部屋にある調味料を聞きながら店内を歩いていく。

 

「和食メインで行くか、それとも皆でつまめるように中華で行くか……愛衣と高音は何か食べられないものとかはあるか?」

 

鮮魚コーナーで魚を物色していた士郎は、ふと両脇の二人へと問いかける。

 

「あ、はい、私は大丈夫ですよ」

 

「私もですわ。それにしても衛宮先生は料理が得意なのですか?」

 

士郎の食材の選び方や買い物の仕方に感心しながら高音はそう尋ねていた。

 

「数少ない趣味だからな。一応一番得意なのは和食だけど、ブランクがあるからな」

 

「はぁ、ブランク、ですか?」

 

愛衣の怪訝そうな返事に士郎は苦笑いしながら、ああと頷く。

 

「いままでずっと外国にいてな。向こうじゃ和食用の食材が手に入りにくいからな、あっても割高だったりするし。逆に中華の食材は手に入りやすくてそっち方面はだいぶ腕が上がったかもしれないけどな」

 

そう言って士郎はまた苦笑いを浮かべた。

そんな士郎の言葉を聞いて、高音はふと疑問が浮かび上がって、小首を傾げながら士郎に尋ねていた。

 

「ねえ、衛宮先生、外国では何をされていたのですか? やはり語学留学?」

 

「確かに色々な言葉を覚えられたが、語学留学ではなかったな」

 

「では何をされて?」

 

高音の言葉に、士郎は昔を思い出して口を開いていた。

 

「一時期はNGOに所属して難民キャンプとかを回っていたな……」

 

「NGO……」

 

「NGO、ですか?」

 

どこか呆然とした様子の高音と愛衣に士郎は頷く。

 

「子供達に読み書きを教えたり、炊き出しをしたりな」

 

士郎は遠い思い出を楽しそうに話してるが、高音と愛衣はその中にどこか悲しそうな色を感じて、自分たちには分からない過酷な何かがあったんだろうなと思うしかなかった。

 

「……衛宮先生はどうしてそのような事を? 普通の人ならまずしないことでは?」

 

どこか真剣な様子の高音に士郎も倣い、真面目な様子で口を開いた。

 

「……助けたかった、救いたかったからかな」

 

「それは……」

 

高音の呟きに士郎は苦笑いを浮かべて話を続ける。

 

「子供の頃から正義の味方になりたくてな。子供の頃から困っている人かがいると放って置けなくて……その思いでここまで来たからな」

 

士郎はどこか儚げに苦笑いを浮かべた。

そして士郎の話を聞いていた高音は俯きながら小刻みに震えていた。

 

「……お姉さま?」

 

「す、素晴らしいです、衛宮先生!」

 

感極まって目を潤ませた高音は士郎の両手を自分の手で包んでそう叫んでいた。

 

「世の為人の為、力ある者は力なき者の為にその力を使わねばならない、その事は充分心に留めておかなければなりません。私もこの学園での修行をしっかりと全うし、いずれはマギ――」

 

「わーわー、お、お姉さまっ!」

 

拳を握りこんで力説しだした高音を愛衣が慌ててそれを止める。

そして高音も自分が何を言いかけたのか気づくと、顔を真っ赤にさせて取り繕うように何度か咳払いをしだした。

 

「コホン……衛宮先生、私は貴方を尊敬します。何かお困りの事があったなら、この私、高音・D・グッドマンが力になりますわ」

 

「……そうか、ありがとうな」

 

高音の明け透けな言葉に士郎はどう反応していいか困ったが、何とか返答を返す。

そして士郎の言葉に高音は満面の笑みを浮かべて返事をして、次に愛衣へと向き直った。

 

「メイ、このような方と出会える機会をくれて、本当にありがとう」

 

「そ、そんな、お姉さま。そ、それより月詠さんの歓迎会のお買い物しないと」

 

ぎゅっと手を握られて感謝される愛衣は顔を赤くして慌ててしまう。

 

「そうだな、月詠も待っている事だし、早く買って戻ろうか」

 

二人の微笑ましい様子を見ながら士郎が愛衣の言葉に乗り、買い物へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりやす~」

 

