機動戦士ガンダム Gジェネレーションクライシス 作:らむだぜろ
火星でえっちらおっちらと日々MSの発掘をしていると。
アンブレラから命令が届く。
現場の一部の人間が支部に集められる。
その中にボブとミカも入っていた。
「何だ?」
「さあ……。支部なら、直ぐだし良いんじゃない」
訝しい顔のボブは腕組みしながら、呟くがミカは気にしない。
アンブレラの南東支部に向かう。
丁度その頃、火星に降下してくる部隊も居たらしい。
まあ、どうでも良い。
支部に向かう二人は一度拠点に戻る。
「おいボブ。お前さん、MSの操縦できるか?」
「はいっ?」
拠点の更衣室で、現場の親方に問われる。
曰く、アド・ステラの出身でもこの火星でMSのパイロットは貴重。
ボブも可能ならパイロットになれ、と上からの命令らしい。
「いや……俺、グレイズの操縦できませんよ?」
火星のMSは本来であれば阿頼耶識を標準装備にしていると聞いた。
ミカのような命の危険を五回も乗り越えた彼女とは違う。
ボブは自分の世界のMS……ダリルバルデ以外も使えと言われれば使える。
だがこの多元宇宙のMSはあらゆる世界のMS。
どれを使えと言われても何もかも違う。
親方が言うには、ボブの世界に繋がることは滅多に無い。
故にそもそも、彼の世界のMSは此処でも製造不可能。
だから広く普及しているMSで良いから、乗ってみろ。
旧式とは言え、ガンダムを支給する。
「待って下さい! ガンダムですか!? 旧式って言われても困ります!」
ボブも困惑する。
量産型とはいえガンダムだ。
自分の世界のガンダム……GUNDフォーマットのような恐ろしい機体を使えと言われても死にたくない。
それは親方も知っている。
ボブの世界のガンダムは乗るだけで死ぬ禁忌。
安心しろという。そんな物騒なガンダムは、あまり存在しない。
「あまりって事は存在はするんですね!?」
「バカ言え。そんなもの、量産型になると思うか」
……言われてみればそうだった。
人殺しのガンダムを量産するほど、この世界の地球圏の軍隊……連邦も腐ってはいない。
と、表向きはされている。
ある程度低コスト、かつ生産可能で誰でも訓練すれば扱える。
それでいて汎用性の高い水準をキープしている機体。
「だいぶ型落ちしているが、普及している中では安全性が高い。要は、生存率が高い機体だ。現場からの信頼度も高い。まあ、正式量産型はダガーって言うんだがな」
「っていうか親方。その……地球圏のMSってどんだけあるんですか?」
こっちの世界に来て日の浅いボブが聞く。
火星で過ごしているのでグレイズしか知らない。
グレイズも本来はフレームの名前で、此処にカスタムするととんでもない性能になる。
親方は言った。種類で言うなら腐るほど。
特に有名なのはジム。
このバリエーションだけでパンクする程製造されている。
他にはダガー、ジンクス諸々。
「ジンクスは無理だな。アレは最高級の量産機。エース優先の部隊にしか配備されないってよ」
親方も専門外だが、少なくとも笑えるレベルで種類がある。
ガンダムも量産されており、言ってしまえば珍しくも無い。
ただ、あらゆる組織から恨みの象徴であり、戦場では狙われる可能性が高いとか……。
「お前さんの為に用意されたってよ。ストライクって言うらしい」
「俺の意思は無視ですか!?」
アンブレラはそういう組織だ。
本人が嫌がっても、人材を腐らせる余裕はない。
大体が、火星支部のパイロットの大半がガンダム・フレームのテストパイロット。
前大戦の遺産の運用に特化している。
その分、普通のパイロットが存在しない。
ボブのような異界から来た有能な人材を腐らせる余裕は無いのである。
諦めろという親方。
着替えながら言った。
何時までも土木工事に居ないで、戻った方が良いんじゃないか。
一応でもパイロットの適性はあるんだろう。
そう言うが。
「俺は民間人です。戦争は経験がありません」
あくまで、向こうでは決闘という仕組みで戦った。
それは一種の作法ありきの戦いで、戦争では無い。
いきなり戦えと言われても、ボブも困る。
とは言うが、意味など無い。
決定事項だ。ボブは項垂れた。
