「というわけで。アマネとアオイについて詳しく聞かせなさい」
ペパー、ボタン、ネモの3人は、ゼイユに呼び出されて彼女の寮室にいた。
「いきなり呼び出しといてなんだよ…つかというわけでも何も俺らいきなり呼び出されただけだろ」
「いいじゃない!あの2人って実際どうなの?」
「うーん……仲良い友達って感じだよね!よくバトルとかマホイップの話題で盛り上がってるよ!」
「それ以外!」
「アオイがアマネくんのこと好きなのは知ってる」
「詳しく!!」
「いやうちも詳しくは知らんけど…アマネくんが初めてパルデアに来て仲良くなって…そんでその間にアオイがアマネくんのこと好きになったらしい。マジでこれぐらいしか知らんよ」
「むう…こうなったらアオイに直接聞くしかないみたいね」
「つーかなんでそんなに気になってるんだよ?別に本人たちの自由だろ」
「だって、アオイはスグの初恋なのよ!?」
ゼイユの叫びに、全員が沈黙する。
「ウソ、マジで?」
「大マジよ!だから成就させてあげたいの!」
「うーん、でもこればっかりはスグリの気持ち次第じゃない?無理やり応援されても困るかもしれないし」
「そうそう。それにゼイユはスグリに対していちいち首突っ込みすぎ。少しはスグリの自由にしてあげればいいのに」
「スグの自由……かぁ」
いったん解散し、ゼイユは気晴らしにセルクルタウンに行くことにした。目的は当然パティスリー・ムクロジのスイーツである。
「めっちゃ並んでるわね…いやでもせっかくのパルデアスイーツなんだから意地でも買うわよ!」
「あれ、ゼイユさん?」
「ぎゃっ!!」
ゼイユの背後には、いつの間にかアマネがいた。可愛らしい少年だが、スグリの恋のライバルだ、油断ならない。
「あんた…何してたの?」
「カエデさんと新スイーツの開発を」
「カエデ?カエデって…ここのジムリーダーの?」
「はい!なんでも辛いものをスイーツに転換できないかって!」
「辛いと甘いは対極にあるものじゃない……?」
「まあ結局ダメだったんですけどね。なのでお礼のスイーツだけもらって帰りました」
「えっ、お礼のスイーツ?」
「はい、これです」
アマネが箱を開けると、ゼイユは中身の輝きに目を眩ませた。色とりどりのカップケーキにクッキー、それから宝石のようなフルーツタルトなどが敷き詰められていたのだから。
「すっごい豪華……」
「よかったらゼイユさんちょっともらってくれません?」
「えっ!?いいの!?」
「はい、流石に僕1人じゃ食べきれないので元からみんなに分けるつもりでしたから」
「ふーん、じゃあこのベリータルトとカップケーキもらってくわ」
「どうぞ!それじゃあまた!」
「ふふふ、思わぬ収穫だわ」
ゼイユはスイーツの入った袋を抱きしめながら、ご機嫌で寮に戻ったのだった。
「あ、ねーちゃんおかえり」
「ただいま。あれ、スグそんなの持ってたっけ」
スグリの腕にはカジッチュモチーフのブレスレットが付けられていた。
「ああこれ、こないだアマネとアオイと一緒にゲームセンターさ行ったんだ。アマネがゲットしておれにくれたんだ」
「あっそ……アマネっていいやつなのね」
「もちろん!おれの自慢の友達だ!」
あまりにもスグリがいい笑顔で答えるので、ゼイユはそれ以上追求する気にならなかった。
「うーん……」
ゼイユは寮の自室に戻り、カップケーキを食べながら悩んでいた。アマネがいい人間なのは何度も聞いて知っているし、スグリもアマネとすっかり仲良くなっている。けれどアオイをめぐる恋のライバルという事実は変わらない。
「かといってスグの友達を取り上げるみたいな真似はしたくないし……あぁもう、むしゃくしゃするー!!」
結局モヤモヤ気分は晴れないまま、ゼイユは眠りについた。
深夜
「……変な時間に起きちゃったわね」