スーパーの買い物袋をぶら下げながら、寮へと戻ってきた士郎たちを出迎えたのは、荷解きを終えて部屋の中を掃除していた月詠だった。

 

「貴方が愛衣のルームメイトの月詠さんね。私は高音・D・グッドマン、何か困った事があったら気兼ねなく声を掛けてくれていいですからね」

 

「おおきに~、高音はん~」

 

すっと手を差し伸べてきた高音の手を握り、月詠はその手の感触を楽しむようににぎにぎと握手を交わした。

 

「じゃあこれから仕込みに入るから、月詠達は休んでいていいぞ」

 

そういい残して、買ってきたものを持ちながらキッチンに行こうとした士郎だったが、月詠に服の袖を掴まれて止められてしまった。

 

「……月詠、どうかしたのか?」

 

「士郎はん、相変わらずいけずなお人やな~」

 

「そうですよぉ、衛宮先生ばっかりなんて駄目です」

 

「ええ、せっかくの月詠さんの歓迎会なのですから、私たちにも手伝わせてください」

 

一瞬、三人の剣幕に気圧された士郎だったが、三人の言い分ももっともだと思い直して、「それじゃあ一緒にやるか?」と言う士郎の言葉に月詠達は小さな歓声を上げた。

 

さほど広くないキッチンに、四人一斉に料理をするのはさすがに無理だったのでリビングのテーブルにシートを敷いて、士郎の指示の下、まるで料理教室様な調理風景だった。

途中、月詠の包丁捌きに愛衣と高音が感嘆の声を漏らしたり、愛衣が自分の部屋にこんなに調理用具があったかなぁと小首を傾げたり、高音がいい所を見せようとするが失敗してしまい月詠に慰められたりと、皆楽しみながらも料理が作られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウチの為に歓迎会を開いてもろうてありがとな~。ほな乾杯!」

 

月詠の音頭の下、お茶の入ったコップが打ち鳴らされあう。

そして自分たちで作った料理に舌鼓を打ちながら月詠の京都の話しや、麻帆良の話し、士郎と月詠の出会いを月詠が大袈裟に話して士郎が慌てたりと楽しい雰囲気で終始進んでいったが。

買ってきたお茶がなくなって士郎が席を外した頃、それは起こった。

 

「……お姉さま、何を飲んでいるのですか?」

 

やけにご機嫌にコクコクと飲み物を飲む高音に愛衣は不思議そうにそう尋ねていた。

 

「うふふ、メイ、これはなかなか美味しいですよ、飲んでみなさい」

 

「は、はい」

 

愛衣が高音からコップを受け取った時、キッチンから士郎が戻ってきた。

そしてやけにご機嫌な高音の顔を覗き込んだ。

 

「高音、顔赤くないか?」

 

「……いえー、そんな事はないはずですよ、うふふ」

 

士郎と話しながらも、高音は月詠からさりげなく受け取った液体を一気に嚥下していく。

 

「高音?」

 

「どうか、しましたかー、衛宮せんせー? ヒック」

 

「お、おいっ」

 

士郎は呂律の怪しくなってきた高音から、持っていたコップを引っ手繰ってそれを口に含む。

 

「これは、酒か?」

 

買い物をした時には酒類なんて一つもなかったのにと不思議に思って辺りを見渡すと、さりげなく一升瓶からコップに注いで、高音に渡している月詠と目が合った。

 

「どうかしたんのですか~」

 

「……月詠、それは何だ?」

 

「お米のお水です~」

 

全く悪びれた様子もなくえへへと笑う月詠を見て溜息をついてしまう。

 

「っと、おい、高音、そこまでにしておけっ」

 

士郎は月詠と問答をしている場合じゃないと思い直して、明らかにハイペースに飲んでいた高音からコップを取り上げる。

 

「あ……」

 

取り上げられたコップを視線で追っていた高音だったが、つつつーと潤んだ瞳で士郎を見上げながらしな垂れかかって行く。

 

「高音、大丈夫か?」

 

「衛宮せんせー。私は、世の為人の為になるような、魔法使いになりたいの、です。衛宮、せんせーは力がないのに、えらいです。ですから、私も衛宮せんせー、みたいに、なりたい、です…………きゅう」

