幼馴染みと目指す冒険の旅【新しい天賦が目覚めたので、無双します】   作:なりちかてる

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第16話 深夜のおしゃべりって、なんだかどきどきするよね。

 それから、ぼくは自分に割り当てられた部屋へと引き上げていった。

 夕食は既に終え、あとは寝るだけだった。

 

 ぼくたちは、三人とも個室が与えられていた。

 しかも、そこそこの広さのある部屋だ。

 アカネは、三人同じ部屋でも——なんて言ってたけど、とんでもない!

 

 男女が同じ部屋ってのは、マズいでしょ、というのは表向きの理由。

 村では、アカネとほぼ、プライバシーもなく、過ごしていたのだから、この邸宅にいる間だけでも、個室で過ごしてみたい、って思ってしまのはしょうがないと思うんだよね。

 

 それにしても、来客用に個室があるのって、すごいんだなーって思っちゃう。

 いつか、ぼくもこんな大きい屋敷に住んでみたいな。

 

 部屋は、大きなクッションのよく効いたベッドに、衣裳棚、テーブルと椅子、ソファや壁画などがあり、これが本当に来客用の部屋なのか、信じられないくらいの立派な内装だった。

 部屋の奥の窓は全面がガラスで、開け閉めできるようになっている。

 その向こうはベランダで、夜空が広がっている。

 

 ぼくは、ベッドへと近づくと、サイドテーブルの上に置かれている、エーテル・リンケージと懐中時計を見下ろした。

 時計を取り上げてみると、塔のなかとは違い、きちんと時刻を刻んでいた。

 ロカルノ村で生活していた頃はもう、とっくに寝入っている時間だ。

 

 この部屋には、魔力で光を生み出す、魔道灯(プライマリア・ライト)が使われているので、今が夜という時間を忘れてしまいそうになる。

 魔道灯は、九曜の塔で発見されるドリフテッド・シングスからもたらされたもので、アリアンフロッドがいなかったら、おそらく、普及することはなかったのだろう。

 

 懐中時計は、ぼくとアカネにとって、とても大切なものだ。

 なにしろ、アカツキの形見の品なんだから。

 

 懐中時計は、もとは母親からアカツキへの贈り物だったみたい。

 アカツキは時間にルーズなのは、直らなかったけど、その懐中時計はずっと、大切にしていた。

 まぁ、時間にだらしないところは、アカネにもしっかりと引き継がれているんだけどね。

 

 本当ならば、この懐中時計は、本当の娘であるアカネが持つべきものなんだと思う。

 でも——アカネは受け取らなかった。

 遺言って言っていいのかわからないけど、アカツキが亡くなる直前、ぼくとアカネを呼び寄せて、言ったのだ。

 ジンライ、おまえにこの懐中時計を託す、と。

 

 あれは、ぼくがアカツキにはじめて、いつか、成長したらアリアンフロッドになりたい、と告げた時のことだった。

 それまで、ずっと肌身離さずに、身につけていた懐中時計を、父親はあっさりと、ぼくに手渡してきたのだ。

 

 託す——とは、どういう意味なんだろう?

 今、思い返してみても、わからないや。

 

 懐中時計は、表面に精巧な意匠が施され、高級なものだった。

 蓋を外すと、長針と短針、秒針が現れる。

 持ち主であるアカツキがいなくなっても、しっかりと時を刻み、今でも正確に時間を指し示している。

 

 懐中時計なんて、ほとんどの人は持ってはいない。

 村では、正確な時間なんて、測る必要はなかったし、ぼくたちだって、そんなに時計を必要とはしていない。

 ただ、形見として、大切にしているだけだ。

 

 そのアカツキだが、大災禍の夜に命を落とした。

 数年前、奈落の孔から異形のものが溢れ出す、という事件があり、アカツキはロカルノ村を守って、亡くなった。

 村を守り切り、朝を迎えようとする瞬間、ほんのちょっと気を緩めた時に、命を落としたのだ。

 あっけない——本当に、あっさりとした死だった。

 それもまた、アリアンフロッドとしての姿、ということなのだろう。

 

 強力な力を振るえば、その代償もまた、自分に戻ってくる。

 その覚悟はあるのか——それでもなお、アリアンフロッドになりたいのか、と懐中時計を通して告げられているように、ぼくには感じられた。

 

 ぱちん、と音をたてて、ぼくは懐中時計の蓋を閉ざした。

 身体は疲れ切っているので、今夜はぐっすり眠れそうな気がする。

 窓の向こうで、ひっそりと輝く星々の光を目にしながら、ぼくはカーテンを閉め切り、用意されていた寝間着に着替えた。

 魔道灯を消して、「おやすみ」と呟き、ふかふかのベッドに潜り込んだ。

 

 

 寝付きがいいのは、ぼくの自慢のひとつ、だった。

 ベッドで横になって、目を閉ざしたら、そのまま、朝になっていた、ということがほとんどだ。

 だから、目を覚ましても暗いままだった、というのはあまり経験がない。

 

 闇のなかで、瞬きをする。

 しんと、部屋のなかはもちろん、邸宅全体も静まりかえっている。

 寝返りを打ち、また、手足を伸ばして、ゆっくりと深呼吸をしてみる。

 が、妙に目が冴えてしまっていた。

 この分だと、寝られないかな?