(俺に戦争をする度胸はねえよ……)
失い続けても、ミカのようにはならなかった。
最低でも退学程度で、あとはメンツが潰れて家とも離れてしまった。
そのぐらいで、一般市民と言えばその通り。
戦場など知らない。殺し合いなどしたくない。
そう思いながら、更衣室を出る。
「……あれ、ボブさん。こんにちは」
小太りの少年が駆け寄ってくる。
短めの黒髪を整えながら、長袖に長ズボンの私服になった少年だ。
「よぅ、ルーガ」
ボブは軽く挨拶する。
ルーガ・ハミット。ミカの同僚だと聞く。
この子も孤児。阿頼耶識を二回も受けている、ガンダム・フレームのパイロット。
「どうしました? 顔色悪いですが」
ルーガが首を傾げる。
そう見えるらしい。
ボブはMSを勝手に用意されたとぼやく。
「あぁ、二時間くらい前ですかね。世界平和監視機構って所から、MSが搬入されてたんです。多分ボブさんの為に持ってきたと思います」
「ストライク……って言うらしいな」
ルーガが詳細を聞いて驚いた。
「ストライクって、またそんな旧式でどうしろって言うんですかね……。いえ、多分OSは最新のモノになってるんでしょうけど。あとどのストライクなんだろう」
「そんなにバリエーションあんのか?」
ルーガが言うには、ストライクはある世界ではMSの概念の基礎を築いたに等しい傑作品。
ただ最初期に開発されただけあり、性能は低い。
汎用性はとても高く、どの戦場でもバックパックを変更するだけで対応できるという。
但し基礎スペックは後継機より見劣りする。
だがやはり名機の宿命か、再生産されまくって軍用から一転、一般流通すらしている、連邦の中では有名な一般ガンダム。
ストライクガンダム。
それが正式名称で、特徴としてPS装甲がある。
「フェイズシフト?」
「はい。まあ簡単に説明すると、物理攻撃に滅法強いんです。それに加えて耐圧、耐熱も飛躍的に向上するっていう装甲ですね。僕達、ガンダム・フレームが使うのは基本的に物理攻撃。流石にミカのザガンみたいなフルパワーの物理攻撃は無理ですけど、ミサイルぐらいなら至近距離で受けても無傷です」
「スゲえ技術だな!? そんなの量産してるのか!?」
驚いた。そんな特殊なモノを量産できるらしい。
だから親方が生存率が高いと言ったのだ。
発展系にVPS、もっとエネルギー効率を良くしたモノがあり、多分ボブのストライクはこれを搭載しているのではないかと思われる。
後期型になればその堅牢性故に中々しぶといらしい。
「まあバッテリー駆動なので、限界はありますけど。ビーム兵器にはあんまり意味ないですし」
「そうか……。でもスゲえんだな。流石ガンダム」
ボブにはどう聞いても旧式には聞こえない。
どんな兵器が飛び交うのか地球圏。
「逆に僕等のガンダム・フレームにはジリ貧になります。ガンダム・フレームは強力なビームでも一切効かないんです」
「あぁ……ミカが言ってたな。ナノラミネート、だっけ」
ガンダム・フレームに搭載される装甲、ナノラミネート。
曰く、前大戦でビーム兵器が廃り物理攻撃が主流になっていた頃の名残。
実弾にもそこそこ強いがビーム兵器がほぼ効かない。
全部流動的に受け流す。PS装甲の真逆だ。
つまり、PS装甲にガンダム・フレームの物理攻撃が通りにくい。
向こうの主武装のビーム兵器はこっちにも効かない。
それでいて、下手をするとあの手のガンダムは動力炉が核エンジンになる。こっちはエイハブ・リアクター。
双方、得られるエネルギー効率は大差ない。
で、互いに有効打がないのでジリ貧。
グレイズですら、侵略者の主武装を無効化する堅牢さだ。
ストライクの武器で勝つには対艦でも持って来いというレベル。
「ほぉ……」
なるほど、これはある意味興味深い。
この世界ではボブの居た世界、アド・ステラでいうドローンが当たり前にある。
しかもGUNDフォーマットよりも安全なモノが。
ファンネル、ビット、ファング、ドラグーン……。
この手は宇宙空間でしか使えない。
但し、ファングだけは重力圏でも使えるビーム兵器。
しかも人工知能が利口でパイロットに合わせてチューンされていると聞く。