 

そこまで言うと力尽きたのか、高音はそのまま士郎に身を任せてくーくーと寝息を立てて眠ってしまった。

士郎は色々と聞いてはいけない事を聞いてしまった気もするが、何も言わず、高音をそっとソファーに横に寝かせて上げた。

そして士郎は高音の言葉を思い出しながら、ふっと笑みを漏らして高音の寝顔を見ていると、ふっと影がさした。

 

「おねえさま~、寝てしまったのですか~?」

 

「愛衣?」

 

士郎が振り返ると、そこには頭をふらふらさせた愛衣が立っていた。

そして手には透明な液体が入ったコップが。

 

「しまった、愛衣も飲まされていたのか……」

 

「なんでしゅか~?」

 

もう完全に呂律が回っていない愛衣からコップを取り上げると、そこに入っていた液体はお酒だと言う事を説明する。

 

「これおひゃけ、だったのですか~。なんかふわふわひますね~。おねえさま~、私も寝ますです~」

 

愛衣はふらふらと寝ている高音に近づいたと思ったら、そのまま重なるようにソファーにもぐりこんで高音と一緒に寝てしまった。

士郎はどこか微笑ましい様子に、嘆息気味な溜息をついてその場を離れた。

 

「あらあら、高音はんも愛衣はんも寝てしまったんですね~」

 

「……月詠のお酒でな」

 

「士郎はん、そんな褒めても何もでないえ~」

 

士郎の皮肉に全く悪びれた様子がない月詠に、士郎は溜息をついて隣に座った。

 

「どうぞ士郎はん~」

 

「……ああ」

 

お酌をしてくる月詠に士郎は一瞬何かを言おうとしたが、結局何も言わずそのままお酌を受けて口に含む。

 

「ふむ、なかなか美味しいな」

 

「はい~、士郎はんの為に買ってきたものですから~」

 

「ささ、お次を~」なんて進める月詠に、士郎は苦笑いをしながらもコップを空ける。

 

「……そういえば聞いていなかったが、月詠はどうして麻帆良に? 学園長の話だと歩み寄りは見せているが、未だに東西の仲はそれほどよくないという事だったはず」

 

「そうですな~、関東魔法協会側についた刹那センパイを裏切り者扱いするぐらいですから~。まぁ、ウチには関係あらへんけどな~」

 

月詠の裏切り者発言に士郎は眉を顰めるが、月詠はお酒をちびちびと飲みながら話を続ける。

 

「西の長からこのか様を守るように言われてますけど~刹那センパイが居ますしね~。少し小耳に挟んだんやけど~えらい強い拳銃使いのお姉さんや、中国拳法に忍者の人までいるらしいですね~」

 

士郎は月詠らしい言葉と、挙がった自分のクラスの生徒に苦笑いをしてしまう。

 

「それにな~」

 

「それに?」

 

「何よりも士郎はんが居るからやえ~」

 

「……俺が?」

 

士郎は月詠の言葉の意味がよく分からず怪訝な表情で月詠を見返すが、月詠はニコニコしながら「はい~」と嬉しそうに頷いた。

 

「あの時の戦いは結局ウチの負けでしたし~麻帆良に居れば試合できますから~。まあまあ~たまに打ち合いをしてくれればいいです~。同じ二刀使いですから~」

 

「む、まあ、練習相手ぐらいにはな……」

 

放っておくと手当たり次第に果し合いをしだしそうな月詠に、それだったらと渋々ながらも士郎は了承する。

 

「約束ですえ~」

 

「ああ」

 

確約を取り付けた月詠は、わーいと派手に喜んで士郎に抱きついてきた。

士郎はそんな子供っぽい様子に月詠の頭をぽんぽんと撫でてやった。

えへへと笑って月詠は士郎から離れるが、すぐ隣にちょこんと座った。

 

「士郎はん、気づいてますか~」

 

「ん? 愛衣たちの事か?」

 

月詠の視線が仲良く寝ている二人へと向けられている事に気づきながら士郎は問い返す。

 

「魔法使いの人ですね~」

 