時計を見ると、まだ深夜3時台。起きるには早すぎるしかといって寝直すには目が冴えすぎだ。少し気分転換でもしようかと、寮の談話室に向かった。
「…アマネ?」
「ゼイユさん。おはようございます……いや、こんばんはの方がいいのかな?」
「どっちでもいいわよ。あんたこんな時間にどうしたの」
「なんか目が覚めちゃって。ゼイユさんは?」
「あたしも同じ。なんか食べようと思うけど深夜の食事ってお肌に悪いし」
「やっぱ女の人ってそういうの気にするんですね、それにゼイユさん美人だし余計にか」
「あら、分かってるじゃない!褒めてあげるわ」
「あはは…痛い痛い!!」
アマネがお茶を入れたので、コップで飲んで少し話をすることにした。
「ねえあんたさ…好きな女子とかいないの?」
「え?うーん……ちょっと色々ありまして。恋愛は考えたくないですね……」
「色々ってなによ?気になるじゃない」
「話の通じないやばい女の子が心身共に僕を追い詰めてくるくせに僕のことを好きとか言ってきたんですけどね」
「あっ、いいわ。胃もたれ確定じゃないそんなの」
くぅ〜〜
「………」
「………」
「今のってゼイユさんの」
「あーあー!気のせいよ気のせい!決してあたしがお腹空かせたとかじゃないから!」
「自白しましたね」
「うぅ…でもどうしよう、あたしの部屋スナックしかないわ」
「だったら…ゼイユさん、辛いのいけますか?」
「まぁ、並程度なら?」
それを聞いて、アマネはものすごい勢いで自室に戻って行った。そして1分と経たずに戻ってきた。大量のカップ麺と調味料やらを持って。
「じゃーん、僕の秘蔵のカップ麺セットです!選りすぐりのトッピングも添えて!」
そう言って、アマネは大量のカップ麺や袋麺、そしてトッピングをテーブルに並べた。その光景に思わずゼイユは唾を飲む。
「あ、このラーメン話題なやつ!なんかこれにタマゴ入れたら美味しいって聞いたわ!」
「お目が高い。じゃあそれにしますか?」
「するわ。トッピングはタマゴと…コーンもいいわね」
それからアマネは手際良くカップ麺を作ってゼイユに渡した。ゼイユがひとくちカップ麺を啜ると、その辛さとうまみに悶絶した。
「辛っ……美味しい!辛いけど美味しいわこれ、タマゴとコーンの甘みがいいわ」
「ふっふー、でしょう?これに天かすとかも入れても美味しいんですよ」
「うわー、絶対美味しいじゃない!でも今日はこれでいいわ」
アマネも別のカップ麺(もちろん激辛)を食べ、2人は冷たい水を飲んでリラックスしていた。
「ありがと。あんた結構いいやつじゃない」
「それはどうも。好きなものを布教したい時のオタクは素早いものですよ」
「そんなもんかしら。でもあたしは…」
「ゼイユさん」
「え?」
「動かないで…」
アマネが、まっすぐにゼイユを見つめてくる。先ほどまでのゆるさはどこへやら、真剣な表情だ。
「え、あぁ……」
「目も閉じてもらって」
「え!?わ、分かったわ」
ゼイユの心臓はうるさいくらいに鳴っていた。一体何をされるのか。
「…はい、取れましたよ!」
「……へ?」
「いや、まつ毛にゴミがついてて。」
「……あっそ、あたし寝るから」
「え?あ、はーい」
足早にゼイユはその場を去った。そして自室に戻ると、ベッドに入って布団を被った。
(なにあれ!!なんかものすごく恥ずかしかったんだけど!?いやゴミ取るだけなら言ってくれればいいじゃない!なんで何も言わずにあんなドキドキさせるようなこと言うのよ!?)
ゼイユはさっきのアマネの真剣な表情を思い出す。今思えばゴミを取るための表情だったのだろうが、ほんの少し…かっこいいと感じた自分がいた。
「まぁいいわ……これからもしっかり、あいつのことを観察しなきゃね……」
観察の目的が若干すり替わっていることを、ゼイユは自覚していなかった。
アマネ
安定のクソボケ大魔王。辛いものを布教するためなら優しくなるオタク。
ゼイユ
安定のチョロねーちゃん。