「……戦争してると、MSは加速的に進化するな」
「そういうもんですよ。ただ、ボブさんは確か学生だったんですよね?」
ボブが言うと、ルーガは聞いた。
首肯すると、彼は言った。
「なら、ボブさんは殺しに躊躇いがあると思います。ですので、僕としては母艦の護衛ぐらいで良いと思うんです」
「……」
自分達は孤児だ。戦争に慣れている。
殺しに躊躇いがない。
でもボブは違う。
決闘という仕組みで戦った以外、本当の殺し合いになったら。
迷うと思う。嫌だと思う。
「俺に、人を殺すなって?」
「そうです。学徒兵は基本的に足引っ張るんです。だったらスタンスを立ててみては? 殺さないと。防衛で追い払うのが目的。軍人じゃ無いから」
「……ありがとう、ルーガ。チビの癖に気遣い上手な奴だ」
ボブがルーガの頭を撫でる。
本来なら中学生くらいの少年に、高校生の自分が気遣いを受ける。
そういう世界だと、改めて思う。
アド・ステラが、戦争というより政治的戦いが多かったから。
逆に此処は戦時。殺し合い上等。
最悪の世界だと思う。
でも、これが本来ガンダムが居る世界なのだという。
異界を知るルーガは言う。
「普通の高校生が、いきなり戦争を始めたら……ストレスで発狂がオチですからね。ボブさんには、そうなって欲しくないだけです」
ルーガがそう言うと、一緒に拠点の会議室に向かう。
道中、ミカがいた。
「ボブ、来ちゃったねえ……搭乗命令。でも良かった、ストライクで。あれなら死ぬ心配はないと思うよ」
ワンピースのミカも笑う。
そんなに絶大な信頼度があるのか、ストライク。
「あれの原典の世界だと、パイロットの無茶に整備不良。その悪環境で前線で戦い続けた名機だからね。ジムより高性能だからそこは安心して」
「整備不良で動くのか、ガンダムって……」
満足に補給物資を受けられずとも戦い続けたのがストライク。
その頑丈さと継戦能力は頭一つ抜いている。
「いいよ、ストライクは。マジで名機。私もよく気分転換に乗り回してたから」
「ミカの場合、OS弄くって遊んでだだけでしょ。グレイズには勝てないからってシュゲルト・ゲベール持ち出してさ」
遊び半分で乗り回せるミカも大概だ。
ボブとて、土壇場でMS動けせと言われたら、自分の世界のMSは出来るとは思う。
でも全くの異界のガンダムを普通に乗り回すミカが酷く恐ろしいと感じる。
「お前スゲえな……」
「四年もテストパイロットやってりゃこうもなるよ」
そう言いながら、事務所に向かう。
三人は事務所で支部より受けた命令を受ける。
ボブ、ミカ、ルーガ、以下多数。
Gジェネレーションに出向せよ。
現在、世界平和監視機構から迎えが来ている。
その者に案内して貰えと。
ミカは特に異議も無いので従う。
ルーガは困ったように、ボブは途方に暮れた。
とうとう実戦投入か。
心配な気もするが、アンブレラがそういうなら仕方ない。
事務所を出る三人はそのまま、格納庫に向かう。
お迎えに来た人物に挨拶するべく。
向かっていくと。赤服の青年が、待っていた。
格納庫の片隅で敬礼する青年。
ただミカは全然やらない。
普通にしているのでルーガが慌ててさせる。
軍に入るのになんで敬礼しないのだこいつは。
「いや、いいよ。俺も堅苦しいの苦手だし」
赤服の青年は笑った。ホッとするルーガ。
笑って流してくれる人で良かった。
「俺も隊長を任されて緊張してるんだ。まさか、こんな年下の子達とは思って無くて」
「ザフトの赤服なのに?」
ミカが無遠慮に問う。
ザフトを知らないボブにルーガが言うと、所謂宇宙で暮らす人々の中でもプラントという部分で過ごす場所での軍隊。
「俺みたいなスペーシアンみたいなもんか」
「何それ?」
逆に知らないのでボブも説明。
宇宙で暮らす人々を向こうではスペーシアン、地球で暮らすのをアーシアンという。
因みにこの二つは根っからの差別意識が強く、様々なトラブルの原因になる大体の火種。
「あなたがこの間の時空変動で来たという人ですね? 俺はシン。シン・アスカ」
「こ、これはどうも隊長さん……。俺はボブ。ええと……」
深くは聞くなと言う前に、シンと名乗った隊長はいう。