「みたいだな……二人は隠したがっているみたいだけど」

 

月詠は士郎の話を聞いてきょとんと小首を傾げる。

 

「でも~、士郎はんは魔法先生とかいうのじゃないんや~?」

 

「俺の場合はなんと言うか、学園長に頼まれ事とかはされるが関東魔法協会に属してるわけじゃない……まぁ、客分みたいなものかな? 学園長の意図かも知れないが、あまり俺の話しは通ってないし、他の魔法生徒や魔法先生を正式に紹介された事もない。つい一ヶ月前に麻帆良に来たばかりだしな」

 

月詠は士郎の言葉が予想外だったのか感心したようにこくこくと頷く。

 

「そうなるとウチも同じになるんかなぁ~。愛衣はんたちが隠してるなら態々言う事もないですね~」

 

「折を見て話せばいいさ」

 

「ですね~」

 

二人して頷き会って、仲良く寝ている二人へと視線を向ける。

すると丁度図ったかのように愛衣がもぞもぞっと起き上がってきた。

 

「はえ?」

 

「愛衣はん、おはよう~」

 

「あ、あれ、私いつの間に寝てしまったんですかぁ?」

 

呆然としてきょろきょろとする愛衣に士郎は苦笑いをしてお茶を入れたコップを愛衣に手渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「月詠がいつの間にかお酒を混ぜていたみたいでな」

 

「お、お酒っ!」

 

愛衣は士郎の言葉ではわわわと慌てて、はっと気づき士郎の顔を見上げる。

士郎は愛衣の視線の意味に気づいて首を左右に振った。

 

「俺は一応教師だがたまに羽目を外すぐらいは大目に見るさ。まぁ、高音はちょっと飲みすぎかもしれないけどな……」

 

苦笑いする士郎の顔を見て、愛衣は安心したようにほっと胸を撫で下ろした。

 

「時間もそろそろいい頃合だし、片づけを始めるか」

 

「あ、私も手伝います」

 

「愛衣はまだ酒が抜けきってないだろ。もう少し休んでいるといいさ」

 

慌てて立ち上がってふら付く愛衣を支えて、ゆっくりと座らせながら士郎は首を振る。

 

「で、でも……」

 

「気にするな」

 

それでも渋る愛衣にひょいっと月詠が割って入ってくる。

 

「ウチが愛衣はんの分まで手伝うから休んでいてええよ~」

 

「月詠は大丈夫そうだな……」

 

明らかに愛衣よりも量を飲んでいるはずなのに、ほんのりと顔が赤い程度で足取りもしっかりしているのを見て士郎は溜息をつく。

 

「……じゃあ、月詠は余った料理にラップをして冷蔵庫へ入れてくれ。俺は食器を洗うから」

 

「了解や~」

 

それからは士郎と月詠のコンビによってあれよあれよという間にテーブルが片付けられていき、休みながら呆っと見ていた愛衣は「ほぇ~」と妙な声を出しながら感心していた。

全て片付いた頃には愛衣のお酒も大体抜けて、士郎を見送る為に寮の玄関には士郎と愛衣、それに月詠の三人の姿があった。

 

「今日は本当にありがとうございました。料理、楽しかったし美味しかったです。それにお姉さままでベッドに運んでもらちゃって……」

 

「まぁ、気にするな」

 

結局最後まで目を覚まさなかった高音を思い出して二人して苦笑いを浮かべる。

 

「ウチも楽しかったです~」

 

「月詠の歓迎会だったしな、楽しんでくれて何よりだ。俺の方こそお酒貰ったしな」

 

士郎はエヴァにお土産が出来るなと思いながら、月詠に風呂敷で包んだ一升瓶を掲げてみせる。

 

「いえいえ~」

 

「それじゃあ、学校でな」

 

「はい、衛宮先生お休みなさい」

 

「ほな、さいならです~。今度はウチが士郎はんのお家に行きますえ~、約束忘れへんでな~」

 

そんな月詠に士郎は苦笑いを浮かべて頷く。

そして最後に手を振って学生寮を後にする。

後ろで「約束ってなんですか?」とじゃれつきあう月詠と愛衣に微笑みながら。

 

 

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