 

 一応、目を閉ざし、数をかぞえてみる。

 百まで数えてから、ぼくは伸びをした。

 ため息をつくと、ベッドから降りた。

 今は、何時なんだろう?

 

 サイドテーブルの上の懐中時計を手に取る。

 時計はかっち、かっち、と正確に時を刻んでいる。

 夜中の三時過ぎ、か……。

 

 まだ、眠ろうとしたら、充分、時間はある。

 目を擦ると、ぼくは窓へと向かった。

 ガラスの戸を引き、ベランダへと出た。

 

 裸足の下で、ひんやりとした感覚が心地よい。

 足音を忍ばせて、夜気のなかに体をさらした。

 水の月の上旬——。

 

 春先としては、下着姿でいると、ちょっと肌寒い程度だ。

 少しくらい、風に当たるくらいなら、大丈夫だろう。

 

 ぼくは、視線を上へと向けた。

 空の中央を、白い帯状のものが、横切っていた。

 リングだ。

 大陸のどこからでも——ロカルノ村でも、そのリングは見ることが出来る。

 

 ぼくには、ただの空を横切る帯にしか見えないのだけど、偉い学者さんによると、それは大地をぐるりと取り巻いて、地平線の下でも円を描いているらしい。

 夜になると、そのリングからたまに、流れ星が落ちてきたりして、恋人と手を繋いで見ることが出来たら、ずっといっしょにいられる……みたいな伝説もあるらしい。

 

 アカネとチカは、そのうち、恋人と流れ星を見ることになるのだろうか。

 その時、ぼくはどうしているんだろう?

 

「こんばんはー、ジンくん。やっぱり、おねーさんがいないと眠れないのかなぁ?」

 アカネに、声をかけられた。

 なんとなく、気配は感じていたので、それほどびっくりはしなかった。

 このベランダは、ぼくとアカネ、チカの部屋と繋がっているので、別に不思議ではない。

 

「……そっちこそ。姉さんも、たぶん、寝られないんじゃないかなって思ったよ」

「えー、本当かなぁ。ジンくんって、そんなに察しがよかったっけ?」

 

 アカネの寝間着姿が、月の光に浮かび上がっている。

 なかなかのスタイルなので、ぼくはちょっと、どぎまぎしてしまう。

 見ないようにして、ベランダの柵まで歩いていった。

 

「こういう時、大人っていいよねー。寝られない時、お酒飲んじゃったりするんでしょ。執事さんに頼んだら、用意してくれるかな」

「それは、ダメでしょ。それに、こんな時間に起こしたら、かわいそうだよ」

 

 アカネがさらに、近づいてくる。

 背後に立った。

 アカネのほうが、ぼくよりまだまだ、背が高い。

 並んで立つと、ぼくの頭はアカネの胸くらいまでしか達しない。

 

「ちょ……姉さん」

「いいからー。こうしていると、リラックスできるでしょー」

 背後から、体を密着させてくる。

 

 当たっているんだけど——。

 その言葉を、ぼくは飲み込んだ。

 腕を伸ばし、柵の上に置いたぼくの掌の上に重ねてくる。

 

 ずっと前——ぼくがまだ、アカツキの家にやって来たばかりの頃だ。

 精神的に不安定なぼくに、アカネがこうして、背中から抱きつき、手を重ねてきたことを、思い出した。

 体温を感じると、なんだか、ほっとする。

 アカネに包まれていると、心が落ち着いてくるのだ。

 

 しばらくは、していなかったが、何だか、懐かしい——今日、殺されかけたことや、グリューンとの激しい戦闘、何度も迎えた死に戻りと激痛の記憶などは、まだ、身体のなかに刻まれてしまっているけど、少しは和らいでいっているみたいだ。

 たぶん、アカネもまた、不安な気持ちでいたのだろう。

 ぼくとギンゲツの決闘のことも、心配しているのかもしれない。

 

「負けない……大丈夫だよ」

「うん。ジンくんのことは信じてる。必ず……必ず、おねーさんのところに戻ってくるんだよー」

「わかっている。ぼくは、死なないよ」

「子守唄。また、歌ってくれる?」

「子守唄って……」

「ね、久しぶりにいっしょに寝ようよ。うん、そうしよう」

 

 アカネが、手を繋いできた。

 ぼくの部屋へ行こうとする。

「ちょっと……それは、だめだよ」

「どうしてー。だって、あたしたち、姉弟じゃない。大丈夫だよー。眠くなったら、自分のベッドに戻るからぁ」

 

 アカネがぎゅっと、手を強く、握ってくる。

 こういう展開になると、ぼくには、彼女を説得する自信がなくなってしまう。

 

 優秀な姉と、平凡な弟。

 そうして、ぼくたちはずっと、見比べられてきた。

 アカネに並びたい——そう思って、ぼくは今日まで努力してきた。

 

 でも、結局、どうにもならなかった。

 勉強でも、運動でも、すべての面で、アカネのほうが上をいってしまっている。

 さすが、アカツキのひとり娘ということはある。

 

 劣等感の塊とならずに済んだのは、アカネの性格もあると思う。

 憎めない——憎むことが出来たら、楽なんだろう、と考えたこともある。

 あぁ、でも、ぼくはアカネの弟ということに、満足もしていた。

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