理解はしている。言わなくて良い。
個々の世界の理由や理屈を持ち込まない。
Gジェネレーションの規定でそうなっている。
「……俺のことはシンでいいよ、ボブ。敬語も止めよう。俺達は同じ部隊の仲間なんだ」
「あ、あぁ……助かる」
矢鱈フレンドリーに接するシン。
敵意は無いとルーガとミカにも言う。
「俺の知ってる隊長が言ってたんだ。呼び捨てで良いって。一緒に戦う以上、区別も差別もしないで欲しい。それくらいかな」
「ふーん……じゃあ、こう呼ぶね。シン兄さん」
「兄さん!?」
ミカが唐突に言う。
フルスロットルで吹っ飛ばしそうなライダーみたいなノリで。
「いや……あの。兄さんってのは、ちょっと……」
過去に身内で妹に死なれているのに、兄貴扱いにされると思ってなかった。
勘弁という前に。
「気に入ったからこれにしようっと」
「おい!?」
ミカは気に入ったらしい。
親しみ込めて良いんだろう、と開き直る。
「くっ……! ハイネ真似たらこれかよ……!」
「すみません、ミカはその……癖のある性格で」
ルーガがフォローする。
彼女は基本的に何も考えない。
自分は単なる手足、末端に過ぎない。
思考回路は放棄で一切の迷いが無い。
命令に従うだけの兵士。
「そんな性格なのか!? 一番危なっかしいタイプじゃねえか!?」
ボブも初めて聞いた。
普段接する分はいいが、戦いは別。
彼女は、傷付かない。迷わない。
「元々細かいこと気にしないので……。あ、でもこれは禁句ですので言わないで下さいね」
ルーガは言う。
禁句、幼女。及びロリ。
そういう呼び方をするとキレるらしい。
昔ロリコンの餌食に何度もなりかけ、酷い目に遭ってるのでそれを言うと絶対に言うことを聞かなくなる。
シンもそんな無礼な事は言わないと思う。
ボブも同じく。
「一応女の子なので。セクハラするとキレるので、お願いします」
「それやったら俺隊長失格だよ! 単なる変態じゃないか!」
シンも否定する。
ルーガは向こうに行ってボブを呼ぶミカに言った。
「割り切りの問題ですので……隊長、よろしくお願いします」
「……あぁ」
ボブが呼ばれたので向かうなか。
神妙に頷くシン。
「これストライクの後期型だよ! ライトニングだ!」
「お、おう……?」
ミカが言うには後期型ストライクガンダム。
遠距離狙撃型のバックパックを搭載している、援護ならピカイチの状態。
さっぱりのボブだが、前線に出るモノではないようだ。
「俺のデスティニーの援護を頼もうと思って。大丈夫、ストライクガンダムなら俺の先輩が乗ってた機体。操作系のマニュアルは叩き込んできたから俺がレクチャーするよ」
「悪い……。俺、実は普通の高校生で……」
言わなくて良いと言った、と繰り返すシン。
「いいんだ。矢面に立つのは俺で。ボブに戦争をやらせるのは気が引けるけどな。……でも、ワールドシグナルは無視できない。ニューロは怪物だ。人間じゃない。だからそこは気にしないでいいんだ。あいつらは本当に……厄介なんだ。だから、覚悟はしてくれ。知り合いをコピーした奴等が出て来る。でもそれはニセモノ。模倣した悪意の塊だ。倒すべきモノとして、認識して欲しい」
既にニューロと交戦した彼は言う。
世界の危機に相応しい災厄。
これはジェネレーションシステムを守る戦い。
戦争にはしたくはないが、襲ってくるなら仕方ないのだ。
そういう時、警報が鳴った。
敵襲では無く、時空変動の発生の知らせ。
慌てて皆が外に出る。
見上げる空が、歪んで黒い穴が空いていた。
「アレは……!」
ボブが見た、自分を吸い込んだブラックホール。
敷地内の上空。
そこから、何かが落ちてきた。
急速に閉じる穴。そのまま消える。
その落ちてきた何かが墜落。
地震のように揺れる。
直ぐに現場に走って行く一同。
到着し、そこで見たのは……。
「いたたたた……。大丈夫、エアリアル? ミオリネさん?」
「大丈夫な訳ないでしょ!? ここ何処よ!? 何が起きたのよ!?」
二人の、パイロットスーツを着た少女だった。
……ボブが思わず叫ぶ。知り合いだった。
「――スレッタ・マーキュリー!?」
水星の魔女が迷い込んだ、瞬間だった。